巻き戻った悪役令息のかぶってた猫

いいはな

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 「え、ええ……?でも、エミリーはカミルのこと好きだったんじゃ……?」
「ですから、好きだったような時があっただけで、今はカミル様に友愛以上の感情を向けたことなどありませんわ。ルイはどうしてわたくしがカミル様のことを好きだと思ったのですか?」
 そう言って、不思議そうにルイへと尋ねるエミリーにルイはハッとする。確かにエミリーのいう通り、どうしてそんな風に思っていたのだろうと記憶を辿ると、彼女との出会いの時まで遡る。
「……エミリーと初めて会った時に、あんなに必死にカミルから僕を遠ざけようとしていたから、きっとこの子はカミルのことを大事に思ってるんだなって思って、それで……。」
 確かにあの時、エミリーが直接カミルのことを好きだと言っていたかの記憶は曖昧であったため、言葉尻が小さくなっていき、しまいにはもごもごとなってしまったルイ。そんなルイを苦虫を噛み潰したような顔をして見ていたエミリーは、過去の汚点と言ってもいいあの最悪な出会いのことを思い出していた。
「というか、好きだったような時って何?あの時もカミルのこと好きじゃなかったの?」
「……恋愛的な好きというには、あまりにも淡いものでしたから。」
 そう言って、過去のことを思い出すように目を伏せたエミリーは、ぽつぽつとカミルとの出会いを語り出した。
「わたくし、カミル様からハンカチを拾ってもらいましたの。あれは恐らく、カミル様がこの学園にきて2日目のころだったはず。朝から廊下を歩いていると突然声をかけられて……最初はわたくしに向けてのものだと気づきませんでしたの。わたくしは学園のはみ出しもので、わざわざそんな存在に声をかけるような奇特な方はいませんでしたから。でも肩を叩かれて、何の含みもない瞳でわたくしのことを見て、落としたハンカチを手渡してくれましたの。……ただ、それだけ。でもわたくしにとっては救いのように思えましたの。」
 そこで一度言葉を切ったエミリーは、その時のことを噛み締めるように繰り返し思い出す。
 嫌悪や侮蔑の視線を投げかけられることがほとんどであった時にその小さな親切がどれほどエミリーの心に響いたか、カミルはきっと知らない。
 「貴族同士の暗黙の了解やしきたりなんかちっとも知らなかったわたくしは、だんだんと人と関わること事態が億劫になっていましたの。でも、カミル様のおかげで、わたくしは別に世界中の人から後ろ指を刺されているわけではないと思えましたのよ。悪い人ばかりの世の中ではないと考え直すきっかけを与えてくれた人なのです。」
 そう言って、微笑むエミリーはルイに遠慮しているようにはちっとも見えなくて、どうやらルイはエミリーとカミルのことを思い込んでしまっていたことを理解した。
「そう、だったんだ。なんか、分かる気がするな。僕もカミルのおかげで人との関わりを諦めずに済んだんだ。カミルがいなかったら、今頃誰とも話さずにこの一年を過ごしていたかも。」
 巻き戻った直前の友達を百人作るぞと意気込んでいたルイは他人との関わり方の難しさを知り、現実と想像との落差に心が折れかけた。そんなルイを救ってくれたのは他でもないカミルである。友達になってくれただけでなく、いともあっさり公爵令息として猫をかぶってきたルイ・コレットまでも掬い上げてしまった。
 ほわほわとかすかに頬を染め嬉しそうに話すルイの姿は誰がどう見たって、カミルのことを好きで好きでたまらないと物語っていた。そんなルイの顔を見たエミリーはそっと笑みを深くし、ルイへと言い聞かせるように話し出す。
 「さて、わたくしの話はここでおしまい。わたくしもここまで話したのです。ルイ、これであなたが遠慮していたものはなくなりましてよ?」
 その言葉に虚を突かれたようにパチパチと瞬きをしたルイは、そもそもどうしてこんな話になったのかを遡っていき、何とも気まずそうな表情を作った。
「え、あ……。い、いや、でも!僕別にカミルのことそういう風に見てないっていうか……!」
「あら、この後に及んでまだ見て見ぬ振りをするの?でしたら……そうね。ルイ、想像してみてちょうだい。カミル様が何処の馬の骨とも知らない女性と2人で親しげに歩いているところを。」
 それでもなお、カミルのことを好きではないと否定するルイはらカミルからの好意を自覚していることを肯定してしまったことには気付かず、言い訳を重ねていく。
 そんなルイの様子に少し考えるような仕草をしたエミリーは、何かを思いついたのか急にルイへと仮定の話をし始めた。
