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第18話
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バイトが終わると外はどんより曇り空。陽が出てるより暑さはマシかもしれない。気分は憂鬱だけど。
曇天で気持ちが沈むなんて、そんなセンチな性格じゃないと思ってたんだけどな、俺は。
同じ時間にバイトが終わった光莉先輩と、マリヲカートの話をぽつぽつしながら店の裏口を出て駐車場を抜ける。
「雨降りそうだねぇ。和馬くん、傘持ってきた?」
「持ってないすけど、俺は走れば五分で帰れるんで平気っす」
「そ、そうだね。うん、平気だよね」
光莉先輩はバッグから何かを取り出そうとして、手を戻した。折りたたみ傘でも持っているのだろうか。
ポツリ、と小さな雫が路面を黒く染めた時、
「セーンパイ!」
「ち、千夏?」
透明なビニール傘を持って、車道の手前に学生服を着た高嶋千夏が立っていた。並んで立ち止まる俺と光莉先輩。それを見て千夏の表情が強張ったように感じたのは、気のせいかな。
「もしかしてセンパイの彼女さんですか?」
千夏はズバっととんでもないことを切り出してきた。
いや、この人は「彼女さん」ではないが、一応「候補」というか「希望」というか「願望」というか……と俺は声を大にして叫んだ。心の中で。
「私!? あ、えっと……違います、違います。決してそういうんじゃ」
光莉先輩は驚いて全力否定である。どうやら「候補」にも入ってない様子である。ですよね……でも「希望」と「願望」は捨てません。
それを聞いた千夏はすぐに朗らかな顔に戻った。なんとなく、良からぬフラグが立ち始めている気がする。
「さっきお店でフレンチトーストを食べてきたんですけど、あれってセンパイが作ったんですか?」
こいつ、本当に食べに来たのか。
「ああ、仕込みは俺だけど、焼いたのはキッチンリーダーの冨澤さん。俺はまだ調理は任されてないから」
「でも美味しかったです。甘さも丁度よかったし」
「そ、そうか? それは良かった」
なんか上手くおだてられてる気がするが、女の子に褒められた経験のない俺にとってその言葉はメープルシロップよりも甘美な響きである。
「なんか私、お邪魔みたいだから先に帰るね」
「え、光莉先輩?」
光莉先輩は気まずそうな面持ちで、そそくさと歩き出していった。その後ろ姿に俺の「希望」と「願望」が遠ざかっていくように思えるのは、気のせいじゃなさそうだぞ。
それを「お疲れ様でした~」なんて嬉々として見送る千夏。おい、心がこもってないぞ。お前に料理を運んでくれたのは光莉先輩だ。
「センパイ、あの人は?」
「バイトの先輩だよ。深夜勤務でシフトが被ることが多いんだ」
「ふ~ん、美人さんですね。もしかしてセンパイの憧れの人だったりして」
俺の胸から「ギクっ」と音がした。千夏には聞かれていないだろうが、表情が変わったのは見られたかもしれない。
ポツリ――ポツリ――と、雨粒が路面を濡らす。俺の心も雨模様だ。
「ところでセンパイ、マリヲカートで明日から始まる『スイートパフェ杯』、センパイもエントリーしてますよね」
「あ、ああ。一応200㏄クラスでな」
この『スイートパフェ杯』は、毎年初夏に開催されるマリヲカートのイベントで、全国のマリヲレーサーが通信対戦で集い、ナンバーワンを決める大会だ。
千夏はキュっと唇を結ぶと、そこからびっくり仰天の言葉を口にした。
「わたしが勝ったらデートしてください」
「……はぁ!? 何言ってんだよ。お前可愛いんだから彼氏とかいるんじゃないのか?」
「いませんよ~。好きな人はいますけど」
「じゃあそいつとデートすればいいだろ」
「だから誘ってます」
なにぬねの!?
