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第10話 『リリゼ=ストレイナ』 act.1
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自分がどれだけ恵まれていたのか。それは主観的には分からない。
ただ、むしろ自分は不幸な人間だと思い込みながら生きていた節がある。
【セルヒノ】
アルルカ大陸の東部に位置する大国『グランシア』にある都市・セルヒノ。
住人も多く、商業も盛んで、大国の後ろ盾を得ている主要都市に生まれ、何不自由な生活を送れていた私は、きっとこの先も家族と楽しく幸せに暮らすのだと思っていた。
父と母と弟のように可愛がっていたショウガラゴのベニと、母の経営する花屋で手伝いをしながら思っていた。あの災厄が訪れるまでは。
北の果てから訪れた白木衣を纏う赤目の竜。それは、全身をどす黒いオーラで纏い、その黒炎に似た火の玉を街に落とす。セルヒノに訪れた非日常。それは私から全てを奪い去った。
ズドーーーーーーン!!!!
瓦礫の下敷きになる私たち。幸いにも母が私に覆い被さっていたことで、一命を取り留めた私でしたが、母は全身の骨を折り動けない状況、父は出払っていて姿は無く、ベニの姿も見えず、唯一その場に居合わせた近所の人に保護され街を後にしました。
「嬢ちゃん!大丈夫か?!」
「え?…あっ、おかあ…」
グガァァァ!!!!
?!
「白竜さ、そこまできとる。すぐ逃げるでな!」
私たちに被さる瓦礫をどかし、私だけを担ぎ上げたおじさんは、母の容態を確認するなり、渋い顔をして街の外れへ駆け出す。
遠のく母親。姿の見えない家族。それらをあの地に置いて平気でいられた自分。その状況に、私は不幸な人間なんだと思うのと同時に、なんて酷い人間なんだと思ってしまう。
白竜に襲われた都市【セルヒノ】。
その事件は、後に『蠱毒の大厄災』と呼ばれ語り継がれることになりますが、それはまだ後の話。
「嬢ちゃん…名前は?」
「リリゼ…です。」
「リリゼちゃん。家族は…お母さんだけかな?」
「お父さんと、ベニが…」
「ベニ…。そうか。二人はどこに…」
私を救ってくれたおじさんの口から母を気にかける言葉は無く、もう存在しないような扱いをされていたことを、今も鮮明に覚えている。
「お母さん?お母さん…」
「落ち着いてリリゼちゃん。もうセルヒノには戻れないんだよ」
「何で、お母さんがお家で」
「変なもんが蔓延してて近づけんのよ。ありゃ不吉な呪いや。ここに運ばれた者の何人かは逝っちまったでな。残念やけど…もう手遅れや」
街を包む不吉な呪い。その正体を解明することは今の技術では難しく、人が立ち寄れない危険区域として、セルヒノは世界地図から消えることとなりました。
母を失い、父にも会えず、ベニも見つからない。行く当ても頼る当てもなく、それでも生きていくために狩猟家となり、多くの人に迷惑をかけてきた。街を転々とし、そこで出会う狩猟家の方々の足を引っ張り、明日生きるために必死にやったことが空回りし、パーティを切られ、こんな不幸な人間は他には居ないだろうと思いながら、時が過ぎ、最後に行き着いた南部諸国【アトレイオ】で、またしても同じ過ちを繰り返し、大型種のテデナリアを前に迷惑をかけつつも、命の危険を前にして、貴方に会い、家族に再会し、あの日、あの大厄災の日から止まっていた私の時間は、動き出したんです。
「援護を頼む!」
ルカナ湿原に響く男の声。
目の前に佇む大型の蛙に似たモンスター《テデナリア》
「いや、無理だ…こんなやつ三人じゃ無理だ!!!」
男の救援を耳にも止めず、湿地帯を駆け出し逃げる狩猟家の一人。それに驚き、生まれた隙を突かれ、テデナリアに押し倒される男は沼地に倒れ込み、泥を口に含んでしまう。
ボボボボッ…ゲホッ…ボボボボッ
この中で一番戦力のあるハンターがやられ、一人は逃げ去り、残るは自分だけ。しかし、目の間の恐怖心に抗えず、ただ立ち尽くす。体は動かず、それでも何かしなくてはと上げた奇声。
「きゃーーーーー!!!!」
これで私の仕事は終わった。助けられないのは仕方ない。自分に力がないから。こんな状況になったのはテデナリアが強かったから。私なんかを誘ったから。私が狩猟家に向いてなかったから。今も昔もずっと、こうやって人に迷惑をかけてきた。私は不幸を運ぶ女。それがどれだけ身勝手なことで失礼なことなのか理解しつつも、そう思うだけで心が少し救われる感覚があった。
きっとそれも今日で終わり。私がいなくなれば、私に関わることで起きる不幸は二度と起きない。そう死を予見した矢先に、貴方が助けてくれた。
白髪の青年と見覚えのある小動物が。
------------------------------------------
ーーユリアスさん…ベニ…私は幸せ者だったみたいです。家族を亡くしても涙を流すことなく、人に迷惑をかけ続けても命は繋ぎ止め、そんな身勝手な人生の先で、ベニにもう一度会えたのだから。不幸なわけがない。この世で一番身勝手でズルい女が私です。だから…
「フィリップさんを…助けて下さい…」
ハッ?!
