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komoro blue
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「なぜだ!なぜこうも余計なことばかり起こる!」
特異迷宮対策省の大臣を務める大原黒の秘書・小諸秀一は、対策省の執務室で大原黒に代わり多忙な日々を送っていた。
既存の省庁であれば、おおまかな指示さえ出せば後は官僚任せで事足りる。もし事足りなくても、ミスはその者達のせいにしてしまえばいい。
しかし特異迷宮対策省はまだ新設されたばかりの省庁であり、今までの流れといったモノがない。故に一から十を上が決めて指示してやらねば、回らなかったのだ。
そして内部の足並みもまた、いまだ揃っていなかった。
国土交通省から移った者達は慣れぬ仕事に士気がふるわず、それに大怪我を負って対策省に移った元自衛官らがアイツ等はなんなんだと憤り、防衛省から移った者達との間に軋轢を生んでいるといった有り様だった。
こうして大原黒の意志の代弁者。そして忠義の人と自身を盛り上げていた小諸秀一の前に、暗雲がたちこめたかのように次々と難題が持ち上がっていたのだ。
その第一は、大原黒の健康状態の悪化。
半身不随に加え脳に酷い損傷を負った大原黒はこの数カ月でたびたび失神を起こし、その都度救急搬送で病院に担ぎ込まれた。そして現在では、月の半分を病院で送っている。
これでは小諸も満足に動けない。
意志の代弁者とはいえ、立場でいえばただの秘書。それゆえ大原黒不在では、国会にも出席できない。しかし、これは仕方がない。もしこれが許されたなら、日本の国会など議員不在で代理の者ばかりになってしまうことだろう。
そして第二は、大原黒の息子の台頭。
大原黒の健康状態が悪くもう先は長くないと踏んだ息子・大原黒新太郎が、父の意志を継ぐなどと言って派閥の議員を口説き始めたのだ。元々大原黒も世襲で議員となったので、それ自体はこのさき予定されていた事。
が、タイミングが悪い。
小諸は大原黒の意志の代弁者。その志の代理人として働いているところでそんな真似をされては、自身の評価が消えすべてを新太郎に奪われてしまう。無論相手は、それを見越して動いているのであろうが。
そのため最近では、小諸が大原黒の考えとして派閥の議員に伝えた内容が新太郎派の者によって上書きされるといったことが頻発。しかも対策省までわざわざやってきて、余計なことを言いふらして帰る始末。そんな火消しの対応にも、小諸は煩わされていた。
そしてなにより、小諸は優秀な政治家ではなく、また向かなかった。
大原黒が内心で小諸のことを臆病な小心者と嘲っていたように、胆も太くなく大胆さに欠けていたのだ。もしそういった図々しさ厚かましさを持っていたならば、もう何年も前に大原黒の子飼いとして選挙にも出馬できていたことだろう。
ただただ面倒事の後始末をさせると小器用なヤツという評価が、大原黒が小諸という男を長年秘書として使っていた理由だった。
そんな人物がようやっと立つことのできた表舞台に残ろうと、いま必死にあがいていた。
と、そんな執務室にノックの音が響く。
「…入れ」
「失礼します。代理、また事件です」
能面のように顔の表情を消した背広姿の官僚が、抑揚のない声で告げる。
「事件とは?」
それに対し書類にペンを走らせていた小諸は手をとめ、目元をおさえ聞く姿勢をとる。こうしてこの官僚が姿を見せた時は、大抵悪いニュースだ。
「モンスター…失礼、特異生物を召喚する法具を用いた傷害事件が、また発生しました」
「またか…。今度はいったいなんだ?」
「はい。意中の女性の気を惹くために特異生物を召喚し襲わせたところ、助けるのが遅れその女性に重傷を負わせてしまったそうです」
「…ハァッ!?なんだ!この国は上から下まで、ほんとうに馬鹿ばっかりかッ!!」
聴かされた内容のあまりの馬鹿馬鹿しさに、小諸は思わず机を強く叩き大声で怒鳴ってしまう。
その言動に若干眉をひそめる官僚。しかし咳をひとつして間をおくと、淡々と次の言葉をつげる。
「ゴホン、ですのでその対応を求めるといった苦情が、こちらにも多く寄せられています」
それで自身の失言に気付いた小諸は、慌てて取り繕う言葉を探すも見つからない。下はともかく上も馬鹿とは、いったい誰を指した言葉なのか。そんな自分に向けられた感情をみせない冷めた官僚の目の色が、小諸の気持ちを焦らせ不安にさせる。
「と、とりあえずアプリだ。そうだ、アプリで回収を呼び掛けよう」
「は?アプリとはあのグローバルダイナミッ―」
「名前なんてどうでもいい!とにかく免許取得者に義務付けたアプリで、回収を呼び掛けるんだ!」
「お言葉ですが…。無償での呼びかけに応じる者が、果たしてどれほどいるでしょうか?」
「そんなことはわかってる!でもそんな予算がどこにある!?意識高揚を目的にした依頼案件にだって、満足に予算がまわせてないんだぞ!?まずはそれでやってみてくれ!ダメならまた手を考える!!」
「…そういうことでしたら、わかりました。では文言はコチラで用意します」
「たのむ…。そうしてくれ」
「では、失礼します」
(ハァ…。どうしてこう、くだらない横槍ばかりが入ってくるんだ…。スキルトーナメントも依頼案件もいい考えだったのに、ぜんぶ余計な横槍のせいで台無しだ…)
官僚の出て行った執務室でひとり、小諸は両手でその顔を覆う。
