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act.4
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ユリアスとベニの活躍により、レイオストルンに大ダメージを与えることに成功した一行。
「やったのか?! ユリアス!」
「相当消耗していると思います…。すぐにワイヤー付きのバリスタを」
フィリップやベンサムら火熊のヒヅメたちは、素早くワイヤーを取り付けたバリスタを準備し、レイオストルンに向かって発射する。
グガァァァアア!!!
雄叫びを上げるレイオストルンだったが、抵抗虚しく、バリスタがその体の奥深くに突き刺さり、フィリップたちはそれに取り付けられたワイヤーを付近の大樹にくくりつけて固定する。
簡易的な拘束トラップ(リストレイン)が完成した。
レイオストルンを拘束したことで、一行は安堵の息を漏らし、しばしの休息を取った。疲れきったユリアスが肩で息をしながら、フィリップに言った。
「ひとまず、やったな。奴が暴れるにしても、動きが制限されているしな」
「まあ、そうだが、油断するなよ」
フィリップは余裕の笑みを浮かべながらも、周囲を警戒していた。その背後では、ベンサムが大きな武器を構えて待機し、バルダンディーとミカエルも警戒を怠らない。リリゼとルカナは弓を準備し、再度攻撃を仕掛けるタイミングを計っていた。
だが――
グガァァァアア!!!
レイオストルンは再び、体を震わせながら雄叫びを上げる。暴れたことでワイヤーが引き締まり、木々が軋む音が響くが、拘束具はびくともしない。レイオストルンはうなり声を上げながらも、その動きを抑えきれず、爪で周囲を引っ掻こうとする。
「こいつ、まだ動けるのか…?」
ユリアスが眉をひそめ、レイオストルンの様子をじっと見守る。いくら拘束されているとはいえ、あの巨体はただの一時的な制御では足りない。まだ力を溜めているのだろう。
「無駄だ、もうお前には逃げ場はない。」
フィリップが言うと、ベンサムが頷きながら前進し、足元をしっかりと固める。だが、その直後――
「!?」
レイオストルンが一気に体を反転させ、地面を踏みしめると、その膝からは不自然な音が響き、突如として金属音が鳴り響いた。拘束していたワイヤーがピンと張り詰め、まるで弦を張った弓のように一気に引き裂かれそうになる。
「な…!」
フィリップが驚愕の声を上げたその瞬間、レイオストルンは恐ろしい力で自らの拘束を引き裂き、動き出した。次の瞬間、地面が揺れるようにしてその巨体が動き出し、ワイヤーが引き千切られた。
「くっ…!」
フィリップとベンサムは慌てて足を止めようとするが、もう一度ワイヤーで捕らえる余裕はない。反撃が始まったのだ。
ユリアスは目を見開き、すぐさま動きに反応した。頭の中でその計算を繰り返し、冷静さを保とうとする。
「再度、警戒!」
その言葉が響くと同時に、レイオストルンは再び暴れるように吠えながら力を込めた。
レイオストルンは暴れまわり、拘束具を引き裂くように地面を蹴り、フィリップとベンサムに向かって突進した。その足音は地鳴りのように響き、まるで山が迫ってくるかのようだった。
「来るぞ!」
フィリップが叫び、すぐさま大盾を構えた。彼の盾は異常な大きさで、その重さだけでも相手を圧倒できるが、レイオストルンの勢いはそれを超えんばかりだった。だが、フィリップは動じない。全身を使って盾を前に突き出すと、その巨体が一気に迫る。
グガァァァ!!
レイオストルンはその鋭い爪でフィリップを引っ掻こうとした。爪が大盾をかすめ、激しい音が響く。フィリップは盾をしっかりと固定し、レイオストルンの攻撃を必死に防ぐ。しかし、その爪の一撃で大盾にひびが入り、フィリップは踏ん張りながらも足元を取られる。
「くっ…!」
フィリップがじりじりと後退する中、バルダンディーがすかさず動いた。彼はスイッチで片手ハンマーを取り出し、その重い一撃をレイオストルンに叩き込む準備を整えた。
「いっけや!おらぁぁああ!」
バルダンディーは大盾を持つフィリップに続いて、一気に駆け出し、右手でハンマーを引き上げ、レイオストルンの胸を狙ってその巨体に向かって振り下ろした。
ドォン!!