ーーこんな不幸の連鎖は断ち切らなければならない。ただ幸運で生きながらえ、その上で不幸を撒き散らしてきた私をどうか殺して下さい。
「ごめん、リリゼ」
「どうか俺を一生恨みながら苦しんでくれ…」
ーー苦しくなんかないですよ。こんな心臓の痛みだけで全て許されるのなら優しいものです。
チュッ…
でも何でしょうか。今私は、世界で一番幸せな気がします。
------------------------------------------
【アトレイオ】救護所
「んッ……」
目が覚めるとそこは、白い天井が広がり、無臭な世界と、ふかふかのベッドの上。そして、赤い髪の綺麗な女性が隣で寄り添ってくれていた。
「ここは…」
「?!、目覚めたかリリゼ=ストレイナ」
「ルカナ…さん?どうしてここに」
「どうしてもこうしてもあるか!お前がいつになっても目覚めないからだろう!戯け!」
ルカナはリリゼの側で看病を続け、その目覚めをずっと待っていた。そして、今、彼女が長い眠りから目覚めたこと、その喜びの感情を発散させる。
リリゼを強く抱きしめるルカナ。その瞳にはわずかな湿り気を帯びていた。
「何はともあれだ。すぐに皆を呼んで来よう。特にラプラスをな」
「ユリアスさん…。待って下さい、ルカナさん!」
「どうした?」
「あの…私が助かったと言うことは…もしかしてフィリップさんが…」
「案ずる事はない。他の皆も無事だ。全てラプラスのおかげでな!感謝しろ~」
そう言って、ルカナは救護所を出ていく。
ーーユリアスさんが…。
かろうじて残る自分が眠りにつく前の断片的な記憶を辿るリリゼ。
「確か、私や皆さんは一斉に吐血しレイオストルンの毒に侵された…。それからユリアスさんが持ち前のお薬でみんなを助けて回って…」
ハッ?!
何かを思い出すリリゼ。その瞬間、頬と耳を真っ赤に染め上げ、白い掛け布団を目の高さまで上げ、顔を隠す。
「ももももも、もしかして、私、相当ハレンチなことをしてしまったのでは?!」
ーー私は、これからどんな顔して会えばいいっていうんですか!!!
その気持ちが幸か不幸かなど、改めて理解することさえ野暮であった。
ただ、むしろ自分は不幸な人間だと思い込みながら生きていた節がある。
【セルヒノ】
アルルカ大陸の東部に位置する大国『グランシア』にある都市・セルヒノ。
住人も多く、商業も盛んで、大国の後ろ盾を得ている主要都市に生まれ、何不自由な生活を送れていた私は、きっとこの先も家族と楽しく幸せに暮らすのだと思っていた。
父と母と弟のように可愛がっていたショウガラゴのベニと、母の経営する花屋で手伝いをしながら思っていた。あの災厄が訪れるまでは。
北の果てから訪れた白木衣を纏う赤目の竜。それは、全身をどす黒いオーラで纏い、その黒炎に似た火の玉を街に落とす。セルヒノに訪れた非日常。それは私から全てを奪い去った。
ズドーーーーーーン!!!!
瓦礫の下敷きになる私たち。幸いにも母が私に覆い被さっていたことで、一命を取り留めた私でしたが、母は全身の骨を折り動けない状況、父は出払っていて姿は無く、ベニの姿も見えず、唯一その場に居合わせた近所の人に保護され街を後にしました。
「嬢ちゃん!大丈夫か?!」
「え?…あっ、おかあ…」
グガァァァ!!!!
?!
