断罪

宮下里緒

文字の大きさ
4 / 70

四話 そして、悪意は静かに世界を犯す。

しおりを挟む
大口大介が調理室に戻った時すでにそこに皆の姿はなく食堂に移っていた。

大介たちの姿を見つけた恵子たちは不満げにこちらを見たがそれ以上は何も言わなかった。

みんな大介を恐れて彼らの行動を黙認したのだ。

大介はそれが愉快でたまらなかった。

同級生はみんな馬鹿に見えた、意味なく悪党を気取る男子、無駄に着飾る女子、何もかもが醜悪に見えて大介はそんな彼らと関わるのをやめた。

そしてその結末は同級生たちによる嫌がらせだった。

別に同級生全てがそれに加担しているということはなかったけど誰も助けてはくれなかった。

そうゆうもんだというのは分かっていた、クラスでいじめられているのは別にオレだけじゃないけどオレもそいつを助けたことなどなかっただからみんなも同じそれだけだ。

けどこの日々はあまりにも辛かった。

だって自分は何も悪いことなんてしていないただバカどもを見下しただけだ、なのにどうしてこんな不当な目に合わなければいけないんだ。

ストレスで頭がおかしくなりそうな時だってあった、それでも何とかやってこれたのはこの施設があったからだ。

ここはまさに自分の王国だった、ここの子供では自分が一番年長であり必然的に逆らう者は誰もいなかった。

別に年下の子達に無理難題を押し付けたりはしなかったが子分のような彼らは便利だった単純でそそのかせば簡単に行動してしまう無知なガキは本当に愚かだなと大介は思う。

けどそのおかげで大介のストレスはだいぶん収まっていた王様の気分だった。

自分のやっていることがどれだけ最低かなんてことは分かっている時たま激しい自己嫌悪にも襲われた、それでもやめることなんてできなかった。

そして今日面白い話を聞いた、廊下で大志と司が話してたことだ。

毎月この施設に来る男、奴の名は時実泰三というらしい何でも院長の息子だそうだ。

そんな話には興味はなかったが話を聞く限りこの二人はその男に恨みを抱いているようだった。

なんでも院長をいじめるのが許せないとかなんとか。

その思いはよく分からんがこれを利用しない手はないと思う。

正直なところ自分からしてもあの男は邪魔な存在だった、いつも怒鳴り散らして存在するだけで迷惑だ。

まるで自分の領地を侵略された気分だ。

だから怒りに燃える大志と司をそそのかした。

そんなにむかつくなら襲えばいいと。

二人はためらったがアイツは悪人なんだしここには大人がたくさんいるから大丈夫とこのままじゃ院長先生が可哀想だ君たちの正義の力で救わないとと脅迫まがいに説得し彼等も実行に移す気になったようだ。

具体的にどうするかは知らないが過激なほどいい、彼らの行動であの男をどうかできるとは思えないがあの男のことだ子供に襲われ黙っているわけがない、必ず報復に来るそしたら大人たちは必死に止めるだろうそして二度とあの男が施設に寄り付かないようにするだろうそうなれば思い通りだ、いやうまくいけば警察沙汰になりあの男を社会的にも抹殺できるかも、そう思うと彼の口は自然と笑みを浮かべていた。

そしてその口にできたてのカレーを運んだ。

カレーは少し辛かった。





食事とお風呂を終え部屋に戻った百合は寝る前にいつもの日課である日記をつけ始めた。

日記は彼女の机の裏にテープで張られ隠されている、彼女はそれを手に取り今日一日の分を書き始めた。

日記の始まりは午前六時三十二分十七秒起床から始まっていた。

次に続くには同時刻三十四分着替えと続いていた。

それは日記にしてはあまりに感情のないどちらかというと記録帳のようだった。

彼女はそれを記しながら今日一日の自分を保管してゆく。

いつもならこれは何の感慨もわかない自己記録でも今日は違った。

百合は先ほどの調理室のことを思い出しながらそれを記す。

それはいつものように終わるはずだった、けどいざ料理を始めようとすると同じ当番の近衛大志・響司・そして唯一の中学生大口大介の姿が見当たらなかった。

しかたなく唯一残った恵子と調理を始めることにした。

林田恵子は百合にとっては大切な友人だ、いつも自分を気にかけてくれかといって変に深入りをしてこない百合にとっても申し分ない存在だった、だから必然的に仲良くなっていった。

料理自体は順調に進んだが途中恵子がジャガイモを多くむきすぎたことにより急遽ポテトサラダを作ることとなり人手が足らなくなった。

そのために恵子に他の三人を探しに行かせたのだけどそれがまさかあんな幸運につながるとは彼女自身思ってもいなかった。

ちなみに恵子を行かせたのは傍にいた工藤先生に調理を放棄したと思われたくなかったためであった。

恵子が出て行ってしばらくすると桐村修が話しかけてきた、なんでも大変そうだから手伝おうかという内容だ、ほんらいなら他の人に手伝わすことで自分の評価を下げることなどしたくはなかったのだがここで断れば工藤先生に変な風に思われると考え承諾した。

そして彼はもう一人暇そうなやつを連れてくるといい数分後戻ってきた彼といたのは道長慶介であった。

それは百合にとっては予想外のことでまさに棚から牡丹餅といった感じであった。

道長慶介、金城百合は正直彼にまだ慣れていない。

この施設に来てもうすぐ一年になるが未だに名前を間違えるのはまずいと思う。

今日だって言い間違えそうになった。

彼の方はそんなことないというのに。

だからなるべく話して慣れようとしたのだけど、なかなかいい機会に恵まれなかった。

だから今日はほんとうについていたと思う。

桐村くんには感謝しないと、百合はそう思う。

物思いにふけながら日記を書いていたせいか、日記に書いてあった慶介の名前をまた間違っていることに気づき百合は慌てて消しゴムで消した。



時刻は午後十時半この時実養護施設の消灯は午後九時、子供たちはすでに夢の世界に居る。

神山京香は現在見回りの途中だ懐中電灯を片手に暗い廊下を歩いている。

この見回りが終われば本日の仕事は終了なのだが京香はこの見回りが何よりも嫌だった。

もともとオカルトの類が苦手な彼女としてはこんな見回り自体が嫌なのだがこの場所の怪談を知っていると余計足が重くなる。

ビクビクと身を震わせながら進んでいくと闇の中で一筋の光が見えた。

「あれは・・・」

その光に近づいてみる、光は相談室から漏れ出していた

誰かいるのだろうか?

そう思いドアノブに手をかけたところでギクリとした。

声が聞こえてくる、いや声というよりは嗚咽。

意を決して扉を開くとそこには、

「院長?」

院長こと時実葉早子が顔を伏せ椅子に座っていた。

京香の声に反応し顔を上げるとシワの目立つ優しそうな顔が見えた、目は赤くはれている。

どうみても泣いていたようだった。

「ああ、神山さん。そう、巡回の時間だったわね。ごめんなさいついうたた寝してしまったみたいで」

そういいながら早子は立ち去る、京香はその後ろ姿に何も言えなかった。

ふとみると早子の座っていた真正面の椅子にも誰かが据わっていた痕跡があった。

誰かと話していたのだろうか?

そう疑問に思いながら京香は巡回を続けた

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...