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【序章】ベルレアン王国編
焦り(アルフレート視点)
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領地の仕事が終わり、侯爵家へ戻る途中、俺は小川のほとりで座るカリーナ様を見つけた。
しかし、その隣には見知らぬ男がいた。
ここら辺の奴じゃない。
この領地に銀髪の男なんていない。
そいつは領民とも貴族とも異なる、洗練さた佇まいをしていた。
そんな男が、親しげにカリーナ様と見つめ合い、その顔を近づけた。
「何をしているんですか」
俺は思わず苛立って声をかけると、カリーナ様はびっくりしたように振り返った。
隣の銀髪の男は、驚いた様子もなく、チラッと俺に視線を向けただけだった。
「誰なんですか。この人は」
俺はそんな男の様子に更に苛立ち、カリーナ様に尋ねた。
「この方はエアリスのお兄様なの。アングラーズ王国王太子のレアン・アングラーズ殿下よ」
エアリスの兄?
アングラーズ王国の王太子?
信じられない情報が一気に入って来たので、俺は一瞬フリーズした。
アングラーズ王国なんて、隣国の軍事大国じゃないか。
弱小国のベルレアン王国とは格が違う。
兄が王太子だったら、エアリスは──
「エアリスはアングラーズ王国の王子殿下だったの」
あり得ない。
あんな根気もやる気も全くない軟弱な奴が、大国の王子だったなんて。
「レアン殿下。こちらは私の護衛騎士のアルフレート・イグレシアです」
カリーナ様に紹介され、俺は仕方なく「初めまして…」とそいつに一礼した。
それに対し奴は、軽薄な笑顔を浮かべ、軽く会釈をしただけだった。
「せっかく2人でお話していたのに、邪魔が入ってしまって残念です」
奴はそう言うと、カリーナ様に向き直り瞳を見つめた。
一体なんなんだ。コイツは。
俺は邪魔者扱いかよ。
「カリーナ様、そろそろ屋敷に戻りましょう」
俺はそう言って座っているカリーナ様に手を差し伸べた。
大国の王太子だろうがなんだろうが関係ない。
こいつは絶対に性格が悪い。
カリーナ様に近づけてはいけない人種の人間だ。
「ごめんなさい。アル。まだ戻れないわ」
「どうしてですか」
「ご案内の途中だし──」
「もう十分ですよ。戻りましょう」
カリーナ様は困惑する瞳で俺を見上げた。
「アルフレート、ちょっと良いかな」
そんな俺とカリーナ様のやり取りを、黙って見ていた王太子はそう言うと立ち上がった。
カリーナ様はその様子を心配そうに見つめている。
「カリーナ様はここでお待ちください」
奴はそう言うと、にこやかにほほ笑んだ。
いちいちやる事が目障りで、気にくわないのは何故だろうか。
王太子は俺の目の前に来ると「ついて来て」と言って歩き出した。
「アルフレート、君はカリーナ様の事が好きなんだね」
カリーナ様に声が届かない場所まで来ると奴はそう言った。
「なっ、なんで──」
「君ほど分かりやすい人は、なかなかいないよ。ここの領地の領民だった君は、10年前に侯爵家に来たんだよね。その時から、ずっと好きなのかな」
「なんでその事を知ってるんですか」
「ちょっと調べれば分かる事だよ。10年間ずっとカリーナ様のそばにいながら、君は未だに告白出来ていないんだね」
奴は俺を小馬鹿にしたような笑顔を向けた。
「──あなたには関係ないでしょう」
「そうだね。君が告白しようとしまいと興味はない。でも一応言っておくけど、私は君みたいにぐずぐずしている暇はないから」
「カリーナ様はあなたのようないい加減な人、相手にはしませんよ」
「いい加減?」
王太子は俺の言葉を反すうすると、何が可笑しいのか、笑い声を上げた。
「そう思ってくれて良いよ。でも、そうやって油断していると、私にカリーナ様を奪われてしまうかも知れないよ?」
なんでコイツはこんなに挑発的なんだ。
本当にイライラする。
