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海だー

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西北方向に飛び続ける、大体川の流れと一緒だ、あれから大体一時間飛んだ。
マングローブ林みたいな感じになって来たところで、俺とロップは海にたどり
着いた。河口は広大な干潟を形成してる。貝とか掘りたいな。
まず廻りを確認しようか。方位磁石を使って方位を確認しようとすると、
まだ俺の肩車に乗ってるロップが、ぺしぺし叩いてきた。
「レイ様、前から思ってたんすけど、それって何してるんすか?」

肩車状態なので頭上のロップに向けて説明する。
「ん?今いる場所からの廻りの方位を確認しているんだよ」

ロップが角を引っ張る。前から思っていたが、そのぷにぷにの肉球の手?で
どうやって物をつかんでいるのだろう?青い猫型ロボットみたいな仕様なのか?
「そんなのボクが分かるっすよ。ボクに聞いて下さいっす」

なんだと!何故それを先に言わないんだ。
「そうなのか?じゃあ俺達の家、あの洞窟の方角も分かるか?」

「分かるっすよ。来た事がある場所の方角は分かるっす。かなり遠い場所は、
分かんないっすけどね」

簡易ナビだな。ロップと話しながら干潟の上空で廻りを確認した。
西と東に岬があり、それに挟まれて3キロ程だろうか?広大なマングローブ林と
干潟になっている。ちょっと宿営地には向かないな。
まず西の岬を越えた場所を確認してみよう。

西の岬を飛び越えると、そこは南国ビーチだった。
素晴らしい!広大な砂浜が西に広がっている。南側は藪から徐々に森を形成して
いる。宿営地は、ここに決定だな。ロップも頭上で大はしゃぎだ。
「レイ様!こんな綺麗な海は見た事ないっすよ」

だが、食べ物を採取するにはあまり向かない。どっか磯場はないかな。
干潟に戻り、今度は東の岬を越える。おお!いい感じの磯じゃないか。
今は干潮なんだろうな、所々に潮だまりがある。時間を確認すると午前11時。
今日はここで塩作りを試して、食べ物を採取した後に西のビーチで宿営地を
設営しよう

磯の平たい岩の上で、魔法の収納袋から必要な物だけ取り出して、再び梱包する
結構面倒くさい作業だ。まあ便利なんだけどね。これが無かったら、洞窟と海を
何往復もする必要があったし

まず塩作りを試してみよう。基本魔法の気化だけで上手くいくといいんだが、
最終的には煮詰めなきゃならないかもな。
取り合えず30リットル入りそうな甕に海水を汲もう。
昔、ゲテ村と塩作りをしたことがあるが、2リットルの海水を炊いて、
40グラム位の塩がとれた。にがりを濾したりとか面倒臭かった覚えがある。

バケツで汲もうと思ったが、俺の身体能力だと甕でゴバッと汲む事が出来た。
使徒の身体って凄いね。

甕の海水に対して基本魔法の気化を試してみよう。
ロップは潮だまりに夢中だ。楽しそうですね。

20分位、甕の海水に気化を続けると、海水がかなり量が減って、白濁してきた。
いい感じだ、白濁した海水を、調理用の深底バットに移して再び気化を続行。
白濁具合は進んできたが、塩の結晶は無い、やっぱ時間が掛かるのか。

仕方がない、海水をステンレスの鍋に移して、基本魔法で沸騰させる。
おお!シャーベットみたいに塩が見えてきたよ!ある程度の段階で布で濾した。
したたり落ちる液体は、にがりだよな?今は使い道がないが、取り合えず瓶に
保存しておく。

濾した塩に基本魔法の乾燥を掛ける。最終的に秤にかけると、
600gの塩が作れた!ここまで約1時間程。だが工程を工夫すれば
時間短縮は可能だろう。塩は保存食作りにも必要なので、しばらく海辺に
留まって塩を量産しよう。ロップが磯蟹に挟まれて喚いている。楽しそうですね。

ロップが蟹を振りほどいて、トテトテ駆け寄ってきた。
「レイ様酷いっす!ボクが蟹に挟まれたのに、なんでニヨニヨ笑って眺めてるんすか!」

「ロップ君、君は遊んでいただけだよね?俺はこれから生きていく為に必要な
作業をしていたんだよ?そうだ。俺の前の世界にこんな諺があったよ。
“好奇心は猫も殺す”、君もあんまり浮かれて、目新しい事に飛びついていては、
だめですよ」

