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第24話
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キッチンの床で寝ること二日目。背中が痛えよ、腕が痺れてるよ、暑くて眠りが浅いよ。
シャワーを浴びて歯を磨き、リビングを覗くとほたるはまだ寝ていた。大丈夫かアイツ。まさか死んでるんじゃないよな。
「よくそんなに寝てられるな。脳ミソふやけちゃうぞ」
一応、心配になった俺は躊躇いながらも声を掛けてみる。我ながら優しくない言葉だとは思った。ま、どうせ無視されるんだろうけど。
「脳ミソがふやけるわけないだろ。バ和馬」
と思ったら辛辣な返事が返ってくる。相変わらず背中を向けたままだ。
「和馬は、あたしが邪魔か?」
「ど、どうしてだよ」
突然、何を言い出すんだ。
「あたしは彼女じゃないし、そもそも現実の人間じゃない。ただのエロゲーのヒロインだ。ゲームのバグで出て来ちゃったのが迷惑だったか?」
「……」
「リアルの彼女が欲しいなら、そのほうがいいと思うぞ」
「どういう意味だよ」
俺はふと、光莉先輩や千夏の顔を思い浮かべた。
――光莉ちゃんは和馬のことが好きなんじゃないか?
――彼氏なんていませんよ~、好きな人はいますけど。だから誘ってます。
リアルの彼女。現実の彼女。俺にはまったく縁のないことかと思っていたけど、フラグが立ち始めてるかもしれない。
そんな俺の頭の中を見透かすように、
「そういう意味だよ」
ほたるはツンと言った。そういう意味って、どうしてお前にそんなことがわかるんだよ。
次の言葉を繋げられずに、俺は黙った。気まずい空気。それを払ってきたのはほたるだった。
「心配しなくても、あたしが和馬を邪魔するのはあと少しだけだ」
「……それも、どういう意味だよ」
「和馬がやった『らぶ☆ほたる』のゲーム、憶えてるか?」
背中から出てくるほたるの声は、なぜかとても真剣だった。真剣というか、暗く沈んでいて深い闇の中から聞こえてくるようだった。
「あたしと過ごした夏を、憶えてるか?」
ゲームの中で、ほたると過ごした夏?
ヒロインの望月ほたるとは、分岐も選択肢もないまま強制ルートで出会った。お互いを意識するような流れで二人で会い、図書館に行ったり、街を歩いたり、夏祭りの話をしたり――。
そこから幾度もの選択肢を経て親密になっていき、好感度が高まったと思った俺はほたるを夏祭りに誘った。金魚すくいをやって、たこ焼きを食べて、一緒に花火を見た。
夜道を歩く祭囃子が遠ざかって、俺はほたるを家に誘って、手を握った。
――俺はほたるが、好きなんだ」
透き通った碧い瞳が俺をまっすぐに見つめた時、二人の距離はお互いの息遣いが聞こえそうなほどに近かった。そうしてほたるは、最後にこう言ったんだ。
――私と……ずっと一緒にいてくれるの?」
ってな。
そりゃ、憶えてるさ。
「短い夏だったろ?」
短い夏――。あれはゲームの中で、たった十四日間だけのストーリー。
「あたしと和馬が出会って、エンディングまでのストーリーは十四日間だけ。『らぶ☆ほたる』は短いお話なんだよ」
「それは、どういう意味だよ」
出会ってエンディングまでのストーリーが十四日間だけって……『らぶ☆ほたる』が短いお話って……どういう意味だよ!
「バイト、遅れちゃうぞ」
ほたるは振り向かずに淡々と言った。もうこの話はお終い、そんなふうに言っているようだった。
「あ、ああ」
見ると、時刻は二十一時半を過ぎている。俺は急いで家を出ると、ざんざん降りの雨の中を気鬱に歩いた。
雨音に包まれる傘の中は、まるで外の世界と隔離されたような感覚だった。夜の暗さも相まって、闇の中を歩いているような感覚になる。
雨音以外、何も聞こえない。雨水以外、何も見えない。
「アイツは何を言っていたんだ」
ゲームの『らぶ☆ほたる』を憶えているかって、お前がここにいるんだから憶えているに決まってるじゃないか。ゲームの『らぶ☆ほたる』が短いお話って、そういうストーリーだったじゃないか。
だいたいアイツはゲームとキャラがまるで違うし、俺が好きだったのはゲームの中の望月ほたるなんだ。
お前みたいにズボラで口が悪くて性悪で、「ゲーム」と名の付くものはバグってるほど強い、俺がゲームで唯一勝てない、そんなヤツは『らぶ☆ほたる』の望月ほたるじゃない。
アイツは、俺のヒロインじゃない。
靴の中に雨水が染み込んで、足が重たい。ヌシャヌチャと湿っていて気分が悪い。
足取りが重たいのも、気分が悪いのも、みんな雨のせいだ。
シャワーを浴びて歯を磨き、リビングを覗くとほたるはまだ寝ていた。大丈夫かアイツ。まさか死んでるんじゃないよな。
「よくそんなに寝てられるな。脳ミソふやけちゃうぞ」
一応、心配になった俺は躊躇いながらも声を掛けてみる。我ながら優しくない言葉だとは思った。ま、どうせ無視されるんだろうけど。
「脳ミソがふやけるわけないだろ。バ和馬」
と思ったら辛辣な返事が返ってくる。相変わらず背中を向けたままだ。
「和馬は、あたしが邪魔か?」
「ど、どうしてだよ」
突然、何を言い出すんだ。
「あたしは彼女じゃないし、そもそも現実の人間じゃない。ただのエロゲーのヒロインだ。ゲームのバグで出て来ちゃったのが迷惑だったか?」
「……」
「リアルの彼女が欲しいなら、そのほうがいいと思うぞ」
「どういう意味だよ」
俺はふと、光莉先輩や千夏の顔を思い浮かべた。
――光莉ちゃんは和馬のことが好きなんじゃないか?
