エクスハンター 〜天と地の王〜

夢見 鯛

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           act.3

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 夕闇が深まり、仮設テント周辺に冷えた空気が漂い始める。

 装甲車が去った後も、その場に残った者たちは誰一人として口を開かなかった。

 失意と動揺。苛立ちと後悔。

 無言のまま、それぞれが自らの判断を反芻しているようだった。

 ユリアスはそんな空気を感じながら、じっと邪の森の奥へと視線を向ける。

 レイオストルンは、まだ来ない。

「来ないのか?やつは」
 バルダンディーが低く呟く。

「みたいですね…」
 ユリアスは静かに答えた。

「膝は削ってやった。しかし、致命傷になる程のものじゃない」

 ルカナがそう言いながら、使い慣れた弓を軽く撫でる。実際にレイオストルンの膝を撃ち抜いた本人の言葉だ。間違いはない。

 時間稼ぎにはなったかもしれないが、それだけだ。

――なら、なぜ来ない?

 疑問が頭をよぎる。

 そして、次の瞬間。

「……再生」

 リリゼの小さな声が夜の静寂を破った。

 その言葉が意味するものを理解した瞬間、一同は目を見開く。

「再生だと?!」

 ミカエルが驚愕の声を上げる。

「マントライキがしていたように、他の動植物を食して再生を行えるなら、手負いのままで敵の包囲網に突っ込んでくるとは思えません」

 ユリアスの言葉が、張り詰めた空気をさらに引き締める。

「つまり……あっちも万全の準備をしてるってわけか」

 フィリップは右腕の盾の持ち手を強く握りしめた。

「そんな……あんなバケモンが回復してくるなんて……!」

 フィリップが不安げに呟く。

 誰もが確信する。

 この静寂は、ただの遅れではない。

 レイオストルンは、この瞬間も闇の中で力を蓄えているのだ。

 そして――月明かりが邪の森を照らし始めた、その刹那。

 遠くから響いた、一際鋭い咆哮。

 それは、再び満たされた暴食の王が、狩りの始まりを告げる声だった。

咆哮が響くと同時に、邪の森の奥で木々が揺れた。

 レイオストルンが動いた。

「皆さん!レイオストルンが来ます!」
 ユリアスが叫ぶや否や、巨木をなぎ倒すような音が響き、黒い影が月明かりの下に躍り出た。

 六本の脚が地を穿つたび、大地が震える。

 砕けた膝は完全に再生し、獣の如き四肢が森の闇を切り裂く。

「全員、配置につくんだ!」
 フィリップが盾を構えながら怒号を飛ばした。

 戦闘開始。

 バルダンディーとフィリップが最前線に立ち、大盾を並べるように構える。

「食らいやがれェ!」
 バルダンディーが雄叫びを上げる。

 その直後、レイオストルンの巨体が突進した!

「ぐッ……!!」
 巨体がぶつかる衝撃に、大地が揺れる。

 バルダンディーとフィリップの二人は膝を踏ん張りながら、寸分たりとも後退しない。

「フィリップ、スイッチ!」
「はい!」

 フィリップが大盾を押し出し、バルダンディーが受け流すように押し返す。

 その隙間から、ユリアスが素早く前へと飛び込む!

「喰らえ……ッ!!」

 煌めく刃がレイオストルンの側面を薙いだ。だが――

 スッ――

 レイオストルンの身体が不自然に揺れた。

 攻撃を受ける瞬間、わずかに身を引き、刃の軌道をズラしたのだ。

「なんだと?!」

ザクリ――

 刃は確かに食い込んだが、傷は浅い。

「クソッ、やっぱり……!」

 ユリアスが後退すると同時に、後方の砲撃陣が動いた。

「ジョセフ、ベンサム、やるぞ!」

 ミカエルが大砲の上に飛び乗り、狙いを定める。

「撃てェッ!!」

 轟音と共に、バリスタと大砲が火を噴いた。だが――

 レイオストルンは、四足を大きく踏み込み、瞬時に駆け出した。

 ギュン――!

 木々の間を縫うように疾走し、黒い影となって走り回る。

「なんだと!?アイツ、逃げ回ってるのか!?」

「いや、これは…」
 
 バリスタの矢が木の幹を貫き、大砲の砲弾が地面を抉る。だが、その全てがレイオストルンの体を捉えない。

「チッ……!」

 ミカエルが舌打ちしながら、次弾を装填する。

「こいつ、すばしっこいな!」

 ユリアスの脳裏に、さっきの違和感がよぎる。

「ただ速いだけじゃない…ルカナさん!ヤツの足を狙って下さい!バリスタ組も!」

 ユリアスの叫びに、ルカナが即座に反応した。

「リリゼ、私の指示通りに撃って!」
「はいっ!」

 ルカナの瞳が鋭く光る。

 森を駆けるレイオストルンの軌道を冷静に見極め――

「三歩後退して、左側に跳ぶ!撃て!」

 ヒュン――!

