エクスハンター 〜天と地の王〜

夢見 鯛

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               act.3

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「退院!おめでとう~!」
「おめでとう!」
「おめでとさん!」
「おめでとー」

 レイオストルン討伐から早二週間。周りよりも一周長い療養期間を経て、無事退院することができたリリゼは、討伐作戦に同行した未探家や火熊のヒヅメの面々に囲まれながら、祝われる。

「ありがとうございます!皆さんには大変ご心配をおかけしました。でも、この通り元気になりましたので、安心してください!」

リリゼは晴れやかな笑顔を浮かべながら、周囲を見渡した。
 討伐作戦に同行した未探家や《火熊のヒヅメ》の仲間たち――彼らの顔には、それぞれ安堵や喜びが滲んでいる。

「本当に良かったよ、リリゼ。お前が倒れた時は、どうなることかと……」
 そう言って頭をガシガシとかくのは、バルダンディーだ。
 彼の腕にはまだ包帯が巻かれているが、以前ほどの痛々しさはなく、もうすっかり回復したようだった。

「そうそう。ルカナさんなんて、君の意識戻るまで、ずっとそわそわしてたんだから」
 ニヤリと笑うのは、ユリアスの兄弟子であるミカエルだった。
 彼の冗談めいた口調に、リリゼは思わずルカナの方を見る。

「……そ、そんなことはない」

 そう呟くルカナだったが、耳まで赤く染まっているのがはっきりと分かる。
 それを見たリリゼは、思わずクスリと笑ってしまった。

「でも、心配してくださっていたんですよね。ありがとうございます、ルカナさん!」
「そんなことないと言っているだろ!」

 ルカナはそっぽを向きながら言ったが、その言葉の裏にある優しさを、リリゼはちゃんと感じ取っていた。

「さて、討伐組も全員復帰したことですし、できなかった打ち上げでもしますか!」

 ミカエルの提案で一行はハンターズギルドの食事場でささやかな宴を開くことに。
 バルダンディーやルカナ、フィリップたちは生ジョッキを手に。
 ミカエルは、パインソーダ。
 ユリアスは、オレンジジュース。
 ベニはおちょこに木のみを砕いたフルーツジュース。
 リリゼは、アセロラジュース。

 それぞれ好みの飲みもを片手に、生きてマントライキとレイオストルンのダブルW種を討伐できたことに歓喜の乾杯をする。

「乾杯!!」
 

 一斉にジョッキやグラスが打ち鳴らされ、ギルドの食事場に楽しげな声が響き渡る。
 討伐作戦を共に乗り越えた仲間たちが、こうして無事に揃い、再び杯を交わしている。
 それだけで、リリゼの胸は温かくなった。

「いやー、それにしても、今回の討伐は本当に命がけだったな!」
 バルダンディーがジョッキを豪快に煽りながら、笑う。

「まったくだ。俺たちはともかく、リリゼは本当にギリギリだったからな」
 フィリップも、ジョッキを傾けながらしみじみと呟く。

「うぅ……すみません、ご心配をおかけして……」

「ま、無事だったからいいさ! むしろ、俺たちが一番感謝しなきゃならんよ。お前がいなかったら、全滅してたかもしれねえんだからな!」

「そ、そんな……! でも、皆さんが助けてくれたからこそ、私もここにいるんです!」

 リリゼが必死にそう返すと、フィリップとバルダンディーは顔を見合わせてから、ドッと笑い出した。

「相変わらず真面目だなぁ、お前は!」
「ま、そこがリリゼちゃんの良いところだからな~」

「ちょ、ちょっと! からかわないでくださいよ!」

 リリゼが頬を膨らませると、ミカエルがクスクスと笑った。

「でも本当に、こうして皆で祝えるのは素晴らしいことですよね。……生きて帰ることができた。それだけで、僕は十分幸せですよぉ~」

「パインソーダってノンアルだろ?」
「何で酔ったふりなんかしてんだよ、ミカエル」
「いや、雰囲気雰囲気!つれないな~ルカナさんは」

「……まあ、とにかく今は楽しもうぜ!」

 そんな空気を吹き飛ばすように、バルダンディーが再びジョッキを掲げる。

「おう! 今日は飲んで食って、思いっきり祝おう!」
「おー!」

 皆が賛同し、宴は再び盛り上がりを見せる。

「おっと、ベニ、お前もジュースで乾杯するか?」
 フィリップが、小さなおちょこを持ち上げながら、ベニに微笑みかける。

「きゅっ!」

 ベニは得意げに胸を張り、ちょこんとおちょこを掲げた。

「ぷはぁーっ! やっぱり狩りの後の一杯は最高だぜ!」
 バルダンディーが豪快に笑い、再びジョッキを煽る。

「そんなに飲んで、大丈夫なんですか……?」
「おう! 俺は酒に強いんだよ!」

 そう言ってまた飲み始めるバルダンディーを見て、ルカナが呆れたようにため息をつく。

「……全く、懲りないやつだ」

 リリゼはそんな賑やかな宴の光景を見ながら、ふと隣に座るユリアスに視線を向けた。
 彼は静かにオレンジジュースのグラスを持ち、目を細めている。

「ユリアスさん……楽しんでます?」
「……うん。こうして皆が笑ってるのを見るのは、悪くないね」

 ユリアスは穏やかに微笑み、グラスを軽く揺らした。

リリゼは、その横顔を見つめながら思う。
 彼はどこか儚げで、優しさの中に影を持つ人だ。
 きっと、誰よりも仲間を想い、そして――誰よりも、自分を犠牲にすることを選ぶ人。

