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第25話
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「和馬くん」
洗い場の向こうから、目の下がドス黒く染まった光莉先輩が呼んできた。ん? 光莉先輩が俺を呼んできた!?
なんかすごく久しぶりに呼ばれた気がするぞ? いつぶりだ? 二日くらい? 十九年ぶりくらいじゃないか?
俺は生まれたての子鹿のように足を震わせ、まるで初めて母鹿を見たように目を見開いた。
「どどどどーしました!?」
「聞いて、私マリヲカートで150㏄クラスまで上がったんだよ!」
「マ、マジすか! すげえ、そこまで行ったらあとはクラストーナメントに出場して、シーズンで勝ち残れば最上位の200㏄クラスですよ!」
「ここまで来るのに頑張ったんだから、毎日仕事が終わってから寝ないで練習してたんだよぉ」
「寝ないでですか!?」
「そうなの。だから今日も寝不足。まるで和馬くんみたいだね」
目の下のクマが霞んでしまう笑顔がそこにあった。まるで天使だ。エンジェルスマイルだ。
「いや~、俺みたいって言われると嬉しいんだか悲しいんだか」
そうか。最近、光莉先輩の元気がなかったのは寝不足だったのか。オンライン対戦はいつでもできるから、仕事が終わってからずっとやってて。
「200㏄クラスまで上がったら勝負だよ、和馬くん!」
「受けて立ちますとも。俺も今日はスイートパフェ杯の決勝ですからね、絶対に優勝してきますよ」
右腕を力強く握り、ガッツポーズを掲げる。まだ優勝してないけどね。
「やっぱりゲームの話をしてる和馬くんは輝いてるよね。私、そういう和馬くんが好きだなぁ」
「え?」
「え?」
俺と光莉先輩は、お互い見つめ合って固まってしまった。今、何か聞こえたような。
食器洗浄機が「ピッピッピッ」と終了の合図をする。キッチンの中は、冨澤さんが揚げ物をする音以外に何も聞こえない。
「あの……光莉先輩、いま何と仰いました?」
「和馬くん、私いま何て言った?」
「なんか、俺のことが好きみたいなことを……」
「あにょにょにょ!?」
光莉先輩はラディッシュの根みたいな色にポンっと顔を染めた。そこからポワっと湯気が上がって、柔らかそうな頬を両手で押さえると、
「ごめん、何でもない!」
そのままホールに走り出してしまった。え、ちょっと……今の……何ですか?
俺は視線で追いかけるが、光莉先輩はキッチン窓口の向こうに走り抜ける。窓口の手前では冨澤さんがフライヤーからエビフライを取り上げ、ジュワっと油を切りながらじっと俺を見ていた。
「き、聞いてました?」
「何をだよ」
「い、いえ」
「……洗浄機、止まってるぞ」
ジト目を当てた冨澤さんは何事もなかったかのようにエビフライを盛り付け、こんもりとタルタルソースを被せると、
「エビフライ、出来たぞ。四番!」
と伝票を切った。なんか、怒ってます?
料理が出来れば、それを運ぶのが光莉先輩。どうやらホールを一周してきたらしい光莉先輩は、トレイにエビフライのプレートを乗せ、伏し目がちに俺の視線をすり抜けていった。
それからしばらく無言が続き、洗い場を終えた俺は仕込み作業に入る。目の前にはデザートを出す小さな窓口があって、そこからホールが垣間見えるのだが、光莉先輩はどうも落ち着かない感じだった。
「あのぉ、光莉先輩」
通りかかった光莉先輩を、小窓から顔を出して呼び止めると、
「ひゃあ!?」
光莉先輩は見てはいけないものを見てしまったように顔を背け、そのはずみで、パリン! とガラスのコップを一つ落としてしまった。
「本庄さん、何してるの!」
ホールチーフの紺野さんが甲高い声で叫ぶ。
「ごごごごめんなさい」
「こっちじゃなくてお客様でしょ!」
「あ……も、申し訳ございません」
光莉先輩はホールに頭を下げて、パタパタと片付けを始めた。しまった、俺のせいで失敗させてしまった。
後で謝らなければ。
洗い場の向こうから、目の下がドス黒く染まった光莉先輩が呼んできた。ん? 光莉先輩が俺を呼んできた!?
