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第15話
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そろそろ蒸し暑さがうっとおしくなる夜道。俺はいつもどおり二十一時半に家を出て、いつもどおりに徒歩でバイトへ向かう。
ほたるなら家でサスペンスドラマを観てるさ。夜食を作り置きしてきたから、あとは勝手に食べて勝手に寝るだろう。
「それにしても、あんなに食べてよく太らないもんだ」
食っちゃ寝、食っちゃ寝であのプロポーション。肌は綺麗だし、細くて可愛いし、胸の辺りなんか柔らかそうで、それを凝視する勇気は俺にはないが。
そんなヒロインとのエロゲ的エンディングは一向に訪れる気配はない。エンディングどころかチューすら勝ち取れないんだ。
いや、チューより先に「土曜日に外出させる作戦」を成功させないといけないんだが。
コンビニを過ぎてゲーセンの前で足を止める。ここは高校の頃、よく通っていたところだ。あの時はマリヲカートを必死でやり込んで、通信対戦では敵なしだったのに、
「ほたるにはアッサリ負けたからなぁ」
ゲーセンの中ではアーケード版のマリヲカートが稼働している。プレイしてるのは女の子か。キャラは『ユッケ』という、俺が使ってるビビンパの恋人キャラだ。
お、上手いじゃないか。
その奥には格闘ゲームの『鉄剣Ⅲ』や、『カードバトルゲーム』、そしてレトロゲームがいくつか。
「ん? そうか、あれならほたるに勝てるかも……」
俺はレトロゲームの一つに目を留めた。どこのゲーセンにもだいたいあるけど、今では見向きもされないゲーム。あれならコントローラーで精密な操作をするわけじゃないし、先読みをするようなジャンルでもない。
「なにより、ほたるには最も不向きと思われるゲームだ」
俺は次なる対戦のフィールドを見つけてほくそ笑んだ。
と――マリヲカートをプレイしていた女の子がこちらを振り向いた。途端にゲームを放ったらかして勢いよく飛び出し、いきなり俺の腕を掴んできたではないか。
「百瀬センパイ!」
両手で俺の腕を抱きかかえ、まるで出来立てホヤホヤのカップルのように密着してきたのは、
「千夏? 高嶋千夏?」
「お久しぶりです、センパイ!」
デニムのミニスカートに肩がしっかり出たキャミソールという煽情的な格好で、明るい茶髪を肩まで垂らしたこの可愛らしい少女は、高校の後輩だった高嶋千夏。
「ちょ……お前、ビックリしたじゃんか」
急に飛び出してきたことよりも、こんなに密着してくることにドキっとする。俺は一歩引いて、千夏から身体を離した。腕はしっかり掴まれたままだが。
「だって、こんなところでセンパイに会えたから嬉しくて」
「いや、俺たちそんなに話したことないだろ」
「えー? そうでしたっけ?」
コイツは同じ高校だったけど、学年も違うし別に接点なんてなかったぞ。挨拶くらいしかしたことがないはずだが。それが突然、馴れ馴れしいというか、人懐こいというか。
「てか、お前もゲームやるんだな。知らなかった」
俺の言葉で千夏は驚いたように「え?」と手を離した。馴れ馴れしくて、人懐こい笑顔を一瞬曇らせたが、
「そ、そういえば、最近はセンパイのアカウント見かけないなぁ」
「俺のアカウント?」
「ほら、マリヲカートですよ。ビビンパ使いの『kazumax』。前回の大会では二位でしたよね」
「な、なぜそれを?」
「だってわたしのキャラ、『ユッケ』といつも勝負してたじゃないですか」
わたしのキャラで『ユッケ』? まさか、マリヲカートの通信対戦でよく見かけていた……たしかアカウントは『チカ』だったか?
