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14.嫌な奴
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目の前に色とりどりの箱が山積みされている。
「あの…」
「春香のお土産を探しに城下に行き若い女性に人気の品を選んできた。春香は小柄だからあまりサイズがなくてね。やはり既製品はダメだね。針子を呼んで仕立てさせよう」
「殿下ありがとうございます。しかし今後はやめて下さい。衣類も小物も十分すぎる程に公爵様に買って頂いています」
「殿下のお心を無下にするおつもりか!」
あの目つきの悪い騎士が語彙を強めて敵意を向けてくる。思わず大きい声にびっくりして身を縮める。男性の怒鳴り声は苦手!
「アレックス!春香は私の大切な女性だ。失礼な発言はやめろ」
殿下が目つきの悪い騎士を窘める。
目つきの悪い騎士は右手を左胸に当て深々と頭を下げて謝罪される。しかし明らかに納得していない顔。私この人に反感を買う心当たりが全くない。全ての人に好かれようなんて思ってないけど一方的に嫌われるのはさすがにへこむ。
その騎士に対してミハイルさんとジョシュさんが鋭い視線を向けていて怒りがみて取れる。今にも殴りかかりそうだ。
お土産騒動はひと段落し今日の本題に入る。
レイモンド様が私の住まいの提案を殿下にしている。ふとミハイルさんとジョシュさんと目が合う。二人の目が優しく“大丈夫だ”と言ってくれている様で落ち着く。
提案を受ける殿下の表情は険しい。でしょうね…殿下の提案をほぼ拒否だもんね。他の貴族ではありえないから驚いたと思う。
「春香は公爵家に居たいのか?」
「そうですね…保護されてからこちらの皆様によくして頂いています。私人見知りするので新しい環境はできれば遠慮したいです」
「ここでは私が貴女に会いに行けない。本心は城に来て欲しいが王族・貴族を好ましく思わない春香の思いを尊重し王都に屋敷を用意したのだが…」
「恐れながら殿下。王都に住まいをとお考えでしたら、我が公爵家の町屋敷でよいのでは?」
レイモンド様が再度提案してくれる。公爵家は無理そうだなぁ… 町屋敷で落ち着くだろうか⁈ 暫く考えた殿下が
「春香かその方が落ち着くなら妥協しよう。しかし警護の騎士は王宮騎士から出す。ここは譲れん」
良かった…取りあえず殿下の用意した屋敷は回避できた。でも王宮騎士て… 目の前の目つきの悪い騎士さんで印象悪いから一抹の不安が残る。
詳細は殿下とレイモンド様がお決めになり町屋敷の受け入れ態勢が整い次第引っ越す事になった。
話も取りあえず終わり昼食の準備が始まる。殿下が徐にお土産の箱から1つを取り出して私に渡し
「今のあなたも美しいが出来れば私が選んだこのドレスを着てくれないだろうか…」
「えっと…これから食事で汚してしまうかもしれません」
「構わない。着て見せて欲しい」
困っているとアビー様が
「折角だかっら着てみなさい。春香ちゃんはもっと着飾るべきよ。こんなに可愛いのに勿体無いわ!殿下用意してまいります」
箱を待たされアビー様に別室に連行される。別室に着くとマリーさんがいてアビー様と二人がかりで服を脱がされ、あれよあれという間に殿下が贈ってくれた綺麗なドレスに着替えさせられた。ドレスに合わせてマリーさんが髪をアップにしてくれる。
ドレスはシンプルだが可愛らしいデザイン。色が若葉色っておもいっきり殿下色に、ミハイルさんとジョシュさんの視線が怖い。
そして後片付けの忙しいマリーさんに気を使い昼食の会場まで1人で移動していると、前からあの目つきの悪い騎士が来た。確かアレックスって呼ばれていたなぁ…。
「遅い。殿下がお待ちだ。これだから女は面倒なんだ」
いきなり文句を言われた。あんたの主が着替えろって無茶ぶりしたんじゃん!なにこいつ!