「私はカリーナ様とふたりきりになりたいから、君は邪魔しないでくれるかな」
「…俺はカリーナ様の護衛騎士です」
「大丈夫。何かあれば私が護るよ」
「あなたが当てになる筈ないでしょう」
「そっかー。じゃあ今、ここで、君の気持ちをカリーナ様に教えちゃおうかな」
奴はわざとらしくそう言うと、俺に悪戯っぽい視線を向けた。
「──あなた、性格悪過ぎませんか」
「君に媚売ってもしょうがないしね。じゃあ、
そう言うことだから」
奴はにっこりとほほ笑むと、カリーナ様の元へ戻って行った。
腹黒いくせに、無駄にキラキラした笑顔を振りまくのはやめて欲しい。
そして俺は、奴がカリーナ様と2人で歩き去って行くのを、どうする事も出来ず見送った。
俺は侯爵家に戻ると、真っ先にエアリスの元へ行った。
エアリスは相変わらず畑でノアと一緒に雑草を抜いていた。
「エアリス!お前の兄貴はどうなってるんだ?」
「えっ?レアンお兄様に会ったの?」
エアリスは驚いたようにそう言った。
「さっき領地で会ったんだよ。あいつ、性格悪過ぎるだろ」
「性格悪過ぎる?お兄様が?アルが余計な事を言ったからじゃないの」
「俺は何も余計な事は言ってない!」
どうしてエアリスは弟なのに知らないんだ。
あいつの腐りきった性根を。
「アルは1人で戻って来たの?お兄様とカリーナはどうしたの?」
「あいつが先に帰れと言ったんだ。エアリス、なんであいつはカリーナ様に言い寄っているんだ」
「俺にも分からないよ。2人は今日が初対面のはずだし」
「あんな上っ面だけの奴は、カリーナ様に相応しくない。なんであんな熱っぽくカリーナ様を見つめるんだ?穢らわしい」
俺は吐き捨てるように言った。
「お兄様はカリーナの事真剣だと思うよ。今まで仕事一筋で、浮わついた話は一度も聞いた事ないし、数多く来ている縁談だって、全て突っぱねて来たんだよ」
「そんなの隠れて上手くやってたんだろ」
「…まぁそれより、アルはなんでそんなにイラついてんの?」
「ああ。兄さんはカリーナ様が好きなんですよ」
そう言って、ノアはあっさりとエアリスに教えてしまった。
「なんでこんな奴に言うんだ!」
「いや、ノアが言わなくても、俺も薄々勘づいてたから」
エアリス、お前も気づいていたのか。
それほど俺は分かりやすいのだろうか。
それはそれで落ち込む。
「兄さんはすぐに顔と態度に出るからしょうがないよ」
俺は情けなくノアに慰められた。
「俺はずっと前からカリーナ様を想っていたんだ。いきなり現れた奴に奪われてたまるか」
「ずっと前からって…」
「10年前からだよ」
ノアが冷静に答える。
エアリスは「10年…」と呟くと、言葉を失った。
エアリスも今、あいつと同じで絶対に俺の事を小馬鹿にしている。
侯爵令嬢のカリーナ様に、ただの領民出身の俺が、その想いを伝えるのはかなり勇気がいる事なのだ。
「ところで、エアリス。お前はあいつと国に帰るんだよな?」
「まだ帰らないよ。宮殿での生活はうんざりだし」
「お前がここにいれば、またあいつが来るじゃないか。さっさとここから出て行け!」
俺は興奮して叫んだ。
「兄さん。アングラーズ王国の王子殿下に、そんな言い方は良くないよ」
「そうそう。アルはもっとノアを見倣って、冷静に物事を見た方が良いよ。じゃないと、カリーナをお兄様に持っていかれるよ?」
「あんな奴にカリーナ様は渡さない」
俺はエアリスを睨みつけながらそう言った。
カリーナ様には子どもの頃から、その爵位目当てに数多くの縁談が来ていた。
しかし、爵位目当ての相手などくだらないと、マルクス様はその申し込みのほとんど全てを断っていた。
そんな事もあり、カリーナ様も縁談には乗り気になれないようだった。
俺は違う。
爵位なんか関係無く、ずっとカリーナ様を想ってきた。
それなのに、エアリスの兄だと言って、隣国の王太子がいきなり現れるなんて、まさに青天の霹靂だった。
カリーナ様があいつに奪われる?