ロップがうなだれた後に、涙目で飛びついて来た。
「ごめんなしゃい~。レイ様、でも痛かったんです~」

やっぱり可愛いなコイツは。しばらくモフモフした後に、ロップに使命を与えた
「ロップ。お前が今からやるのは、“流木収集作戦”だ!持てる範囲の流木をここに集めなさい!完全に乾燥したものだけだぞ!」

「ヤー!ボク頑張るっす!」
ロップが、ぽてぽて走っていく

ロップの薪拾いには、それほど期待していない。今が13時位だから、
後2時間位で、食べ物を採集して西の砂浜の宿営予定地に行きたいな。
飯はまだ何も食ってないが、夕飯に期待しよう
俺は安物の釣り道具と短いバールと、バケツだけ持って磯を巡った。
おおっ牡蠣みたいな貝がある、バールで引っ剥がして10個位バケツに入れた。

後は魚が欲しい。釣りをしてみよう。俺が準備したのは、安物のルアー竿、
タイコリール。道糸、ジグヘッド。これだけだ、
餌は小さな潮だまりで蟹を捕まえた。また蟹餌か、蟹さんありがとう。

怪しそうな岩の間に仕掛けを落とすと、ガツッと食いついてきた、
引き上げると緑色のカサゴみたいな魚だ。
それから同じような魚を8匹釣った。計9匹か、ロップに見せると、うにゃーとかラリッて全部喰われそうだ。取り合えずロップ用に3匹は別のバケツに移して
残りの6匹の内4匹は開きにする。干物にしてみよう。
残りの2匹は俺が今日食べる。抜いたワタはカニ網に入れて潮だまりに
放り込んだ。明日が楽しみだな。今日の晩飯は焼き牡蠣?と焼き魚だ。
酒が欲しいな。

磯の平たい岩の上に戻ると、結構な量の枯れ枝が積まれていた。
ポータブルストーブだったら数日は持つだろう。正直驚いた。
ロップがドヤ顔で両腕を組んで待ち構えている。
「レイ様、どうっすか。ボクの働きの成果は!」

だがコイツはあまり褒めると調子に乗りそうなので、程々にしておこう。
「なかなかの成果だね、ロップ君。これからもこの仕事を頼むと思うので、
慢心せずに頑張るのだよ」

ロップが不満気に下を向いているので、次は飴を与える事にする。
「だが、初回の仕事としては素晴らしい。初回特典としてこれを与えましょう!」

俺が3匹の魚が入ったバケツを差し出すと、やはり目の色を変えて、
飛びついて来た。だが俺はさっとバケツを上げて、
「今は駄目ですよ。ロップ君。夕飯に俺と一緒に食べるのですよ」

「分かったっすよ。レイ様と一緒にお食事っすね」
ロップが、ぴょんこぴょんこ跳ねてはしゃいでいる。可愛いヤツだ。

ロップが集めた枯れ枝を纏めて魔法の収納袋に梱包して、ロップを肩車する。
西のビーチに宿営地を設営しよう!

西の岬に近い砂浜にテントを設営した。現在16時。そろそろ飯の支度をしよう。
ロップ用の魚はバケツに入れたまま置いておく、開いた魚はバットに海水を
入れてしばらく漬けた後に、干し網にいれて吊るした。
基本魔法で乾燥させようかと考えたが、まずは自然乾燥で試してみよう。
ロップは、ビーチで独りフリスビーで遊んでいる。あれ?俺フリスビーなんて
梱包した覚えはないんだが?紛れ込ませたなロップ。

17時。ロップが集めた枯れ枝で火を起こそう。ロケットストーブ用には
全然足りない。今夜はポータブルストーブで、枯れ枝を継ぎ足してなんとか
しよう。明日は大きな流木を探してみよう。

メタルマッチで着火して、ポータブルストーブに火を入れる。
焼き網で塩をまぶした緑色のカサゴみたいな魚を焼いていると、ロップが
ぴょんぴょんダッシュで戻って来た。匂いにつられたのだろう。
「レイ様!美味しそうな匂いっす。お魚食べるっすか?」

