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18話 神域への入り口
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薄暗い部屋で装飾の豪華なソファーに腰掛けパソコンと格闘することかれこれ二時間、小休止を入れようと那岐は少し背の低いガラステーブルのせいで丸めていた背中を弓の様に反る。
むりな体制をしていたせいで多少の痛みはあったがパキリという音と共に体の曇りが晴れるかのような爽快感が広がりほっと溜息を吐く。
軽く腕を回したり腰をひねり体をほぐすと那岐は再びパソコンの画面と向き合う。
画面映される彼が製作中のレポート、この結果をまつ海の向こうの老人たちの考えるとこのデータを処分したくなる衝動にも駆られるが一時的な激情に流されるなと己を戒める。
そう、ここには人類の未来を担う神の情報がある。
那岐は疲れた目を細めレポートを読む。
神と呼ばれる地球外生命体、彼らの研究は生きた素体であるナキを手に入れたことで大きく進展を見せた。
元来までは地下に眠るヒルの亡骸や古代の文書を研究対象としていたが数百年前の遺体ではやがて行き詰まりを見せた。
本土にわたりもっと大きな研究機関で調べることができれば話も違ったのだろうが、神の存在はあくまで秘匿されるもの何の成果もなくそんなものをこんな研究を公にすればよくて笑いもの最悪のケースは研究そのものを奪い取られることだ。
そう考えた那岐いや黒絵家はこの調査はあくまで己だけのものとして隠し続けた。
協力者もごく一部、己たちが信用したものだけに限定したため人手はどうしても足りなかったがナキは思いのほかこちらに協力的であったためこの数年である程度の目標は達することができた。
ナキを手に入れた那岐がまず行ったのは神と呼ばれる存在その者が生物としてどのような存在なのかを知ることだった。
那岐は神であるナキたちの事は最初からいると認めておりその力も承知ではあったが蔵星の家の様に彼らを神として拝み奉るようなことはせずあくまで彼らは神と称されるただの生命体でしかないと認識していた。
だからこそ、彼らの事を調べ上げ神から生命体へと存在を堕とし人間が御せるものだと確信を得たかった。
結果わかったことは彼らは人間に近しくもその常識を超える生命体であるということだった。
彼女の研究方法は主にナキ自身の証言とそれを照合するための彼女の体を使った検査をもちいた。
ナキは大切な実験体である手荒の事をして命を落とさせるわけにもいかないのであくまで慎重に那岐ははやる気持ちを抑えながら血液検査やレントゲン検査など簡易的なもので済ませていった。
しかしその検査もばかにはならない、調べていくうちに意外な事実が判明した。
彼らは神は我々人類とその体があまりに似通っていた。
その外見や残されたヒルの化石からある程度の類似性はあると理解していたが、まさか内面まで酷似しているとは那岐自身も予想していない事実である。
骨格はもとより内蔵の位置や血液、細胞までもが人類と似通っていた。
もちろん完全に一致しているわけではなければ、今ここにある技術では理解できないところも多数あった、しかしこの事実は那岐に一つの仮説を思わせる。
伝承ではヒルはこの島のかつてこの島の女たちと自身の子を作り己が遺伝子を持つ新たな生命体を作り出したという。
それがかつてもあったとしたらどうだろうか?
