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第5章  流来

第25話  旅空

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 ――――二〇日後

 旅は順調だ。

 いつものように夕暮れの野営地で料理を作る。

 そしてもうすぐエルフの里に着く。

 時速50kmで移動して二〇日もかかるほど遠いのに、ウェン師が王都まで三日でやって来た謎。

 まだ、教えてもらっていない秘密があるんだろうね。

「ノア君の料理はどれも美味しくて食べすぎちゃうよ。僕。前より太ってない?」

「車に閉じ込めて悪いな。ベルント。疲れはないかい?」

「初めは凄い速さに驚いたけど。まったく揺れないし椅子も柔らかいから疲れていないよ。食っちゃ寝しているみたい」

「もうじきエルフの里に着く。そしたら忙しくなるから、今はゆっくりしていてくれよ」

 ロボトラクターが牽引するキャンピングトレーラーは特別性だ。

 タイヤも付けてサスペンションもしっかり装備しているが、最大の特徴は宙に浮いていることだ。

 空を飛ぶ紋をウェン師に見せてもらった。それを利用している。

 タイヤがないとさすがに見た目が奇抜過ぎるからね。

 ベルントの乗るトレーラーより俺の運転席の方が、振動はあると思う。

 フルキャビンの冷暖房完備だから快適だけどね。

 ロボトラの機能を少し確認してみるか。

 ロボトラにはキャビンの四方向に認知カメラが八個ついていて、周辺の状況を絶えず確認している。

 当然だが運転も自動だ。

 俺が何もしなくても進む事が可能だが、寝ると何故か起こされる。

 前方確認義務違反だと言われて。。。

 他にもシートベルトを装着しろだの。

 長時間運転したから休憩を挟めだの、水分を補給しろだのと言ってくる。

 四角四面かと思えば、お前は世話焼きお母さんか! という言動だ。

 物に名前を付けてかわいがる趣味はないが、この旅の間のやり取りでAIの事をトラと呼ぶようになった。

 トラクターのトラだ。

 あんまり凝った愛称を付けるのも恥ずかしいので、これくらいでちょうど良い。

 我ながら……センスが無……。

 ――言わせんなよ。

 このロボトラにはフロントローダーが付いている。

 フロントローダーとはエンジンの左右から前方に二本のリフトア-ムが突き出ていて、上下する鉄の箱が付いている機構だ。

 その箱をバケットというんだが、それで、たい肥を持ち上げたり、土を慣らしたり出来る。

 ブルドーザーとか雪国の道路の除雪機とかが近いイメージかな?

 まだ作業で使ったことはないんだが、そこに座るのがモルトのお気に入りだ。

 地面擦れ擦れだから面白いらしい。

 だが、本来は人が乗ってはいけない場所だ。

 AIのトラも怒りそうなものなんだが、カメラに映らないから何も言わない。

 人間の英知でも感知できない。

 それが妖精モルトだ。

 それにこのフロントローダーは結構な高性能で、圃場を平らにならすことが出来る。

 圃場を慣らす専門の農機レーザーレベラー程じゃないが、八個のカメラを駆使して見た目は平らに出来るらしい。

 カタログスペック表上の知識だ。

 そのうちに使いたいと思っている性能だね。

 そして極めつけの機能は、純水還元水素エンジンだ。

 八五馬力の高出力を実現していて、純水を特殊触媒で水素と酸素に電気分解し、爆発をエネルギーにして動いているんだ。

 名実ともに、環境保全型農業を実現している農機だね。

 俺は寝る前にトラに近づく。

「ノアさん。おやすみなさい。――良い夢を」

 ほらね。トラって愛称で呼びたくなるでしょう。
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