「お前の分はあのバケツの中だ、もうちょっと待て。これが焼きあがったら
一緒に夕飯だ」

いい具合に焼きあがったので、持ってきたプラ製の皿に移す。基本的に食器類は
全てプラ製だ。軽いし丈夫だしね。見た目より機能重視。コウエイ様は良く
分かってる。

ロップが匂いに耐え切れずに、うにゃうにゃ悶えているので、バケツを差し出して宣言した。
「はい、夕食のお時間です。星母神様と、今から頂く生命に感謝して、
手を合わせて言いましょう“頂きます”と」

悶えていたロップが、ぴょこんと起き上がった。
「“頂きます”ってコウエイ様も言ってたっす。懐かしいっす」

ロップは肉球を合わせて“頂きます”をした後、バケツに突入した。

俺も食事をしよう。まだ牡蠣?が10個あるからな。ポータブルストーブに
枯れ枝を追加しつつ、焼き緑カサゴを食べる。うん、美味いじゃないか。
前世ではカサゴ類は刺身か煮付けにしていたが、焼いても美味いな。
ガツガツと2匹の緑のカサゴを食べ終えて、焼き網に牡蠣?を乗せる。
ロップがいつの間にか寄ってきて、焼き網を凝視している。
3匹をもう食い尽くしたのか?俺の食べ残しの頭とか、骨とか尻尾も綺麗に
無くなっている。やっぱ、ひもじかったのか?ごめんなロップ。

だが、精神生命体だとしても猫姿のロップには貝類は与えられないな~。
祖母が前に言っていた。“貝を食わすと猫の耳が落ちる”って。
その後、調べてみたが貝類は猫にはあまり良くないらしい。

ごめんなロップ。明日はもっと魚を釣ってやんよ!
うにゃうにゃ言いながら近寄ってくるロップを押し留めながら、
牡蠣?を焼いて食う。焼き網に乗せてしばらくすると、パカッと蓋を開いて、
ぐつぐつ煮え始める。いい匂いだね~。うん、美味だね。調味料も無いけど、
潮の味だけで十分だよ。ロップが恨めし気な目で見ているが、10個の牡蠣?
を食べ尽くした。
前世でプロシアの鉄血宰相ビスマルクは。牡蠣を175個食べたのを自慢して
いたらしい。10個位はオヤツだよね。
生牡蠣もいいけど、俺は火を通した方が好きだな。カキフライも美味いけど、
牡蠣小屋で、単純に火を通して食べた牡蠣が一番美味かったよ。

牡蠣殻は使い道がありそうなので、取っておこう。
さあ、明日からはどうしようか?

飛行訓練、魔法訓練、塩作り、食材ゲット、周辺探索。色々あるね~。

飛行訓練は、飛び回ってれば何とかなるだろう。魔力増強は塩作りで頑張る!
生命魔法の練習は、時間に余裕が出来たらやろう。取り合えず、塩をある程度
作ったら洞窟に戻ろう。

翌日、目覚めた俺はラジオ体操を始める。ああ、漲ってくるね。パワー魔力が。
昨日干し網に入れといた魚の開きを2匹取り出して、ポータブルストーブで
焼き始める。炭があればいいんだけどね。匂いに釣られたのかロップがやって
来た。

「レイ様。朝から、お魚食べるっすか?贅沢っすね」
 
俺はちょっと意地悪をしてみた。
「そうだよ。俺はこれからこの干物をむしゃむしゃ食べるんだ。ロップ君は
俺が食べてる間、向こうで独りフリスビーでもしていらっしゃい」

ロップがフリスビーを抱えて、悲しそうに浜辺に向かう。
「冗談だよ、ロップ。一匹ずつ食べような」

ロップが、うにゃうにゃ言いながら駆け寄ってきて、バリバリ干物を
食い尽くした。カサゴ系って頭がでかくて、歩留まり悪いんだけどな。
昨夜の食事でもそうだが、魚に関してロップは簡易ディスポーザーになるな。
頼むぞロップ!