そいつは一体全体果たしてどういう意味があるんだ? 突然の意味深なフラグで俺の脳ミソはゲームみたいに思考が回らないぞ。
次の言葉を続けられない俺を、千夏は待とうとはしなかった。ほんのり頬を染めてからビニール傘を開くと、
「そろそろ学校に行かないと遅れちゃう。じゃあセンパイ、ちゃんとスイートパフェ杯に出場してくださいね。決勝で待ってます!」
右手で傘をさし、左手に鞄をさげて、足早に行ってしまった。
ビニール傘から透けて見える千夏の髪が、左右にサラサラと揺れている。
雨はとうとう本降りに変わり、車道を走る車の濡れた音と、サーっという雨音だけが俺の耳にいつまでも聞こえていた。
曇天で気持ちが沈むなんて、そんなセンチな性格じゃないと思ってたんだけどな、俺は。
同じ時間にバイトが終わった光莉先輩と、マリヲカートの話をぽつぽつしながら店の裏口を出て駐車場を抜ける。
「雨降りそうだねぇ。和馬くん、傘持ってきた?」
「持ってないすけど、俺は走れば五分で帰れるんで平気っす」
「そ、そうだね。うん、平気だよね」
光莉先輩はバッグから何かを取り出そうとして、手を戻した。折りたたみ傘でも持っているのだろうか。
ポツリ、と小さな雫が路面を黒く染めた時、
「セーンパイ!」
「ち、千夏?」
透明なビニール傘を持って、車道の手前に学生服を着た高嶋千夏が立っていた。並んで立ち止まる俺と光莉先輩。それを見て千夏の表情が強張ったように感じたのは、気のせいかな。
「もしかしてセンパイの彼女さんですか?」
千夏はズバっととんでもないことを切り出してきた。
いや、この人は「彼女さん」ではないが、一応「候補」というか「希望」というか「願望」というか……と俺は声を大にして叫んだ。心の中で。
「私!? あ、えっと……違います、違います。決してそういうんじゃ」
光莉先輩は驚いて全力否定である。どうやら「候補」にも入ってない様子である。ですよね……でも「希望」と「願望」は捨てません。
それを聞いた千夏はすぐに朗らかな顔に戻った。なんとなく、良からぬフラグが立ち始めている気がする。
「さっきお店でフレンチトーストを食べてきたんですけど、あれってセンパイが作ったんですか?」
こいつ、本当に食べに来たのか。
「ああ、仕込みは俺だけど、焼いたのはキッチンリーダーの冨澤さん。俺はまだ調理は任されてないから」
「でも美味しかったです。甘さも丁度よかったし」
「そ、そうか? それは良かった」
なんか上手くおだてられてる気がするが、女の子に褒められた経験のない俺にとってその言葉はメープルシロップよりも甘美な響きである。
「なんか私、お邪魔みたいだから先に帰るね」
「え、光莉先輩?」
光莉先輩は気まずそうな面持ちで、そそくさと歩き出していった。その後ろ姿に俺の「希望」と「願望」が遠ざかっていくように思えるのは、気のせいじゃなさそうだぞ。
それを「お疲れ様でした~」なんて嬉々として見送る千夏。おい、心がこもってないぞ。お前に料理を運んでくれたのは光莉先輩だ。
「センパイ、あの人は?」
「バイトの先輩だよ。深夜勤務でシフトが被ることが多いんだ」
「ふ~ん、美人さんですね。もしかしてセンパイの憧れの人だったりして」
俺の胸から「ギクっ」と音がした。千夏には聞かれていないだろうが、表情が変わったのは見られたかもしれない。
ポツリ――ポツリ――と、雨粒が路面を濡らす。俺の心も雨模様だ。
「ところでセンパイ、マリヲカートで明日から始まる『スイートパフェ杯』、センパイもエントリーしてますよね」
「あ、ああ。一応200㏄クラスでな」
この『スイートパフェ杯』は、毎年初夏に開催されるマリヲカートのイベントで、全国のマリヲレーサーが通信対戦で集い、ナンバーワンを決める大会だ。
千夏はキュっと唇を結ぶと、そこからびっくり仰天の言葉を口にした。
「わたしが勝ったらデートしてください」
「……はぁ!? 何言ってんだよ。お前可愛いんだから彼氏とかいるんじゃないのか?」
「いませんよ~。好きな人はいますけど」
「じゃあそいつとデートすればいいだろ」
「だから誘ってます」
なにぬねの!?
そいつは一体全体果たしてどういう意味があるんだ? 突然の意味深なフラグで俺の脳ミソはゲームみたいに思考が回らないぞ。
次の言葉を続けられない俺を、千夏は待とうとはしなかった。ほんのり頬を染めてからビニール傘を開くと、
「そろそろ学校に行かないと遅れちゃう。じゃあセンパイ、ちゃんとスイートパフェ杯に出場してくださいね。決勝で待ってます!」
右手で傘をさし、左手に鞄をさげて、足早に行ってしまった。
ビニール傘から透けて見える千夏の髪が、左右にサラサラと揺れている。
雨はとうとう本降りに変わり、車道を走る車の濡れた音と、サーっという雨音だけが俺の耳にいつまでも聞こえていた。
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