俺vs悪役令嬢

みつき

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1章 出会い編

因縁の瞬間

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あの衝撃的出会いから、一週間たった。


俺は彼女が待っている筈の待ち合わせ場所に急ぐ。

「お待たせ!ごめんな、マリーちゃん」
「ううん。そんなに待ってないから、大丈夫だよ。それより、これ!約束してた教科書!」
「ありがとう!助かるよ。」
「でも、ルイスくんってば災難だね。急に違う授業が入るなんて。」
「そうなんだよな。俺もびっくりして、急いで貸してくれる人を探してたんだ。マリーちゃんが今日『魔法理論』の教科書持ってきてて助かったよ。」
「ただ、私は出されてた宿題を今日中にやろうと思って持ってきてただけだったんだけどね。でも、ルイスくんの役に立ったなら、良かったよ。」

キーンコーンカーンコーン…

「あっ休み終わっちゃう。じゃあ、私戻るね!返すのは今日中ならいつでもいいよ!」
「分かった。じゃあ、昼休みに返しにいくな。」
「りょーかい!じゃあ、またあとでね!」

そう言って、手を振りながら自分の教室に戻っていく。

ールイス・シュピルバーグ、15歳。
この転生した世界で中々順調な日々を送っています!ー


。。。


あの後、無事憧れのヒロイン・マリーちゃんと出会うことができ、彼女と一緒に段ボール運びと中庭の設置を行った。その時にしっかり自己紹介もして、言葉を交わし、仲良くなった。結局心配していた兄とのフラグや出会いイベントは発生せず、現在は友達としての関係を築くことができている。

「まぁ、個人的にはもっと関係を進めておきたいところなんだけど…」

「うわー。ほんと青春ですなぁ。羨ましいぞ。でも、確かに急いだ方がいいと思うぜ。一応お前王子だろ。婚約者付けられる前に、どうにかしないとよ。」

悲しいことに、マリーちゃんとは別クラスになってしまった。その為、俺は何かにつけて、マリーちゃんに話しかけにいっているのだ。

(別クラスの人との交流がこれ程難しいとは思わなかったなぁ。俺とマリーちゃんは男女だからこそ、特に難しい。) 

まぁ、ただ今のクラスが嫌いな訳ではない。
仲良くなり、一緒につるむ友達もいる。
その最たる存在がこの男、アクセル・ルドウィングである。

我が学園「聖アクシミア学園」は基本的には貴族が必ず通わなければならない魔法学校だ。
初・中・高等部とあり、基本的に貴族は初等部の頃から通わなければならない義務がある。
しかし、高等部からは魔力があるものであれば、外部入学が許されており、莫大な学費を支払うことができる金持ちの商家の子供や、マリーちゃんのような魔法の実力が見込まれ、成績優秀者で推薦をもらい、学費無料で通学できる「特別枠」の子供も入学できるのだ。

アクセルは今飛ぶ鳥を落とす勢いで儲かっている商家ルドウィング家の息子で、魔力を持っていたため、入学してきた。
貴族が通う学校として憧れる人は多く、アクセルの親も、息子に魔力があると分かると、有無を言わさずに入学させたらしい。

商家の息子だからか、気取った話し方をせず、一緒にいて楽な男だった。
向こうも俺にそういった印象を抱いたようだ。
その為、すっかり仲良くなり、今や親友も同然だ。ただ、向こうは最初俺を第二王子だと認識していたため、時折ギャップに苦しむらしい。

今は昼休み。マリーちゃんに教科書を返しに行ってきた後、食堂で昼食を取りつつ、恋愛相談していた。

「急ぐって言ったって、どうするんだよ。」
「それこそ、告白すれば?距離を縮めるには、それが一番手っ取り早い。」
「そんな勇気まだない。大体知り合ったばっかなのに、言えねーよ。」

ため息が出る。
思わず食事の手が止まってしまう。
ここの食堂のご飯はとても美味しい。
前の世界で例えるなら三ツ星レストラン。
さすが、貴族が通う学園。食堂にも手抜きがない。

(悩んじまうから、折角の鶏肉も美味しく感じない。ほんと、もったいない。良い方法を考え付いて、もっと美味しく食べたい…。)