ふざけるな。
今日、いきなり出てきた奴に、カリーナ様の何が分かると言うのだ。
あんな軽薄で、腹黒い奴にカリーナ様は絶対に渡さない。
そのためにも、今度こそ覚悟を決めて、俺はこの想いを伝えなければならなくなった。
しかし、その隣には見知らぬ男がいた。
ここら辺の奴じゃない。
この領地に銀髪の男なんていない。
そいつは領民とも貴族とも異なる、洗練さた佇まいをしていた。
そんな男が、親しげにカリーナ様と見つめ合い、その顔を近づけた。
「何をしているんですか」
俺は思わず苛立って声をかけると、カリーナ様はびっくりしたように振り返った。
隣の銀髪の男は、驚いた様子もなく、チラッと俺に視線を向けただけだった。
「誰なんですか。この人は」
俺はそんな男の様子に更に苛立ち、カリーナ様に尋ねた。
「この方はエアリスのお兄様なの。アングラーズ王国王太子のレアン・アングラーズ殿下よ」
エアリスの兄?
アングラーズ王国の王太子?
信じられない情報が一気に入って来たので、俺は一瞬フリーズした。
アングラーズ王国なんて、隣国の軍事大国じゃないか。
弱小国のベルレアン王国とは格が違う。
兄が王太子だったら、エアリスは──
「エアリスはアングラーズ王国の王子殿下だったの」
あり得ない。
あんな根気もやる気も全くない軟弱な奴が、大国の王子だったなんて。
「レアン殿下。こちらは私の護衛騎士のアルフレート・イグレシアです」
カリーナ様に紹介され、俺は仕方なく「初めまして…」とそいつに一礼した。
それに対し奴は、軽薄な笑顔を浮かべ、軽く会釈をしただけだった。
「せっかく2人でお話していたのに、邪魔が入ってしまって残念です」
奴はそう言うと、カリーナ様に向き直り瞳を見つめた。
一体なんなんだ。コイツは。
俺は邪魔者扱いかよ。
「カリーナ様、そろそろ屋敷に戻りましょう」
俺はそう言って座っているカリーナ様に手を差し伸べた。
大国の王太子だろうがなんだろうが関係ない。
こいつは絶対に性格が悪い。
カリーナ様に近づけてはいけない人種の人間だ。
「ごめんなさい。アル。まだ戻れないわ」
「どうしてですか」
「ご案内の途中だし──」
「もう十分ですよ。戻りましょう」
カリーナ様は困惑する瞳で俺を見上げた。
「アルフレート、ちょっと良いかな」
そんな俺とカリーナ様のやり取りを、黙って見ていた王太子はそう言うと立ち上がった。
カリーナ様はその様子を心配そうに見つめている。
「カリーナ様はここでお待ちください」
奴はそう言うと、にこやかにほほ笑んだ。
いちいちやる事が目障りで、気にくわないのは何故だろうか。
王太子は俺の目の前に来ると「ついて来て」と言って歩き出した。
「アルフレート、君はカリーナ様の事が好きなんだね」
カリーナ様に声が届かない場所まで来ると奴はそう言った。
「なっ、なんで──」
「君ほど分かりやすい人は、なかなかいないよ。ここの領地の領民だった君は、10年前に侯爵家に来たんだよね。その時から、ずっと好きなのかな」
「なんでその事を知ってるんですか」
「ちょっと調べれば分かる事だよ。10年間ずっとカリーナ様のそばにいながら、君は未だに告白出来ていないんだね」
奴は俺を小馬鹿にしたような笑顔を向けた。
「──あなたには関係ないでしょう」
「そうだね。君が告白しようとしまいと興味はない。でも一応言っておくけど、私は君みたいにぐずぐずしている暇はないから」
「カリーナ様はあなたのようないい加減な人、相手にはしませんよ」
「いい加減?」
王太子は俺の言葉を反すうすると、何が可笑しいのか、笑い声を上げた。
「そう思ってくれて良いよ。でも、そうやって油断していると、私にカリーナ様を奪われてしまうかも知れないよ?」
なんでコイツはこんなに挑発的なんだ。
本当にイライラする。
「私はカリーナ様とふたりきりになりたいから、君は邪魔しないでくれるかな」
「…俺はカリーナ様の護衛騎士です」
「大丈夫。何かあれば私が護るよ」
「あなたが当てになる筈ないでしょう」
「そっかー。じゃあ今、ここで、君の気持ちをカリーナ様に教えちゃおうかな」