日本の政治家としては、非常に不向きだった彼。が、意外にロマンチストで出世欲のほかは存外世の役に立とうと、それなりにガンバっていたのだった。
特異迷宮対策省の大臣を務める大原黒の秘書・小諸秀一は、対策省の執務室で大原黒に代わり多忙な日々を送っていた。
既存の省庁であれば、おおまかな指示さえ出せば後は官僚任せで事足りる。もし事足りなくても、ミスはその者達のせいにしてしまえばいい。
しかし特異迷宮対策省はまだ新設されたばかりの省庁であり、今までの流れといったモノがない。故に一から十を上が決めて指示してやらねば、回らなかったのだ。
そして内部の足並みもまた、いまだ揃っていなかった。
国土交通省から移った者達は慣れぬ仕事に士気がふるわず、それに大怪我を負って対策省に移った元自衛官らがアイツ等はなんなんだと憤り、防衛省から移った者達との間に軋轢を生んでいるといった有り様だった。
こうして大原黒の意志の代弁者。そして忠義の人と自身を盛り上げていた小諸秀一の前に、暗雲がたちこめたかのように次々と難題が持ち上がっていたのだ。
その第一は、大原黒の健康状態の悪化。
半身不随に加え脳に酷い損傷を負った大原黒はこの数カ月でたびたび失神を起こし、その都度救急搬送で病院に担ぎ込まれた。そして現在では、月の半分を病院で送っている。
これでは小諸も満足に動けない。
意志の代弁者とはいえ、立場でいえばただの秘書。それゆえ大原黒不在では、国会にも出席できない。しかし、これは仕方がない。もしこれが許されたなら、日本の国会など議員不在で代理の者ばかりになってしまうことだろう。
そして第二は、大原黒の息子の台頭。
大原黒の健康状態が悪くもう先は長くないと踏んだ息子・大原黒新太郎が、父の意志を継ぐなどと言って派閥の議員を口説き始めたのだ。元々大原黒も世襲で議員となったので、それ自体はこのさき予定されていた事。
が、タイミングが悪い。
小諸は大原黒の意志の代弁者。その志の代理人として働いているところでそんな真似をされては、自身の評価が消えすべてを新太郎に奪われてしまう。無論相手は、それを見越して動いているのであろうが。
そのため最近では、小諸が大原黒の考えとして派閥の議員に伝えた内容が新太郎派の者によって上書きされるといったことが頻発。しかも対策省までわざわざやってきて、余計なことを言いふらして帰る始末。そんな火消しの対応にも、小諸は煩わされていた。
そしてなにより、小諸は優秀な政治家ではなく、また向かなかった。
大原黒が内心で小諸のことを臆病な小心者と嘲っていたように、胆も太くなく大胆さに欠けていたのだ。もしそういった図々しさ厚かましさを持っていたならば、もう何年も前に大原黒の子飼いとして選挙にも出馬できていたことだろう。
ただただ面倒事の後始末をさせると小器用なヤツという評価が、大原黒が小諸という男を長年秘書として使っていた理由だった。
そんな人物がようやっと立つことのできた表舞台に残ろうと、いま必死にあがいていた。
と、そんな執務室にノックの音が響く。
「…入れ」
「失礼します。代理、また事件です」
能面のように顔の表情を消した背広姿の官僚が、抑揚のない声で告げる。
「事件とは?」
それに対し書類にペンを走らせていた小諸は手をとめ、目元をおさえ聞く姿勢をとる。こうしてこの官僚が姿を見せた時は、大抵悪いニュースだ。
「モンスター…失礼、特異生物を召喚する法具を用いた傷害事件が、また発生しました」
「またか…。今度はいったいなんだ?」
「はい。意中の女性の気を惹くために特異生物を召喚し襲わせたところ、助けるのが遅れその女性に重傷を負わせてしまったそうです」
「…ハァッ!?なんだ!この国は上から下まで、ほんとうに馬鹿ばっかりかッ!!」
聴かされた内容のあまりの馬鹿馬鹿しさに、小諸は思わず机を強く叩き大声で怒鳴ってしまう。
その言動に若干眉をひそめる官僚。しかし咳をひとつして間をおくと、淡々と次の言葉をつげる。
「ゴホン、ですのでその対応を求めるといった苦情が、こちらにも多く寄せられています」
それで自身の失言に気付いた小諸は、慌てて取り繕う言葉を探すも見つからない。下はともかく上も馬鹿とは、いったい誰を指した言葉なのか。そんな自分に向けられた感情をみせない冷めた官僚の目の色が、小諸の気持ちを焦らせ不安にさせる。
「と、とりあえずアプリだ。そうだ、アプリで回収を呼び掛けよう」
「は?アプリとはあのグローバルダイナミッ―」
「名前なんてどうでもいい!とにかく免許取得者に義務付けたアプリで、回収を呼び掛けるんだ!」
「お言葉ですが…。無償での呼びかけに応じる者が、果たしてどれほどいるでしょうか?」
「そんなことはわかってる!でもそんな予算がどこにある!?意識高揚を目的にした依頼案件にだって、満足に予算がまわせてないんだぞ!?まずはそれでやってみてくれ!ダメならまた手を考える!!」
「…そういうことでしたら、わかりました。では文言はコチラで用意します」
「たのむ…。そうしてくれ」
「では、失礼します」
(ハァ…。どうしてこう、くだらない横槍ばかりが入ってくるんだ…。スキルトーナメントも依頼案件もいい考えだったのに、ぜんぶ余計な横槍のせいで台無しだ…)
官僚の出て行った執務室でひとり、小諸は両手でその顔を覆う。
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