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10. テオ、子供を手懐ける

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「でも」

 テオドールは姿勢を低くして、ポーリーンに顔をうずめるユーゴに優しく声をかけた。
「ここにずっといるのは、難しいかもしれない」
「……どうして」
「ポーリーン様、……ポーリーンが、人攫いにされて捕まったら嫌だろう?」
 じっと自分を見つめてくるユーゴの視線を正面から受けて、真摯な態度で諭すように話す。これは、弟妹がいるからこそ身についているものかもしれない、と少し感心した。
「ひとさらい……」
「きみたちがどこから来たのかわからないから。今は、『保護』という形をとるしかない。保護ってわかる?」
 首を振るユーゴ。
「守る、ということだよ」

 そう言って優しい顔をしたテオドールに、ひどく頼もしさを感じた。
 年下なのに、クロードよりも爵位が下であるのに、ずっと大人びて感じる。

「大丈夫。私に任せて。私とポーリーン様、……ポーリーンが」
「呼び捨てに慣れないんですのね」
 含み笑いでそう訊くと、彼は恥ずかしそうに眼もとを赤らめて「すみません」と口元を手で覆った。
 こんな顔をするときには、少年のようにすら思えるのに。

「ユーゴ、テオの言う通りよ。わたくしと、テオが守るわ」
 わざと「テオが」を少し強調して言うと、テオドールは力強く頷いた。

「だから、ちゃんと話せるところは話してほしい。私達は味方だから。味方は、たくさん話し合って協力すべきだと思わないかい?」

 テオドールがゆっくりとそう言うと、ユーゴは少し迷ったあと、決心したようにこくりと頷いた。

「帰りたくないんだ」
「うん」
「ぼくも、クロエも、あそこにはいたくない」

 焦っていろいろ聞き出すのは無理だと思われた。一言一言を口にするたびに、ユーゴの体は震える。しっかりとポーリーンにしがみつく痩せた背中を、テオドールはゆっくりと撫でた。
「無理はしなくていい。だって、きみはまだ子供だから。子供は、大人に頼るものだからね」
 無理に話せって言ってるんじゃないんだよ、と言われると、ユーゴは安心したようで身体から力を抜いた。

 張り詰めていたものが切れたように、すぐにくぅくぅと寝息を立て始めたユーゴの身体を抱き上げると、その軽さに驚いた。抱くのを代わる、と手を伸ばしてきたテオドールに首を振り、起こさないようにと静かにベッドへ運んだ。

「昨日の夜も、あまり眠れなかったようなの」
 ポーリーンは気付いていた。
 一緒にベッドに入っても、もぞもぞとずっと身体を動かしていたことに。
 テオドールはポーリーンの言葉に頷いて、ユーゴにそっとケットを掛けた。

「赤ちゃんも守って、この子は強いです」


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