ハンマーの一撃がレイオストルンの胸を直撃し、その衝撃で一瞬、レイオストルンの動きが止まる。息を呑んだ一行がその瞬間に目を凝らすと、レイオストルンは激しく後退し、爪を引っ込めて一歩下がる。
しかし、今度はルカナとリリゼが弓を引き絞る。弓の矢が次々と放たれる中、レイオストルンは冷徹な目でそれらを見つめていた。その瞳には、まるで未来が映し出されているかのような鋭さが宿っている。
「今度こそ決める!」
ルカナの声が空気を震わせ、リリゼの矢が同時に飛び出す。矢は鋭く、正確にレイオストルンの足元を狙っていた。だが、すぐにレイオストルンがそれを察知し、さっと身をかわす。その動きはまるで予知していたかのように完璧だった。
「またか…!」
ルカナが歯噛みするが、リリゼは冷静だ。
「けど、私たちの陽動でユリアスさんが!」
ズババババババババッ!!!バキンッ!!
二度目の奇襲に成功するユリアス。この攻撃の形がレイオストルンにとっては理想形であった。がしかし、レイオストルンの鉄毛を削り切るのに、ユリアスの双剣は耐えきれず。先程の鈍い音が原因か、刃が欠けてしまう。
それでも、状況は優勢。完全に包囲されるレイオストルン。どんな抵抗も今のユリアスを前に防がれてしまう。
「レイオストルン…W種…災厄の片鱗をここで潰す」
ユリアスはその瞳に無情さを写し、レイオストルンにトドメの一撃を刺しに行く。それを読んでか、レイオストルンは自らの死期を悟ったかに思えたその時…
その強靭な爪で自らの腑を掻っ捌き、ルカナ湿原に内臓と血液をぶちまける。
ズチャッ!!!!
?!
「何を…してるんだ?!」
グガァァァアア!!!!
自らで自傷したにも関わらず、酷い奇声を上げ、苦しみの狂言をユリアスに伝播させる。
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いでも……お前ら全員道連れだ!!!!!』
?!
「道連れ…」
レイオストルンの奇行は、すぐさま悪夢の再来を呼び起こす。
「んっ…ぐはぁっ!!」
「どうした!」
ユリアスの近くでフィリップが唐突に吐血をする。
「んはっ…か、体が、おっ、おっ、おえ…」
「おい!しっかりしろ!」
「ぐへぇ…かはっ!かはっ!」
?!
ーーあっちも…
「ぐはぁ…ゲホッゲホッ」
「バルダンディーさん!」
それは狩猟家だけに留まらず、未探家であるバルダンディーも吐血する。
「どうして…レイオストルンに深傷を負わされたわけでもないのに…」
ゲホッ…ゲホッ…。
今度はルカナが、そしてリリゼまでもが地に倒れ込み、真っ赤な鮮血を吐き出す。
「道連れ………まさか、天の王の呪い?!」
ーー完成したW種の呪いの伝染…マントライキがW種になったのも、レイオストルンの毒素に当てられたからか…。
「全員息を止めて内臓と血液から離れろ!!すぐさま離脱するんだ!!」
ミカエルら無事な人間たちは、ユリアスの必死な形相を見てすぐさま駆け出す。
そして、ユリアスは倒れ込む者たちを確認する。フィリップ、ルカナ、バルダンディー、リリゼの四人。全員がレイオストルンの毒に侵されている。
「天の王の呪い…初期段階の細胞分裂する前の毒素なら…まだ間に合う!」
ユリアスはすぐさま鞄を下ろし、中から他動植物の毒素を含んだ緑の液体、マルチポイズンの入った試験管と、注射器を取り出し、液体を吸い取っては病人たちよ腕に投与していく。
ルカナ。プロの未探家であり、亡くしてはならない逸材。
バルダンディー。プロの未探家であることからこちらも優先しなければならない。
そして次…投与する相手を見つめるユリアスだったが、今手持ちに最後の一瓶しかないことに気づく。
「そんな…はっ?!」
最後の試験管と二人の患者。それらを交互に見つめ、頭を悩ませるユリアス。早く投与しなければ毒素が蔓延し身体中を蝕む猛毒に豹変してしまう。今ならマルチポイズンで天の王の呪いを打ち消すことができる。それでも、残り一つ。患者は二人。
一つ…二人…フィリップ…リリゼ…。
俺はどっちを助けたい…。
フィリップかリリゼか。助けられるのは一人しかいない。狩猟家としての経験値で判断するか。将来性を見据えた年齢か。性別か。何を基準に判断すればいい。
「俺にとって…大切な方を…選ぶか…」
『ユリアスさん!』
『わ、私が皆さんを守って戦います!』
『こ、これでいいですよね!』
『新生・リリゼ=ストライナ、ここに誕生です!』
『へへへ、そうでもないですよ~』
『ユリアスさん…』
『ユリアスさん!』
ふと思い出されるのはリリゼと過ごしたこの数週間の記憶。テデナリアに襲われかけた時のこと、ショートウルフを退治した時のこと、ベニと戯れている時のこと、カルガモン討伐の時のこと、マンドライキと、レイオストルンと、対峙した時のこと。
リリゼと過ごしてきた全ての記憶が蘇り、それらは形を成してユリアスの手を包み込み、リリゼの元へ運ぶ。
「すまない…フィリップ…俺は…」
はっ?!