200㏄の上位にいる俺にいつも張り合ってきた『チカ』は、千夏のアカウントだったのか。『ユッケ』使いは珍しいし、レースではダントツに強かったから憶えている。
といっても、いつも俺が勝っていたが。
「わたしも学校終わってから毎日鍛えてますからね。センパイに勝てるとしたらわたしくらいです」
そう言って千夏は上目で見つめてくる。いや、すでに俺はほたるに負けているんだけどな。と、これはもちろん内緒の話。
「センパイって、中央通りのレストランで働いてるんですよね? 今からお仕事ですか?」
「おお。俺は深夜帯だから朝七時まで」
話題は急ハンドルを切って、俺のバイトの話に。つーか、どうしてコイツは俺のバイト先まで知ってるんだ?
「わたし、今度食べに行きます!」
「でも高校生は深夜のレストランには入れないぞ。高校生は夜十時までしかいられないんだ」
「じゃあ、学校行く前の朝寄ります。それなら平気ですよね?」
「あ、ああ。モーニングの時間なら大丈夫だが」
「なんか嬉しいな、こんなところでセンパイと会えるなんて」
千夏はこれでもかというくらいに喜びを浮かべている。まるでゲームのヒロインが片想いの相手にバッタリ出会ったシーンみたいで、俺はまた「ドキ」っと胸を鳴らした。
しかし、俺は自分を「ヒロインの相手」なんて勘違いはしてないぞ。そうだな、今の会話をリアルに訳すとしたら、
「ゲームのライバルという意味では、全国でメジャーな対戦相手に会うことは滅多にないからな」
これが正解だ。
「もう……違いますよ。わたしはセンパイのビビンパにも、センパイにも憧れてるんですから」
それはつまり、全国二位の俺のビビンパと、それを操作する俺のゲーム能力が素晴らしいと。いうことでOKでしょうか。と、これは俺の心の声だ。これが正解なら文句はない。これが間違いなら、じゃあ何だ?
バイトの時間に遅れそうなので、俺はそこそこに話を切り上げることにする。
「あ、センパイ」
軽く呼び止めた千夏は別れ際にひと言、
「行ってらっしゃい」
ハートマークが付きそうな笑顔に片手を添えて、俺を見送ってくれた。
まるでゲームのワンシーンみたいだった。可愛い女の子の後輩と再会して、なんとなく共通の話題に花が咲いて、イベントフラグが立ちましたよ、みたいな。
横目で見えたその仕草に、俺はもう一度胸を鳴らして歩き出した。
ほたるなら家でサスペンスドラマを観てるさ。夜食を作り置きしてきたから、あとは勝手に食べて勝手に寝るだろう。
「それにしても、あんなに食べてよく太らないもんだ」
食っちゃ寝、食っちゃ寝であのプロポーション。肌は綺麗だし、細くて可愛いし、胸の辺りなんか柔らかそうで、それを凝視する勇気は俺にはないが。
そんなヒロインとのエロゲ的エンディングは一向に訪れる気配はない。エンディングどころかチューすら勝ち取れないんだ。
いや、チューより先に「土曜日に外出させる作戦」を成功させないといけないんだが。
コンビニを過ぎてゲーセンの前で足を止める。ここは高校の頃、よく通っていたところだ。あの時はマリヲカートを必死でやり込んで、通信対戦では敵なしだったのに、
「ほたるにはアッサリ負けたからなぁ」
ゲーセンの中ではアーケード版のマリヲカートが稼働している。プレイしてるのは女の子か。キャラは『ユッケ』という、俺が使ってるビビンパの恋人キャラだ。
お、上手いじゃないか。
その奥には格闘ゲームの『鉄剣Ⅲ』や、『カードバトルゲーム』、そしてレトロゲームがいくつか。
「ん? そうか、あれならほたるに勝てるかも……」
俺はレトロゲームの一つに目を留めた。どこのゲーセンにもだいたいあるけど、今では見向きもされないゲーム。あれならコントローラーで精密な操作をするわけじゃないし、先読みをするようなジャンルでもない。
「なにより、ほたるには最も不向きと思われるゲームだ」
俺は次なる対戦のフィールドを見つけてほくそ笑んだ。
と――マリヲカートをプレイしていた女の子がこちらを振り向いた。途端にゲームを放ったらかして勢いよく飛び出し、いきなり俺の腕を掴んできたではないか。
