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第6章  罪咎

第70話  偽善

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 悪党の俺は零すようにエステラへと告げる。

「――酷い事を思いついて実行した」

 今の俺はどんな顔をしているだろう。背中越しで見られないのが幸いだ。

「――そうやって、自分を傷付ける。その酷い事はみんなを幸せな笑顔にしたよ。集落へ戻って来た時は、皆不安そうにしてた。彼らの心を軽くしたのは、ノアの素敵な美味しい満腹だよ」

 エステラはそう言うと苦しそうに息を吐いた。俺は声に感情がのらないように続ける。

「偽善で施し、贅沢で堕とした。彼らが今日食べた食事を、今のままの人生で楽しむ方法は無い。知らなければ渇望することもない。俺は彼らが手に入る食材で最善を出すべきだった。それが出来たはずなのに……」

 俺の懺悔を遮り、彼女は語りかける。

「でも、ノアがそうしたのなら、それが最善。大正解。そう信じる。この世界の広さを伝えたの、幸せの可能性だよ。知らなきゃ損なことだもの」

「買い被りだ。俺はそんなたいした奴じゃない。誰も気に留めもしない、そこらへんに転がる小さい石ころだよ」

「――大丈夫。あたしはノアを信じる。あなたは世界を変えるキラキラで特別な宝石。彼らが今日の食事を楽しめるようにしたらいいじゃない」

(今までずっとそうだったように。師匠は、みんなで目指した光だもの)

 彼女には珍しく饒舌だ。

「宝石? おこがましいさ。もちろん提案はするが、受け入れられないだろう。それを知りながら提供したんだぞ」

「そんなのノアならチョチョイって超えられる。安心安全が信条なんでしょう? 不安を取り除いて、無理なく提供できる方法を見つければいいよ。……でも、何で料理に拘ったの?」

 そうだ。料理でなくても方法はあった。だが、ジョシュアさんの受けた恩は、生命維持。つまり、食事の提供だ。俺が齎された恩でもある。だがら、同じもので魂に響かせようと願った。

「――ジョシュアさんが命を懸けて守ったこの日を記憶してもらいたかったんだ。幸福な食事はいつまでも心に残る。まして、人間から彼らに提供されたのなら尚更だ」

 エステラの声が軽やかに弾む、俺の心を軽くするように。

「じゃあ。記念日だね。卵のお祭りみたいに毎年思い出せばいいよ」

「――イースター? なるほどな。エステラは凄いな。それなら毎年思い出してもらえる」

「ふふふ。そうだよ。凄いんだから。でも、今日のノアは色々あり過ぎたからゆっくりと気持ちを整理してから次の事を考えた方がいいよ」

 俺は少しだけ気持ちが軽くなり、ゴブリンの村へと戻った。
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