「ユリアス…さん…ゲホッ…。フィリップさんを…助けてください…」
かろうじて意識を保っていたリリゼは、自分に差し伸べられた手を包み、それを隣に眠るフィリップの方へ持っていく。
「私なら…平気なので…ゲホッゲホッ」
「リリゼさん…どうして貴女は、そうお人よしなんですか…自分の命が危ういというのに…」
「へへへ…元々ユリアスさんが…居なかったら、ゲホッゲホッ…私はもっと早くに、死んでましたよ。きっとこれは…神様が私に与えた、罰なんですよ」
ーー狩猟家なんて自分に合わない道を進んだら私への天罰なのだろう。周りに多大な迷惑をかけ、それでも意地を張って今の今まで生きてきた私に対する天罰。だから私はそれを受け入れられる。
「ユリアスさん…早く…」
ごめん…リリゼ。
君の願いを叶えたい思いと、君を選べなかった選択と、君の純情を弄んだ罪を…。
どうか俺を一生恨みながら苦しんでくれ…。
チュッ…。
「やったのか?! ユリアス!」
「相当消耗していると思います…。すぐにワイヤー付きのバリスタを」
フィリップやベンサムら火熊のヒヅメたちは、素早くワイヤーを取り付けたバリスタを準備し、レイオストルンに向かって発射する。
グガァァァアア!!!
雄叫びを上げるレイオストルンだったが、抵抗虚しく、バリスタがその体の奥深くに突き刺さり、フィリップたちはそれに取り付けられたワイヤーを付近の大樹にくくりつけて固定する。
簡易的な拘束トラップ(リストレイン)が完成した。
レイオストルンを拘束したことで、一行は安堵の息を漏らし、しばしの休息を取った。疲れきったユリアスが肩で息をしながら、フィリップに言った。
「ひとまず、やったな。奴が暴れるにしても、動きが制限されているしな」
「まあ、そうだが、油断するなよ」
フィリップは余裕の笑みを浮かべながらも、周囲を警戒していた。その背後では、ベンサムが大きな武器を構えて待機し、バルダンディーとミカエルも警戒を怠らない。リリゼとルカナは弓を準備し、再度攻撃を仕掛けるタイミングを計っていた。
だが――
グガァァァアア!!!