なんかすごく久しぶりに呼ばれた気がするぞ? いつぶりだ? 二日くらい? 十九年ぶりくらいじゃないか?
俺は生まれたての子鹿のように足を震わせ、まるで初めて母鹿を見たように目を見開いた。
「どどどどーしました!?」
「聞いて、私マリヲカートで150㏄クラスまで上がったんだよ!」
「マ、マジすか! すげえ、そこまで行ったらあとはクラストーナメントに出場して、シーズンで勝ち残れば最上位の200㏄クラスですよ!」
「ここまで来るのに頑張ったんだから、毎日仕事が終わってから寝ないで練習してたんだよぉ」
「寝ないでですか!?」
「そうなの。だから今日も寝不足。まるで和馬くんみたいだね」
目の下のクマが霞んでしまう笑顔がそこにあった。まるで天使だ。エンジェルスマイルだ。
「いや~、俺みたいって言われると嬉しいんだか悲しいんだか」
そうか。最近、光莉先輩の元気がなかったのは寝不足だったのか。オンライン対戦はいつでもできるから、仕事が終わってからずっとやってて。
「200㏄クラスまで上がったら勝負だよ、和馬くん!」
「受けて立ちますとも。俺も今日はスイートパフェ杯の決勝ですからね、絶対に優勝してきますよ」
右腕を力強く握り、ガッツポーズを掲げる。まだ優勝してないけどね。
「やっぱりゲームの話をしてる和馬くんは輝いてるよね。私、そういう和馬くんが好きだなぁ」
「え?」
「え?」
俺と光莉先輩は、お互い見つめ合って固まってしまった。今、何か聞こえたような。
食器洗浄機が「ピッピッピッ」と終了の合図をする。キッチンの中は、冨澤さんが揚げ物をする音以外に何も聞こえない。
「あの……光莉先輩、いま何と仰いました?」
「和馬くん、私いま何て言った?」
「なんか、俺のことが好きみたいなことを……」
「あにょにょにょ!?」
光莉先輩はラディッシュの根みたいな色にポンっと顔を染めた。そこからポワっと湯気が上がって、柔らかそうな頬を両手で押さえると、
「ごめん、何でもない!」
そのままホールに走り出してしまった。え、ちょっと……今の……何ですか?
俺は視線で追いかけるが、光莉先輩はキッチン窓口の向こうに走り抜ける。窓口の手前では冨澤さんがフライヤーからエビフライを取り上げ、ジュワっと油を切りながらじっと俺を見ていた。
「き、聞いてました?」
「何をだよ」
「い、いえ」
「……洗浄機、止まってるぞ」
ジト目を当てた冨澤さんは何事もなかったかのようにエビフライを盛り付け、こんもりとタルタルソースを被せると、
「エビフライ、出来たぞ。四番!」
と伝票を切った。なんか、怒ってます?
料理が出来れば、それを運ぶのが光莉先輩。どうやらホールを一周してきたらしい光莉先輩は、トレイにエビフライのプレートを乗せ、伏し目がちに俺の視線をすり抜けていった。
それからしばらく無言が続き、洗い場を終えた俺は仕込み作業に入る。目の前にはデザートを出す小さな窓口があって、そこからホールが垣間見えるのだが、光莉先輩はどうも落ち着かない感じだった。
「あのぉ、光莉先輩」
通りかかった光莉先輩を、小窓から顔を出して呼び止めると、
「ひゃあ!?」
光莉先輩は見てはいけないものを見てしまったように顔を背け、そのはずみで、パリン! とガラスのコップを一つ落としてしまった。
「本庄さん、何してるの!」
ホールチーフの紺野さんが甲高い声で叫ぶ。
「ごごごごめんなさい」
「こっちじゃなくてお客様でしょ!」
「あ……も、申し訳ございません」
光莉先輩はホールに頭を下げて、パタパタと片付けを始めた。しまった、俺のせいで失敗させてしまった。
後で謝らなければ。
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