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第28話
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と、再びチャイムが鳴った。今度こそ、
「ほたる、帰ってきたのか?」
俺はゆっくりドアを開ける。そこに立っていたのは金髪碧眼のヒロインではなく、
「うーっす」
「……なんだ、ミノルか」
ツンツン頭で肩掛けのボディバッグを背負った男、園田ミツルだった。
「姉ちゃん帰ったんだろ? さっきそこですれ違った」
「何しに来たんだよ」
「んだよ、冷てえな。ゲームだよ、鉄剣Ⅲの勝負。王座決定戦しようって言ったじゃん」
休日の朝っぱらからゲームをしに来るなんて、コイツはよっぽど暇なのか。いや、そんなことより、
「今日はダメだって言っただろ」
「だって姉ちゃんは帰ったんだから……あ、もしかしてこれからデートか?」
「どうして俺がデートなんだよ」
「だってこの間、すげえカワイイ女の子と一緒にデートしてたじゃねえか。ゲーセンで」
「なに!? なぜミノルがそれを?」
数日前のゲーセンでモグラ叩きをやってた時か? まさかあの時、鉄剣のアーケードゲームで『キングジャック』を使ってたのはミノルだったのか?
「と、とりあえず中に入れよ」
こんな話を玄関先でするのはマズイ。怪しげな訪問販売やら新聞の勧誘なら、ゲームの電源を切るくらいの鮮やかさでドアを閉めてシャットダウンするが。
ミノルは「お邪魔しま~す」と邪魔する気マンマンで靴を脱ぐ。ホントに邪魔なんだがな。
俺がベッドに腰掛け、ミノルがソファにドカっと腰を下ろし、テーブルにバッグを置く。慣れたやつだ。
「いや~、こないだ授業をサボってゲーセンで鉄剣やってたらさ、和馬とめっちゃカワイイ女の子が一緒に遊んでるのを見ちゃったわけだよ」
やはりあの時の『キングジャック』はミノルだったのか。俺としたことが、鉄剣のキャラしか見えていなかった。こればかりは自分のゲーム脳を責めるしかない。
「なあ和馬。あの子、彼女なんだろ? 水臭えな、彼女ができたなら紹介してくれてもいいじゃねえか」
「いや、アイツは彼女じゃなくて」
「照れるなって。手を繋いで出ていくのを見てたんだぞ? あれが彼女じゃなかったら何なんだよ」
ちっ、そういえば。
まああの時は「手を繋いで出ていった」というよりは「手を引いて逃げていった」が正解なんだが。傍から見たら恋人同士が仲良く手を繋いで帰るように見えたのだろう。
「やっぱりそうなんじゃん」
「いや、でもミノルが考えてるようなものじゃないぞ」
「クソーいいなあ。俺も大学のサークルにでも入るかなぁ。ゲームオタクの和馬に先を越されちゃったからな」
「ミノルだってオタクの部類だろ」
「俺はまだ片足を突っ込んでるレベル。和馬は肩までどっぷり浸かってるレベル」
ぐぅ、否定できん。
「で、今日はデートなの? だったら俺は帰るけど」
「デ、デートではないが。いや、そもそも今はそういう状況じゃなくて……」
「なんだよ、ケンカでもしたのか?」
ま、まあそうなるのかもな。俺はほたるのことをちゃんと考えてなかった。ゲームに勝ったらチューできるとかエロゲ展開が待ってるとか、俺はアイツのことを「エロゲから出てきたヒロイン」としか思っていなかった。