レイオストルンは再び、体を震わせながら雄叫びを上げる。暴れたことでワイヤーが引き締まり、木々が軋む音が響くが、拘束具はびくともしない。レイオストルンはうなり声を上げながらも、その動きを抑えきれず、爪で周囲を引っ掻こうとする。
「こいつ、まだ動けるのか…?」
ユリアスが眉をひそめ、レイオストルンの様子をじっと見守る。いくら拘束されているとはいえ、あの巨体はただの一時的な制御では足りない。まだ力を溜めているのだろう。
「無駄だ、もうお前には逃げ場はない。」
フィリップが言うと、ベンサムが頷きながら前進し、足元をしっかりと固める。だが、その直後――
「!?」
レイオストルンが一気に体を反転させ、地面を踏みしめると、その膝からは不自然な音が響き、突如として金属音が鳴り響いた。拘束していたワイヤーがピンと張り詰め、まるで弦を張った弓のように一気に引き裂かれそうになる。
「な…!」
フィリップが驚愕の声を上げたその瞬間、レイオストルンは恐ろしい力で自らの拘束を引き裂き、動き出した。次の瞬間、地面が揺れるようにしてその巨体が動き出し、ワイヤーが引き千切られた。
「くっ…!」
フィリップとベンサムは慌てて足を止めようとするが、もう一度ワイヤーで捕らえる余裕はない。反撃が始まったのだ。
ユリアスは目を見開き、すぐさま動きに反応した。頭の中でその計算を繰り返し、冷静さを保とうとする。
「再度、警戒!」
その言葉が響くと同時に、レイオストルンは再び暴れるように吠えながら力を込めた。
レイオストルンは暴れまわり、拘束具を引き裂くように地面を蹴り、フィリップとベンサムに向かって突進した。その足音は地鳴りのように響き、まるで山が迫ってくるかのようだった。
「来るぞ!」
フィリップが叫び、すぐさま大盾を構えた。彼の盾は異常な大きさで、その重さだけでも相手を圧倒できるが、レイオストルンの勢いはそれを超えんばかりだった。だが、フィリップは動じない。全身を使って盾を前に突き出すと、その巨体が一気に迫る。
グガァァァ!!
レイオストルンはその鋭い爪でフィリップを引っ掻こうとした。爪が大盾をかすめ、激しい音が響く。フィリップは盾をしっかりと固定し、レイオストルンの攻撃を必死に防ぐ。しかし、その爪の一撃で大盾にひびが入り、フィリップは踏ん張りながらも足元を取られる。
「くっ…!」
フィリップがじりじりと後退する中、バルダンディーがすかさず動いた。彼はスイッチで片手ハンマーを取り出し、その重い一撃をレイオストルンに叩き込む準備を整えた。
「いっけや!おらぁぁああ!」
バルダンディーは大盾を持つフィリップに続いて、一気に駆け出し、右手でハンマーを引き上げ、レイオストルンの胸を狙ってその巨体に向かって振り下ろした。
ドォン!!
ハンマーの一撃がレイオストルンの胸を直撃し、その衝撃で一瞬、レイオストルンの動きが止まる。息を呑んだ一行がその瞬間に目を凝らすと、レイオストルンは激しく後退し、爪を引っ込めて一歩下がる。
しかし、今度はルカナとリリゼが弓を引き絞る。弓の矢が次々と放たれる中、レイオストルンは冷徹な目でそれらを見つめていた。その瞳には、まるで未来が映し出されているかのような鋭さが宿っている。
「今度こそ決める!」
ルカナの声が空気を震わせ、リリゼの矢が同時に飛び出す。矢は鋭く、正確にレイオストルンの足元を狙っていた。だが、すぐにレイオストルンがそれを察知し、さっと身をかわす。その動きはまるで予知していたかのように完璧だった。
「またか…!」
ルカナが歯噛みするが、リリゼは冷静だ。
「けど、私たちの陽動でユリアスさんが!」
ズババババババババッ!!!バキンッ!!
二度目の奇襲に成功するユリアス。この攻撃の形がレイオストルンにとっては理想形であった。がしかし、レイオストルンの鉄毛を削り切るのに、ユリアスの双剣は耐えきれず。先程の鈍い音が原因か、刃が欠けてしまう。
それでも、状況は優勢。完全に包囲されるレイオストルン。どんな抵抗も今のユリアスを前に防がれてしまう。
「レイオストルン…W種…災厄の片鱗をここで潰す」
ユリアスはその瞳に無情さを写し、レイオストルンにトドメの一撃を刺しに行く。それを読んでか、レイオストルンは自らの死期を悟ったかに思えたその時…
その強靭な爪で自らの腑を掻っ捌き、ルカナ湿原に内臓と血液をぶちまける。
ズチャッ!!!!
?!
「何を…してるんだ?!」
グガァァァアア!!!!
自らで自傷したにも関わらず、酷い奇声を上げ、苦しみの狂言をユリアスに伝播させる。
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いでも……お前ら全員道連れだ!!!!!』
?!
