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そして、震える体を抑え込んで学園へと足を踏み入れたその日、ルイが見たものは”元”婚約者となったアーノルドがある1人の男子生徒と親しげに歩いている姿だった。その男子生徒は入学の際に少し話題になっていたため、学園の噂に疎いルイでも名前を知っていた。
彼の名前はミカエル・アーギュスト。
元は平民らしいがある日突然アーギュスト伯爵家へと養子入りし、社交界へと彗星のように現れたと話題になった人物だった。学園には途中入学という形で入ってきたにもかかわらず、定期的に行われるテストでは常に上位に入り続け、さらには学園に在籍している高位貴族達とも交流を重ねている。それに輪をかけて小柄で華奢な体格に、触れる心地の良さそうな柔らかな銀髪にくりくりと動くぱっちりとした新緑色の瞳といった庇護欲をかき立てる愛らしい姿もあって、今では学園の中心的な人物となっていた。
周りの生徒もそんな話題の中心人物である2人が一緒にいることにざわざわと様子を窺っていたが、ルイが呆然と立ちすくんでいるのを見つけると、一瞬の静寂の後ひそひそとそこかしこで耳打ちする声が広がっていった。どうやらこの3日でルイとアーノルドの婚約破棄は学園内で広がりきったらしい。一部からルイに同情的な声も聞こえてきたが、殆どが好き勝手に婚約破棄の理由を噂している。
しかし、ルイはそんなことには気づかず、ただ一心に、目に焼き付けるようにミカエルとアーノルドが歩いている姿を見つめる。まあ、聞こえていたところで、ルイ本人も理由など分からずむしろこっちが知りたいとしか思えなかっただろうが。
かつて自分へと向けられていたはずの笑顔を向けられて楽しそうに笑い合っている2人の姿にルイの中で何かがぶちぶちと引きちぎれるような感覚がした。
気がついたら、ミカエルを人気のない所へ呼び出して激しく彼を詰めていた。自分でも驚くほどの剣幕で怒鳴り散らしたと思う。王族と気安く接してはとか、あんな風に密着して歩くのは不敬に当たることもあるだとか、もっともらしいことを並べ立てたが、結局のところルイの嫉妬と独占欲とそれからちっぽけな自尊心のための八つ当たりだった。
アーノルドと少し前まであんなふうに笑い合っていたのは自分だった!
アーノルドのあの笑顔は、優しく名前を呼んでくれるあの声は、少し前まで自分のものだった!
婚約破棄してたった数日で乗り換えるなんて、自分のことなどどうでも良かったかのようで腹が立つ!
そうやって、感情に身を任せて八つ当たりをしていないと、冷静な自分が、ルイ・コレットは気づいてしまう。
最初からアーノルドはルイに関心なんて無かったことに。
ただの政略的な婚約でアーノルドにとってはそれ以上の意味なんて持っていなかったことに。
だって、ルイは知らない。婚約者の、アーノルドのあんな笑顔!
かつて自分に向けられていた?
知らない!知らない!あんな、声をあげて笑うアーノルドの姿なんて!
ルイが知っているのは少し口角を上げて柔らかに笑う彼の顔だ。間違ってもあんなふうに頬を染めて口を開けて声を出して笑うものじゃない!!
バカみたいじゃないか!そんな彼にころっと落ちて、神様みたいに崇拝して、自分を見てくれているなんて勘違いした僕が!!