食事の後、一旦テントを回収した。これは迷ったんだが、このまま放置するのは
不安要素が多すぎる。魔物の件があるからな。面倒だが仕方がない。

今は午前7時。東の磯に行って塩を作ろう。工程を工夫すれば結構な量の塩を
作れるだろう。ロップを肩車して、岬を二つ飛び越えた。
東の磯にたどり着くと、今は満潮のようで、潮だまりは見えない、
昨日放り込んだカニ網が気になるが、塩作りを続けよう。

昨日行った工程を5回繰り返して、およそ3キロの塩を作れた。次回の遠征では
甕じゃなくて、あのデカい漬物樽を持ってこよう。
あれは200リットル位入りそうだったしな。
ロップは岩の上でリコーダーを吹いている。ぷひーぷひーとうるさい。
俺はそんな物を持ってきた覚えはないのだが

そろそろ昼だ、飯時だ。丁度潮も引いて来たようだ、昨日放り込んだカニ網を
引き揚げてみよう。

カニ網を引き揚げると凄い事になっていた。緑色のドジョウ?ナマズ?が
大量にのたくっている。これ、色は違うけどゴンズイだよね。毒棘があるから
前世では嫌われていたけど、実は美味いんだよ。

緑ゴンズイを40匹位選別して、残りはリリースする。
何か飾り包丁を入れた椎茸みたいな物も混じってる。多分スカシカシパンの仲間
だろう。つーか何なんだ?スカシカシパンって。誰が命名したのか気になる。
スベスベマンジュウガニとかも。

ゲットした緑ゴンズイは、毒棘をバチバチ、キッチン鋏で切り飛ばして、
ワタを抜いておく。ワタはまたカニ網の餌になるのだよ。ふふふ。
カニ網に緑ゴンズイのワタを入れて、潮だまりに放り込む。
スカシカシパンはどうでもいいので即座にリリース。

前世でゲテ村とゴンズイを食べた時は、味噌煮にしたな。
今は味噌なんて無いから海水で煮てみよう。沖縄のマース煮っぽい感じ?

ステンレス鍋に、緑ゴンズイ10匹と海水を入れて、基本魔法で加熱する。
いい感じで煮えてきた。そこそこ美味かったら晩飯もこれだ。

一匹取り出して味見をすると、美味いじゃないか。ちょっと塩味が強いが、
充分美味いよ。ゲテ村はゴンズイは頭が美味いと言っていたな。
当時はやらなかったが、頭をしゃぶると確かに美味い。ヌメヌメした皮が
するりと剥がれて美味だ。

まだ笛を吹いてるロップの処に戻り、バケツに緑ゴンズイを10匹入れて
差し出すと瞬く間にバリバリ食い尽くした。

「ぷふ~、ボクご満悦~」
仰向けに転がって満足そうにしている。俺も残りの緑ゴンズイのマース煮を
食べた。やっぱ美味いよコレ。晩飯もこれで決定だな。

腕時計を見ると、13時位だ。時計は便利だよね。大切に扱おう。
食べ物は緑ゴンズイの残りがあるから十分だが後2時間位、磯を調査してみよう。
干潮になって、潮だまりが現れて来たからね。ロップに昨日と同様に、
流木収集作戦を伝えて、潮だまりを巡ってみた。

ゴーヤみたいなのが、いっぱいいる。ナマコかな?取り合えず20匹位拾って
バケツに放り込む。ナマコって英語だと、海の胡瓜だったよな。
正にそのもの、緑色だし。腸はコノワタにして、身は干してみよう。

緑色のウニもいた。試しに割ってみたが、中身はスカスカで食べる処がない。
なんか、この海の生き物は全体的に緑色だな。

昨日食べた牡蠣みたいな貝は、美味かったので再び10個採取した。
他になんかいないかな~。お!トコブシみたいな貝が岩に張り付いてるね。
バールで引っ剥がして10個ほどバケツに放り込んだ。

そろそろいいだろう。時計を見ると14時半くらいだ。
ロップの処に戻ると、枯れ枝はかなりの量が積まれていた。
ロップは仰向けに寝転んでいる。うん、中々の働きだよロップ君。

「うにゃー、レイ様。オヤツ美味しかったっす」

なんだオヤツって?確認すると、バケツの中の、晩飯用の緑ゴンズイが消失して
いた。全部喰ったのか?
「お前は今日は晩飯抜き!なんで全部喰ってんだ!つーか勝手に食うな!」

ロップがあわあわして弁明した。
「ごめんなしゃい~。お魚があると、ボク我慢できないっす」

しおしおと項垂れるロップを見て俺は誓った。今後コイツの前に魚を放置するの
は止めよう。だが今夜はお前は飯抜きだ。コイツの目の前で美味そうに食ってやろう。干物がまだ残ってるし、貝とかナマコもあるしな。

項垂れているロップを肩車して、俺は西のビーチに向かった。
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