「では、殿下にお伝えください。お待たせするのは申し訳ないので、先にお食事してくださいと」
腹が立つが一応お辞儀して踵を返して自分の部屋に戻ろうとした。
「おいお前!会場は反対だ」
「アレックス!何をしている!」
振返ると目つき悪い騎士の後ろにジョシュさんが怖い顔をして仁王立ちしている。
「春香ちゃん迎えに来たよ。この馬鹿ほっておいて会場に俺と行こう」
ジョシュさんは笑顔で手を差し伸べてくれた。
「えっと…もう部屋に戻ろうと思って」
「あいつに何か言われたの?あー無視していい。あいつは殿下至上主義だから偶にあんな風にポンコツになるんだ」
「おい!ジョシュ」
ジョシュさんはアレックスさんを思いっきり無視して私をエスコートして歩き出す。ジョシュさんはいつも通りの調子でドレス姿を褒めてくれた。でもやっぱり色は気に食わなかった様で、次は水色のドレスを贈ると意気込んでいた。
ジョシュさんが来てくれて冷静になれた。仕事場にも居たじゃない理不尽な人。こっちに来て会う人はいい人がばかりで、ちょっとの悪意に異常に反応してしまった。今猛烈に反省中。
「ごめんなさい。冷静に考えたらここで私が部屋に戻って私はすっきりしても、公爵様に迷惑をかけてしまうのに…ジョシュさんが来てくれてよかった。ありがとうございます」
「…」
「へ?」
いきなりジョシュさんに抱きしめられた。ジョシュさんも大きいから腕の中にすっぽり入ってしまう。
「そんな可愛い事を他の男に言っては駄目だ! 皆すぐ春香ちゃんに惚れてしまう。これ以上ライバルを増やさないで」
「ジョシュさん苦しいから離して下さい」
「ジョシュ様、春香様、殿下がお待ちですのでお急ぎを…」
「「うわ!」」
背後から急に話しかけられ驚く。犯人はクロードさんだった。どうやら探しに来てくれたみたい。私の戻りが遅く会場が(特に殿下が)ざわつき出したそうだ。
急ぐのならとドレスの裾を持ち上げて走り出そうとしたら、顔を赤めたジョシュさんが私を抱え上げた。
「こら!春香ちゃんクロードが居るのになぜ脚を出す!」
「だって急ぐから走るのにドレスの裾が邪魔で…」
「はぁ…いい加減自覚してよ… 貴女に惚れている男には酷な事だと。これでもかなり我慢しているのだからね!」
「春香様は予想外の事をされるので、目が離せませんね…くくくく…」
「クロード!」
ジョシュさんはまだ顔は赤く、クロードさんは楽しそうに笑っている。私を抱えたジョシュさんとクロードさんが早足で会場にむかう。やはりお2人共脚が長いので一歩が大きく私の小走りより速そうだ。
会場に着いたら殿下が走って来て、その表情は不機嫌だ。
「何故春香はジョシュが抱き上げているんだ⁈」
ジョシュさんに下してもらい、今から言い訳始めます。
何とか言い訳できた。ほっとしたのも束の間ですぐに殿下の説教が始まる。怒られてた理由はクロードさんの前で脚を出した事だった。待たせた事はいいのか⁈
「春香。肌を見せてもいいのは夫だけだからね。分かった?」
滾々と説教された。その様子を不機嫌にアレックスさんが見ている。事の発端はあんただからね! 思わず冷ややかな視線を送り、関わりたくない人に認定しました。
会場の皆さんにお詫びをして食事が始まります。
私はミハイルさんと殿下に挟まて圧迫感が半端ない。ロックさんの配慮で量もサイズも小さい料理で殿下に心配される。何度言いますが私の身体ならこの量は適量です。
とりあえず頑張って食べないと遅いからメイン料理にたどり着かない。いつも魚で終わってしまう。
周りの食事のペースを見ようと周りを見渡したら、何故か皆さんの視線を感じる。
「あの…何か?」
「済まなかった。他意はない。ただ一生懸命食べている姿が可愛くてなぁ…」
とレイモンド様が言うと皆んな頷いている。殿下に至っては完全に手を止めて、体を私に向け完全に観察体制に入っている。
「シュナイダー家の者が羨ましい。毎日この光景が見れるなんて…」
あー動物園のパンダになっていました。皆んな分かってる?パンダは熊の仲間なんだからね。意外に凶暴らしいぞ!
