断罪

宮下里緒

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三話 子供たちの思いはカレー味

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夕食時の時見養護施設、その調理室にて野菜当番の林田恵子は無心にジャガイモの皮をむいていた。

同じ当番の響司、近衛大志、そして肉当番で一番年長の中学生の大口大介君は夕方から姿が見えないままである。

施設での夕食は当番制だ。

みんなで協力しご飯を作る。

ちなみに今夜はカレーライス、恵子もその出来上がりを楽しみにしていたのだが。

『もーアイツらどこ行ったんだろう?』

プンスカ怒りながら次のじゃがいもに手を伸ばそうとしたとき、

「むきすぎじゃないかな?」

と止められてしまった。

「えっ?」

見ると目の前にはボールいっぱいのじゃがいもの山、どう考えてもこんなには使わない。

「ご、ごめん考え事してて!どうしよこれ・・・」

「そうだね、せっかくむいたんだしポテトサラダでも作るよ」

不安げな声を上げる恵子に微笑みかける少女。

その表情には恵子と同じ小学4年生とは思えないほどの大人びた雰囲気が漂っている。

「ポテトサラダって百合ちゃんそんなこと出来るの!?」

「うん、大丈夫だと思う」

百合と呼ばれた長髪漆黒の少女はそう答える。

彼女の名は金城百合、この施設きっての美少女だ。

正直その容姿は小学4年生ながらその辺のアイドルより断然可愛いというすさまじき者。

おまけに性格もいいので人気者だ。

そんな彼女に恵子は憧れを抱いていた。



ほんとすごいな百合ちゃん何でもできて。

「どうしたの?ボーっとして」

不思議そうに私を見る百合ちゃん、どうやら呆けてしまっていたらしい。

「うんうん、なんでもないよ。それより男子どもどこ行ったんだろう?まったく当番サボってアイツら~」

ぐぬぬ~と握り拳を作る。

「そんなに気になるなら探してきたらどう?私は一人で大丈夫だから」

「でも・・・」

「どっちにしてもこの量二人じゃ無理だからお願い」



百合ちゃん一人にこの場を任せるのはなんだか悪い気がしたけどそう言われて断るわけにもいかず私は工藤先生に断りを得て三人の捜索に行くことにした。



調理室を出るとそこには薄暗い廊下が広がっていた。

調理室の活気とは無縁の別世界、薄暗い蛍光灯に照らされるのは薄汚れた廊下だけ。

「なんだか、気味が悪いな・・・」

そう、恵子が思うのは仕方のないこと。

この施設はその昔は学校だったらしいが今の院長の旦那さんが廃校になった際このままなくすのは惜しい、まだまだ子供たち役に立てると改良し養護施設にしたそうだ。

しかしこの施設年代物の学校を改造したせいもありとても薄気味悪いものになっている。

おまけに変な噂も最近たってきている。

何でもここには懲罰房があり昔そこに入れられた生徒が心臓麻痺で死んでしまいそれ以来その子の霊が出るというなんともありきたりの話、けれどこの雰囲気と異様にまっちしとても恐ろしい話に思える、特に小学生には。



「電気もっと明るければいいのに」

愚痴をこぼしながらも恵子の足取りはしっかりしている。

それは彼らの居場所の見当がついているからである。



そこは階段裏にある物置場のような場所。



ここには人通りがない、昼間も夜も誰もこの階段を使おうとはしない。

この階段は玄関から一番近いところにあるので二階に上るには一番効率が良いのだが皆避けるようにここから十メートル程先にあるもう一つの階段を使っている。

別段特に異常はない普通の階段、けれどその階段の下には例の懲罰房があった。

だからみんなこの場所を怖がり避けていた。

けれどそれを逆手に取りこの場所を自分の基地にしていたやつがいた、それが大口大介だった。

彼は一言でいうと根暗で嫌な子であった。

人とはあまりかかわりを持たず自分より強いものからは逃げ弱いものには強気に出る。

中学生でありながら小学生グループに一人混じっていたのもそういった経緯からくるものであった。

恵子はそんな彼のことがひどく苦手であった。



恐る恐る階段に近づくと話し声が聞こえてきた、どうやら三人とも一緒に居るようだ。

小声で話しており何の話かはうまく聞き取れないが単語のいくつかは耳に入った。

『むかつくんだよ』『許せないよ』『なら、襲う…』

聴き取れる単語は何やら物騒なものばかり。

なにこれ?

