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第4章 飄々
第27話 一計
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ノアは感情を映さない瞳で少女を見る。間接視野に頭を下げた神武の姿。
(下げるヤツが違うが、まぁいい。良い取引が出来た。今日のうちにボリス・茶色鶏の卵はいくつ貰えるか聞いておこう)
「ボリス・茶色鶏の卵を一〇〇個ほど貰いたいのですが可能ですか?」
「はい。承知しました。少々お待ちください」
神武がそう言うとノアの目の前に卵が現れる。
そこには厚紙で玉子型の窪みの付いた。重なったモールドトレーが二山とモールドパックが置かれていた。
(へぇ。Mサイズ四十五個のモールドトレーで出てるのか。それと十個のパックね。モノのついでに言ってみようかなっと)
「私――温泉に入りたいな……水辺で滝が落ちてくる近くの風光明媚な所」
「――分かりました。どこか隔離地を用意しましょう」
(やったぁ! 言ってみるもんだ。敵対禁止協定の借りぐらいは返したかな? 元から俺が入りたいからリゾート温泉計画を話したんだ。でも俺が入りたいから作ってじゃ無理筋だったからアセットをメリットに提案したんだが良い機会が向こうから降って来た)
「はい。宜しくお願いします」
神武さんが窺うようにこう続ける。
「説明会を続けますか?」
「いえ。今日はこの辺でお暇します。私は失礼しますのでお二人はこの手土産をお楽しみください」
(もう気分じゃない。ダンジョンにもそんなに興味がなくなった。同郷の神武さんに感じていた親近感というかシンパシーもだいぶ薄れたな。次回は気分が乗ったらか。気が向いたらでいいか。一番聞きたい事は分からないみたいだし)
ノアはそう思いながら持参品を差し出す。
今日は冷たく冷やされた手土産だ。
前回と同じように真っ白な皿に深めの窪みがあり。
滑らかで美しい淡黄の液体が満たしている。
その液体の上にフワリと真っ白な丸い雲が浮かび。
頭に赤い粉を纏っている。
今回ノアが用意したのはイル・フロッタント。
前回と同じくノアがレシピを起こし菓子職人のエミリアが作ったものだ。
材料はシンプルだが食感が面白く唯一無二のスイーツである。
スープのようにゆるいカスタードの上に楕円の容器で形を丸く整えて湯煎したメレンゲが浮いている。
赤い粉はこの世界ではポピュラーな酸味と甘みのある木の実を磨り潰して振るったものだ。
(イル・フロッタントはキャラメルソースが一般的だが我ながらこの木の実は見た目も味も風味も最高の組み合わせだ)
ノアはイル・フロッタントを取り出すと卵を仕舞い。急ぐように部屋を出て行った。
§
ノアに見送りを断られた神武は心を落ち着かせると、彼の置いていった手土産をマスターサイネへサーブする。
「ごめんね。神武。あたしのせいで」
「いえ。全て私の管理責任です」
(ノアさんの態度がドライになった。だが、手土産を置いて行ったということは今後も関係を続けるという意味だろう)
「気持ちを切り替えてノアさんの手土産を頂きましょう」
神武は強引に流れを変えてサイネに食べることを促す。
「――気分じゃないけど。……神武がそう言うなら」
神武は何万年も最善を提案してきた。
今までの関係を利用して主を誘導している。今の状況を意識して苦いものが走った。
その感情を隠し自分が率先してノアの手土産を食べて見せる。それに釣られるように少女も口にする。
「やっぱり美味しい。この動く白いの不思議な食べ心地ね。フワフワで少し弾力があるのに消えるように溶ける。甘さも控えめで後を引くわ。この薄い黄色のスープも濃厚で、このフワフワと食べると合うわね」
少女はスプーンを離さずに食べきった。
「不思議な食べ物ね。外にはこんな食べ物がたくさんあるのかしら?」
少しの変化が起きていることを確信し神武はひっそりと微笑む。
その変化のカギはノアが握っている。
それこそ神武がノアと敵対したくなかった理由だった。
ダンジョンの管理者である神武には言えないこと。
そして出来ないことだ。
(先ほど一瞬ノアさんに殺意のスイッチが入った。やはり彼は毒を孕んだ相手だ。だが、薬になった毒はいくらでもある。少しずつ。焦らず少しずつだ)
