エセ陰陽師と猫又の不自由気ままな散歩旅~飼い猫から魂を分けてもらったので、二度目の人生はウチの子と異世界を謳歌してみせる~

虎柄トラ

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第一章 ティタニアル大陸編 アライア連邦国

第1話 そっか、僕は死んだのか

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 自室で就寝したはずの僕は見知らぬ場所で目を覚ました。
 見渡す限りの大草原に大の字で寝っ転がっている。

「そっか、僕は死んだのか……」

 現実的にあり得ない状況にそう思ったが、天国にしてはとても現実味があった。
 湿っぽい草の香りに青く澄み切った空と日差しの暖かさ、背中に当たる草の感触、胸にのしかかる心地いい重さ。

 それらが僕にここは天国ではないと否定してくる。

「……じゃあ、これは夢か?」

 夢の種類には明晰夢めいせきむと呼ばれるものがある。夢を自覚することで、夢の中を自由に動き回れるというやつだ。
 明晰夢とはいえこれほどリアルに感じるものかと一瞬頭をよぎったが、深く考えたところで意味はなさそうなので、丸めて記憶の片隅に投げ捨てた。

 そんな僕の気持ちを読み取ったかのように、我が物顔で居座る銀色の毛玉が話しかけてきた。

「廻よ、現実逃避をしたところで何も変わらんのじゃ。そろそろ現実を受け入れてはどうじゃ?」

「……いやいやいやいや、猫が人の言葉を話すわけないし、これは夢だよ夢。夢の中で寝れば夢から覚めたりするのかな。よし、早速試してみよう」

「廻よ、我のことを猫と呼んだか? そこいらの野良猫と同じように、我のことをそう呼・ん・だ・か?」

 香箱座りで圧をかけてくる猫は、僕の唯一の友達で名を凛太郎りんたろうという。物心がついた時からずっと一緒にいるサバトラ猫で、名前の由来は凛とした態度から僕がそう名付けた。

「ごめんなさい、凛太郎」

「わかれば良いのじゃ」

 凛太郎は飛び降り毛づくろいをひと通り終えたところで、僕たちの身に起きた状況について説明を始めた。

 どうやら僕は異世界転生、転移どっちか分からないけど、とりあえず異世界にいるようだ。

 芦屋廻あしやめぐるという人間は、成人する前に人生を終えたらしい。病弱だったこともあって、外で遊んだこともない子供だったし、運動を通学できるほどの体力もなかった。そのため家庭教師や通信教育ばかりで、友達をつくるきっかけは僕には一度も訪れなかった。スマホやパソコンは家にはあったけど、自由に使うことはできなかった。日がな一日読書をして過ごすか、飼い猫と遊ぶぐらいしかなかった。
 自分が死んだと言われてもピンとこなかったし、どこか他人事のように思えた。色褪せた世界でただただ生きるだけの何もない日々だったからだろうか……。

 そんな生涯を憐れんだ凛太郎は、僕に第二の人生をプレゼントしてくれた。転生するにも制約があるようで、転生する場合は元の世界ではなく、別の世界を選ばなければならない。その別世界の中で、前世に近い状態で転生できる世界がこの【イヴァリエーシュ】と呼ばれる異世界だった。

 そんな大掛かりな転生が無償なわけもなく多大な代償を支払った。凛太郎は妖力の大半を失い、全盛期の一割にも満たない僅かな妖力しか残らなかった。

 ウチの子はただの可愛いもふもふ猫ではなかったということだ。その正体は平安時代から現在に至るまで生き続けた猫又と呼ばれる妖怪だった。二股の尻尾が生えてはいたが、まさか飼い猫が妖怪だとは思いもしなかった。鳴き声とか挙動も至って普通で、どこにでもいるような猫だったからだ。

 家族の誰一人として気づかなかった。まさに完璧な偽装、手放しで褒め称えたいぐらいだ。

 転生による魂の消耗は予想以上に激しかったらしく、僕をこの世界に留めるためにはその消耗した魂を補助する必要があった。そこで凛太郎は二つある魂のうち一つを僕に分け与えた。
 そのため僕もまた凛太郎の妖力を身体に宿すことになった。その妖力を消費することで超常現象を発現させる妖術が使用できるらしい。

 凛太郎は説明を終えると、まん丸の目をこっちに向けてきた。

「――簡単にまとめるとこんな感じじゃ。廻よ、何か質問はあるか?」

「色々と訊きたいことはあるけど、まずどうしてこの服なんだ?」

 僕の質問に対して凛太郎はじーっと見据えてたまま「何が不服なのじゃ……」と愚痴をこぼした。

 大草原に素っ裸じゃないだけ数百倍マシだけど、なぜに狩衣かりぎぬ指貫さしぬきなのだ。白無地の狩衣と紺無地の指貫で、どっちにも猫の肉球を模した紋が入っていた。もちろん靴もスニーカーとかじゃなくて浅沓あさぐつである。

 これらは時代劇とかでよく見る公家が身にまとっている衣類で、端的に言うと陰陽師が着ているあの服だ。そんな雅な服装を身にまとった状態で目を覚ましたら、誰だって僕と同じような反応をするはずだ。

 凛太郎のセンスは平安時代から変わっていないようで、僕が何を言っても「普段着といったらこれじゃろ?」の一点張りだった。用意してもらった身としては、甘んじて受け入れるしかなかった。これ以上反抗してしまうと、一張羅も剝ぎ取られてパンツ一丁にされそうな気がしたのでやめた。

 凛太郎の目には洋服はセンスの欠片もないものに見えていたのだと、この時はじめて知った。
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