――彼氏なんていませんよ~、好きな人はいますけど。だから誘ってます。
リアルの彼女。現実の彼女。俺にはまったく縁のないことかと思っていたけど、フラグが立ち始めてるかもしれない。
そんな俺の頭の中を見透かすように、
「そういう意味だよ」
ほたるはツンと言った。そういう意味って、どうしてお前にそんなことがわかるんだよ。
次の言葉を繋げられずに、俺は黙った。気まずい空気。それを払ってきたのはほたるだった。
「心配しなくても、あたしが和馬を邪魔するのはあと少しだけだ」
「……それも、どういう意味だよ」
「和馬がやった『らぶ☆ほたる』のゲーム、憶えてるか?」
背中から出てくるほたるの声は、なぜかとても真剣だった。真剣というか、暗く沈んでいて深い闇の中から聞こえてくるようだった。
「あたしと過ごした夏を、憶えてるか?」
ゲームの中で、ほたると過ごした夏?
ヒロインの望月ほたるとは、分岐も選択肢もないまま強制ルートで出会った。お互いを意識するような流れで二人で会い、図書館に行ったり、街を歩いたり、夏祭りの話をしたり――。
そこから幾度もの選択肢を経て親密になっていき、好感度が高まったと思った俺はほたるを夏祭りに誘った。金魚すくいをやって、たこ焼きを食べて、一緒に花火を見た。
夜道を歩く祭囃子が遠ざかって、俺はほたるを家に誘って、手を握った。
――俺はほたるが、好きなんだ」
透き通った碧い瞳が俺をまっすぐに見つめた時、二人の距離はお互いの息遣いが聞こえそうなほどに近かった。そうしてほたるは、最後にこう言ったんだ。
――私と……ずっと一緒にいてくれるの?」
ってな。
そりゃ、憶えてるさ。
「短い夏だったろ?」
短い夏――。あれはゲームの中で、たった十四日間だけのストーリー。
「あたしと和馬が出会って、エンディングまでのストーリーは十四日間だけ。『らぶ☆ほたる』は短いお話なんだよ」
「それは、どういう意味だよ」
出会ってエンディングまでのストーリーが十四日間だけって……『らぶ☆ほたる』が短いお話って……どういう意味だよ!
「バイト、遅れちゃうぞ」
ほたるは振り向かずに淡々と言った。もうこの話はお終い、そんなふうに言っているようだった。
「あ、ああ」
見ると、時刻は二十一時半を過ぎている。俺は急いで家を出ると、ざんざん降りの雨の中を気鬱に歩いた。
雨音に包まれる傘の中は、まるで外の世界と隔離されたような感覚だった。夜の暗さも相まって、闇の中を歩いているような感覚になる。
雨音以外、何も聞こえない。雨水以外、何も見えない。
「アイツは何を言っていたんだ」
ゲームの『らぶ☆ほたる』を憶えているかって、お前がここにいるんだから憶えているに決まってるじゃないか。ゲームの『らぶ☆ほたる』が短いお話って、そういうストーリーだったじゃないか。
だいたいアイツはゲームとキャラがまるで違うし、俺が好きだったのはゲームの中の望月ほたるなんだ。
お前みたいにズボラで口が悪くて性悪で、「ゲーム」と名の付くものはバグってるほど強い、俺がゲームで唯一勝てない、そんなヤツは『らぶ☆ほたる』の望月ほたるじゃない。
アイツは、俺のヒロインじゃない。
靴の中に雨水が染み込んで、足が重たい。ヌシャヌチャと湿っていて気分が悪い。
足取りが重たいのも、気分が悪いのも、みんな雨のせいだ。
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