青春〜或る少年たちの物語〜

Takaya

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第二章 燃え上がる日々

第十三話 爆発~桃子の場合~

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「あ~、伯亜ちゃん、可愛い~。」

  貴哉と伯亜が出て行った後、部室で朱里は椅子に座ってうっとりしていた。桃子が頭を叩く。

「あんた、人の弟に色目使うんじゃないわよ。」
「何よ、僻み屋。あんたこそ蹴る時ぐらい靴脱ぎなさいよ。結構痛かったんだけど?」
「....悪かったわ。」

 基本的に桃子による朱里への暴力はプロレスである。後輩を威圧するためにしかやってない。朱里が続ける。

「ていうか、あんたの最近の攻撃結構痛いんだけど?もっと手加減してよね。」
「....分かったわよ。」

 桃子も自覚はあった。最近はストレスがひどく加減ができなくなってきてる。

「それよりさ、私の演技どうだった?結構怖かったんじゃないの?」
「私も若干引いたわよ。」
「えへへ、あざーす!」
「まぁ、こんなこと言ったらダメなんだろうけど、あの2人が悪くなくて安心したわ。」

 桃子はどこか遠くを見ているような表情だ。

「ちなみにあの2人が悪かった場合はどうしてたのよ?」
「簡単よ。裸にして殴ってペンで体に×××って書いて女子トイレに捨ててたわ。それかバレー部総出で××××ってとこね。」
「....いや、あの、桃子ちゃん?」
「何よ?」
「あんた、相手は自分の弟なのよ?」
「だからこそよ。」

 朱里が椅子から立ち上がる。

「ねぇ、桃子!あんた部長になってからずっとおかしいわよ!」

 桃子は部長になるまで基本的に暴力を振るうことはなかった。それが部長になってからというもの、すっかり変わってしまった。

「こないだの麻耶の時もそうだけど、昔のあんたなら絶対あんなことしなかったじゃん!」
「朱里!あんた私の気持ちが分からないの?」
「分かるわよ!痛いぐらいに分かるわよ!本当はやりたくないことぐらい分かるわよ!でも!」

 朱里が少々涙ぐむ。

「だったら....もう、こんなことやめようよ....」
「分かってないじゃないの!」

 朱里の顔に桃子の鉄拳が飛んできた。いつものプロレスじゃない、本気の拳だ。朱里が鼻血を吹いて倒れる。桃子が震えた声で叫ぶ。

「私たちはね!もう暴力でしか後輩たちと向き合えなくなってるのよ!こうすることでしか!思いを伝えることが出来ないのよ!」
「いい加減にしろよ、この売女....」

 殴られた朱里がのっそりと立ち上がる。

「えっ、なんで....なんで立ち上がれるのよ!」
「あんたも馬鹿ねぇ。今まで不思議に思わなかったの?なんで私がさ、手加減されてるとはいえボクシングやってるあんたの拳を受けても平気でいられるのかって。」
「あんた、まさか....」
「私も最近始めたのよ。通信講座でね!」

 朱里が殴りかかってきた。桃子はなんとかよける。

「上等だこらっ!」

 女2人の殴り合いが始まった。

 どれぐらい殴り合っただろう。2人とも息を切らしているが、桃子が朱里に馬乗りになっている。やはりボクシング歴の長い桃子に軍配があがった。しかし、桃子もボロボロだ。朱里が倒れた状態で語りかける。

「桃子、覚えてる?私たちが1年生の頃。1個上の英梨先輩たち、優しかったよね。尖ったナイフみたいだったあんたにも優しかった。2個上のチンカス....千尋先輩たちがすっごい意地悪でさ、よく庇ってもらったじゃん....」
「あったわね....そんなことも....」
「でも....えりりん先輩たちも....代替わりしたらすっごい意地悪になって....2人でいっぱい泣いたわよね。」

 朱里の目に光るものがある。

「ねぇ、桃子、思い出してよ....今の2年生たちもさ、最初の頃あんなじゃなかったじゃない....」
「....」
「みんなずっと笑ってたわ。私もあんたも一緒になって。誰が先に彼氏つくるか賭けてたじゃない....」
「....」
「告って、フラレて、泣いてた麻耶のこと、みんなで慰めたじゃない....」

 桃子の目から大粒の涙が零れだした。

「意地悪になったえりりん先輩たちから、あの子たち庇ってたじゃん....」
「....」
「そして、えりりん先輩たちがいなくなったら、今度は私たちが意地悪になっちゃって....」
「....意地悪なんかじないわよ!」
「意地悪よ!私たちは....理由はどうであれ、上からされたことを下にやりかえしてるだけなのよ!」
「うぅ....」
「あの子たちをあんな風にしたのは、私たち上級生よ!」
「....そんなこと...そんなこと....」

 桃子は涙でぐちゃぐちゃになったまま、大声で叫んだ。

「そんなこと、とっくに気付いてるわよ!だから悔しいんじゃない!辛いんじゃない!」

 桃子が辛そうに語る。

「分かってるわよ....バレー部変えるとか言いながら、結局口実探してやってることは今までと一緒....大っ嫌いだったチンカスとかとやってること一緒....」
「桃子....」
「そんなのとっくに気付いてるわよ!だから、私、勝手に2年生たち嫌いになってた!馬鹿にしてた!軽蔑してた!あの子たちは今、香織を仲間外れにしてるけど、私たちはそんなことしなかったって!だからあの子たちは、私たちよりタチの悪いクソ女どもだって、見下してた!そんで殴る口実ばっかり探してた!」
「桃子....」
「私たちは1年生たちいじめてないから、チンカスたちよりマシだって!勝手にいい気になってた!そうじゃないと....そうじゃないと....私....」

 誰もいない部室棟で、2人のすすり泣く声だけが響く。

 どれぐらい泣いただろうか。もう昼休みどころか、5時間目も終わりそうな時間だ。さすがに2人とも泣き止んだが重苦しい雰囲気が続いていた。先に口を開いたのは朱里だ。

「桃子、重いんだけど?」
「えっ?」
「だから重いんだって。いい加減どきなさいよ。」
「あぁ、ごめん。」

 桃子が立ち上がり、椅子に座った。

「全く、あんた何キロあんのよ。」

 その言葉に桃子がムッとした。

「失礼ね、あんたと違って私は筋肉があるのよ。あんたと違ってね。」
「でた~、太ってる運動部女子の言い訳No.1!」
「何よ!」

 桃子が朱里に飛びかかり首を締める。朱里も負けじと言い返す。しかし、先ほどまでの言い合いと比べるとあまりにも馬鹿馬鹿しくて、次第に笑いが込み上げてきた。2人は床の上で、くっつきながらゲラゲラ笑っている。

「ねぇ、桃子。お風呂入りましょうよ。」
「お風呂?」
「こんなボロボロな格好で教室戻れないじゃん?」
「いや、顔洗って化粧し直せば....」
「いいじゃないの!小学生の時みたいに2人で入りましょ!」
「さすがに今体育館のシャワー室は....」
「部室棟のがあるじゃん!どうせ誰も来ないし使っちゃお!」
「....うん、久しぶりに一緒に入ろ!2人きりで!」
「何それキモい!」

 そう言ってまた2人でゲラゲラ笑う。しばらくして、ようやく部室を出てすぐ隣にあるシャワー室へ入った。
 だかしかし、彼女たちは肝心なことを忘れている。それは、着替えもタオルも全部教室の鞄の中にあるということだ。2人には放課後にバレー部メンバーが部室に集まるまで、シャワー室の中から水浸しで全裸のまま助けを求め続けなければならない運命が待っている。

つづく


 
 
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