「え?エミリー?」
「いいから。想像できまして?」
「ええ……まあ、ええと、できたような?」
 突然急ハンドルを切った話に戸惑いながらも、素直にエミリーのいう通りに想像してみるルイ。
「その光景を想像してみて、ルイは何か思いました?」
「何かって……。」
 これまた突拍子もない質問であったが、そう尋ねるエミリーの目があまりにも真剣であったため、これもまた素直にルイは考えてみた。
 カミルと親しそうに歩く女性。互いに肩が振れるほど近くを歩く2人は、時折触れ合う手の甲にに恥ずかしげに頬を染めており、どちらからともなく絡めた指にこっそりとはにかみ合う。
 そんなところまで詳細に想像してしまったルイは途端に胸の中に鉛を詰め込まれたような心地になり、思わず眉を顰めてしまった。ルイは何だかとっても嫌な気分であった。カミルに大切にしたい人ができて、相手からもカミルが大切にされている。
 本来ならば友人として何よりも喜ぶべきことなのに、ルイは何故か素直に喜ぶことができなかった。モヤモヤとまとわりつく嫌な気持ちに何という名前をつけるべきか知らないルイは段々とイライラしていく。
 そして、そのイライラとした気持ちは想像の中のカミルへと向かっていった。
 だいたい、あんなふうに笑い合っていたのはつい最近まで僕のはずだったのに!何でそんなどこから来たのかもわからない人と楽しげに話してるの!その人のことより、僕のことを、見て、よ……。
 そこまで考えたルイは自分がカミルの幸せを喜んであげられるような友人ではなかったことに悲しくなった。
 カミルはルイの幸せを心の底から喜んでくれるであろうに、ルイはカミルの幸せを喜んであげることができないなんて友達失格である、とさらに落ち込んでいってしまった。
 しょぼんとしてしまったルイに慌てたように声をかけたのはエミリーである。ちょっと発破をかけてルイに気持ちを自覚させようとしたにも関わらず、ルイの純粋さを少し甘く見てしまった。
「ルイ、ルイ、わたくしが悪かったですわ。少し意地悪をしてしまいました。」
「ううん、エミリーは悪くないよ。友達の幸せを素直に喜べない僕が悪いんだ。」
 そう言って力無く首を振るルイの気持ちが明るくなることはなく、さらにエミリーの焦りは募っていく。しかし、ルイの言葉に少し違和感を覚えたエミリーは恐る恐る口を開く。
「……ルイ。あなたはわたくしに好きな人ができたらどう思います?ああ、もちろんカミル様以外の男性ですわ。」
「え?エミリーに?……嬉しいよ。ちょっと寂しいけど、エミリーが本当に幸せになれるんだったら、自分のことのように嬉しい。」
 ルイのその答えを聞いてエミリーはなるほどと思う。
 もしかしたらルイにとって最上級の愛情表現は友達になることなのかもしれない。ルイは少しばかり他の人と愛に関する認識が違っていて、人に対する好意の限界値が友愛なのかもしれない。
 だから、友達の幸せを喜べないと思って落ち込む。
 そこに混じった独占欲や嫉妬をうまく理解できなくて、その気持ちが恋であることに気づけないのかもしれない。
 実際に、エミリーの幸せは素直に喜べるのに、カミルの幸せを喜べないことに落ち込むばかりで、そもそもカミルに抱いているのは本当に友愛なのかと疑う様子が見られない。
 そこまで考えたエミリーは再び考え込む。
 こう言ったそもそも恋を知らない人間にとってもっとも有効的である方法は実際に恋というものを感じさせることである。明らかに友人に抱かないであろう感情をどうにかして抱かせることができれば、きっと自分の抱く気持ちがただの友情ではないことに気づけるはず。
 しかし、問題はどうやってそのシチュエーションに持っていくかである。
 普段とは違う場所や雰囲気を用意することができれば最適なのだが、そう都合よくそんなものは……。
「あ?どうしたんだ、ルイ?何でそんなに落ち込んでる?」
 タイミングがいいのか悪いのか。用事とやらが終わったカミルがガサゴソと校舎裏へと姿を現した。
 そして、想像ではなく実物のカミルを見てしまったことで、何だか泣きそうになってしまっているルイとそんなルイを見て難しい顔で考え込むエミリーを目撃したカミルは、それはもう盛大に混乱した。
 そうして思わず問いかけてしまったその言葉にルイから答えが返ってくるよりも早く、ぐるっとカミルの方へと体ごと向き合ったエミリーが彼女にしては珍しくやけに興奮したような声色でカミルへと話しかけた。
「カミル様!花祭りに行きましょう!!」
 
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