(……今度は、私がユリアスさんを支えられるようになりたいな)

 そんな決意を胸に、リリゼはそっとアセロラジュースのグラスを掲げた。

「ユリアスさん、改めて……ありがとうございました」

 彼が救ってくれた命。
 そして、この瞬間を共に過ごせる奇跡に感謝しながら。

 それでも、ハンターズギルドにいるのはリリゼたちだけではない。それも、良い話だけを持ち帰ったわけではないことを、討伐組は身に染みている。

「おい、あいつらだよ」
「あー、かのマントライキと突然変異のバケモンの討伐を指揮していた未探家のやつらか」
「それも後者は秘密裏になッ。とんだ災難だったぜ」

 周りからヒソヒソと囁かれるミカエルたち。

「あいつらのせいで死者が六人も出たらしいぜ」
「マジかよ……まったく、未探家が関わるとロクなことにならねぇな」

 ギルドの隅で交わされる冷ややかな声。酒の勢いも手伝ってか、次第に言葉は辛辣になっていく。

「しかもよ、俺らを盾にしていいとこ取りだけしていったらしいじゃねぇか」
「討伐の指揮だ?笑わせんな。ただでさえ信用ねぇ連中なのに、のうのうと酒なんか飲みやがって」
「しかも、今回の討伐報酬、アイツら結構もらってるんだろ?」
「ふざけた話だぜ。俺らの仲間が死んでんのによ」

 湿った怒りと不信感が、ゆっくりと場に広がる。
 討伐を成功させた彼らを称賛する者は少なく、むしろ疑念と憎悪を募らせる者の方が多かった。

「そんな、さすがにあんまりじゃありませんか!」

 リリゼは堪えきれず、立ち上がるようにして声を上げた。
 周囲の囁きが一瞬だけ止まり、ギルドの食堂に小さな静寂が訪れる。

 しかし、バルダンディーやルカナは気にするなの一点張りで、むしろ落ち着き払った様子だった。

「おいおい、気にするだけ無駄だぜ、リリゼ」
「そういうもんさ。討伐にはいつも犠牲がつきものだ」

 バルダンディーはジョッキを傾けながらぼやき、ルカナは腕を組んでため息をつく。
 そして、噂の中心にいるミカエルに至っては、なんと肩をすくめて笑ってさえいた。

「ははは……ほんと言われたい放題だね。まあ、全部事実だけどさ」

 その軽い口調に、リリゼは思わず息を呑む。
 だが、ミカエルの笑顔の奥にあるものは、単なる開き直りではない。
 その瞳には、まるでどこか達観したような、冷えた光が宿っていた。

「そんな…私たちはアトレイオのために」
「頼られてる間は好意的、結果の不始末は全て責任を負わされ、こうやって悪意的に接される。それが未探家ってやつさ。」

 未探家。特別な資格を有し、誰よりも経験豊富で我が道を突き進む優秀な存在。今まではそう思っていたし、実際、その仕事ぶりを見ても尊敬できることばかり。

 それでも本人たちからしてみれば、とても冷淡で、孤独で、嫌われ役のような言い方をする。

「リリゼちゃんが…この先もユリアスの助手だか彼女だか知らないけどさ…」
「かッ…かの?!」 
 
 ミカエルの悪ガキじみた冗談にいちいち顔を赤くしてしまうリリゼを他所に、話を進めていく。

「ずっと一緒にいるつもりなら、こういう場面は避けられないよ」
「…」
「この先も、君たちの目の前で、何人もの人が死ぬ。その度に打ちひしがれていたら、彼の隣は務まらない…。まあ打ちひしがれるのは至って正常な事なんだけどね」

 ははは…。
 
 バルダンディーもルカナも、口は緩めても目は笑っていない。いくつもの屍を越えてきた者たちのそれであった。

「さて…そろそろ僕も用を済ませたいんだけど…ユリアス」
「トイレか?」
「ギャグもぶっ込めるようになったんだね~成長を感じれてお兄ちゃん嬉しいよ」
「黙れ」

 ははは…
「と、まぁ冗談はさて置いても、どうして数居る未探家の中で僕が来たのか。それについてまだ話してなかったね」
「ミカエルが来た理由?」
「そうだとも。大事な大事な案件だ…」

 先ほどのしみじみとした話口調とは打って変わり、その目は野心に満ち、新しいおもちゃを前にした興奮と期待感を込めたような笑みを浮かべていた。
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