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第三章 始まる闘い
第四話 釣り合戦
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貴哉は5月2日、大分寝坊して恵弥たちと合流した。
「おいニーブヤー、なんで遅れたんだよ?」
「わりぃな、昨日は麻耶たちと飲んでたもんで。」
それを聞いた和人にスリーパーホールドを決められた。
「俺も誘えやごらあああ!」
毎度の如く、他のメンバーもゲラゲラ笑っていた。
そして、釣り合戦が始まる。各々で1番多く釣り上げた者の勝利だ。勝者には全員が割り勘して煙草をプレゼントする。全員、なかなかのペースで小魚を釣り上げる。しかし、初心者の貴哉は全然捕まえることができない。
「けっ、なんだよ。魚はこんなに一杯見えるのによぉ。」
「....それはな、貴哉。お前の顔が怖いからだ。」
「お前に言われたかねぇよ!」
「....いいか、よく聞け。俺みたいに魚に向かってニッコリ微笑むんだ。そうすれば魚も安心して寄ってくるんだよ。」
奏が水面の魚たちに向かってニッコリ微笑む。すると、魚たちが一斉に逃げ出した。和人が抗議する。
「このデカブツ!お前のせいで獲物が逃げちまったじゃねぇか!」
「....誰がデカブツだごらぁ!」
暴れる奏を裕明と健治が押さえる。他のメンバーは爆笑だ。
「お前ら!笑うな!こいつはこう見えて繊細なんだ!」
裕明の一言で全員がさらに笑い、奏がさらにヒートアップした。そして遂に、
「お前が余計なこと言うからだ!」
奏が裕明を投げ飛ばした。
そうこうしている内に日が暮れる。そろそろ帰るかと、準備をし始めるが貴哉はまだ続けるようだ。
「俺はまだ1匹も捕まえてねぇんだよ!」
何やら意気地になっている。春樹が面倒くさそうに呟く。
「じゃあよ、イカを1匹捕まえて見ろよ。そしたらお前の勝ちでいいよ。」
「なんだと!よし、じゃあ今からイカ釣り上げてやる!お前らよく見てろ!」
貴哉はやる気満々だが、他のメンバーは笑いを堪えるのに必死だ。
(おいおい、こんな季節にイカが釣れるわけねぇだろ。まして、エギもないくせによぉ。もし引っかかったとしても、この季節まで残ってるってことはかなりの大物だ。初心者のこいつに釣れるわけがねぇ。)
全員、春樹と同じことを考えていた。案の定、それから1時間あまり、貴哉の釣竿には何の反応もなく、他のメンバーも煙草を吸ったりして遊びはじめていた。しかし、遂に貴哉の釣竿に反応があった。
「きたきたっ!」
貴哉は必死でリールを巻くが、獲物もかなり抵抗している。釣竿の先端も大きく曲がる。春樹が叫ぶ。
「貴哉!お前の敵う相手じゃねぇ!俺に変われ!」
「うるせぇ!こいつは俺の獲物だ!俺が釣り上げるんだ!」
すると、春樹が貴哉の元に駆け寄り、貴哉の体の後ろから釣竿を掴んだ。
「....!?」
「これなら文句ねぇだろ!」
今度は奏が貴哉たちの右側に周り、裕明が左側に周りこみ、それぞれの方向から2人の体を掴んだ。
「絶対離すんじゃねぇぞ!」
恵弥、恭典、和人、健治もそれに加わる。そして遂に釣り上げた。全員が勢いのあまり後ろに倒れる。釣竿の先ではキロオーバーのソデイカが暴れている。
「信じられねぇ....5月にイカが釣れるなんて....」
「俺もだよ。エギ使ってねぇのにイカが釣れるなんて....」
春樹と和人は信じられない様子だ。奏と裕明は息を切らしている。健治と恭典もだ。恵弥はゲラゲラ笑っている。
「貴哉、お前やっぱりすげぇよ。今日の優勝は貴哉だ。」
そう言いながら、慣れた手つきでイカの脳ミソに拳を突き刺す。イカの色が変わる。息絶えたようだ。
「待ってくれ。今回は俺だけの力じゃねぇよ。みんなのお陰だ。」
「へへ、俺はお前のそんなとこ嫌いじゃねぇぜ。」
「うるせぇ。それより写真撮りてぇな。音也にメールで送ったらどんな顔するかな。」
今日家の用事で来れなかった音也に写メを送ると、瞬時に電話がかかってきた。
「あ、あれ、本当にお前が釣ったのかよ!?」
「ああ!荒川漁港で8人ががりでだ!」
「くっそおお!」
悔しがる音也が面白くて全員が笑う。携帯越しにも聞こえるぐらいの大声だ。しばらくして、全員が帰途につく。
「そういえば春樹。」
「なんだよ?」
「お前さっき、この季節にイカがどうとか、エギもねぇのにどうとか言ってたよな?」
「あ....」
「お前、俺にできもしねぇことやらせたのか?お?」
そしてまた、いつも通りのふざけ合いが始まった。笑い声が夕焼け空に響く。
因みにその日の夜、荒川漁港に1人で釣りに来た中学生がいた。音也である。
「ちくしょう、あいつら!俺だってやればできるんだ!」
さすがに夜だと小魚すらあまり釣れない。まして旬の季節じゃないイカなんて尚更だ。
「んー、ちくしょう!イカは夜に釣れるんじゃねぇのかよ!」
それは冬場の話、今は5月だ。イカが釣れること自体珍しい。