「何か、悩んでるのですか?わたくし達で良ければ力になりますわ。」
「ごめんなさい。ここに座っても良いですか?他に席がなくって。」

悩んでると2人の女子が声を掛けてきた。
あれは、確か… うちのクラスの女子である。

(確か、両方とも子爵家の令嬢だ。名前なんだっけ。忘れた…。
今の時間空いてる席がないから、クラスメイトを見つけて、声を掛けにきたってところかな。でも、良くみたら、奥のほうならまだ席が空いてるよな。わざわざここに声掛けに来なくても
…) 

すると、利発そうな子が声をかけてくる。

「それで、どのような悩みなのですの?
少しお耳に入ってしまったのですが、恋愛絡みなのでしょう?そういうことなら、女子の意見も必要なのでは?わたくし、分かる範囲でお答え致しますわ。」
そう言って、身体を近づけてきた。
ばっちり上目遣いで。

もう一人の大人しそうな子は特に何か話すわけでもないが、アクセルの方を見ながら、頬を染めている。

(ははーん。こいつら、俺達狙いで来たってわけだ。)

何せ、俺は乙女ゲームの隠しキャラになるほど、顔が良い。
俺が色々手を加えたせいで多少のチャラさは出ているが、元の顔立ちは変わらない。
更にそれに加えて王子という身分。
第二王子で“俺”という人格が中身でも、「イケメン」と「王子」という言葉に弱いのが女性だ。
それはこの世界も向こうの世界も変わらない。
更に、拍車を掛けているのが俺の婚約事情だ。この中世かぶれの世界でも、近代化が進んでいるらしく、近年は婚約はせず、恋愛結婚が許される時代となっている。しかし、王族は別。王家には正当な血筋を入れなければならないので、幼い頃には婚約者が決められる。しかし、俺は最近まで寝たきりで病弱だったため、それが見送りになっていた。その為、今は婚約者もいない全くのフリー状態である。それが拍車をかけているのだろう。
そのせいで、入学してから、割りとモテる。
机や下駄箱にラブレターが入ってるなんて日常茶飯事である。
モテない頃を経験している俺は、ある意味気分はウハウハだ。大きな声では言えないけど…。
そして、アクセルもイケメンだ。
灰色の髪に蒼い瞳の組み合わせは印象的で、顔のパーツも良いバランスで整っている。
陽気で気さくな性格は男女共に受けが良い。
やっぱり、モテるのである。

(モテるのは嬉しいけど、やっぱ本命に振り向いてもらえないとなぁ。
まぁ、2人の意図は置いといて、煮詰まっているのは確かだし。話しだけでも聞いとくか。)

「好きな子に振り向いてもらえるには、どうすればいいかな~って悩んでてさ。
女子から見てどうすればいいと思う?」
「まぁ、まぁ。ルイス様に想われているなんて羨ましいですわ。
わたくしなら、何倍もの想いを返して差し上げるのに。」
「で、どう思う?」

余計な情報は入れない。どんなアプローチも淡々と対処する。
それが、ここ一週間で学んだ積極的に仕掛けてくる女の子達の対処法だ。
決して、腕にわざと当ててくる胸が気になって、ドキドキしているとか、そんなことはない。

「うーん、そうですわね。
何かと細かいところまで見てくれて、誉めてくれる男性は評価が高いと思いますわ。やっぱり誉められると悪い気はしませんもの。」

(細かいところも評価して、誉める。なるほどね。一理ある。)

「あとは?」
「あとは…。
やっぱり守ってくれる男性は魅力的に映ると思いますわ。」

(守ってくれる…。そういえば…)

「ただ、ルイス様といえども、いきなり実行するのは緊張するのではなくて?わたくしで一度練習するというのは…」

「ごめん。」
アクセルが喋り続けているクラスメイトに声をかける。

「アイツなら『ありがとう!助かった』って言って、食堂から出ていったけど。」

一度固まり、一気に顔が赤くなるクラスメイト。
そんな状況を前にして、アクセルはため息をついた。

(何を思い付いたんだか知らないが、普通、この状況で友達置いて出ていくか?まぁ、とっておきを思い付いた様子だったから、その報告を楽しみに、この状況を乗り切りますか。
これは貸しとして何かの時のために取っておこう。)

