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第6章 罪咎
第7話 清淑
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霞段の四撃目は八の字を描いた杖が、上段から打ち下ろされる。そして、更に間合いを詰める。
最後の一撃の為にノアが踏み込む。躰は揺らめくようぬるりとオリヴェルの懐へと飛び込んだ。
――――壊乱。
彼の狙いは零距離での杖撃だ。
ノアに有るもの。ノアが賭けたもの。それは懐深くでもあびせることのできる強烈な打撃。
その一撃は!
――――だが、届かなかった。
ノアの首元には剣。ノアの杖はほんの僅かだが届いていない。
「……引き分けだな」
オリヴェルの呟きにノアが言葉を被せる。
「――私の敗けですね。距離を取られていたら手も足も出ませんでしたよ」
「だが、俺も驚いた。最後のは崩身だな? 兄貴の体術の。お前が兄貴の弟子だと心から理解したよ」
「いえいえ。まだ拙いもので、僭越です。」
バルサタールはノアに相手の呼吸を読め、視界を盗めと指導した。そして、自身の体術である崩身を授けた。
するりと距離を移動し自分の間合いへと相手を誘い優位に立つ為の技だ。
「後は任せて置け。俺がまとめて置く」
オリヴェルが声を張り上げて闘技場へ響き渡らせると。ノアが小さく呟いた。
「ちくしょう……」
その嘆きを聞いた者はいない。
~~~
シュバインが楽しそうに話をする。もうすぐオチだ。
「仕合いは僅差で護傘のオリヴェルの勝ち。そして、護傘は白い光の板。……それと、その他もろもろは俺たちの胸に収めろと言ったんだ」
「不満がある者はいつでも決闘を受けるってなっ! だから、お前もスタンピードの時に起きたことは口外するな。この都市以外ではな」
話を聞いていた冒険者が尋ねる。
「そもそも、俺はその時いなかったんだが、本当にスタンピードはあったのか? 確かに壊れた家はあるけど……。死者がいないなんて化かされているみたいだ――」
「――変なトラクターゴーレムが市民を助けて回って、光の板が全員を守ったって言うのも本当か?」
酒場の冒険者が揃って頷く。
「って言うか? 侵不が棒を持ってからの話が抜けているんだが、そこを詳しく話してくれよ」
シュバインがニヤリと笑う。
「早すぎて見えないものをどう説明すれば良いんだよ?」
「はっ? 一番盛り上がるところだろ? おいおいっ! おごった酒返せっ!」
「腹に収めたもんをどうやって返すんだ?」
これこそ相棒のバステンがさっさと酒を飲み始めた理由でもある。
酒場に笑い声が響く。その時を知らない冒険者が来ると持ち回りで担いでいるのだ。
締めの言葉も決まっている。シュバインが音頭を取った。
「慎ましやかな。――我らの英雄に」
酒場の全員が良い顔で盃を掲げた。
王国では知られない事実をノルトライブの住民は皆が知っている。
一人の青年がもたらした命の恩を。
――残響は、尚轟き共鳴する。
最後の一撃の為にノアが踏み込む。躰は揺らめくようぬるりとオリヴェルの懐へと飛び込んだ。
――――壊乱。
彼の狙いは零距離での杖撃だ。
ノアに有るもの。ノアが賭けたもの。それは懐深くでもあびせることのできる強烈な打撃。
その一撃は!
――――だが、届かなかった。
ノアの首元には剣。ノアの杖はほんの僅かだが届いていない。
「……引き分けだな」
オリヴェルの呟きにノアが言葉を被せる。
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「だが、俺も驚いた。最後のは崩身だな? 兄貴の体術の。お前が兄貴の弟子だと心から理解したよ」
「いえいえ。まだ拙いもので、僭越です。」
バルサタールはノアに相手の呼吸を読め、視界を盗めと指導した。そして、自身の体術である崩身を授けた。
するりと距離を移動し自分の間合いへと相手を誘い優位に立つ為の技だ。
「後は任せて置け。俺がまとめて置く」
オリヴェルが声を張り上げて闘技場へ響き渡らせると。ノアが小さく呟いた。
「ちくしょう……」
その嘆きを聞いた者はいない。
~~~
シュバインが楽しそうに話をする。もうすぐオチだ。
「仕合いは僅差で護傘のオリヴェルの勝ち。そして、護傘は白い光の板。……それと、その他もろもろは俺たちの胸に収めろと言ったんだ」
「不満がある者はいつでも決闘を受けるってなっ! だから、お前もスタンピードの時に起きたことは口外するな。この都市以外ではな」
話を聞いていた冒険者が尋ねる。
「そもそも、俺はその時いなかったんだが、本当にスタンピードはあったのか? 確かに壊れた家はあるけど……。死者がいないなんて化かされているみたいだ――」
「――変なトラクターゴーレムが市民を助けて回って、光の板が全員を守ったって言うのも本当か?」
酒場の冒険者が揃って頷く。
「って言うか? 侵不が棒を持ってからの話が抜けているんだが、そこを詳しく話してくれよ」
シュバインがニヤリと笑う。
「早すぎて見えないものをどう説明すれば良いんだよ?」
「はっ? 一番盛り上がるところだろ? おいおいっ! おごった酒返せっ!」
「腹に収めたもんをどうやって返すんだ?」
これこそ相棒のバステンがさっさと酒を飲み始めた理由でもある。
酒場に笑い声が響く。その時を知らない冒険者が来ると持ち回りで担いでいるのだ。
締めの言葉も決まっている。シュバインが音頭を取った。
「慎ましやかな。――我らの英雄に」
酒場の全員が良い顔で盃を掲げた。
王国では知られない事実をノルトライブの住民は皆が知っている。
一人の青年がもたらした命の恩を。
――残響は、尚轟き共鳴する。
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