《完結済》獣人王国の四男に生まれましたが、何故か人間でめちゃくちゃ愛されてます!?

MITARASI_

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第三章

第30話 祭典の夜

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 南の領地に着いた日、街全体が活気に包まれていた。
 丘の上から見下ろすと、屋台が軒を連ね、
 灯りが揺れるたび、風に笑い声が混ざっていく。

 王都とは違う、穏やかで温かい光景。
 リクは胸の奥で息をついた。

 「……きれいだね」
 「はい。毎年この時期に行われる収穫祭です」
 隣で控えていたシリウスの声は、相変わらず落ち着いている。
 でもその横顔が、祭りの灯に照らされてどこか柔らかく見えた。

 領主から挨拶を受け、リクは簡単な祝辞を述べた。
 人々の拍手と笑顔が広がる。
 王族として公の場に立つことにも、
 もう怖さはなかった。

 (あの頃の僕なら、きっと逃げ出してた)
 けれど今は違う。
 ここに立つ自分を、見ていてほしい人がいるから。



 式典が終わり、夜の祭りが始まった。
 太鼓の音、笛の音、花の匂い。
 露店の明かりが並ぶ中を、リクは控えの衛兵を連れて歩いていた。

 シリウスは少し後ろを歩いている。
 群衆の中でも、彼の姿は一瞬で見つけられた。
 銀の髪が炎の灯に照らされて、まるで夜の星みたいに光っている。

 子どもたちの笑い声、恋人たちの囁き。
 リクの心が少しざわめく。

 (――もし僕たちも、
  ただの人間同士だったら)

 そんな考えが浮かび、すぐに打ち消した。
 立場も、世界も違う。
 それでも、想う気持ちだけは嘘じゃない。



 夜も更け、祭りの最後を告げる花火が打ち上がった。
 轟音とともに夜空が明るく染まる。
 群衆が歓声を上げる中、
 リクはふと、後ろを振り向いた。

 シリウスが、少し離れた場所で空を見上げていた。
 顔を照らす光に、表情は読めない。
 でも、その姿がどうしようもなく愛おしかった。

 リクは周囲を気にして、一歩だけ彼の方へ歩み寄った。
 「……ねぇ、シリウス」
 「王子。人が多い、どうかこちらへ」
 軽く肩を掴まれ、人混みの外へ導かれる。

 少し離れた裏の通り。
 音が遠くなり、花火の光だけが静かに揺れている。

 「すみません。はぐれると危険です」
 「ううん、ありがとう」
 リクは彼を見上げた。
 距離が近い。
 夜風の中、鼓動の音がやけに大きく響く。

 「……君と一緒に見る花火、きれいだね」
 「そうですか?」
 「うん。王都でも、こんなふうに見たことなかった」
 「それは……王子が無事でおられるからこそ見える景色です」

 また“護衛の言葉”。
 でも、彼の目の奥が揺れている。

 「ねえ、シリウス」
 「はい」
 「……僕、君にちゃんとお礼を言ってなかったね」
 「礼など――」
 「ありがとう。守ってくれて。あの夜も、ずっと」

 風が止まった。
 空の花火が一瞬だけ照らす。
 リクの顔も、シリウスの瞳も、同じ光の中にあった。

 言葉よりも早く、
 シリウスがそっと膝をつき、手を胸に当てた。

 「……私は、王子に仕えるために生きております」
 「ううん。違うよ」
 リクは首を振った。
 「君は僕の騎士で、僕の――」

 その先を言おうとした瞬間、
 花火の音が夜空を裂いた。

 眩しい光の中で、二人の影が重なった。
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