以前ヒルやナキがこの地に来るより昔にこの星へ現れた神を名乗る生物、その子孫たちが今の人類だと推測すれば彼らと人類が似通っていることも説明がつかないことは無い。
実際人類は神が作られた存在だという神話も世界各地に残っている。
それが事実なら、彼ら神は人類の祖先、始祖たる存在だということだ。
そうなれば人類は真の意味で神の子供たちということにもなる。
神の子供、そう思うと那岐の心には、妙な高揚感がわいてきた。
けれど、それは人類皆に言えること。
自分はその中でも特別な存在になりたい。
そんな彼の思いが作り上げた計画、それが人類促進研究だった。
那岐が着目したのはかつてのヒルの行い。
人々を隷属とした契約の儀と人類との間に己の子を作るという行為。
この二つを利用すれば人類は驚異的な勢いで新たな領域へと行けるのかもしれない、そう考えたのだ。
まず、那岐が目を付けたのは契約の儀だった。
書物に記されるとおりだと契約を果たした人間は人の身でありながら人知を超える力を手にしたとされる。
これが本当なら現人類がそのまま神の領域へと入れるということ。
問題はそこにリスクがあるかということ。
過去の人々は契約主であるヒルにその身を操られそれがきっかけで神殺しが行われたという。
それが事実ならいきなり暗礁に乗り上げたことになる。
なんとか事実確認を取りたいと考えていた那岐のもとに意外なところから実験サンプルが手に入った。
それが彼の友人である飯屋透だった。
そう飯屋透は黒絵那岐にとって間違いなく数少ない友人の一人だ。
歳こそ離れていたが、この島で権力者である那岐に臆目もなく話しかける透は彼にとって新鮮で興味深いものだった。
そう最初に彼に関わったのは好奇心が故の事であった。
きっかけは彼の両親を那岐が研究員として黒絵家へ招き入れたこと。
島の外では優秀であるがその研究対象から色物扱いされ島の中では島民たちによそ者と疎まれていた彼らの存在は人手不足であった那岐からすればまさに天からの贈り物のようなものであった。
神を信じない男に天からの贈り物というのも奇妙な話ではあるが。
そうした中で出会ったのが透だった。
透は覚えていないだろうが幼い彼は両親に連れられこの黒絵家へ何度も足を運んだことがある。
そんな彼を那岐は不器用ながらも相手をしていた。
透が那岐を慕うのはこのあたりの記憶がおぼろげながらに残っているのかもしれない。
そして那岐もそんな幼少期より知る透に少なからず感情輸入してしまう。
子供は苦手だと思っていた那岐には意外な自身の発見だが、子供が生まれた後の子煩悩りを考えるとそう不思議なことではなかったのだろう。
何より島の外の人間でありながら外の世界を知らないという境遇は興味深いものだった。
外のものがこの島に訪れることすら珍しいのに、外の者でありながらその世界を知らない哀れな少年はまるで鳥かごの鳥だ。
外に恋い焦がれながらもはばたくすべを知らない存在は鳥かごの主に魅入られる。
そんな彼が神の力を受け取った契約者となったのは天命だと那岐は感じた。
そしてこの事実はナキが蘇ったことも意味していた。
だとしたら匿っているのは星蔵の者たち、そこまでの推測はすぐに立った。
後はどうすればナキを星蔵より追い出すかが問題だったがその解も透の体を観察するうちに那岐には見えてきた。
透の変化は那岐からすれば顕著なものであった。
これまで武術など全く興味を持っていなかった彼が教えを乞うてきたのがそのいい例だろう。
今にして思えば自身の体の変化を試すためのものだったのだろうが、当時の那岐はそれを思春期男子特有の強さへの憧れかとも思い気にはしていなかったのだが。
いざ教える段階になり彼のその成長速度に大きな違和感を覚えた。
よく覚えの良い天才肌の人間を一を聞いて十を知るだとか、スポンジのような吸収力などと例えられるが那岐は始めからこちらの動きが分かるかのような体の運びをして見せたのだ。
しかしそれは達人の者とはまるで違う素人の足運び。
だというのにそれなり鍛錬を積んできた那岐の動きを完全に読み切ったその動きはもはや予知能力者のようで、それが最初のきっかけ。
そして、一度那岐の動きを見ただけで体捌きまでマスターしてしまったことで疑惑は確信へとなった。
これは何かあると。
そして、彼が最近星蔵の屋敷へ堂々と出入りしている事実と踏まえるとナキの復活それが仮説として出てきたのだった。
そしてその仮説はまた一つの変化により現実味を帯びてくる。
それは透が那岐の下へ通い始めてからい一年ほどたったころから起こり始めた。
その変化を那岐は最初ただの貧血だと思っていた。
一連の稽古が終わり、いつもなら言われることもなく道場の清掃に入る透が壁際まで重いリュックでも背負ってるかの様な、ゆっくりとした足取りで向かったかと思うとそのまま壁を背にズルズルと座り込んでしまったのだ。
疲れたのだろう。
最初は那岐はそう思い軽い気持ちで声をかけてみた。
けれど声をかけてもわずかに頭が動くだけでそれ以上の反応はなく、うなだれている。
流石におかしいとのぞき込むとその顔は血の気が引き白というより青白い再び呼びかけるも意識がないのか次は反応すらしなかった。
呼吸はしっかりしているのでそこまで危険な状態ではないのかもしれないが突然のこの状況に那岐の疑問は尽きない。
単なる疲れか、それとも別に要因があるのか?