何の話?

聞いてはいけないことを聞いてしまった気がし恵子は恐ろしくなり引き返すことにしたのであった。



調理室のドアを開けると百合は静かに出迎えてくれた。

「お帰り、みんなは見つかったの?」

百合の言葉に恵子は首を振る、さすがに先ほどの話をする気にはなれなかった。

「ごめん見つからなかった。せっかく一人でしてくれたのにごめんね」

申し訳なさそうにうつむく恵子を百合は励ます。

「大丈夫、桐村くん達が手伝ってくれたから」

「え?」

調理台の方を見るとそこには同じ四年生の桐村修と道長慶介が鍋に具をいれているところだった。

「アイツらが何で?」

「うん、一人じゃ大変そうだからって桐村君がね道長君も桐村君に連れられて。おかげでだいぶん助かっちゃったよ」

「そう」

とりあえずいつまでも話しているのは申し訳ないので二人の元へと行く。

「ごめん、料理当番でもないのに手伝わしちゃって」

「いいよ別に、ごはん遅れるのも嫌だし」

そうぶっきらぼうに桐村修は答える。

「道長君もありがとう」

「ああ」

こちらの返事もそっけない、というかあんまりなんとも思ってないようだった。

カレー作りはもう終盤まで来ており後はルーを入れて煮詰めるだけだった。

本来ならこの後もいろいろ味付けしたいところだが小学生の作るカレーにそこまでの技術はいらないだろう。

長方形の台に四人の人物。

廊下側からみて右側に恵子と修左側に百合と慶介といった組み合わせだ。

この組み合わせは男子がそれぞれ左右に陣取っていたので女子も分かれることになったんだが、そこに思惑があることなど少女たちは知る由もなかった。

それぞれの担当は、恵子・修チームがカレーの仕上げ、百合・慶介チームがポテトサラダと皿の配置である。

百合と慶介はたわいもない話をしながら皿を配置している。

話というよりは百合が一方的に話、慶介が相打ちを打つといった会話にならないただの問答、慶介はそれを無表情にただ淡々と答えているだけだったが百合はとても楽しそうに見えた。

それが恵子からすればとても新鮮な光景だった。

金城百合は誰に対しても優しく愛想も良かったがどこか人との間に壁のようなものを作る傾向があった。

みんなと遊んでいてもどこか一歩引いた感じで見ている、笑っているときも本当に楽しんでいるわけではないそんな感じだった。

恵子もそれには気づいていたがだからといって百合に対して険悪感などは一切抱かなかった、むしろ自分が彼女の心を開かせようと燃えたほどだった。

そんな彼女が今は本当に楽しんでいるように見えた、あの笑顔は作り物ではなく百合自身の本当の笑顔。

慶介のあのぶっきらぼうなあの態度のどこにそんなに笑えるところがあるかはわからないけど、百合の笑顔は本当に可愛らしく恵子も心なしか胸が弾んだ。

なにはともあれ慶介には感謝するべきだろう。

そんな心躍っている恵子をよそに隣にいる桐村修の心中は穏やかではない。

桐村修、彼は一言でいえば金城百合に惚れている。

今日も手伝いという名目のもと彼女に会いに来た、けれどさすがに二人っきりになる勇気はなかったので近くにいた道長慶介を半ば強引に連れてきたのだったが、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。

慶介なんか連れてこなければよかった、そんな後悔が頭をよぎる。

自分勝手な言い分だがそう思うのも致し方のないことだろう、それだけに彼は百合を愛してたのだから。

小学生の恋愛に対して愛するというのはいいすぎな気もするが彼の気持ちはそれ程までに深かったのだ。

だからこそそんな彼女と仲良くしていた慶介が許せなかった。

いらだちの余りカレーを混ぜる手に力が入りあたりにカレーを飛ばしてしまう。

「ちょ!なにやってんの!!力入れすぎ」

恵子はそんな修に声を上げる。

なにごとかと談笑していた百合と慶介もそちらを見る。

「わるい手が滑っただけだから」

そう答える修を三人はどうしたものかと目を合わせるのだった。

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