ほたることをゲームのキャラとしか見ていなかった。
「だったらちゃんと仲直りしろって。大切な人なんだろ?」
大切な人、か。アイツは『らぶ☆ほたる』のヒロインで、百万人に愛されるエロゲのキャラだ。でも俺にとっては……
「和馬さぁ、エロゲーばっかりやるのもいいけど、女の子はちゃんと女の子として見てあげないとダメなんじゃないか?」
その言葉に、俺はチクリと胸を刺されたような感じがした。ミノルは立ち上がると、ゲーム棚に並べてあるソフトを取り出し、その奥にある『夏色ドロップス』のソフトを手に取った。
「ゲームのキャラはセリフもストーリーも固定されてるから、失敗してもやり直せばクリアできるじゃん。でもリアルの女の子は、そうはいかないんじゃねえの?」
俺はハッとしたよ。ミノルお前、なんてカッコイイこと言ってくれるんだ。まるで恋愛に対して百戦錬磨の猛者、恋のアドバイザーじゃないか。
「……ミノル、お前女の子と付き合ったことあるのか?」
「あるわけねーじゃん」
だよな。
「でもオレだって人並みに恋くらいはしてきたさ。ミノルって名前のくせに、実らなかったけどな」
ミノルはエロゲのソフトを棚に戻すと、爽やかに笑った。ちぇ。お前の言葉、胸に染みるぜ。
それにミノルの言ったことは正しい。たしかにほたるはゲームのキャラだけど、アイツは現実に俺の前にいて、俺と話してたんだ。
どんな対戦ゲームでも勝てないほどバグった強さで、食って寝るだけのグータラで、部屋を派手に散らかす超ズボラで、勝手なこと言って、勝手に出ていって……
でも、いなくなって俺は気付いたんだ。
アイツは……望月ほたるは……百万人に愛されるエロゲのヒロインじゃない。俺の中のヒロインなんだ。
「サンキューな、ミノル。俺、どうしたらいいのかわかったよ」
「ちぇっ。つまんねーな」
ミノルは立ち上がって、肩掛けのバッグを背負った。
「どうしてだよ。俺がフラれたほうがいいのか?」
「違うよ。お前とゲームできなくて、さ」
コイツはいいやつだ。俺が女だったら惚れてるかもしれん。
「やめてくれ、キモチワルイ」
そう言って苦笑い。
「ま、うまくやるんだな。もし本当にフラれたら、俺が抱きしめてやるよ」
「やめてくれ。それこそ本当にキモチワルイ」
ミノルは「んじゃ」と言って颯爽と俺の家を後にした。今日のお前、滅茶苦茶カッコよかったぜ。
「ほたる、帰ってきたのか?」
俺はゆっくりドアを開ける。そこに立っていたのは金髪碧眼のヒロインではなく、
「うーっす」
「……なんだ、ミノルか」
ツンツン頭で肩掛けのボディバッグを背負った男、園田ミツルだった。
「姉ちゃん帰ったんだろ? さっきそこですれ違った」
「何しに来たんだよ」
「んだよ、冷てえな。ゲームだよ、鉄剣Ⅲの勝負。王座決定戦しようって言ったじゃん」
休日の朝っぱらからゲームをしに来るなんて、コイツはよっぽど暇なのか。いや、そんなことより、
「今日はダメだって言っただろ」
「だって姉ちゃんは帰ったんだから……あ、もしかしてこれからデートか?」
「どうして俺がデートなんだよ」
「だってこの間、すげえカワイイ女の子と一緒にデートしてたじゃねえか。ゲーセンで」
「なに!? なぜミノルがそれを?」
数日前のゲーセンでモグラ叩きをやってた時か? まさかあの時、鉄剣のアーケードゲームで『キングジャック』を使ってたのはミノルだったのか?
