うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ

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flash flood

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突如、下水道調査中に発生した鉄砲水。

そしてここは大都会、東京。だがその地下で怪奇蟲男と白いワニが縺れあったまま鉄砲水に流されているなど、いったい誰に想像できようか。

しかし怪奇蟲男は他の誰でもないオレ自身であり、白いワニは確かな脅威としてすぐそばに存在している。そして諸共汚水の濁流に揉まれていた。

(む、これはヒレ…?足じゃないのか!?)

訂正。鉄砲水で流れてきた白いワニは、なんか恐竜図鑑に載ってそうなヤツだった。

鉄砲水と共に現れた白いワニ改めホワイト鰐頭海竜。コイツもただ鉄砲水に流されてきただけかもしれないが、相手が自分に対して脅威足りうるならば、逃げるか倒すかしなければならない。

(しかし、今はこのまま抱きついた状態で…!)

でも揉み合ううちに巧いこと抱きつけたので、鉄砲水の勢いが治まるまではホワイト鰐頭海竜に抱きついていることにした。

(突然変異のアリゲーターガーということは…。いや、掴んだ胴は厚みよりも幅がある。この特徴は明らかに魚類でなく爬虫類…)

それにサイズ的にも相手の方がオレよりデカい。なので抱きついたままであれば何かに衝突したとしても、まず鰐頭の方が先にぶつかってくれる。そして鰐頭の方が、オレより水の流れに乗るのが巧い。さすが足がヒレなだけある。だから今はこうして抱きついたままの方が、攻撃もされず安全だろう。

しかも抱きついたまま手首にある鉤虫クローをその背の肉に喰い込ませ、地味に攻撃し相手の生命力を奪っておく。

(靴箆は…うん、危険だな、それはやめておこう…)

ミスリル靴箆は失くさぬよう、粘液でベッタリと右大腿部側面に張り付けてある。

それを使って攻撃をしかけようとも考えたが、いまも現在進行形ではげしく濁流に揉まれている。こんな水洗トイレに流されてるウンチ状態では、いつ手元が狂うか解らない。下手をすれば、それで自分の身をスパリとやってしまう。

そうなっては場所は下水。せっかく蟲王スーツをピッチリ着込んで諸々の汚れをシャットアウトしているのに、傷を負ったらそこから身体が汚染されてしまうではないか。

『(ドッ!ガッ…!ゴス!)』

そんな勢いの止まぬ濁流に揉まれては、鰐頭海竜のカラダ伝いにぶつかった衝撃が伝わってくる。と同時にしがみついて放さないオレをふりほどこうと、鰐頭海竜は身を捻って暴れたり腹を壁に擦りつけるようとする。

『ギッ…!ギャッ!ゴキャキャ…バキン!』

すると背中に幾度かの強い衝撃をうけたあとで嫌な音がしたと思ったら、一面視界があぶくに覆われてしまう。

『ぶぼぼぼぼ!!』
(う、またボンベがやられたか…!)

すぐさまスーツ内の潤滑粘液を操作し、口元を覆うと共にチューブからの汚水流入を阻止。さらに背中へ亀の甲羅のような岩塩盾を生み出し、壁にこすりつけられる攻撃に備える。

幸いダンジョン能力者として成長したことで、我慢すれば1時間だって息を止めていられる。

しかし戦闘中ともなれば、そうもいかない。強い衝撃を受け息を吐きだしてしまえば、それまで。切り札としてピクシークィーンに頼んで肺に直接酸素を生み出してもらう方法も、あるにはある。が、それはとても加減が難しいうえ自分の意志と関係なく肺が膨らんだりするのはひどく気が散るので、まずもって戦闘中にやることではない。

それに前に試してもらった時には胃にまで空気がいってしまい、あとでゲップが止まらなかった。

(ともあれ事態が好転するまで、このまま息が持ってくれればいいが…)


…。


濁流に揉まれながらも、こう着状態が続く。ちょっと勢いのままに流されている時間が、ひどく長いように感じる。

(……)
(……)

そして鰐頭海竜もオレをそう簡単には引き剥がせないと思ったのか、こすりつけ攻撃をやめ今は流れに乗ることに専念している様子。

(むぅ…。でもいったい、どこまで流されるのだろう…)

ただそうはいっても都心の地下、いつかは下水処理場か海に出るはず。と、そう思った次の瞬間、なぜか身体が宙に投げ出されたような感覚を覚えた。

(な…、こんな地下に滝ッ!?)

濁流に揉まれたり鰐頭海竜にしがみついたりしていても、かろうじて残っていてくれた肩のライト。それが暗闇へと散りながら落ちていく水を照らし出す。

(不味い、このままじゃ鰐頭もろとも真っ逆さまだ!)

そこで鰐頭海竜の背に喰いこませていた鉤虫クローを収納すると、その腹を蹴って身を宙へと躍らせる。

(脱出ッ!)

そしてカラダに纏っていた粘液に魔力を流し、手足をまっすぐ閉じてからまた大きく開く。するとその粘性により膜と化した粘液が空気をはらみ、大きくたわんで膨らむ。もう幾度となく練習した粘液を用いた忍法ムササビの術で脱出だ。

一方でオレに蹴られたホワイト鰐頭海竜は、重力の勢いそのままに落ちていく。

「…」

その際チラリとオレの方を視た気もするが、すぐにその白い身体は暗闇のなかへと消えていく。

(にしても地下にこんな広い空間があるなんて、聞いてないぞ…)

周囲を見渡せど暗闇の先は見通せず、減速しつつも落下は続く。それにいつ壁にぶつかってもいいようにと態勢を変え、パラシュートの着地姿勢で身構える。

それでもなお、まるで深い暗闇が何処までも続くように、ただただ闇の底へと落ちていくのだった。
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