感情が溢れて止まらない。だんだんと自分が何を言っているかもわからなくなってきた頃、一番聞きたくて、同時に今は一番聞きたくない声が響いた。
「ミカエル!!」
「アーノルド様!」
はっと声のした方へ振り返る。予想した通りアーノルドが切羽詰った顔でミカエルへと駆け寄り、さっと背中に彼を庇う。それまでどこかつまらなそうにルイの話を聞いていたミカエルもアーノルドを視界に入れるとさっと顔色を変え、いかにも怖かったという顔をつくり、そっとアーノルドの背中へと隠れる。
「あ、アーノルド、様。ちが、違うんです、これは。」
自分でも何が違うかよくわからないが、かつての婚約者に強い感情を込めた視線で睨まれ、何も言い返さずにはいられなかった。
ああ、この感情は……怒りだ。
いつもルイの前では微笑んで声のひとつも荒げたことのないアーノルドが今確かに怒っている。それもかなり激しく。
「何が違うって?私にはコレット公爵令息がミカを一方的に怒鳴りつけているように見えたけど?」
「あ……。」
「……弁明はないようだね。婚約者だったよしみで今回は見逃してあげるけど、次ミカに手を出したら、こちらもそれなりの対応をするつもりだから。」
淡々とルイを詰めるアーノルドの声に前までの温かさは感じられない。俯き、何もいうことができないルイを一瞥してため息を吐くと、話は終わったとばかりにミカエルの腕を引いて離れていく。
そして、最後に、ルイにとっては死刑宣告と言っても過言ではないほどの言葉をひとつアーノルドは投げかけた。
「ああ、それと。もう私と君は婚約者ではないのだから、今後は殿下と呼ぶように。周りに示しがつかないからね。」
耐えられない、と。ただそれだけがルイの中で暴れ回る。婚約者だった?殿下と呼べ?彼が僕に怒りを向けた?
全てが許せない。許せない許せないゆるせない!!!
僕のアーノルド様を、僕の神様を奪い返さなきゃ。あの悪魔から。
心の拠り所が、唯一、ルイ自身を見てくれていたアーノルドが失われたことをルイは受け止められなかった。
そうして、ルイはミカエルさえいなくなれば再びアーノルドはルイを見てくれると考え、ありとあらゆる手段を用いてミカエルを追い詰めた。
そして表ではミカエルを心配するふりをしてアーノルドへとしつこく付き纏った。貴族としての振る舞いを投げ捨てなりふり構わず2人へと執着するルイへ周囲は軽蔑さえ含んだ視線を投げかけ、離れていき、次第にルイは学園で孤立していった。
それでも諦めず執拗に2人へと付き纏い、2年が過ぎた頃。
ルイはアーノルドと再び婚約を結ぶことなく、学園を卒業することとなった。
卒業パーティーの日だって、細々とした嫌がらせをミカエルにしたというのに、結局彼とアーノルドは揃いの小物をつけて華々しく会場へと入っていった。
本当は、エスコートされるのは僕のはずだったのに。
対照的にルイはエスコートしてくれる相手さえ見つけることができずに1人で針のように刺してくる視線に耐えながら会場へと入場した。本当はこの卒業パーティーにだって来るつもりはなかったのだけど、公爵令息としてのルイ・コレットが貴族の集まる社交の場に顔を出さないことなどできないと判断した。
壁の花となって、さっさとこんなパーティー終わってしまえば良いのにと鬱々としていると、いきなりアーノルドが周りの注目を集めるように手を叩く。
「私は今日、この門出を祝う素晴らしい日に皆に伝えたいことがある。」
朗々と話すアーノルドへと全ての視線が集まっていく。緊張さえはらんだ静けさの中、アーノルドは傍に寄り添っていたミカエルの肩をぐっと抱いた。
「実は先日、ミカエルが予知の力に目覚めた!」
その言葉に周りがざわざわと騒がしくなり、次第に波紋のように興奮が広がっていく。
予知の力とはカルタナ王国に稀に現れる力である。大抵は高等部の入学から卒業までの間の年頃の青年に発現し、一定の未来を見通す力のことを言う。予知の力が現れた時代の王国は大変栄えるとされており、幸福の象徴ともなっている。
最後に予知の力が現れたのは、記録に残っている限り百年ほど前であり、この国には長らく現れていなかったがミカエルに発現したと聞かされ、周囲のざわめきが止まらない。