「白竜さ、そこまできとる。すぐ逃げるでな!」
私たちに被さる瓦礫をどかし、私だけを担ぎ上げたおじさんは、母の容態を確認するなり、渋い顔をして街の外れへ駆け出す。
遠のく母親。姿の見えない家族。それらをあの地に置いて平気でいられた自分。その状況に、私は不幸な人間なんだと思うのと同時に、なんて酷い人間なんだと思ってしまう。
白竜に襲われた都市【セルヒノ】。
その事件は、後に『蠱毒の大厄災』と呼ばれ語り継がれることになりますが、それはまだ後の話。
「嬢ちゃん…名前は?」
「リリゼ…です。」
「リリゼちゃん。家族は…お母さんだけかな?」
「お父さんと、ベニが…」
「ベニ…。そうか。二人はどこに…」
私を救ってくれたおじさんの口から母を気にかける言葉は無く、もう存在しないような扱いをされていたことを、今も鮮明に覚えている。
「お母さん?お母さん…」
「落ち着いてリリゼちゃん。もうセルヒノには戻れないんだよ」
「何で、お母さんがお家で」
「変なもんが蔓延してて近づけんのよ。ありゃ不吉な呪いや。ここに運ばれた者の何人かは逝っちまったでな。残念やけど…もう手遅れや」
街を包む不吉な呪い。その正体を解明することは今の技術では難しく、人が立ち寄れない危険区域として、セルヒノは世界地図から消えることとなりました。
母を失い、父にも会えず、ベニも見つからない。行く当ても頼る当てもなく、それでも生きていくために狩猟家となり、多くの人に迷惑をかけてきた。街を転々とし、そこで出会う狩猟家の方々の足を引っ張り、明日生きるために必死にやったことが空回りし、パーティを切られ、こんな不幸な人間は他には居ないだろうと思いながら、時が過ぎ、最後に行き着いた南部諸国【アトレイオ】で、またしても同じ過ちを繰り返し、大型種のテデナリアを前に迷惑をかけつつも、命の危険を前にして、貴方に会い、家族に再会し、あの日、あの大厄災の日から止まっていた私の時間は、動き出したんです。
「援護を頼む!」
ルカナ湿原に響く男の声。
目の前に佇む大型の蛙に似たモンスター《テデナリア》
「いや、無理だ…こんなやつ三人じゃ無理だ!!!」
男の救援を耳にも止めず、湿地帯を駆け出し逃げる狩猟家の一人。それに驚き、生まれた隙を突かれ、テデナリアに押し倒される男は沼地に倒れ込み、泥を口に含んでしまう。
ボボボボッ…ゲホッ…ボボボボッ
この中で一番戦力のあるハンターがやられ、一人は逃げ去り、残るは自分だけ。しかし、目の間の恐怖心に抗えず、ただ立ち尽くす。体は動かず、それでも何かしなくてはと上げた奇声。
「きゃーーーーー!!!!」
これで私の仕事は終わった。助けられないのは仕方ない。自分に力がないから。こんな状況になったのはテデナリアが強かったから。私なんかを誘ったから。私が狩猟家に向いてなかったから。今も昔もずっと、こうやって人に迷惑をかけてきた。私は不幸を運ぶ女。それがどれだけ身勝手なことで失礼なことなのか理解しつつも、そう思うだけで心が少し救われる感覚があった。
きっとそれも今日で終わり。私がいなくなれば、私に関わることで起きる不幸は二度と起きない。そう死を予見した矢先に、貴方が助けてくれた。
白髪の青年と見覚えのある小動物が。
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ーーユリアスさん…ベニ…私は幸せ者だったみたいです。家族を亡くしても涙を流すことなく、人に迷惑をかけ続けても命は繋ぎ止め、そんな身勝手な人生の先で、ベニにもう一度会えたのだから。不幸なわけがない。この世で一番身勝手でズルい女が私です。だから…
「フィリップさんを…助けて下さい…」
ハッ?!
ーーこんな不幸の連鎖は断ち切らなければならない。ただ幸運で生きながらえ、その上で不幸を撒き散らしてきた私をどうか殺して下さい。
「ごめん、リリゼ」
「どうか俺を一生恨みながら苦しんでくれ…」
ーー苦しくなんかないですよ。こんな心臓の痛みだけで全て許されるのなら優しいものです。
チュッ…
でも何でしょうか。今私は、世界で一番幸せな気がします。
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【アトレイオ】救護所
「んッ……」
目が覚めるとそこは、白い天井が広がり、無臭な世界と、ふかふかのベッドの上。そして、赤い髪の綺麗な女性が隣で寄り添ってくれていた。
「ここは…」
「?!、目覚めたかリリゼ=ストレイナ」
「ルカナ…さん?どうしてここに」
「どうしてもこうしてもあるか!お前がいつになっても目覚めないからだろう!戯け!」
ルカナはリリゼの側で看病を続け、その目覚めをずっと待っていた。そして、今、彼女が長い眠りから目覚めたこと、その喜びの感情を発散させる。
リリゼを強く抱きしめるルカナ。その瞳にはわずかな湿り気を帯びていた。
「何はともあれだ。すぐに皆を呼んで来よう。特にラプラスをな」
「ユリアスさん…。待って下さい、ルカナさん!」
「どうした?」
「あの…私が助かったと言うことは…もしかしてフィリップさんが…」
「案ずる事はない。他の皆も無事だ。全てラプラスのおかげでな!感謝しろ~」
そう言って、ルカナは救護所を出ていく。
ーーユリアスさんが…。
かろうじて残る自分が眠りにつく前の断片的な記憶を辿るリリゼ。
「確か、私や皆さんは一斉に吐血しレイオストルンの毒に侵された…。それからユリアスさんが持ち前のお薬でみんなを助けて回って…」
ハッ?!
何かを思い出すリリゼ。その瞬間、頬と耳を真っ赤に染め上げ、白い掛け布団を目の高さまで上げ、顔を隠す。
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