うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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shopping street war 1

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午後2時半。昼時の繁盛を終えた龍善飯店では、ようやく一息つける時間。

家業の手伝いをしていた仁菜静絵は店ではなく、家の台所で父に作ってもらった中華丼を食べ休憩をいれていた。しかしそれをペロリと平らげると、まだ少々の物足りなさを感じ冷蔵庫から卵をとりだすとソレをゆで始めた。

「なんや今日は、やけにおなか空くなぁ。ふふ、でも草津におった時は、もっと食べとったか」

楽しく過ごした草津での日々を思いだし、口元に指先をあてクスリと笑う。

自由で、のびのびとした生活。朝が早かったりやる作業は色々とあったが、ひとつも嫌だとは感じなかった。

(ウチ、案外そういう生活も向いとるんやろか…?)

瀬来万智の実家で過ごした時間を、そしてとても美味しかった産みたて卵の味を思いだしていると、またクゥとおなかが鳴ってしまう。

「ヤダ、中華丼食べたばっかりやのに」

『(ガタ…!)』
(…!?)

と、不意に不審な音と気配を感じとった。それは窓の外から、台所にある勝手口あたりから。

(マサにユキ…?)

それにすぐ、自分をよく驚かそうとする弟たちのことを思い浮かべる。

が、今日のふたりは友達の家に遊びに行っているはず。それにそういった真似をするのは、たいてい構ってもらえず寂しさを覚えている時と決まっている。なのでいっしょに暮している今、それを行なうとは考えにくい。

そこで泥棒か何かかと警戒し、そっと台所の窓をあけてみた。

するとそこにいたのは、ダンジョンスタンピードの時に戦った犬ニンゲンなモンスター、コボルドだった。そんなコボルドが外に置いてあるゴミ箱のフタをあけ、フンフンと鼻を鳴らし中を覗きこんでいたのだ。

「え、なんでなん!?」
「ウ?ウガゥッ!!」

と、思わず漏れてしまったつぶやきに、コボルドもまた静絵の存在に気付き牙を剥く。

だが江月に鍛えられた静絵はそれに動じることなく、即座に火にかけていた鍋の握りを持つと、茹でていた卵ごと熱湯をコボルドに浴びせかけた。

「ワギャアアアッ!?」

怒らせると、とっても怖い仁菜静絵の本領発揮である。

そうしてキャンキャンと悲鳴をあげ逃げて行くコボルドの後姿を睨んでいると、不気味に街のサイレンが鳴り響いたのだった。

…。

裏の戸締りをしてすぐ店へと駆け戻った静絵が、厨房にいる父へと声をかける。

「お父ちゃん!すぐに火ぃ落として!」

店内には両親のほか、馴染みの客がひとりダラダラと居座っている。

でも3人ともが響き渡るサイレンの不穏な音色に、なにがあるでもない天井を不安そうな表情で見上げているだけ。

(もう!そないにのんびりしとったらアカンのにッ!)

修羅場を潜り抜けたその数が、静絵のココロにもまた警鐘を鳴らし続け、この非常時にもまったく動けぬ両親に苛立ちを覚えさせる。

そんな静絵がつっかけサンダルのまま店内を駆け抜け店の扉を開けると、商店街の通りでもモンスターの姿を確認。そこにはさきほど火傷を負わせたコボルドが、仲間をひき連れコチラへ戻ってくる姿もあった。

それらを確認するとすぐさま跳んで店のシャッターを掴み、一気に引き下ろす。その途中で静絵自身も店内へと身を滑りこませ、片膝立ちの姿勢でスタリと着地。

そのあまりの変貌ぶりに、両親と馴染みの客は口をあけ目が点になっている。

「またバケモンがでとるよ!お母ちゃん!マサとユキ、どこ行っとるん??」

その発せられた声に、静絵の母はハッと口に手をあて固まってしまう。

「なぁお母ちゃん!マサとユキ、どこ行ったん!」
「た、たぶんやけど、タカシくんとこやと思う…。商店街の入り口の靴屋さんよ」

「ほんならウチがみつけて来るから、戸締りして息殺しとかなアカンよ!!」

再びパッと動いたと思ったら、矢のような勢いで階段を駆けのぼる静絵。そんな娘の姿に、理解の追いつかない両親はすっかり思考を停止してしまうのであった。

…。

自室に戻った静絵は置かれていたキャリーバッグにまっすぐ向かうと、そのカギをあける。

(ホンマ…。用心にってコレだけでも持ってきとって、良かったわ…)

そうして姿をみせたのは、巨大赤蠍の外殻を用いたバトルスーツ。江月と、万智と、瑠羽と…。みんなで魔力を注いで作った、自分専用のバトルスーツ。

「コォチ…。万智、瑠羽ちゃん…。ウチに力を貸してな…」

祈る思いで畳のうえにパーツを並べていき、着ていた衣類を脱いで裸身となる。そして…。

「粘液…オーラ変身ッ!!」

それは江月がしていたことの、見様見真似。だがコレが初めてだとは思えぬほどスムーズに、パーツは粘液によって持ち上げられ、静絵の全身を包み込み戦う姿へと変えてゆく。

それはまるで、今ここにはいない3人が静絵の思いに応え、力を貸してくれているようでもあった。
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