 リリゼの矢が音を切り裂く。

 ほぼ同時に、ジョセフとベンサムのバリスタが火を吹いた。

 しかし――レイオストルンは跳んだ。

 バリスタの矢が地面を抉る瞬間、レイオストルンの巨体が宙を舞う。

「跳躍…!」

 ルカナが即座に対応する。

 「リリゼ、次!跳躍の着地地点、右前方!撃て!」

 ビュン――!

 矢が宙を舞うレイオストルンに迫る。

 しかし、レイオストルンは――着地寸前、狩猟家たちが見たことのない動きを見せた。

「!?」

 宙で身体を捻り、幹を蹴るように軌道を変えたのだ。

「そんな?!全く当たらない…」

 リリゼが悔しそうに矢を番える。

「次だ!リリゼ!足を止めるまで撃ち続ける!」

 ルカナの声に、リリゼは気を引き締めた。

 ジョセフとベンサムも負けじとバリスタを撃ち続ける。

「コイツ、動きが読めねぇ……!?」

 バリスタの矢が森を貫くたび、レイオストルンはギリギリのところで木々を利用しながら躱す。

「このままじゃ……!」

 焦燥が戦場に広がる。

 しかし、ルカナの目だけは冷静だった。

「……いいえ、見えてきたわ」

 レイオストルンの動きには、一定の法則がある。

 ルカナはそれを見抜いていた。

「リリゼ、あと三手でヤツは必ず右に跳ぶ!」
「わかりました!」

 リリゼが再び弓を構え――次の一矢が、戦局を変える――!

「撃て!」

 リリゼの矢が空を切り、レイオストルンへと迫る。

 ルカナの目が鋭く、確信を持ってリリゼを指示する。

ーー次、ヤツは必ず右に飛ぶ!ヤツの動きには法則性が…法則、性が…

 矢が、レイオストルンの足元を捉えるべく――その時。

 レイオストルンが予想外の動きで跳んだ。

 その方向は、ルカナが予測していたものとはまるで違っていた。

「な――!?」

矢が空を切る。

跳躍の方向を変えたレイオストルンは、さらに速く、木々を飛び越え、次の回避に移った。

「そんな馬鹿な…!」

 ルカナは目を見開いた。

「こんなことが…!?」

 プロ未探家として生き抜いてきた長年の勘が外れた。予測した動きではなく、まるで直感で避けるような動き。

 それは、まるで別次元の速さ、そして狡猾さを感じさせ

「違う…そんなはずは」

 ルカナの中で、焦りが募る。

 リリゼも悔しそうに弓を引き直し、次の一手を放つ準備をしているが――

 その隙間を狙うかのように、ユリアスの気配が背後から迫る。

 木々の影を縫うように、静かに、しかし素早く近づいていく。ユリアスは狙っていた。隠密の動きでレイオストルンの背後に迫り、わずかな隙間を見つけて――

「…。」

 ユリアスの鋭い剣が、一瞬の隙間に突き刺さるように振り下ろされた。

 キィン!…パキッ…
 ブシャーーー!!!

 レイオストルンが跳ねて回避する瞬間、ユリアスの刃がその爪をかすめ、鈍い音と共に血しぶきが飛び散った。

『?!』

 レイオストルンは痛みに反応して一瞬よろめく。その隙を突いて、ユリアスは再び間合いを詰めた。

「やっぱりか…レイオストルン。お前も同じなんだな。生物の意思が分かる…だろ?」

『左足を射抜く!』
『右三歩目を狙う!』
『脳天目掛けてファイヤー!』
『撃て!!カウンターだ!』
『三手でヤツは必ず右に飛ぶ!』

 それらの意思を読み取り攻撃を避けていくレイオストルン。

 しかし…

『…。』

 ブシャーーー!!!!!

 木々の隙間から突如として現れるユリアスの奇襲に反応することができず、爪の隙間を狙われてしまう。

「意思を読む。その万能な力は決して無敵なんかじゃない。お前が俺に教えたことだ!」

 一矢報いてやったユリアスの肩からひょっこりと顔を出すベニ。この千載一遇のチャンスを待っていたぞ!と言わんばかりにレイオストルンを睨みつけ、その喉奥を鳴らす。

『ピギャァァァァァァ!!!!!』

 大型種の嫌う甲高い周波が鼓膜を打ち破り、レイオストルンは一瞬の隙を与えてしまう。

「毎度助かるよベニ!」

 ユリアスは右手に握った烈火昼神に灼熱の炎を纏わせ、左手の氷真小刀からは冷気を放出。その二振りの刃を構え、空中で身をひねりながら猛烈な回転斬りを繰り出す。

ズババババババババッ!!!!!!

 烈火と氷の属性攻撃が一体となり、レイオストルンの肉を裂き、体毛を削ぎ、爪を割り、全身を滅多斬りにする。
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