とりあえず道場横に設置してある休憩室のベッドに寝かせつけた透は眺めながらこれはチャンスなのではと考える。
その時の行動はまさに衝動的なものでしかなかった。
もし彼が本当に契約を交わしているのならその体にも何らかの変化があるのかもしれない。
そして、その結果次第ではナキの復活は確定的なものになる。
純粋な興味が那岐を動かす。
どだい宝箱を目の前にして開けるなという方が無理な話なのだ。
そうして那岐はその手に採血用の注射器を握る。
せめて血液検査だけでもと考えての事だ。
しかし、いざ採血しようとしたとき那岐の手は阻まれる、他でもない透の手によって。
「私に触るな。人間」
それは透でありながら透ではない何者かの声であった。
その顔も声も透に間違いがいないのにその雰囲気がまるで別人へとなっていた。
そう雰囲気が変わっただけそれだけなのにこうも別人だと思えてしまうものなのか?
「今すぐその針を私から離せ」
「これは治療用だ。お前透か?この体は今弱っている。わかるか?」
半分は嘘だが半分は本当だ。
どっちにしろ透の容態は調べなくてはいけない、それを透の姿をした正体不明に那岐は根気よく説明する。
最初は疑惑の目を解かなかったソレもその体にやはり違和感を覚えるのかやがてはしぶしぶと言った様子で納得する。
「透がこうして意識を失うのは契約当初以来だ、貴様に任せよう」
それが透の体を操るナキの最大のミス。
契約という単語をうっかりと口にしてしまった。
その単語を聞き取った那岐は笑みをこらえるのに必死だった。
なんて愚かな神だと。
そうして那岐はナキの復活と透がその契約者であることの確定、そして彼の体を調べることで透の体に起こっている異変、ナキが透に対して情があることを知り全ての条件を整えた彼は透の命を揺さぶりとして今こうしてナキをその手中へと収めた。
全ては思い通りに進んでいたはずだった。
そう、あの事件が起きるまでは。
むりな体制をしていたせいで多少の痛みはあったがパキリという音と共に体の曇りが晴れるかのような爽快感が広がりほっと溜息を吐く。
軽く腕を回したり腰をひねり体をほぐすと那岐は再びパソコンの画面と向き合う。
画面映される彼が製作中のレポート、この結果をまつ海の向こうの老人たちの考えるとこのデータを処分したくなる衝動にも駆られるが一時的な激情に流されるなと己を戒める。
そう、ここには人類の未来を担う神の情報がある。
那岐は疲れた目を細めレポートを読む。
神と呼ばれる地球外生命体、彼らの研究は生きた素体であるナキを手に入れたことで大きく進展を見せた。
元来までは地下に眠るヒルの亡骸や古代の文書を研究対象としていたが数百年前の遺体ではやがて行き詰まりを見せた。
本土にわたりもっと大きな研究機関で調べることができれば話も違ったのだろうが、神の存在はあくまで秘匿されるもの何の成果もなくそんなものをこんな研究を公にすればよくて笑いもの最悪のケースは研究そのものを奪い取られることだ。
そう考えた那岐いや黒絵家はこの調査はあくまで己だけのものとして隠し続けた。
協力者もごく一部、己たちが信用したものだけに限定したため人手はどうしても足りなかったがナキは思いのほかこちらに協力的であったためこの数年である程度の目標は達することができた。
ナキを手に入れた那岐がまず行ったのは神と呼ばれる存在その者が生物としてどのような存在なのかを知ることだった。
那岐は神であるナキたちの事は最初からいると認めておりその力も承知ではあったが蔵星の家の様に彼らを神として拝み奉るようなことはせずあくまで彼らは神と称されるただの生命体でしかないと認識していた。
だからこそ、彼らの事を調べ上げ神から生命体へと存在を堕とし人間が御せるものだと確信を得たかった。
結果わかったことは彼らは人間に近しくもその常識を超える生命体であるということだった。
彼女の研究方法は主にナキ自身の証言とそれを照合するための彼女の体を使った検査をもちいた。
ナキは大切な実験体である手荒の事をして命を落とさせるわけにもいかないのであくまで慎重に那岐ははやる気持ちを抑えながら血液検査やレントゲン検査など簡易的なもので済ませていった。
しかしその検査もばかにはならない、調べていくうちに意外な事実が判明した。
彼らは神は我々人類とその体があまりに似通っていた。
その外見や残されたヒルの化石からある程度の類似性はあると理解していたが、まさか内面まで酷似しているとは那岐自身も予想していない事実である。
骨格はもとより内蔵の位置や血液、細胞までもが人類と似通っていた。
もちろん完全に一致しているわけではなければ、今ここにある技術では理解できないところも多数あった、しかしこの事実は那岐に一つの仮説を思わせる。
伝承ではヒルはこの島のかつてこの島の女たちと自身の子を作り己が遺伝子を持つ新たな生命体を作り出したという。
それがかつてもあったとしたらどうだろうか?
