エセ陰陽師と猫又の不自由気ままな散歩旅~飼い猫から魂を分けてもらったので、二度目の人生はウチの子と異世界を謳歌してみせる~

虎柄トラ

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第二章 ティタニアル大陸編 クラーク共和国

第45話  一度しか言いません、質問も受け付けません

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 驚嘆の声が部屋に響き渡る中、トントントン……と、扉を叩く音がした。こんな朝早くから誰かが尋ねに来たようだ。
 アラームの設定時刻についてもそうだが、この世界の人々は朝に強い。だけど……この時間帯に部屋まで突撃してきた人は初めてかもしれない。

 冒険者の町ソレイユですら、こんなアクティブな行動をする知り合いはいなかった。それがまさか国境町プレアで、しかも二日目で出会うことになるとは予想だにしていなかった。

 アラームも止めてしまったことだし、僕がもう起きていることは……アラームが止まっている?

 あの五月蠅かったアラームがいつの間にか止まっていた。
 どうやら宿泊者がベッドから離れると、自動で停止するように設定されているらしい。

 壁掛け時計の文字盤上部にレンズらしきものがあった。あれで僕の動きを感知しているのだろう。

 観察している場合じゃない。誰かは知らないが、いつまでも外で待たせるわけにもいかない。
 一気に色々と起こりすぎて、まだ頭の整理はできていないが来訪者を迎えることにしよう。

 リンも『出ぬのか?』という感じで、こっちを見ている。

 僕は洗面台に備え付けられた鏡で軽く身なりを整えると、覚悟と決めて扉を開けた。

 扉の先にいたのは、騎士服をまとった可憐な少女だった。スコティッシュフォールドのような垂れ耳と俯き加減な姿勢。その条件を満たし該当する人物は一人しかいなかった。

「おはようございます。こんな朝早くに何かようですか……イシュラさん」

「…………」

「あの~とりあえず部屋入ります?」

「……変態」

 イシュラは僕の誘いを拒否する一言を発すると、それ以上は何も言わず口を閉ざした。

 思いのほか攻撃力の高い言葉を投げかけられたことで、僕もまた彼女と同じように口を閉じた。

 あれ、会話ってこんなに難しかったっけ……会話はドッチボールとか言うけど、下投げで優しく投げたボールが、上投げでの全力投球で返球される。

 イシュラがこんな朝っぱらから会いに来たということは、何か至急の用事でもあるのだろう。というか、それよりもまず僕は誰にもどの宿屋で泊まるのか教えていない。彼女はどうやって僕がここにいると分かったんだろう……深く考えるのはやめておこう。
 ただでさえ開口一番にダメージを受けたというのに、これ以上余計なダメージは受けたくはない。僕のメンタルが持ちそうにない。

 イシュラが用件を話し出すまで大人しく待つほかなさそうだ。ただできることなら、早めに切り出してもらえるとこちらとしては非常に助かる。

 彼女を部屋に迎え入れようとして、差し出した左手が空中で彷徨っている。右手はドアノブを掴んだまま硬直している。
 気まずい空気に晒されながらの、この体勢は思った以上にしんどい。

 実時間にして約十秒、体感時間にして約一分が経過した時だった。

 プツリ、プツリと断続的な音が聞こえた。よくよく耳を澄ましてみると、その音の発生源は目の前にいる彼女のようだった。

「あ……に……を……する」

 部屋と廊下の境を見つめながらイシュラが、か細い声で何かしゃべっている。
 ここに来た目的を話してくれているのだろうけど、驚くほど何を言っているのか分からない。

「……ごめん、ちょっと声が小さくて聞こえない」

 僕がそう言うと、彼女は視線を上げてもう一度話してくれた。

「姉の命令により、町を案内します」

 前髪の隙間から鋭い目でこちらを睨みつけている気がするけど、きっと気のせいだ……気のせいだと誰か言ってくれ。

「えっ、なんで? ラシュツさんが君を、どうして?」

「はあ~五月蠅い……行きますよ」

 イシュラはこれ見よがしに悪態をつきながら、宙に浮いていた僕の手首を掴み引っ張った。
 さっきまでの人見知りだった彼女はどこに消えたのか。その行動的な仕草に戸惑ってしまったが、なんな前にもこんながあった気がする……あっ思い出した。

 この態度の変わりようは彼女によく似ている。

 イシュラもまたガレスみたく受付嬢と冒険者スタイルを使い分けるタイプかもしれない。今朝の彼女は昨日のように防具を装着していないから、そう勝手に判断したけど強ち間違ってはいない気がする。
 彼女の場合だと、騎士と……もう一つはなんだろう? それはそうと直感が告げている。いまここで彼女に逆らったら、面倒くさいことになりかねないと……なので、潔く案内してもらうことにした。

「分かった。だけど、その前にこうなった経緯だけでも教えてもらえないかな……」

「はあ~一度しか言いません、質問も受け付けません。それでいいですか?」

「あ~それで……大丈夫なので、お願いします」

「端的に説明します。昨日のお礼です、以上。では、行きますよ」

 前段どおりイシュラは手短に話を終えた。
 さすがに端的すぎないかとツッコミをいれそうなったが、グッと飲み込んで胸の内にとどめた。

 それから僕は彼女に手を引かれるがまま町中を巡った。
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