らぶ☆ほたる ~エロゲの美少女ヒロインを召喚したら、思ってたのと違うんだけど?~

団子騎士

文字の大きさ
4 / 40

第4話

しおりを挟む
「なんだ、このカスは」

 これが、エロゲから出てきた美少女ヒロインの第一声だった。……ちょっと待て。清楚で素直で明るい望月ほたるはどこいった?
 ほたるは俺の頭から足を下ろすと辺りをキョロキョロと見回し、自分がそこにいることを確かめているようだった。
 俺は突然の出来事にポカンと口を開け、土下座スタイルのまま見上げていた。ほたるはそんな俺を蔑んだ目で見下ろすと「チッ」と舌打ちをし、

「ったく何なんだよ、あたしをこんなところに呼び出しやがって」

 清楚とは程遠い言葉づかいで、不機嫌そうな顔をした。それから散らかった部屋の中を、ゲームソフトのパッケージや脱ぎ捨ててある俺の部屋着を毒物みたいに見ながら歩き回り、『らぶ☆ほたる』のソフトを手に取るとベッドの上に腰を下ろす。
 パッケージをひっくり返して裏面を見る。表面に映っているイラストと同じ顔がそこにあった。

「初回限定版の……ナンバリングがゼロのやつか」

「な、なあ……」

 ソフトのパッケージにジト目を向けているほたるに、俺は尋ねてみる。

「もしかして、本物の望月ほたる……なのか?」

「はあ? もしかしなくてもそうだろ。どこをどう見てもあたしは望月ほたるだろ」

 ほたるの目が「バカなヤツを見る目」に変わった。

 目の前にいる人間に「あなたはそこにいますか?」と問われれば「ここにいるに決まってるだろ」と答えるが当然だと言わんばかりに、俺の頭上から侮蔑の眼差しを振り下ろしながら、しかし碧くて透き通った瞳は彼女が望月ほたるであることを際立たせている。
 これが『らぶ☆ほたる』のヒロイン、望月ほたる。

「可愛い」とか「美しい」という形容詞で言い表すには言葉が足りない。「めっちゃカワイイ」とか「超美人」という言葉ですら控えめに聞こえてしまう程にずば抜けた、完璧な容姿。
 そんな望月ほたるは、ゲームの中で俺の告白を受け入れて、甘い息遣いと共に「私と、ずっと一緒にいれてくれるの?」と言っていたんだ。
 ということは、

「つまりゲームでの続きが体験できるわけか!」

「は?」

「俺は好感度MAXで告白シーンを迎えてたんだ。てことは、これからお約束のエロゲシーンが始まるってことだよな」

「お前、何言ってるんだ?」

「だから、ここに本物のほたるが現れたということは、つまりそういうことだよな。俺のエロゲ愛が世の常識をぶっ壊し、俺がほたるを想う気持ちがこの世にほたるを召喚したんだ」

 うん、間違いない。しかしほたるの返事は「嬉しい……和馬くん、優しくしてね」ではなく、

「エロゲでのキャラは作り物なんだよ、バーカ。いいからあたしに飯を食わせろ」

 だった。

 ええっ!?

「エロゲじゃなくて飯かよ!?」

 花より団子、色気より食い気、エロゲより飯だと、エロゲの美少女ヒロイン様はそう言って突っぱねてきた。こいつは壮絶なキャラ崩壊である。
 キャラ崩壊しているが、その身体も声もまさしく望月ほたる本人であり、まるで天使のような――いや、悪魔のようなキツい視線で腕を組み、

「飯ったらメシだよ」

 苺のような愛らしい唇から乱暴な言葉を発してくる。
 俺が恋したゲームのヒロインは、俺を「カス」呼ばわりし、透き通った碧眼で「飯を食わせろ」と見下す小悪魔的な美少女だった。
 ゲームから現実世界にやって来る過程で、中の人が入れ替わってしまったのではないかと思わせる変貌ぶりだ。