以前ヒルやナキがこの地に来るより昔にこの星へ現れた神を名乗る生物、その子孫たちが今の人類だと推測すれば彼らと人類が似通っていることも説明がつかないことは無い。
実際人類は神が作られた存在だという神話も世界各地に残っている。
それが事実なら、彼ら神は人類の祖先、始祖たる存在だということだ。
そうなれば人類は真の意味で神の子供たちということにもなる。
神の子供、そう思うと那岐の心には、妙な高揚感がわいてきた。
けれど、それは人類皆に言えること。
自分はその中でも特別な存在になりたい。
そんな彼の思いが作り上げた計画、それが人類促進研究だった。
那岐が着目したのはかつてのヒルの行い。
人々を隷属とした契約の儀と人類との間に己の子を作るという行為。
この二つを利用すれば人類は驚異的な勢いで新たな領域へと行けるのかもしれない、そう考えたのだ。
まず、那岐が目を付けたのは契約の儀だった。
書物に記されるとおりだと契約を果たした人間は人の身でありながら人知を超える力を手にしたとされる。
これが本当なら現人類がそのまま神の領域へと入れるということ。
問題はそこにリスクがあるかということ。
過去の人々は契約主であるヒルにその身を操られそれがきっかけで神殺しが行われたという。
それが事実ならいきなり暗礁に乗り上げたことになる。
なんとか事実確認を取りたいと考えていた那岐のもとに意外なところから実験サンプルが手に入った。
それが彼の友人である飯屋透だった。
そう飯屋透は黒絵那岐にとって間違いなく数少ない友人の一人だ。
歳こそ離れていたが、この島で権力者である那岐に臆目もなく話しかける透は彼にとって新鮮で興味深いものだった。
そう最初に彼に関わったのは好奇心が故の事であった。
きっかけは彼の両親を那岐が研究員として黒絵家へ招き入れたこと。
島の外では優秀であるがその研究対象から色物扱いされ島の中では島民たちによそ者と疎まれていた彼らの存在は人手不足であった那岐からすればまさに天からの贈り物のようなものであった。
神を信じない男に天からの贈り物というのも奇妙な話ではあるが。
そうした中で出会ったのが透だった。
透は覚えていないだろうが幼い彼は両親に連れられこの黒絵家へ何度も足を運んだことがある。
そんな彼を那岐は不器用ながらも相手をしていた。
透が那岐を慕うのはこのあたりの記憶がおぼろげながらに残っているのかもしれない。
そして那岐もそんな幼少期より知る透に少なからず感情輸入してしまう。
子供は苦手だと思っていた那岐には意外な自身の発見だが、子供が生まれた後の子煩悩りを考えるとそう不思議なことではなかったのだろう。
何より島の外の人間でありながら外の世界を知らないという境遇は興味深いものだった。
外のものがこの島に訪れることすら珍しいのに、外の者でありながらその世界を知らない哀れな少年はまるで鳥かごの鳥だ。
外に恋い焦がれながらもはばたくすべを知らない存在は鳥かごの主に魅入られる。
そんな彼が神の力を受け取った契約者となったのは天命だと那岐は感じた。
そしてこの事実はナキが蘇ったことも意味していた。
だとしたら匿っているのは星蔵の者たち、そこまでの推測はすぐに立った。
後はどうすればナキを星蔵より追い出すかが問題だったがその解も透の体を観察するうちに那岐には見えてきた。
透の変化は那岐からすれば顕著なものであった。
これまで武術など全く興味を持っていなかった彼が教えを乞うてきたのがそのいい例だろう。
今にして思えば自身の体の変化を試すためのものだったのだろうが、当時の那岐はそれを思春期男子特有の強さへの憧れかとも思い気にはしていなかったのだが。