「絶対捕まえてやる!」
こうして深夜1時まで漁港に居座り、見回りに来たお巡りさんに補導された。
つづく
「おいニーブヤー、なんで遅れたんだよ?」
「わりぃな、昨日は麻耶たちと飲んでたもんで。」
それを聞いた和人にスリーパーホールドを決められた。
「俺も誘えやごらあああ!」
毎度の如く、他のメンバーもゲラゲラ笑っていた。
そして、釣り合戦が始まる。各々で1番多く釣り上げた者の勝利だ。勝者には全員が割り勘して煙草をプレゼントする。全員、なかなかのペースで小魚を釣り上げる。しかし、初心者の貴哉は全然捕まえることができない。
「けっ、なんだよ。魚はこんなに一杯見えるのによぉ。」
「....それはな、貴哉。お前の顔が怖いからだ。」
「お前に言われたかねぇよ!」
「....いいか、よく聞け。俺みたいに魚に向かってニッコリ微笑むんだ。そうすれば魚も安心して寄ってくるんだよ。」
奏が水面の魚たちに向かってニッコリ微笑む。すると、魚たちが一斉に逃げ出した。和人が抗議する。
「このデカブツ!お前のせいで獲物が逃げちまったじゃねぇか!」
「....誰がデカブツだごらぁ!」
暴れる奏を裕明と健治が押さえる。他のメンバーは爆笑だ。
「お前ら!笑うな!こいつはこう見えて繊細なんだ!」
裕明の一言で全員がさらに笑い、奏がさらにヒートアップした。そして遂に、
「お前が余計なこと言うからだ!」
奏が裕明を投げ飛ばした。
そうこうしている内に日が暮れる。そろそろ帰るかと、準備をし始めるが貴哉はまだ続けるようだ。
「俺はまだ1匹も捕まえてねぇんだよ!」
何やら意気地になっている。春樹が面倒くさそうに呟く。
「じゃあよ、イカを1匹捕まえて見ろよ。そしたらお前の勝ちでいいよ。」
「なんだと!よし、じゃあ今からイカ釣り上げてやる!お前らよく見てろ!」
貴哉はやる気満々だが、他のメンバーは笑いを堪えるのに必死だ。
(おいおい、こんな季節にイカが釣れるわけねぇだろ。まして、エギもないくせによぉ。もし引っかかったとしても、この季節まで残ってるってことはかなりの大物だ。初心者のこいつに釣れるわけがねぇ。)
全員、春樹と同じことを考えていた。案の定、それから1時間あまり、貴哉の釣竿には何の反応もなく、他のメンバーも煙草を吸ったりして遊びはじめていた。しかし、遂に貴哉の釣竿に反応があった。
「きたきたっ!」
貴哉は必死でリールを巻くが、獲物もかなり抵抗している。釣竿の先端も大きく曲がる。春樹が叫ぶ。
「貴哉!お前の敵う相手じゃねぇ!俺に変われ!」
「うるせぇ!こいつは俺の獲物だ!俺が釣り上げるんだ!」
すると、春樹が貴哉の元に駆け寄り、貴哉の体の後ろから釣竿を掴んだ。
「....!?」
「これなら文句ねぇだろ!」
今度は奏が貴哉たちの右側に周り、裕明が左側に周りこみ、それぞれの方向から2人の体を掴んだ。
「絶対離すんじゃねぇぞ!」
恵弥、恭典、和人、健治もそれに加わる。そして遂に釣り上げた。全員が勢いのあまり後ろに倒れる。釣竿の先ではキロオーバーのソデイカが暴れている。
「信じられねぇ....5月にイカが釣れるなんて....」
「俺もだよ。エギ使ってねぇのにイカが釣れるなんて....」
春樹と和人は信じられない様子だ。奏と裕明は息を切らしている。健治と恭典もだ。恵弥はゲラゲラ笑っている。
「貴哉、お前やっぱりすげぇよ。今日の優勝は貴哉だ。」
そう言いながら、慣れた手つきでイカの脳ミソに拳を突き刺す。イカの色が変わる。息絶えたようだ。
「待ってくれ。今回は俺だけの力じゃねぇよ。みんなのお陰だ。」
「へへ、俺はお前のそんなとこ嫌いじゃねぇぜ。」
「うるせぇ。それより写真撮りてぇな。音也にメールで送ったらどんな顔するかな。」
今日家の用事で来れなかった音也に写メを送ると、瞬時に電話がかかってきた。
「あ、あれ、本当にお前が釣ったのかよ!?」
「ああ!荒川漁港で8人ががりでだ!」
「くっそおお!」
悔しがる音也が面白くて全員が笑う。携帯越しにも聞こえるぐらいの大声だ。しばらくして、全員が帰途につく。
「そういえば春樹。」
「なんだよ?」
「お前さっき、この季節にイカがどうとか、エギもねぇのにどうとか言ってたよな?」
「あ....」
「お前、俺にできもしねぇことやらせたのか?お?」
そしてまた、いつも通りのふざけ合いが始まった。笑い声が夕焼け空に響く。
因みにその日の夜、荒川漁港に1人で釣りに来た中学生がいた。音也である。
「ちくしょう、あいつら!俺だってやればできるんだ!」
さすがに夜だと小魚すらあまり釣れない。まして旬の季節じゃないイカなんて尚更だ。
「んー、ちくしょう!イカは夜に釣れるんじゃねぇのかよ!」
それは冬場の話、今は5月だ。イカが釣れること自体珍しい。
「絶対捕まえてやる!」
こうして深夜1時まで漁港に居座り、見回りに来たお巡りさんに補導された。
つづく
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