26 / 40
第26話
しおりを挟む
仕込みと食材整理を終えたら休憩時間。休憩室で一人静かに賄いを食べ、それから再び洗い場を片付けてキッチンの掃除。見習いレベルの俺の仕事は雑用が多い。
その間はほとんど光莉先輩の顔を見ることなく、気付けば外が明るくなった頃に終業になった。
タイムカードを押して着替え、そそくさと帰ろうとする光莉先輩を追いかけて外へ出ると、
「お、雨が止んでる」
雲間から朝陽に照らされて、街路樹の雨粒が光っていた。
「きれい、だねぇ」
「そうっすね」
扉の外では光莉先輩が立ち止まり、深緑の葉に雨粒がチカチカと彩るのを見上げていた。
「和馬くん。あの、さっきはゴメンね。その……あんなの迷惑だよね」
「さっき?」
ああ、コップを落として割ってしまったことかな? ホールのチーフに叱られてたからなぁ。
「気にしない方がいいですよ。俺もよく失敗しますから」
「やっぱり失敗……なの?」
「え?」
俺、何かマズった? もしかして変なこと言ったか?
「すいません、間違えました。光莉先輩は失敗なんてしてません。あれは俺が驚ろかせちゃったんですよね」
「あ、コップのこと?」
「そうっす。あんなところから顔を出したら、そりゃビックリしますよね」
「う、うん。でもそうじゃなくて……」
光莉先輩はクルリと踵を返し、俺の方を振り向いた。朝陽に照らされているせいか、頬がほんのりと染まっているように見える。
日差しが少し熱いな。もうすぐ夏だもんな。
火照った顔で濡れた路面を踏みしめる光莉先輩は、両手を前でモジモジさせて、何か言いたそうにしている。と――
「冷たっ!」
俺の頭に水滴が落ちてきた。店の駐車場にある大きな樹。昨夜までの雨でたくさんの雨粒が実のように生っていて、ポタリともう一粒が俺の肩に垂れた。
光莉先輩は、チカチカと、キラキラと光る雨粒を見上げ、
「きれい。まるで蛍みたいだね」
朝陽に照らされた雨粒のイルミネーションを、蛍の光のようだと言った。
こうしてロマンチックな光景を見上げていると、二人は特別な関係のように錯覚したくなる。
「蛍って、夏の短い間しか生きられないだよね。たしか、二週間くらいしか輝いていられないだって」
「へえ、そうなんですか」
ロマンチックな雰囲気で、光莉先輩の口調も落ち着いているような気がした。
「短い一生を、頑張って輝かせてるんだって。でも、それを終えたら輝きもなくなっちゃうの」
蛍の輝きはたったの二週間。十四日間の命、か。
十四日間?
待てよ。『らぶ☆ほたる』はたった十四日間のストーリーだった。ゲームの中でほたると過ごした十四日目、その最後の日に俺はほたるとエンディングを迎えた。
ほたるがゲームから出て来たのは六月二十二日、今日は六月三十日。ということは今日で九日目?
ほたるはあと五日間しか生きられないのか?
昨夜、ほたるが言っていた。
――心配しなくても、あたしが和馬を邪魔するのはもう少しだけだ。
あの言葉の意味は……もしかして……
「すいません光莉先輩、大事な用を思い出したので先に帰ります」
「え……うん」
少し、というかすごく残念そうな表情を見せた光莉先輩を置いて、俺は急いで家に向かった。
まさかアイツ、自分が消えてしまうのを分かってて……!
その間はほとんど光莉先輩の顔を見ることなく、気付けば外が明るくなった頃に終業になった。
タイムカードを押して着替え、そそくさと帰ろうとする光莉先輩を追いかけて外へ出ると、
「お、雨が止んでる」
雲間から朝陽に照らされて、街路樹の雨粒が光っていた。
「きれい、だねぇ」
「そうっすね」
扉の外では光莉先輩が立ち止まり、深緑の葉に雨粒がチカチカと彩るのを見上げていた。
「和馬くん。あの、さっきはゴメンね。その……あんなの迷惑だよね」
「さっき?」
ああ、コップを落として割ってしまったことかな? ホールのチーフに叱られてたからなぁ。
「気にしない方がいいですよ。俺もよく失敗しますから」
「やっぱり失敗……なの?」
「え?」
俺、何かマズった? もしかして変なこと言ったか?
「すいません、間違えました。光莉先輩は失敗なんてしてません。あれは俺が驚ろかせちゃったんですよね」
「あ、コップのこと?」
「そうっす。あんなところから顔を出したら、そりゃビックリしますよね」
「う、うん。でもそうじゃなくて……」
光莉先輩はクルリと踵を返し、俺の方を振り向いた。朝陽に照らされているせいか、頬がほんのりと染まっているように見える。
日差しが少し熱いな。もうすぐ夏だもんな。
火照った顔で濡れた路面を踏みしめる光莉先輩は、両手を前でモジモジさせて、何か言いたそうにしている。と――
「冷たっ!」
俺の頭に水滴が落ちてきた。店の駐車場にある大きな樹。昨夜までの雨でたくさんの雨粒が実のように生っていて、ポタリともう一粒が俺の肩に垂れた。
光莉先輩は、チカチカと、キラキラと光る雨粒を見上げ、
「きれい。まるで蛍みたいだね」
朝陽に照らされた雨粒のイルミネーションを、蛍の光のようだと言った。
こうしてロマンチックな光景を見上げていると、二人は特別な関係のように錯覚したくなる。
「蛍って、夏の短い間しか生きられないだよね。たしか、二週間くらいしか輝いていられないだって」
「へえ、そうなんですか」
ロマンチックな雰囲気で、光莉先輩の口調も落ち着いているような気がした。
「短い一生を、頑張って輝かせてるんだって。でも、それを終えたら輝きもなくなっちゃうの」
蛍の輝きはたったの二週間。十四日間の命、か。
十四日間?
待てよ。『らぶ☆ほたる』はたった十四日間のストーリーだった。ゲームの中でほたると過ごした十四日目、その最後の日に俺はほたるとエンディングを迎えた。
ほたるがゲームから出て来たのは六月二十二日、今日は六月三十日。ということは今日で九日目?
ほたるはあと五日間しか生きられないのか?
昨夜、ほたるが言っていた。
――心配しなくても、あたしが和馬を邪魔するのはもう少しだけだ。
あの言葉の意味は……もしかして……
「すいません光莉先輩、大事な用を思い出したので先に帰ります」
「え……うん」
少し、というかすごく残念そうな表情を見せた光莉先輩を置いて、俺は急いで家に向かった。
まさかアイツ、自分が消えてしまうのを分かってて……!
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる