エクスハンター 〜天と地の王〜

夢見 鯛

文字の大きさ
31 / 34

第10話 『リリゼ=ストレイナ』 act.1

しおりを挟む
 自分がどれだけ恵まれていたのか。それは主観的には分からない。

 ただ、むしろ自分は不幸な人間だと思い込みながら生きていた節がある。

【セルヒノ】
 アルルカ大陸の東部に位置する大国『グランシア』にある都市・セルヒノ。
 住人も多く、商業も盛んで、大国の後ろ盾を得ている主要都市に生まれ、何不自由な生活を送れていた私は、きっとこの先も家族と楽しく幸せに暮らすのだと思っていた。

 父と母と弟のように可愛がっていたショウガラゴのベニと、母の経営する花屋で手伝いをしながら思っていた。あの災厄が訪れるまでは。

 北の果てから訪れた白木衣を纏う赤目の竜。それは、全身をどす黒いオーラで纏い、その黒炎に似た火の玉を街に落とす。セルヒノに訪れた非日常。それは私から全てを奪い去った。

 ズドーーーーーーン!!!!

 瓦礫の下敷きになる私たち。幸いにも母が私に覆い被さっていたことで、一命を取り留めた私でしたが、母は全身の骨を折り動けない状況、父は出払っていて姿は無く、ベニの姿も見えず、唯一その場に居合わせた近所の人に保護され街を後にしました。

「嬢ちゃん!大丈夫か?!」
「え?…あっ、おかあ…」

 グガァァァ!!!!

?!
「白竜さ、そこまできとる。すぐ逃げるでな!」

 私たちに被さる瓦礫をどかし、私だけを担ぎ上げたおじさんは、母の容態を確認するなり、渋い顔をして街の外れへ駆け出す。

 遠のく母親。姿の見えない家族。それらをあの地に置いて平気でいられた自分。その状況に、私は不幸な人間なんだと思うのと同時に、なんて酷い人間なんだと思ってしまう。

 白竜に襲われた都市【セルヒノ】。
 その事件は、後に『蠱毒の大厄災』と呼ばれ語り継がれることになりますが、それはまだ後の話。

「嬢ちゃん…名前は?」
「リリゼ…です。」
「リリゼちゃん。家族は…お母さんだけかな?」
「お父さんと、ベニが…」
「ベニ…。そうか。二人はどこに…」

 私を救ってくれたおじさんの口から母を気にかける言葉は無く、もう存在しないような扱いをされていたことを、今も鮮明に覚えている。

「お母さん?お母さん…」
「落ち着いてリリゼちゃん。もうセルヒノには戻れないんだよ」
「何で、お母さんがお家で」
「変なもんが蔓延してて近づけんのよ。ありゃ不吉な呪いや。ここに運ばれた者の何人かは逝っちまったでな。残念やけど…もう手遅れや」

 街を包む不吉な呪い。その正体を解明することは今の技術では難しく、人が立ち寄れない危険区域として、セルヒノは世界地図から消えることとなりました。

 母を失い、父にも会えず、ベニも見つからない。行く当ても頼る当てもなく、それでも生きていくために狩猟家となり、多くの人に迷惑をかけてきた。街を転々とし、そこで出会う狩猟家の方々の足を引っ張り、明日生きるために必死にやったことが空回りし、パーティを切られ、こんな不幸な人間は他には居ないだろうと思いながら、時が過ぎ、最後に行き着いた南部諸国【アトレイオ】で、またしても同じ過ちを繰り返し、大型種のテデナリアを前に迷惑をかけつつも、命の危険を前にして、貴方に会い、家族に再会し、あの日、あの大厄災の日から止まっていた私の時間は、動き出したんです。