「そして、その力をもつミカエルと私の婚約が決まった!これからミカエルは国のために力を使い、私と共に国を支える大きな存在となることをここに宣言する!」
その言葉に弾けたように拍手と歓声が上がる。
そんな興奮で持ちきりの会場をルイは冷めた目で見ていた。
「そしてもう一つ、君たちに知らせておくべきことがある。コレット公爵令息、ルイ・コレット!貴様の罪を明らかにする。」
突然名前を呼ばれ、大げさに体がびくりと跳ねた。ばっとこちらを見る視線の数々に耐えきれなくなり、仕方なくおずおずとアーノルド達の前へと進み出た。
「ルイ・コレット。貴様にはミカエル・アーギュストの殺人未遂の容疑が掛かっている。」
その言葉を聞いてまず思ったことは、どれのことだろう、である。
ひとつ弁明させて欲しいとすれば、ルイの頭で考えることのできる数々の嫌がらせを2年にわたってミカエルへと仕掛けてきたが、殺そうとして嫌がらせを仕掛けたことはない。それなのに何がどうなって殺人未遂と言うことになったかはルイにも不明だが、証拠として見せられたものは全てルイがミカエルを殺そうとしていることを示していた。それはもう見事に。ルイですら、あれ?これ僕やったっけ?でもなんかやった気もするような……?と思ってしまうレベルで。
ルイはミカエルへと嫌がらせをすることだけに夢中になり過ぎて、肝心の嫌がらせの内容が飛び飛びだった。それはそうだ、毎日毎日朝から晩までネチネチちまちまミカエルへと嫌がらせを仕掛け、少し時間が空けばアーノルドへと突撃してなんとか話そうとする。そんな生活を2年。流石に全てを覚えてはおけない。なんなら卒業間近には嫌がらせのネタが切れて過去に行ったことのある同じ嫌がらせをしていたような気もする。
まあ、少し話は逸れたが、そこから先は始めに話した通りである。
容疑だったはずの殺人未遂がいつのまにか犯人にされており、異様なスピードで処罰が決まり、即日断頭台でスパーンと首を切られた。この間わずか3日。そうしてルイ・コレットの18年という短くも波瀾万丈の人生は幕を閉じた。
と思いきや何故だか処刑される一年前に時間が巻き戻り、再び同じことが繰り返されようとしているわけだ。
そこまでようやく長い回想を終えて、うんうんと1人うなずいたルイははたと気づく。
……あれ?一年前?殿下と婚約破棄されたのが学園に入って一年経った時だったから……え、もしかして僕ってもう詰んでる?
彼の名前はミカエル・アーギュスト。
元は平民らしいがある日突然アーギュスト伯爵家へと養子入りし、社交界へと彗星のように現れたと話題になった人物だった。学園には途中入学という形で入ってきたにもかかわらず、定期的に行われるテストでは常に上位に入り続け、さらには学園に在籍している高位貴族達とも交流を重ねている。それに輪をかけて小柄で華奢な体格に、触れる心地の良さそうな柔らかな銀髪にくりくりと動くぱっちりとした新緑色の瞳といった庇護欲をかき立てる愛らしい姿もあって、今では学園の中心的な人物となっていた。
周りの生徒もそんな話題の中心人物である2人が一緒にいることにざわざわと様子を窺っていたが、ルイが呆然と立ちすくんでいるのを見つけると、一瞬の静寂の後ひそひそとそこかしこで耳打ちする声が広がっていった。どうやらこの3日でルイとアーノルドの婚約破棄は学園内で広がりきったらしい。一部からルイに同情的な声も聞こえてきたが、殆どが好き勝手に婚約破棄の理由を噂している。
しかし、ルイはそんなことには気づかず、ただ一心に、目に焼き付けるようにミカエルとアーノルドが歩いている姿を見つめる。まあ、聞こえていたところで、ルイ本人も理由など分からずむしろこっちが知りたいとしか思えなかっただろうが。
かつて自分へと向けられていたはずの笑顔を向けられて楽しそうに笑い合っている2人の姿にルイの中で何かがぶちぶちと引きちぎれるような感覚がした。
気がついたら、ミカエルを人気のない所へ呼び出して激しく彼を詰めていた。自分でも驚くほどの剣幕で怒鳴り散らしたと思う。王族と気安く接してはとか、あんな風に密着して歩くのは不敬に当たることもあるだとか、もっともらしいことを並べ立てたが、結局のところルイの嫉妬と独占欲とそれからちっぽけな自尊心のための八つ当たりだった。
アーノルドと少し前まであんなふうに笑い合っていたのは自分だった!