「見ないで下さい。食べれません」
食卓に笑いが起こる。そして食事後のお茶をいただくと殿下が
「シュナイダー家の王都の町屋敷の護衛の責任者はアレックスに命じてある。彼奴は剣術に長け優秀だ。彼奴になら春香を任せられる」
「っんっぐ!」
危ないお茶を吹きだきそうになった。
「すみますせん。聞き間違いですかね⁈アレックス様が警護に就くと言うのは…」
部屋の隅に控えるアレックスさんが嫌そうに私を見る。何こいつ!凄い失礼だ。これは殿下に嫌って言っちゃっていいかなぁ… すると殿下が私に近づき小声で
「アレックスは騎士としても有能だが、何より女性が苦手で安心だ。春香の警護には既婚者しかつけないから安心して。独身者は春香に手を出す可能性があるから絶対だめだ。だからジョシュは王宮騎士だが独身だから警護から外した」
何か殿下さらっと凄い事言ったけど…アレックスさん女嫌いって… だからあの態度⁈得体のしれない敵意が判明したけど先行きが不安でならない。
ひっきりなしに殿下が話してきて左横のミハイルさんが入るスキがない。左からすごい視線と圧を感じるけど、話続ける殿下を無下にできず困り果てる。
ここで助け舟のアビー様が
「お天気もいいのでお庭を散策されてはいかがですか⁈」
ミハイルさんと殿下が一斉に立ち手を差し伸べて来る。
「え…と…一人で大丈夫です」
でも2人共引く気配がない。困った…
またアレックスさんの鋭い視線が向けられる。視線で“殿下を優先しろ”っと言っているようだ。もーあの人怖い! 日本にいてあんなに睨まれた事なんて無いから恐怖すら覚えるよ… 泣きそうだ。ミハイルさんのフォローは殿下が帰ったらしよう。
「お庭までは殿下にお願いし帰りはミハイルさんにお願いしますね」
これで平等!なんか幼稚園の先生みたいだ。
寂しそうなミハイルさんに心で謝りながら殿下の手を取った。殿下はすぐに腰に手を回してくる。あまりくっつかないで欲しい。逃げ腰に私を後目にぐいぐいエスコートする殿下。私の後ろにミハイルさん、アレックスさんとジョシュさんがついてくる。
庭に出ると風が心地よくて少し気がまぎれる。殿下は終始私を見ている。陛下の手紙に書いてあったけど殿下は生まれた時から母親にも素手で触れられた事が無く、スキンシップに飢えている。だから私に触れれるのが嬉しくて仕方ないようだ。ホンと相手が私でごめんなさい。
ふと目線を遠くにやると黒い塊が近づいてくる。あの黒い塊は… 暴走ワンダが真っ直ぐにこっちに向かっている。
アレックスさんが咄嗟に殿下と私に前に飛び出し剣に手を掛けた。ワンダが危ない! 思わず剣に手をかけたアレックスさんの右腕に飛びつき
「ワンダ!スト~ップ!」
大声で叫んだ。ワンダは私たちの数メートル前で止まり尻尾を振り嬉しそうだ。
良かった。ワンダ切られちゃうところだったよ。
「お前いつまで俺の腕にぶら下がっているんだ!」
不機嫌そうにアレックスさんが私を見る。
初めてまともにアレックスさんの顔を見た。改めて間近で見ると端整なお顔をされている。一重の切れ長の茶色の瞳と目が合う。なんだろう態度は威圧的なのに瞳は温かく感じる。
「うわぁ!」背後からミハイルさん抱えられた。
「春香いつまでアレックス殿にくっついているんだ!」
「あ…ワンダが切られちゃうと思って思わず」
殿下は私の手を取りミハイルさんに目線をやり
