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第三章
第22話 近くて遠い
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朝の光が医務室のカーテン越しに滲んでいた。
リクはその光を眺めながら、微かに寝息を立てる騎士の顔を見ていた。
静かな空間に、鳥の声が遠くで響く。
包帯の下の腕がまだ痛々しい。
シリウスはいつも通り落ち着いた顔で眠っているが、
その姿を見ていると、胸が締めつけられた。
――また無茶して。
俺のせいなのに。
リクはそっと彼の額の髪を払った。
触れる寸前で、手を引っ込める。
“護衛にこんなことしてどうするんだ”と自分に言い聞かせながら。
「……シリウスは、俺の護衛だから」
小さく呟く。
それで安心するはずだった。
でも、そう言葉にした瞬間、
胸の奥がざらついた。
“護衛だから”
本当に、それだけだろうか。
考えるのをやめようとしたとき、
シリウスがわずかに目を開けた。
「……王子?」
「起きたの?」
「ええ。ご心配をおかけしました」
ゆっくり上体を起こそうとして、リクが慌てて肩を押さえる。
「動かないで。怪我、まだ痛むでしょ」
「いえ……もう大丈夫です」
「嘘つき」
声が少し強くなった。
シリウスが驚いたように目を見開く。
「……そんな顔を、するのですね」
「するよ。怖かったんだから」
「……王子が無事なら、それで充分です」
またそれだ、とリクは思った。
“充分です”
いつもそればかりだ。
自分を見ているのに、
本当には見ていない気がする。
「俺が無事でも、君が傷つくのは嫌だ」
そう言ったあと、リクは俯いた。
言いすぎた気がした。
けれど、シリウスは穏やかに首を振った。
「……ありがとうございます。そのお気持ちだけで、救われます」
その優しい声が、余計に苦しかった。
⸻
午後、シリウスは学院の医務室を出て、
正式に「軽傷」として報告された。
王宮への報告書が上がり、リクは胸を撫で下ろす。
だが、学院内では事件の話が絶えなかった。
“王子を庇った銀狼の騎士”
“どんな関係なんだろう”――そんな言葉が耳に入るたび、
リクはなぜか落ち着かなくなった。
ルーアが廊下で肩を叩く。
「リク、大丈夫? 顔、赤いよ」
「なんでもない」
「ふーん……」
冗談めかして笑う声に、少し救われた。
その日の放課後。
中庭の木陰で、シリウスが立っていた。
リクが近づくと、彼は少し驚いたように振り返る。
「王子。ご体調は」
「俺じゃなくて君の方でしょ」
「おかげさまで」
それきり、少しの沈黙。
風が花を揺らし、二人の間を抜ける。
「……怖かったんだ、あの時」
リクの声は小さかった。
「君が倒れた瞬間、何も考えられなくて。
……変だよな。俺が護られてるのに、守りたくなって」
シリウスは微かに笑った。
「それは、王子の強さです」
「違うよ。ただ……放っておけなかっただけ」
その言葉を最後に、リクはそれ以上話せなかった。
言葉の先にある気持ちが、自分でも怖かった。
“護衛だから一緒にいる”
――本当は、それだけじゃない。
でも、今はまだ信じられなかった。
この胸の痛みが、
恋だなんて、まだ思いたくなかった。
リクはその光を眺めながら、微かに寝息を立てる騎士の顔を見ていた。
静かな空間に、鳥の声が遠くで響く。
包帯の下の腕がまだ痛々しい。
シリウスはいつも通り落ち着いた顔で眠っているが、
その姿を見ていると、胸が締めつけられた。
――また無茶して。
俺のせいなのに。
リクはそっと彼の額の髪を払った。
触れる寸前で、手を引っ込める。
“護衛にこんなことしてどうするんだ”と自分に言い聞かせながら。
「……シリウスは、俺の護衛だから」
小さく呟く。
それで安心するはずだった。
でも、そう言葉にした瞬間、
胸の奥がざらついた。
“護衛だから”
本当に、それだけだろうか。
考えるのをやめようとしたとき、
シリウスがわずかに目を開けた。
「……王子?」
「起きたの?」
「ええ。ご心配をおかけしました」
ゆっくり上体を起こそうとして、リクが慌てて肩を押さえる。
「動かないで。怪我、まだ痛むでしょ」
「いえ……もう大丈夫です」
「嘘つき」
声が少し強くなった。
シリウスが驚いたように目を見開く。
「……そんな顔を、するのですね」
「するよ。怖かったんだから」
「……王子が無事なら、それで充分です」
またそれだ、とリクは思った。
“充分です”
いつもそればかりだ。
自分を見ているのに、
本当には見ていない気がする。
「俺が無事でも、君が傷つくのは嫌だ」
そう言ったあと、リクは俯いた。
言いすぎた気がした。
けれど、シリウスは穏やかに首を振った。
「……ありがとうございます。そのお気持ちだけで、救われます」
その優しい声が、余計に苦しかった。
⸻
午後、シリウスは学院の医務室を出て、
正式に「軽傷」として報告された。
王宮への報告書が上がり、リクは胸を撫で下ろす。
だが、学院内では事件の話が絶えなかった。
“王子を庇った銀狼の騎士”
“どんな関係なんだろう”――そんな言葉が耳に入るたび、
リクはなぜか落ち着かなくなった。
ルーアが廊下で肩を叩く。
「リク、大丈夫? 顔、赤いよ」
「なんでもない」
「ふーん……」
冗談めかして笑う声に、少し救われた。
その日の放課後。
中庭の木陰で、シリウスが立っていた。
リクが近づくと、彼は少し驚いたように振り返る。
「王子。ご体調は」
「俺じゃなくて君の方でしょ」
「おかげさまで」
それきり、少しの沈黙。
風が花を揺らし、二人の間を抜ける。
「……怖かったんだ、あの時」
リクの声は小さかった。
「君が倒れた瞬間、何も考えられなくて。
……変だよな。俺が護られてるのに、守りたくなって」
シリウスは微かに笑った。
「それは、王子の強さです」
「違うよ。ただ……放っておけなかっただけ」
その言葉を最後に、リクはそれ以上話せなかった。
言葉の先にある気持ちが、自分でも怖かった。
“護衛だから一緒にいる”
――本当は、それだけじゃない。
でも、今はまだ信じられなかった。
この胸の痛みが、
恋だなんて、まだ思いたくなかった。
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