アーノルドのあの笑顔は、優しく名前を呼んでくれるあの声は、少し前まで自分のものだった!
婚約破棄してたった数日で乗り換えるなんて、自分のことなどどうでも良かったかのようで腹が立つ!
そうやって、感情に身を任せて八つ当たりをしていないと、冷静な自分が、ルイ・コレットは気づいてしまう。
最初からアーノルドはルイに関心なんて無かったことに。
ただの政略的な婚約でアーノルドにとってはそれ以上の意味なんて持っていなかったことに。
だって、ルイは知らない。婚約者の、アーノルドのあんな笑顔!
かつて自分に向けられていた?
知らない!知らない!あんな、声をあげて笑うアーノルドの姿なんて!
ルイが知っているのは少し口角を上げて柔らかに笑う彼の顔だ。間違ってもあんなふうに頬を染めて口を開けて声を出して笑うものじゃない!!
バカみたいじゃないか!そんな彼にころっと落ちて、神様みたいに崇拝して、自分を見てくれているなんて勘違いした僕が!!
感情が溢れて止まらない。だんだんと自分が何を言っているかもわからなくなってきた頃、一番聞きたくて、同時に今は一番聞きたくない声が響いた。
「ミカエル!!」
「アーノルド様!」
はっと声のした方へ振り返る。予想した通りアーノルドが切羽詰った顔でミカエルへと駆け寄り、さっと背中に彼を庇う。それまでどこかつまらなそうにルイの話を聞いていたミカエルもアーノルドを視界に入れるとさっと顔色を変え、いかにも怖かったという顔をつくり、そっとアーノルドの背中へと隠れる。
「あ、アーノルド、様。ちが、違うんです、これは。」
自分でも何が違うかよくわからないが、かつての婚約者に強い感情を込めた視線で睨まれ、何も言い返さずにはいられなかった。
ああ、この感情は……怒りだ。
いつもルイの前では微笑んで声のひとつも荒げたことのないアーノルドが今確かに怒っている。それもかなり激しく。
「何が違うって?私にはコレット公爵令息がミカを一方的に怒鳴りつけているように見えたけど?」
「あ……。」
「……弁明はないようだね。婚約者だったよしみで今回は見逃してあげるけど、次ミカに手を出したら、こちらもそれなりの対応をするつもりだから。」
淡々とルイを詰めるアーノルドの声に前までの温かさは感じられない。俯き、何もいうことができないルイを一瞥してため息を吐くと、話は終わったとばかりにミカエルの腕を引いて離れていく。
そして、最後に、ルイにとっては死刑宣告と言っても過言ではないほどの言葉をひとつアーノルドは投げかけた。
「ああ、それと。もう私と君は婚約者ではないのだから、今後は殿下と呼ぶように。周りに示しがつかないからね。」
耐えられない、と。ただそれだけがルイの中で暴れ回る。婚約者だった?殿下と呼べ?彼が僕に怒りを向けた?
全てが許せない。許せない許せないゆるせない!!!