「ミハイル。これだけ大きな犬が春香に飛びついたら怪我をする。管理はどうなっているんだ!あの状況ではアレックスに切られても仕方ない」
「え…切っちゃダメ…」
「春香?」
「ワンダは公爵家の領地で狼に襲われた時に私に気付き身を呈して助けてくれた命の恩人なんです」
殿下を見据えて
「殿下がいらっしゃるのにきちんと繋いでいなかったのは公爵家に落ち度があります。それはお詫びいたします。しかしワンダは私の友人でもあります。頑張って躾しますからお許しを…」
深々と頭を下げて陳謝する。ミハイルさんもジョシュさんも同じく頭を下げて謝罪をする。
ワンダだけがご機嫌に尻尾を振っていた。
殿下は溜息を吐き私の手を取り
「春香。顔を上げて。この犬が春香にとって大切なのはわかった。しかし管理不十分だ。公爵にはこの犬の再訓練を言っておく。これで春香も納得か?」
「殿下ありがとございます。ワンダ頑張って訓練してね。もう芝の上で私を転がさないでね!」
「ばぁう!!」
「「「「 え? 」」」」
皆が一斉に私を見た。え?マズイ事いいましたか?
「あの…」
「春香のお土産を探しに城下に行き若い女性に人気の品を選んできた。春香は小柄だからあまりサイズがなくてね。やはり既製品はダメだね。針子を呼んで仕立てさせよう」
「殿下ありがとうございます。しかし今後はやめて下さい。衣類も小物も十分すぎる程に公爵様に買って頂いています」
「殿下のお心を無下にするおつもりか!」
あの目つきの悪い騎士が語彙を強めて敵意を向けてくる。思わず大きい声にびっくりして身を縮める。男性の怒鳴り声は苦手!
「アレックス!春香は私の大切な女性だ。失礼な発言はやめろ」
殿下が目つきの悪い騎士を窘める。
目つきの悪い騎士は右手を左胸に当て深々と頭を下げて謝罪される。しかし明らかに納得していない顔。私この人に反感を買う心当たりが全くない。全ての人に好かれようなんて思ってないけど一方的に嫌われるのはさすがにへこむ。
その騎士に対してミハイルさんとジョシュさんが鋭い視線を向けていて怒りがみて取れる。今にも殴りかかりそうだ。
お土産騒動はひと段落し今日の本題に入る。
レイモンド様が私の住まいの提案を殿下にしている。ふとミハイルさんとジョシュさんと目が合う。二人の目が優しく“大丈夫だ”と言ってくれている様で落ち着く。
提案を受ける殿下の表情は険しい。でしょうね…殿下の提案をほぼ拒否だもんね。他の貴族ではありえないから驚いたと思う。
「春香は公爵家に居たいのか?」
「そうですね…保護されてからこちらの皆様によくして頂いています。私人見知りするので新しい環境はできれば遠慮したいです」
「ここでは私が貴女に会いに行けない。本心は城に来て欲しいが王族・貴族を好ましく思わない春香の思いを尊重し王都に屋敷を用意したのだが…」
「恐れながら殿下。王都に住まいをとお考えでしたら、我が公爵家の町屋敷でよいのでは?」
レイモンド様が再度提案してくれる。公爵家は無理そうだなぁ… 町屋敷で落ち着くだろうか⁈ 暫く考えた殿下が
「春香かその方が落ち着くなら妥協しよう。しかし警護の騎士は王宮騎士から出す。ここは譲れん」
良かった…取りあえず殿下の用意した屋敷は回避できた。でも王宮騎士て… 目の前の目つきの悪い騎士さんで印象悪いから一抹の不安が残る。
詳細は殿下とレイモンド様がお決めになり町屋敷の受け入れ態勢が整い次第引っ越す事になった。