いざ教える段階になり彼のその成長速度に大きな違和感を覚えた。
よく覚えの良い天才肌の人間を一を聞いて十を知るだとか、スポンジのような吸収力などと例えられるが那岐は始めからこちらの動きが分かるかのような体の運びをして見せたのだ。
しかしそれは達人の者とはまるで違う素人の足運び。
だというのにそれなり鍛錬を積んできた那岐の動きを完全に読み切ったその動きはもはや予知能力者のようで、それが最初のきっかけ。
そして、一度那岐の動きを見ただけで体捌きまでマスターしてしまったことで疑惑は確信へとなった。
これは何かあると。
そして、彼が最近星蔵の屋敷へ堂々と出入りしている事実と踏まえるとナキの復活それが仮説として出てきたのだった。
そしてその仮説はまた一つの変化により現実味を帯びてくる。
それは透が那岐の下へ通い始めてからい一年ほどたったころから起こり始めた。
その変化を那岐は最初ただの貧血だと思っていた。
一連の稽古が終わり、いつもなら言われることもなく道場の清掃に入る透が壁際まで重いリュックでも背負ってるかの様な、ゆっくりとした足取りで向かったかと思うとそのまま壁を背にズルズルと座り込んでしまったのだ。
疲れたのだろう。
最初は那岐はそう思い軽い気持ちで声をかけてみた。
けれど声をかけてもわずかに頭が動くだけでそれ以上の反応はなく、うなだれている。
流石におかしいとのぞき込むとその顔は血の気が引き白というより青白い再び呼びかけるも意識がないのか次は反応すらしなかった。
呼吸はしっかりしているのでそこまで危険な状態ではないのかもしれないが突然のこの状況に那岐の疑問は尽きない。
単なる疲れか、それとも別に要因があるのか?
とりあえず道場横に設置してある休憩室のベッドに寝かせつけた透は眺めながらこれはチャンスなのではと考える。
その時の行動はまさに衝動的なものでしかなかった。
もし彼が本当に契約を交わしているのならその体にも何らかの変化があるのかもしれない。
そして、その結果次第ではナキの復活は確定的なものになる。
純粋な興味が那岐を動かす。
どだい宝箱を目の前にして開けるなという方が無理な話なのだ。
そうして那岐はその手に採血用の注射器を握る。
せめて血液検査だけでもと考えての事だ。
しかし、いざ採血しようとしたとき那岐の手は阻まれる、他でもない透の手によって。
「私に触るな。人間」
それは透でありながら透ではない何者かの声であった。
その顔も声も透に間違いがいないのにその雰囲気がまるで別人へとなっていた。
そう雰囲気が変わっただけそれだけなのにこうも別人だと思えてしまうものなのか?
「今すぐその針を私から離せ」
「これは治療用だ。お前透か?この体は今弱っている。わかるか?」
半分は嘘だが半分は本当だ。
どっちにしろ透の容態は調べなくてはいけない、それを透の姿をした正体不明に那岐は根気よく説明する。
最初は疑惑の目を解かなかったソレもその体にやはり違和感を覚えるのかやがてはしぶしぶと言った様子で納得する。
「透がこうして意識を失うのは契約当初以来だ、貴様に任せよう」
それが透の体を操るナキの最大のミス。
契約という単語をうっかりと口にしてしまった。
その単語を聞き取った那岐は笑みをこらえるのに必死だった。
なんて愚かな神だと。
そうして那岐はナキの復活と透がその契約者であることの確定、そして彼の体を調べることで透の体に起こっている異変、ナキが透に対して情があることを知り全ての条件を整えた彼は透の命を揺さぶりとして今こうしてナキをその手中へと収めた。
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