「援護を頼む!」

 ルカナ湿原に響く男の声。
 目の前に佇む大型の蛙に似たモンスター《テデナリア》

「いや、無理だ…こんなやつ三人じゃ無理だ!!!」

 男の救援を耳にも止めず、湿地帯を駆け出し逃げる狩猟家の一人。それに驚き、生まれた隙を突かれ、テデナリアに押し倒される男は沼地に倒れ込み、泥を口に含んでしまう。

 ボボボボッ…ゲホッ…ボボボボッ

 この中で一番戦力のあるハンターがやられ、一人は逃げ去り、残るは自分だけ。しかし、目の間の恐怖心に抗えず、ただ立ち尽くす。体は動かず、それでも何かしなくてはと上げた奇声。

「きゃーーーーー!!!!」

 これで私の仕事は終わった。助けられないのは仕方ない。自分に力がないから。こんな状況になったのはテデナリアが強かったから。私なんかを誘ったから。私が狩猟家に向いてなかったから。今も昔もずっと、こうやって人に迷惑をかけてきた。私は不幸を運ぶ女。それがどれだけ身勝手なことで失礼なことなのか理解しつつも、そう思うだけで心が少し救われる感覚があった。

 きっとそれも今日で終わり。私がいなくなれば、私に関わることで起きる不幸は二度と起きない。そう死を予見した矢先に、貴方が助けてくれた。

 白髪の青年と見覚えのある小動物が。 

------------------------------------------

ーーユリアスさん…ベニ…私は幸せ者だったみたいです。家族を亡くしても涙を流すことなく、人に迷惑をかけ続けても命は繋ぎ止め、そんな身勝手な人生の先で、ベニにもう一度会えたのだから。不幸なわけがない。この世で一番身勝手でズルい女が私です。だから…

「フィリップさんを…助けて下さい…」

 ハッ?!

ーーこんな不幸の連鎖は断ち切らなければならない。ただ幸運で生きながらえ、その上で不幸を撒き散らしてきた私をどうか殺して下さい。

「ごめん、リリゼ」

「どうか俺を一生恨みながら苦しんでくれ…」

ーー苦しくなんかないですよ。こんな心臓の痛みだけで全て許されるのなら優しいものです。

 チュッ…

 でも何でしょうか。今私は、世界で一番幸せな気がします。

------------------------------------------
【アトレイオ】救護所


「んッ……」

 目が覚めるとそこは、白い天井が広がり、無臭な世界と、ふかふかのベッドの上。そして、赤い髪の綺麗な女性が隣で寄り添ってくれていた。

「ここは…」
「?!、目覚めたかリリゼ=ストレイナ」
「ルカナ…さん?どうしてここに」
「どうしてもこうしてもあるか!お前がいつになっても目覚めないからだろう!戯け!」

 ルカナはリリゼの側で看病を続け、その目覚めをずっと待っていた。そして、今、彼女が長い眠りから目覚めたこと、その喜びの感情を発散させる。
 
 リリゼを強く抱きしめるルカナ。その瞳にはわずかな湿り気を帯びていた。

「何はともあれだ。すぐに皆を呼んで来よう。特にラプラスをな」
「ユリアスさん…。待って下さい、ルカナさん!」
「どうした?」
「あの…私が助かったと言うことは…もしかしてフィリップさんが…」
「案ずる事はない。他の皆も無事だ。全てラプラスのおかげでな!感謝しろ~」

 そう言って、ルカナは救護所を出ていく。

ーーユリアスさんが…。
 かろうじて残る自分が眠りにつく前の断片的な記憶を辿るリリゼ。

「確か、私や皆さんは一斉に吐血しレイオストルンの毒に侵された…。それからユリアスさんが持ち前のお薬でみんなを助けて回って…」

 ハッ?!
 何かを思い出すリリゼ。その瞬間、頬と耳を真っ赤に染め上げ、白い掛け布団を目の高さまで上げ、顔を隠す。

「ももももも、もしかして、私、相当ハレンチなことをしてしまったのでは?!」

ーー私は、これからどんな顔して会えばいいっていうんですか!!!

 その気持ちが幸か不幸かなど、改めて理解することさえ野暮であった。

 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

偽夫婦お家騒動始末記

紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】 故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。 紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。 隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。 江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。 そして、拾った陰間、紫音の正体は。 活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。

処理中です...