話も取りあえず終わり昼食の準備が始まる。殿下が徐にお土産の箱から1つを取り出して私に渡し
「今のあなたも美しいが出来れば私が選んだこのドレスを着てくれないだろうか…」
「えっと…これから食事で汚してしまうかもしれません」
「構わない。着て見せて欲しい」
困っているとアビー様が
「折角だかっら着てみなさい。春香ちゃんはもっと着飾るべきよ。こんなに可愛いのに勿体無いわ!殿下用意してまいります」
箱を待たされアビー様に別室に連行される。別室に着くとマリーさんがいてアビー様と二人がかりで服を脱がされ、あれよあれという間に殿下が贈ってくれた綺麗なドレスに着替えさせられた。ドレスに合わせてマリーさんが髪をアップにしてくれる。
ドレスはシンプルだが可愛らしいデザイン。色が若葉色っておもいっきり殿下色に、ミハイルさんとジョシュさんの視線が怖い。
そして後片付けの忙しいマリーさんに気を使い昼食の会場まで1人で移動していると、前からあの目つきの悪い騎士が来た。確かアレックスって呼ばれていたなぁ…。
「遅い。殿下がお待ちだ。これだから女は面倒なんだ」
いきなり文句を言われた。あんたの主が着替えろって無茶ぶりしたんじゃん!なにこいつ!
「では、殿下にお伝えください。お待たせするのは申し訳ないので、先にお食事してくださいと」
腹が立つが一応お辞儀して踵を返して自分の部屋に戻ろうとした。
「おいお前!会場は反対だ」
「アレックス!何をしている!」
振返ると目つき悪い騎士の後ろにジョシュさんが怖い顔をして仁王立ちしている。
「春香ちゃん迎えに来たよ。この馬鹿ほっておいて会場に俺と行こう」
ジョシュさんは笑顔で手を差し伸べてくれた。
「えっと…もう部屋に戻ろうと思って」
「あいつに何か言われたの?あー無視していい。あいつは殿下至上主義だから偶にあんな風にポンコツになるんだ」
「おい!ジョシュ」
ジョシュさんはアレックスさんを思いっきり無視して私をエスコートして歩き出す。ジョシュさんはいつも通りの調子でドレス姿を褒めてくれた。でもやっぱり色は気に食わなかった様で、次は水色のドレスを贈ると意気込んでいた。
ジョシュさんが来てくれて冷静になれた。仕事場にも居たじゃない理不尽な人。こっちに来て会う人はいい人がばかりで、ちょっとの悪意に異常に反応してしまった。今猛烈に反省中。
「ごめんなさい。冷静に考えたらここで私が部屋に戻って私はすっきりしても、公爵様に迷惑をかけてしまうのに…ジョシュさんが来てくれてよかった。ありがとうございます」
「…」
「へ?」
いきなりジョシュさんに抱きしめられた。ジョシュさんも大きいから腕の中にすっぽり入ってしまう。
「そんな可愛い事を他の男に言っては駄目だ! 皆すぐ春香ちゃんに惚れてしまう。これ以上ライバルを増やさないで」
「ジョシュさん苦しいから離して下さい」
「ジョシュ様、春香様、殿下がお待ちですのでお急ぎを…」
「「うわ!」」
背後から急に話しかけられ驚く。犯人はクロードさんだった。どうやら探しに来てくれたみたい。私の戻りが遅く会場が(特に殿下が)ざわつき出したそうだ。
急ぐのならとドレスの裾を持ち上げて走り出そうとしたら、顔を赤めたジョシュさんが私を抱え上げた。
「こら!春香ちゃんクロードが居るのになぜ脚を出す!」
「だって急ぐから走るのにドレスの裾が邪魔で…」
「はぁ…いい加減自覚してよ… 貴女に惚れている男には酷な事だと。これでもかなり我慢しているのだからね!」