「道連れ…」
レイオストルンの奇行は、すぐさま悪夢の再来を呼び起こす。
「んっ…ぐはぁっ!!」
「どうした!」
ユリアスの近くでフィリップが唐突に吐血をする。
「んはっ…か、体が、おっ、おっ、おえ…」
「おい!しっかりしろ!」
「ぐへぇ…かはっ!かはっ!」
?!
ーーあっちも…
「ぐはぁ…ゲホッゲホッ」
「バルダンディーさん!」
それは狩猟家だけに留まらず、未探家であるバルダンディーも吐血する。
「どうして…レイオストルンに深傷を負わされたわけでもないのに…」
ゲホッ…ゲホッ…。
今度はルカナが、そしてリリゼまでもが地に倒れ込み、真っ赤な鮮血を吐き出す。
「道連れ………まさか、天の王の呪い?!」
ーー完成したW種の呪いの伝染…マントライキがW種になったのも、レイオストルンの毒素に当てられたからか…。
「全員息を止めて内臓と血液から離れろ!!すぐさま離脱するんだ!!」
ミカエルら無事な人間たちは、ユリアスの必死な形相を見てすぐさま駆け出す。
そして、ユリアスは倒れ込む者たちを確認する。フィリップ、ルカナ、バルダンディー、リリゼの四人。全員がレイオストルンの毒に侵されている。
「天の王の呪い…初期段階の細胞分裂する前の毒素なら…まだ間に合う!」
ユリアスはすぐさま鞄を下ろし、中から他動植物の毒素を含んだ緑の液体、マルチポイズンの入った試験管と、注射器を取り出し、液体を吸い取っては病人たちよ腕に投与していく。
ルカナ。プロの未探家であり、亡くしてはならない逸材。
バルダンディー。プロの未探家であることからこちらも優先しなければならない。
そして次…投与する相手を見つめるユリアスだったが、今手持ちに最後の一瓶しかないことに気づく。
「そんな…はっ?!」
最後の試験管と二人の患者。それらを交互に見つめ、頭を悩ませるユリアス。早く投与しなければ毒素が蔓延し身体中を蝕む猛毒に豹変してしまう。今ならマルチポイズンで天の王の呪いを打ち消すことができる。それでも、残り一つ。患者は二人。
一つ…二人…フィリップ…リリゼ…。
俺はどっちを助けたい…。
フィリップかリリゼか。助けられるのは一人しかいない。狩猟家としての経験値で判断するか。将来性を見据えた年齢か。性別か。何を基準に判断すればいい。
「俺にとって…大切な方を…選ぶか…」
『ユリアスさん!』
『わ、私が皆さんを守って戦います!』
『こ、これでいいですよね!』
『新生・リリゼ=ストライナ、ここに誕生です!』
『へへへ、そうでもないですよ~』
『ユリアスさん…』
『ユリアスさん!』
ふと思い出されるのはリリゼと過ごしたこの数週間の記憶。テデナリアに襲われかけた時のこと、ショートウルフを退治した時のこと、ベニと戯れている時のこと、カルガモン討伐の時のこと、マンドライキと、レイオストルンと、対峙した時のこと。
リリゼと過ごしてきた全ての記憶が蘇り、それらは形を成してユリアスの手を包み込み、リリゼの元へ運ぶ。
「すまない…フィリップ…俺は…」
はっ?!
「ユリアス…さん…ゲホッ…。フィリップさんを…助けてください…」
かろうじて意識を保っていたリリゼは、自分に差し伸べられた手を包み、それを隣に眠るフィリップの方へ持っていく。
「私なら…平気なので…ゲホッゲホッ」
「リリゼさん…どうして貴女は、そうお人よしなんですか…自分の命が危ういというのに…」
「へへへ…元々ユリアスさんが…居なかったら、ゲホッゲホッ…私はもっと早くに、死んでましたよ。きっとこれは…神様が私に与えた、罰なんですよ」
ーー狩猟家なんて自分に合わない道を進んだら私への天罰なのだろう。周りに多大な迷惑をかけ、それでも意地を張って今の今まで生きてきた私に対する天罰。だから私はそれを受け入れられる。
「ユリアスさん…早く…」
ごめん…リリゼ。
君の願いを叶えたい思いと、君を選べなかった選択と、君の純情を弄んだ罪を…。
どうか俺を一生恨みながら苦しんでくれ…。
チュッ…。
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