奴はわざとらしくそう言うと、俺に悪戯っぽい視線を向けた。
「──あなた、性格悪過ぎませんか」
「君に媚売ってもしょうがないしね。じゃあ、
そう言うことだから」
奴はにっこりとほほ笑むと、カリーナ様の元へ戻って行った。
腹黒いくせに、無駄にキラキラした笑顔を振りまくのはやめて欲しい。
そして俺は、奴がカリーナ様と2人で歩き去って行くのを、どうする事も出来ず見送った。
俺は侯爵家に戻ると、真っ先にエアリスの元へ行った。
エアリスは相変わらず畑でノアと一緒に雑草を抜いていた。
「エアリス!お前の兄貴はどうなってるんだ?」
「えっ?レアンお兄様に会ったの?」
エアリスは驚いたようにそう言った。
「さっき領地で会ったんだよ。あいつ、性格悪過ぎるだろ」
「性格悪過ぎる?お兄様が?アルが余計な事を言ったからじゃないの」
「俺は何も余計な事は言ってない!」
どうしてエアリスは弟なのに知らないんだ。
あいつの腐りきった性根を。
「アルは1人で戻って来たの?お兄様とカリーナはどうしたの?」
「あいつが先に帰れと言ったんだ。エアリス、なんであいつはカリーナ様に言い寄っているんだ」
「俺にも分からないよ。2人は今日が初対面のはずだし」
「あんな上っ面だけの奴は、カリーナ様に相応しくない。なんであんな熱っぽくカリーナ様を見つめるんだ?穢らわしい」
俺は吐き捨てるように言った。
「お兄様はカリーナの事真剣だと思うよ。今まで仕事一筋で、浮わついた話は一度も聞いた事ないし、数多く来ている縁談だって、全て突っぱねて来たんだよ」
「そんなの隠れて上手くやってたんだろ」
「…まぁそれより、アルはなんでそんなにイラついてんの?」
「ああ。兄さんはカリーナ様が好きなんですよ」
そう言って、ノアはあっさりとエアリスに教えてしまった。
「なんでこんな奴に言うんだ!」
「いや、ノアが言わなくても、俺も薄々勘づいてたから」
エアリス、お前も気づいていたのか。
それほど俺は分かりやすいのだろうか。
それはそれで落ち込む。
「兄さんはすぐに顔と態度に出るからしょうがないよ」
俺は情けなくノアに慰められた。
「俺はずっと前からカリーナ様を想っていたんだ。いきなり現れた奴に奪われてたまるか」
「ずっと前からって…」
「10年前からだよ」
ノアが冷静に答える。
エアリスは「10年…」と呟くと、言葉を失った。
エアリスも今、あいつと同じで絶対に俺の事を小馬鹿にしている。
侯爵令嬢のカリーナ様に、ただの領民出身の俺が、その想いを伝えるのはかなり勇気がいる事なのだ。
「ところで、エアリス。お前はあいつと国に帰るんだよな?」
「まだ帰らないよ。宮殿での生活はうんざりだし」
「お前がここにいれば、またあいつが来るじゃないか。さっさとここから出て行け!」
俺は興奮して叫んだ。
「兄さん。アングラーズ王国の王子殿下に、そんな言い方は良くないよ」
「そうそう。アルはもっとノアを見倣って、冷静に物事を見た方が良いよ。じゃないと、カリーナをお兄様に持っていかれるよ?」
「あんな奴にカリーナ様は渡さない」
俺はエアリスを睨みつけながらそう言った。
カリーナ様には子どもの頃から、その爵位目当てに数多くの縁談が来ていた。
しかし、爵位目当ての相手などくだらないと、マルクス様はその申し込みのほとんど全てを断っていた。
そんな事もあり、カリーナ様も縁談には乗り気になれないようだった。
俺は違う。
爵位なんか関係無く、ずっとカリーナ様を想ってきた。
それなのに、エアリスの兄だと言って、隣国の王太子がいきなり現れるなんて、まさに青天の霹靂だった。
カリーナ様があいつに奪われる?
ふざけるな。
今日、いきなり出てきた奴に、カリーナ様の何が分かると言うのだ。
あんな軽薄で、腹黒い奴にカリーナ様は絶対に渡さない。
そのためにも、今度こそ覚悟を決めて、俺はこの想いを伝えなければならなくなった。
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