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第5章  流来

第13話  暗澹

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 危機的状況の中で斥候の二人は騎獣を急かす。

「ヤルミル。お前が左右の確認を怠ったからだろうが!」

 上下動の少ない騎獣は走らせながらでも話が出来る。

 男達の役目は斥候だ。

 スタンピードのモンスターの規模と種類を確認するために、任務で近づき遠見の魔法で偵察していた。

 足の遅い先頭を観察していたらいつの間にか左右から魔物が近づいていた。

 俯瞰から見る者がいれば、逆V字に見える鳥雲ちょううんの陣でゆっくり動いていた集団が、足の速い魔物が左右を大回りしV字の鶴翼かくよくの陣へと変わって行くのが分かっただろう。

 迫るのは鎖を引きずり真っ赤な目で駆けているバーゲスト。

 騎獣に乗る自分たちより足が速かった。

(――もうダメだ。しくじった)

 斥候が引き際を見誤ればこうなる。

 ――その覚悟はしていた。

 極限下でドゥシャンは思う。

(俺が襲われているあいだにヤルミルだけでも助けられないか。……何か可能性は? あいつは子供が生まれたばかりだ。……俺にも二人いるが。親父の思い出もなく別れさせるのは悲しすぎる)

「ドゥシャン。――笛を吹け。街に知らせろ」

「――しっ――しかし……」

 ヤルミルが伝えた笛とは、急ぎ門を閉ざせと報せる魔道具だ。

 それを吹けばもう自分達は助からない。

「――それが勤めだろ?」

 相棒の決意の眼差しにドゥシャンはようやく笛を口にする。

 そして――魔笛は街にその調べを届けた。

 騎獣が戻れるように僅かな隙間を残していた両開きの扉は、泣くように軋みゆっくりと閉まった。それと同時にその扉の前後を分厚い落とし扉が唸り大地へ突き刺さる。それにより入口の強度を高めた。

 扉の後方、街の中の落とし扉にはゆっくりと滑るように四本の巨大なかんぬきがかけられて、スタンピードへの備えが完了した。

 その光景を想像しながら、二人はもう意味のない遁走を惰性的に継続する。


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 ――――合同会館の作戦室


「スタンピードの規模は一万を下らない。まだ増えているようだと!」

「はい。それに妙に組織立っております。物理耐性のあるバーゲストが先行して到着する見込みです。中核はバグベアにリンドブルムのようです」

 バーゲストは大型の狼を思わせる毛のない真っ黒なモンスターだ。

 赤い目を滾らせて鎖を引きずり、口から炎の欠片をチロチロを吐き出し、近づけばその真っ赤な高熱を放つ。

 バグベアは体中を真っ赤な毛に覆われたモンスターだ。

 二足歩行で前腕が太く地に届く程長い。それに合わせるように拳も巨大な魔物だ。歪な熊を思わせる。

 リンドブルムは巨大な蛇だ。

 鱗の摩擦が強く、その能力で垂直の壁すら登ることが出来る。

「――お話し中に失礼します。報告があります。――ヴイーヴィルの姿があったと連絡がありました」

 ヴイーヴィルは群青の巨大な翼竜のモンスターだ。

「――なんだとっ! ダンジョンの深層の奴じゃないか。……そんなものまで」

 混乱の会議室に静かに彼女は入室した。
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