。。。

真っ直ぐ廊下を突き進む。
目指すはマリーちゃんのクラス。

俺はさっきの言葉である存在を思い出していた。
「マジアク」の悪役令嬢、ダリア・ルーベン公爵令嬢。
悪役令嬢からマリーちゃんを守るのが、俺の第一の目標だったはずだ。
割りと順調にいっていたので、すっかり忘れていた。

確か、ダリアは兄・アレクセイの婚約者。
そして、ダリアの取り巻きは各攻略キャラに懸想している。
そういった関連から、どのキャラでも攻略が進むとヒロインの前に立ちあがり、いじめ抜くのである。

確か、ヒロイン・マリーちゃんと同じクラス。
もし、ダリアが、ゲームの悪役令嬢そのままの性格なら、大変危ない。

しかし、マリーちゃんは今回兄とのフラグは立ってないし、他の攻略キャラと親密な様子はない。もしかしたら、何も関係なく終わるかもしれない。

しかし、俺はマリーちゃんのためにダリア・ルーベン公爵令嬢を見極めなければならない。

(そのためには、まずどんな存在か確認しないと!)

そう意気込んで歩いていると、ふと声が聞こえた。
階段の影の方で。

「すみませんっ。本当にごめんなさいっ。」

(この声は…マリーちゃん!?にしては、様子がおかしい…)

見付からないようにしながら、急いで確認する。俺はハッとしてそこにいた存在に息を飲んだ。

マリーちゃんともう一人。
さっきまで考えこんでいた存在、嫌になるほどゲーム画面で見た存在、ダリア・ルーベン公爵令嬢がそこにいた。

緩くウェーブされた黒髪に印象的な赤の瞳。
気の強さを感じるパッチリとした瞳に瑞瑞しい唇。
ゲームの何倍も整った美少女がそこにいた。

その子がマリーちゃんを怒鳴り付けている。

「いい加減にしてくださいませ。やっぱり貴女は下賎の血が流れているその程度の存在なのですの?わたくしの時間は無限ではないのです。もう1回行きますわよ?」

「は、はい。」
怯えながらもマリーちゃんは息を吸い込み、「あ~」と言葉を履く。

(あれは…発声の練習か?)

ずっと「あ~」と叫び続けている。苦しそうだ。
息が持たないのだろう。
しかし、ダリアは無情なことを言ってのけた。
「何を苦しくなっているのです。まだまだですわ。続けて下さい。」

よっぽど苦しいのか、目から涙が零れ落ちている。
とてもキツかったようで、むせて声だしを止めてしまった。
しかし、ダリアはこう言い放った。

「どうしてそう苦しくなってしまうのかしら。できないことは恥だと思いなさい。
休憩時間は与えないわ。私の時間を無駄にしないでちょうだい。」

それを聞いた瞬間、もう止まらなかった。
頭に血が上った。もう自分では止まりそうにない。

こっちに向かってくる男にいち早く気付いたのは、ダリア・ルーベン公爵令嬢だ。
「まぁ、貴方は…」
「え。ルイス…くん?」

近くに来て、思わずヤツの腕を掴む。

「…。申し訳ないのですが、痛いですわ。何かお話があるのなら、話して頂きたいのですが…」

「アンタは俺が何で怒っているのか分からないのか?公爵令嬢とは名ばかりの状況把握の未熟さにびっくりするよ。」
「っ!?。
…申し訳ありませんわ。わたくしのどの行動が怒りを買ったか分からないので、教えては頂けないでしょうか?」

「何故、ここまでする必要がある。彼女は苦しそうじゃないか。何かを教えているのは分かるが、ここまで無体に扱うのは違うだろ。」
「…。
しかし、そうするのには、理由がありまして…。」

いけしゃあしゃあと言い訳をする、この女にイライラする。
別に理由を言う必要はない。
こんな女から教えを請わなくても別にいいだろ。

「もういい。別に理由が聞きたい訳じゃない。
指導するのは俺が変わる。アンタはサッサと帰ってくれ。」


ーやっぱりアンタは悪役令嬢だ。
どうせ 時間が立てば苛め始める。

だから、マリーちゃん。
俺は何があっても絶対にあの悪役令嬢から守ってみせる。
絶対に。ー
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