「早くしろよ、あたしは腹が減ってるんだ」

「いや……その……俺のエロゲ展開は……?」

「エロゲエロゲうるさいな。お前の頭の中にはそれしかないのか? このカス! 脳味噌カス!」

 目尻を吊り上げてご立腹である。しかし、怒った顔もトンデモ可愛いのである。

「わかった、わかった。とりあえず飯ね、ちょっと待てよ」

 俺はほたるに押し負けて立ち上がると、

「でも、ウチに飯なんてないぞ? ちょうど食材を切らしてるんだ」

 と言いながらキッチンへと足を運び冷蔵庫を開けた。

「ないなら買って来いよ」

 人をパシリみたいに言うな。

「そのお金もない。ゲームを買うのに所持金を全部使っちゃったからな」

「はあ? 食いモノなくて金もないとか、お前は何を食って生きてくんだよ」

「俺はバイト先で賄いが出るからな。一日一食でもあれば、飢え死にすることはない」

 冷蔵庫の中は空っぽ……ってほどでもないか。レタスの欠片とハムと玉子くらいなら残ってる。それに、冷凍ごはんが一人分。
 給料日まで残り三日、これが俺の最後の食糧だけど、

「仕方ないなぁ……」

 フライパンに火をかけ、ハムと玉子にご飯を炒めて、味付けをしてから仕上げにレタスを入れてサッと火を通せば――

「ほら、これ」

 即席のレタスチャーハンだ。レタスの食感がさっぱりしてるけど、ボリュームがあるから女の子には多いか?
 ま、今ある食材で作れる最後のメニューだけどな。

「おおっ!?」

 ほたるは子供みたいにヨダレを垂らすと、「いっただっきまーす!」と言ってガツガツ食べ始めた。

 まるで早食い選手権で優勝争いをしているレベルの食べ方。チャーハンは飲み物じゃないんだ、よく噛んで食べろよ。

「ウマいな!」

 ほたるはまるでブラックホールのように食べ物を吸い込んでいく。ああ、俺の最後の食材が……。

「ホントにウマいぞ」

「はいはい、そりゃどうも」

「お前はどうしてこんなのが作れるんだ?」

「俺はレストランで働いてるからな。まだ見習いだけど、そのくらいの料理なら作れるさ」

「へぇ……」

 たいして興味もないのか、それ以上は何も言わずにペロリと平らげてしまった。じゃあ聞くなよ、と。
 これで冷蔵庫の中は正真正銘の空っぽ。野菜の欠片も肉の一切れも残ってないし、もちろん米もさっきのが最後だ。給料日まであと三日、本当にバイトの賄いだけで生きて行かなきゃいけない。

 俺は食べ終わった皿とスプーンをシンクに放り入れて、スポンジに食器用洗剤を付けて洗う。キッチンから横目で奥の部屋を見ると、ほたるがベッドの上でグデっと横になっていた。

「人に食事を作らせて、食べたら寝ちゃうのかよ……グータラだなぁ」

 俺の悪態が聞こえたのか、ほたるは薄目でチラっと顔を向けると、

「うるさいな。お前がずっとゲームをプレイしてたから、あたしは疲れてるんだ」

 眠たそうに目をこする。

「あのさぁ、お前お前って言うなよ。俺にだって名前があるんだからさ」

「和馬、だろ?」

 それから、ふわっとあくびをした。

「あれ、名前言ったっけ?」

「ゲームで登録したじゃん」

 ほたるは「眠くて喋るのも億劫だ」といった感じで、言葉がどんどん短くなっていく。皿洗いを終えてリビングに来た時には、もうすぅすぅと寝息を立て始めていた。

「寝ちゃった……のか?」

 おいおい、こんな状況アリかよ。一人暮らしの男の部屋で、こんな美少女が無防備に眠りこけてるんだぞ?
 俺は仰向けになって眠っているほたるをまじまじと見た。

 スラっとしてるけど、出るところは出ていて柔らかそうな身体。短いスカートから伸びる太ももが、手を伸ばせばそこにある。
 これがエロゲだったら……。
 俺は伸ばしかけた手を引っ込めると軽くため息を吐いて、

「コイツは何しに出て来たんだよ」

 呟いてソファに身体を沈めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

処理中です...