神武は言い聞かせる。
自分では導けない路を少女が歩けるように。
彼女の心からの笑顔を見られるように。
(下げるヤツが違うが、まぁいい。良い取引が出来た。今日のうちにボリス・茶色鶏の卵はいくつ貰えるか聞いておこう)
「ボリス・茶色鶏の卵を一〇〇個ほど貰いたいのですが可能ですか?」
「はい。承知しました。少々お待ちください」
神武がそう言うとノアの目の前に卵が現れる。
そこには厚紙で玉子型の窪みの付いた。重なったモールドトレーが二山とモールドパックが置かれていた。
(へぇ。Mサイズ四十五個のモールドトレーで出てるのか。それと十個のパックね。モノのついでに言ってみようかなっと)
「私――温泉に入りたいな……水辺で滝が落ちてくる近くの風光明媚な所」
「――分かりました。どこか隔離地を用意しましょう」
(やったぁ! 言ってみるもんだ。敵対禁止協定の借りぐらいは返したかな? 元から俺が入りたいからリゾート温泉計画を話したんだ。でも俺が入りたいから作ってじゃ無理筋だったからアセットをメリットに提案したんだが良い機会が向こうから降って来た)
「はい。宜しくお願いします」
神武さんが窺うようにこう続ける。
「説明会を続けますか?」
「いえ。今日はこの辺でお暇します。私は失礼しますのでお二人はこの手土産をお楽しみください」
(もう気分じゃない。ダンジョンにもそんなに興味がなくなった。同郷の神武さんに感じていた親近感というかシンパシーもだいぶ薄れたな。次回は気分が乗ったらか。気が向いたらでいいか。一番聞きたい事は分からないみたいだし)
ノアはそう思いながら持参品を差し出す。
今日は冷たく冷やされた手土産だ。
前回と同じように真っ白な皿に深めの窪みがあり。
滑らかで美しい淡黄の液体が満たしている。
その液体の上にフワリと真っ白な丸い雲が浮かび。
頭に赤い粉を纏っている。
今回ノアが用意したのはイル・フロッタント。
前回と同じくノアがレシピを起こし菓子職人のエミリアが作ったものだ。
材料はシンプルだが食感が面白く唯一無二のスイーツである。
スープのようにゆるいカスタードの上に楕円の容器で形を丸く整えて湯煎したメレンゲが浮いている。
赤い粉はこの世界ではポピュラーな酸味と甘みのある木の実を磨り潰して振るったものだ。
(イル・フロッタントはキャラメルソースが一般的だが我ながらこの木の実は見た目も味も風味も最高の組み合わせだ)
ノアはイル・フロッタントを取り出すと卵を仕舞い。急ぐように部屋を出て行った。
§
ノアに見送りを断られた神武は心を落ち着かせると、彼の置いていった手土産をマスターサイネへサーブする。
「ごめんね。神武。あたしのせいで」
「いえ。全て私の管理責任です」
(ノアさんの態度がドライになった。だが、手土産を置いて行ったということは今後も関係を続けるという意味だろう)
「気持ちを切り替えてノアさんの手土産を頂きましょう」
神武は強引に流れを変えてサイネに食べることを促す。
「――気分じゃないけど。……神武がそう言うなら」
神武は何万年も最善を提案してきた。
今までの関係を利用して主を誘導している。今の状況を意識して苦いものが走った。
その感情を隠し自分が率先してノアの手土産を食べて見せる。それに釣られるように少女も口にする。
「やっぱり美味しい。この動く白いの不思議な食べ心地ね。フワフワで少し弾力があるのに消えるように溶ける。甘さも控えめで後を引くわ。この薄い黄色のスープも濃厚で、このフワフワと食べると合うわね」
少女はスプーンを離さずに食べきった。
「不思議な食べ物ね。外にはこんな食べ物がたくさんあるのかしら?」
少しの変化が起きていることを確信し神武はひっそりと微笑む。
その変化のカギはノアが握っている。
それこそ神武がノアと敵対したくなかった理由だった。
ダンジョンの管理者である神武には言えないこと。
そして出来ないことだ。
(先ほど一瞬ノアさんに殺意のスイッチが入った。やはり彼は毒を孕んだ相手だ。だが、薬になった毒はいくらでもある。少しずつ。焦らず少しずつだ)
神武は言い聞かせる。
自分では導けない路を少女が歩けるように。
彼女の心からの笑顔を見られるように。
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