僕のアーノルド様を、僕の神様を奪い返さなきゃ。あの悪魔から。
心の拠り所が、唯一、ルイ自身を見てくれていたアーノルドが失われたことをルイは受け止められなかった。
そうして、ルイはミカエルさえいなくなれば再びアーノルドはルイを見てくれると考え、ありとあらゆる手段を用いてミカエルを追い詰めた。
そして表ではミカエルを心配するふりをしてアーノルドへとしつこく付き纏った。貴族としての振る舞いを投げ捨てなりふり構わず2人へと執着するルイへ周囲は軽蔑さえ含んだ視線を投げかけ、離れていき、次第にルイは学園で孤立していった。
それでも諦めず執拗に2人へと付き纏い、2年が過ぎた頃。
ルイはアーノルドと再び婚約を結ぶことなく、学園を卒業することとなった。
卒業パーティーの日だって、細々とした嫌がらせをミカエルにしたというのに、結局彼とアーノルドは揃いの小物をつけて華々しく会場へと入っていった。
本当は、エスコートされるのは僕のはずだったのに。
対照的にルイはエスコートしてくれる相手さえ見つけることができずに1人で針のように刺してくる視線に耐えながら会場へと入場した。本当はこの卒業パーティーにだって来るつもりはなかったのだけど、公爵令息としてのルイ・コレットが貴族の集まる社交の場に顔を出さないことなどできないと判断した。
壁の花となって、さっさとこんなパーティー終わってしまえば良いのにと鬱々としていると、いきなりアーノルドが周りの注目を集めるように手を叩く。
「私は今日、この門出を祝う素晴らしい日に皆に伝えたいことがある。」
朗々と話すアーノルドへと全ての視線が集まっていく。緊張さえはらんだ静けさの中、アーノルドは傍に寄り添っていたミカエルの肩をぐっと抱いた。
「実は先日、ミカエルが予知の力に目覚めた!」
その言葉に周りがざわざわと騒がしくなり、次第に波紋のように興奮が広がっていく。
予知の力とはカルタナ王国に稀に現れる力である。大抵は高等部の入学から卒業までの間の年頃の青年に発現し、一定の未来を見通す力のことを言う。予知の力が現れた時代の王国は大変栄えるとされており、幸福の象徴ともなっている。
最後に予知の力が現れたのは、記録に残っている限り百年ほど前であり、この国には長らく現れていなかったがミカエルに発現したと聞かされ、周囲のざわめきが止まらない。
「そして、その力をもつミカエルと私の婚約が決まった!これからミカエルは国のために力を使い、私と共に国を支える大きな存在となることをここに宣言する!」
その言葉に弾けたように拍手と歓声が上がる。
そんな興奮で持ちきりの会場をルイは冷めた目で見ていた。
「そしてもう一つ、君たちに知らせておくべきことがある。コレット公爵令息、ルイ・コレット!貴様の罪を明らかにする。」
突然名前を呼ばれ、大げさに体がびくりと跳ねた。ばっとこちらを見る視線の数々に耐えきれなくなり、仕方なくおずおずとアーノルド達の前へと進み出た。
「ルイ・コレット。貴様にはミカエル・アーギュストの殺人未遂の容疑が掛かっている。」
その言葉を聞いてまず思ったことは、どれのことだろう、である。
ひとつ弁明させて欲しいとすれば、ルイの頭で考えることのできる数々の嫌がらせを2年にわたってミカエルへと仕掛けてきたが、殺そうとして嫌がらせを仕掛けたことはない。それなのに何がどうなって殺人未遂と言うことになったかはルイにも不明だが、証拠として見せられたものは全てルイがミカエルを殺そうとしていることを示していた。それはもう見事に。ルイですら、あれ?これ僕やったっけ?でもなんかやった気もするような……?と思ってしまうレベルで。
ルイはミカエルへと嫌がらせをすることだけに夢中になり過ぎて、肝心の嫌がらせの内容が飛び飛びだった。それはそうだ、毎日毎日朝から晩までネチネチちまちまミカエルへと嫌がらせを仕掛け、少し時間が空けばアーノルドへと突撃してなんとか話そうとする。そんな生活を2年。流石に全てを覚えてはおけない。なんなら卒業間近には嫌がらせのネタが切れて過去に行ったことのある同じ嫌がらせをしていたような気もする。
まあ、少し話は逸れたが、そこから先は始めに話した通りである。
容疑だったはずの殺人未遂がいつのまにか犯人にされており、異様なスピードで処罰が決まり、即日断頭台でスパーンと首を切られた。この間わずか3日。そうしてルイ・コレットの18年という短くも波瀾万丈の人生は幕を閉じた。
と思いきや何故だか処刑される一年前に時間が巻き戻り、再び同じことが繰り返されようとしているわけだ。
そこまでようやく長い回想を終えて、うんうんと1人うなずいたルイははたと気づく。
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