農家は万能!?いえいえ。ただの器用貧乏です!

鈴浦春凪

文字の大きさ
90 / 403
第2章  氾濫

第19話  内幕

しおりを挟む
 ――――一年前

 ガタイの良い商人風の男が報告を聞いている。

「食料自給率が劇的に改善される兆しがあるだと。どういう事だ。長年の工作が順調に進み、破綻まであと数年という状況だった筈だが」

 報告に来た男が商人風の男の問いに答える

「はい。ケィンリッド・マクドーガルという者が耕作地を大幅に増やし、未知の野菜を数多く生み出し、王都の食料事情を大幅に改善しつつあります。王民事業体イーディセルの農業部門のトップです」

「その者は以前にも耳にした。現場主義だとか、プレイングマネージャーとして有名だな。その者一人でそれ程の改善があったという事か?」

「はい。かの者が作り出した成功モデルを、王国が全土に波及させる計画が持ち上がりました」

 帝国が王国にしかける戦争は領土侵略に留まらず、間接戦略も数多く仕掛けられている。

 数多くの失敗の中、男のチームの作戦は成功まであと一歩へと近づいていた。

 二〇年前に王国側より発表された。

 ――王国全土の増員強兵政策。

 戦闘職の人間を増やす事を目的に実行されたこの政策は、今後の人口増加を見越して、農地の開墾と小麦の栽培を推奨し補助金を出すというの二本の柱で計画されていた。

 長い期間にわたり王国に根を張り浸透していた男のチームは、王国内で賄賂を使い汚職をする貴族を援助し、邪魔な人間は暗殺もしてきた。

 パイプのある貴族を農地開墾の責任ある地位に就け、国から支給される費用の着服を促した。

 書類上の記録では開墾が行われた土地が増えたが、実際には増えていない齟齬。

 しかもそれが、王国の至る所で発生している。

 工作員達が二〇年を掛けて仕掛けた、迂遠だが静かに広がる破滅に向かう毒。

 あと数年後の食料破綻をもって、収穫前の麦に火を放ち、困窮する市民を扇動して暴動を起こす。

 国が荒れればひとまずの成功だ。

 混乱する王国にまた違う間接戦略を行えば良い。

 少人数の男のチームで成し遂げた偉大な戦果により、男は帝国内での栄達を迎える筈だった。

「ケィンリッドの周辺を調べろ、暗殺で食料自給率の改善を妨害出来るなら易いものだ」

 調べると、既に遅きに逸しケィンリッドを害しても計画が進む段階まで来ていた。

 しかし、気になる情報が入って来る。

 農業部門の代表である、ケィンリッドのトラクターと呼ばれるゴーレムの後ろに座り、あれこれと指示を出している子供がいる。

 その者は、ケィンリッドが育成に成功した新たな数々の野菜を、王都へ広めるネスリングスで、師匠やらオーナーと呼ばれている。

 今を時めく、今後の王国を支えるゴーレム製造会社。メイリン&ガンソの社長が下にも置かぬほど丁寧に接している。

 しかも、固い警護が周辺を固めていて、大公家令嬢が絶えず守るように側にいた。

 更に、人間とは距離を置くエルフの庇護下にあるという。

 調べれば、調べるほど、盛り過ぎな状況証拠の数々が出揃う。

 男のチームが二〇年の歳月をかけて摘み取る直前まで成熟させた成果を台無しにした者。

 ――――ノアというクソガキ。

 ――男達の計画はとん挫した。

 王国の食料事情は来年には更に改善するだろう。長年手掛けた計画はその意味を失った。

 ならばせめて、自分たちが王国に大混乱を巻き起こしたという結果は手にして帝国に戻りたい。

 丁度そこに帝国で開発された”ファギティ-ヴォ”という兵器の情報が届く。

 それはダンジョンのスタンピードを誘発させるという。

 帝国の伝手を使いその兵器を手に入れた男は、王国へのテロを計画する。

 その計画を練っている最中にノアという忌まわしい小僧が王都を離れるという一報が届く。

 王都から一番近いダンジョン都市。

 ――城楯都市ドゥブロベルクへ。

(ふんっ。良い機会だ巻き込んでやろう。その方が清々する)

 私怨を発散できる喜びに、男は不敵にニヤリと笑った。

 ノアが王都を旅立ち城楯都市ドゥブロベルクへ向かう日時に合わせてテロ計画は実行を待つ。


§


 ――旅立ったノアを遠くから双眼鏡を使って観察する男がいる。

 変化はドゥブロベルクがあと一日の距離と迫ったときだ。

 ノアを王都から警護していた護衛が任務を終えて離れて行った。

 今しがたノアが到着した野営地は複数の道の交差地点となっており賑わっている。

 そこから城楯都市ドゥブロベルクまでは人通りも多く安全な道だ。

 その場所までが区切りだったのだろう。

 男は一人になったノアの元へ距離を縮めた。

 そして野営をしているノアに人好きのする笑顔で近づき話しかける。

「――兄ちゃん旨そうな匂いだな」

 男の偽名はマグスオン・ミーシャス。ノアをつぶさに観察した。





 えぇ! そりゃぁもう! かっ飛んでますわ。

 このトラクター……どう考えても時速一〇〇キロで走る様に出来てねぇ!

 ……知ってたけどっ!
  
 地面からの微振動でブレブレの視界。

 ちょっとした轍で取られそうになるハンドル。――何しろ緩々だからな。

 恐怖と緊張で瞬きを忘れるよ。

 先行して飛んでもらっているツンツクに前方に障害物があったら、知らせてくれるように言ってある。

 ――視線を重ねて上空から見る

 ムリムリ事故る。

 この世界の恐竜みたいな騎獣は、成人男性を乗せて走って、ざっと平均時速三〇キロだ。

 最大速度でも時速五〇キロには届かない程度だろう。

 しかもその最大速度を長時間の維持は出来ない。

 昨日の俺は時速四〇キロで移動したから、ボチボチ追いつけるかと思っていたんだが、悪人って何でこんなに勤勉なんだろう。

 サボらずにせっせと移動距離を伸ばしているらしい。

 下手したら夜の時間も移動に使った可能性があるな。

 おっと! 20km先のオナイギから連絡だ。

 ――スタンピード発見の一報。
しおりを挟む
感想 331

あなたにおすすめの小説

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...