「百瀬センパイ!」
両手で俺の腕を抱きかかえ、まるで出来立てホヤホヤのカップルのように密着してきたのは、
「千夏? 高嶋千夏?」
「お久しぶりです、センパイ!」
デニムのミニスカートに肩がしっかり出たキャミソールという煽情的な格好で、明るい茶髪を肩まで垂らしたこの可愛らしい少女は、高校の後輩だった高嶋千夏。
「ちょ……お前、ビックリしたじゃんか」
急に飛び出してきたことよりも、こんなに密着してくることにドキっとする。俺は一歩引いて、千夏から身体を離した。腕はしっかり掴まれたままだが。
「だって、こんなところでセンパイに会えたから嬉しくて」
「いや、俺たちそんなに話したことないだろ」
「えー? そうでしたっけ?」
コイツは同じ高校だったけど、学年も違うし別に接点なんてなかったぞ。挨拶くらいしかしたことがないはずだが。それが突然、馴れ馴れしいというか、人懐こいというか。
「てか、お前もゲームやるんだな。知らなかった」
俺の言葉で千夏は驚いたように「え?」と手を離した。馴れ馴れしくて、人懐こい笑顔を一瞬曇らせたが、
「そ、そういえば、最近はセンパイのアカウント見かけないなぁ」
「俺のアカウント?」
「ほら、マリヲカートですよ。ビビンパ使いの『kazumax』。前回の大会では二位でしたよね」
「な、なぜそれを?」
「だってわたしのキャラ、『ユッケ』といつも勝負してたじゃないですか」
わたしのキャラで『ユッケ』? まさか、マリヲカートの通信対戦でよく見かけていた……たしかアカウントは『チカ』だったか?
200㏄の上位にいる俺にいつも張り合ってきた『チカ』は、千夏のアカウントだったのか。『ユッケ』使いは珍しいし、レースではダントツに強かったから憶えている。
といっても、いつも俺が勝っていたが。
「わたしも学校終わってから毎日鍛えてますからね。センパイに勝てるとしたらわたしくらいです」
そう言って千夏は上目で見つめてくる。いや、すでに俺はほたるに負けているんだけどな。と、これはもちろん内緒の話。
「センパイって、中央通りのレストランで働いてるんですよね? 今からお仕事ですか?」
「おお。俺は深夜帯だから朝七時まで」
話題は急ハンドルを切って、俺のバイトの話に。つーか、どうしてコイツは俺のバイト先まで知ってるんだ?
「わたし、今度食べに行きます!」
「でも高校生は深夜のレストランには入れないぞ。高校生は夜十時までしかいられないんだ」
「じゃあ、学校行く前の朝寄ります。それなら平気ですよね?」
「あ、ああ。モーニングの時間なら大丈夫だが」
「なんか嬉しいな、こんなところでセンパイと会えるなんて」
千夏はこれでもかというくらいに喜びを浮かべている。まるでゲームのヒロインが片想いの相手にバッタリ出会ったシーンみたいで、俺はまた「ドキ」っと胸を鳴らした。
しかし、俺は自分を「ヒロインの相手」なんて勘違いはしてないぞ。そうだな、今の会話をリアルに訳すとしたら、
「ゲームのライバルという意味では、全国でメジャーな対戦相手に会うことは滅多にないからな」
これが正解だ。
「もう……違いますよ。わたしはセンパイのビビンパにも、センパイにも憧れてるんですから」
それはつまり、全国二位の俺のビビンパと、それを操作する俺のゲーム能力が素晴らしいと。いうことでOKでしょうか。と、これは俺の心の声だ。これが正解なら文句はない。これが間違いなら、じゃあ何だ?
バイトの時間に遅れそうなので、俺はそこそこに話を切り上げることにする。
「あ、センパイ」
軽く呼び止めた千夏は別れ際にひと言、
「行ってらっしゃい」
ハートマークが付きそうな笑顔に片手を添えて、俺を見送ってくれた。
まるでゲームのワンシーンみたいだった。可愛い女の子の後輩と再会して、なんとなく共通の話題に花が咲いて、イベントフラグが立ちましたよ、みたいな。
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