「と、とりあえず中に入れよ」
こんな話を玄関先でするのはマズイ。怪しげな訪問販売やら新聞の勧誘なら、ゲームの電源を切るくらいの鮮やかさでドアを閉めてシャットダウンするが。
ミノルは「お邪魔しま~す」と邪魔する気マンマンで靴を脱ぐ。ホントに邪魔なんだがな。
俺がベッドに腰掛け、ミノルがソファにドカっと腰を下ろし、テーブルにバッグを置く。慣れたやつだ。
「いや~、こないだ授業をサボってゲーセンで鉄剣やってたらさ、和馬とめっちゃカワイイ女の子が一緒に遊んでるのを見ちゃったわけだよ」
やはりあの時の『キングジャック』はミノルだったのか。俺としたことが、鉄剣のキャラしか見えていなかった。こればかりは自分のゲーム脳を責めるしかない。
「なあ和馬。あの子、彼女なんだろ? 水臭えな、彼女ができたなら紹介してくれてもいいじゃねえか」
「いや、アイツは彼女じゃなくて」
「照れるなって。手を繋いで出ていくのを見てたんだぞ? あれが彼女じゃなかったら何なんだよ」
ちっ、そういえば。
まああの時は「手を繋いで出ていった」というよりは「手を引いて逃げていった」が正解なんだが。傍から見たら恋人同士が仲良く手を繋いで帰るように見えたのだろう。
「やっぱりそうなんじゃん」
「いや、でもミノルが考えてるようなものじゃないぞ」
「クソーいいなあ。俺も大学のサークルにでも入るかなぁ。ゲームオタクの和馬に先を越されちゃったからな」
「ミノルだってオタクの部類だろ」
「俺はまだ片足を突っ込んでるレベル。和馬は肩までどっぷり浸かってるレベル」
ぐぅ、否定できん。
「で、今日はデートなの? だったら俺は帰るけど」
「デ、デートではないが。いや、そもそも今はそういう状況じゃなくて……」
「なんだよ、ケンカでもしたのか?」
ま、まあそうなるのかもな。俺はほたるのことをちゃんと考えてなかった。ゲームに勝ったらチューできるとかエロゲ展開が待ってるとか、俺はアイツのことを「エロゲから出てきたヒロイン」としか思っていなかった。
ほたることをゲームのキャラとしか見ていなかった。
「だったらちゃんと仲直りしろって。大切な人なんだろ?」
大切な人、か。アイツは『らぶ☆ほたる』のヒロインで、百万人に愛されるエロゲのキャラだ。でも俺にとっては……
「和馬さぁ、エロゲーばっかりやるのもいいけど、女の子はちゃんと女の子として見てあげないとダメなんじゃないか?」
その言葉に、俺はチクリと胸を刺されたような感じがした。ミノルは立ち上がると、ゲーム棚に並べてあるソフトを取り出し、その奥にある『夏色ドロップス』のソフトを手に取った。
「ゲームのキャラはセリフもストーリーも固定されてるから、失敗してもやり直せばクリアできるじゃん。でもリアルの女の子は、そうはいかないんじゃねえの?」
俺はハッとしたよ。ミノルお前、なんてカッコイイこと言ってくれるんだ。まるで恋愛に対して百戦錬磨の猛者、恋のアドバイザーじゃないか。
「……ミノル、お前女の子と付き合ったことあるのか?」
「あるわけねーじゃん」
だよな。
「でもオレだって人並みに恋くらいはしてきたさ。ミノルって名前のくせに、実らなかったけどな」
ミノルはエロゲのソフトを棚に戻すと、爽やかに笑った。ちぇ。お前の言葉、胸に染みるぜ。
それにミノルの言ったことは正しい。たしかにほたるはゲームのキャラだけど、アイツは現実に俺の前にいて、俺と話してたんだ。
どんな対戦ゲームでも勝てないほどバグった強さで、食って寝るだけのグータラで、部屋を派手に散らかす超ズボラで、勝手なこと言って、勝手に出ていって……
でも、いなくなって俺は気付いたんだ。
アイツは……望月ほたるは……百万人に愛されるエロゲのヒロインじゃない。俺の中のヒロインなんだ。
「サンキューな、ミノル。俺、どうしたらいいのかわかったよ」
「ちぇっ。つまんねーな」
ミノルは立ち上がって、肩掛けのバッグを背負った。
「どうしてだよ。俺がフラれたほうがいいのか?」
「違うよ。お前とゲームできなくて、さ」
コイツはいいやつだ。俺が女だったら惚れてるかもしれん。
「やめてくれ、キモチワルイ」
そう言って苦笑い。
「ま、うまくやるんだな。もし本当にフラれたら、俺が抱きしめてやるよ」
「やめてくれ。それこそ本当にキモチワルイ」
ミノルは「んじゃ」と言って颯爽と俺の家を後にした。今日のお前、滅茶苦茶カッコよかったぜ。
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