「春香様は予想外の事をされるので、目が離せませんね…くくくく…」
「クロード!」
ジョシュさんはまだ顔は赤く、クロードさんは楽しそうに笑っている。私を抱えたジョシュさんとクロードさんが早足で会場にむかう。やはりお2人共脚が長いので一歩が大きく私の小走りより速そうだ。
会場に着いたら殿下が走って来て、その表情は不機嫌だ。
「何故春香はジョシュが抱き上げているんだ⁈」
ジョシュさんに下してもらい、今から言い訳始めます。
何とか言い訳できた。ほっとしたのも束の間ですぐに殿下の説教が始まる。怒られてた理由はクロードさんの前で脚を出した事だった。待たせた事はいいのか⁈
「春香。肌を見せてもいいのは夫だけだからね。分かった?」
滾々と説教された。その様子を不機嫌にアレックスさんが見ている。事の発端はあんただからね! 思わず冷ややかな視線を送り、関わりたくない人に認定しました。
会場の皆さんにお詫びをして食事が始まります。
私はミハイルさんと殿下に挟まて圧迫感が半端ない。ロックさんの配慮で量もサイズも小さい料理で殿下に心配される。何度言いますが私の身体ならこの量は適量です。
とりあえず頑張って食べないと遅いからメイン料理にたどり着かない。いつも魚で終わってしまう。
周りの食事のペースを見ようと周りを見渡したら、何故か皆さんの視線を感じる。
「あの…何か?」
「済まなかった。他意はない。ただ一生懸命食べている姿が可愛くてなぁ…」
とレイモンド様が言うと皆んな頷いている。殿下に至っては完全に手を止めて、体を私に向け完全に観察体制に入っている。
「シュナイダー家の者が羨ましい。毎日この光景が見れるなんて…」
あー動物園のパンダになっていました。皆んな分かってる?パンダは熊の仲間なんだからね。意外に凶暴らしいぞ!
「見ないで下さい。食べれません」
食卓に笑いが起こる。そして食事後のお茶をいただくと殿下が
「シュナイダー家の王都の町屋敷の護衛の責任者はアレックスに命じてある。彼奴は剣術に長け優秀だ。彼奴になら春香を任せられる」
「っんっぐ!」
危ないお茶を吹きだきそうになった。
「すみますせん。聞き間違いですかね⁈アレックス様が警護に就くと言うのは…」
部屋の隅に控えるアレックスさんが嫌そうに私を見る。何こいつ!凄い失礼だ。これは殿下に嫌って言っちゃっていいかなぁ… すると殿下が私に近づき小声で
「アレックスは騎士としても有能だが、何より女性が苦手で安心だ。春香の警護には既婚者しかつけないから安心して。独身者は春香に手を出す可能性があるから絶対だめだ。だからジョシュは王宮騎士だが独身だから警護から外した」
何か殿下さらっと凄い事言ったけど…アレックスさん女嫌いって… だからあの態度⁈得体のしれない敵意が判明したけど先行きが不安でならない。
ひっきりなしに殿下が話してきて左横のミハイルさんが入るスキがない。左からすごい視線と圧を感じるけど、話続ける殿下を無下にできず困り果てる。
ここで助け舟のアビー様が
「お天気もいいのでお庭を散策されてはいかがですか⁈」
ミハイルさんと殿下が一斉に立ち手を差し伸べて来る。
「え…と…一人で大丈夫です」
でも2人共引く気配がない。困った…
またアレックスさんの鋭い視線が向けられる。視線で“殿下を優先しろ”っと言っているようだ。もーあの人怖い! 日本にいてあんなに睨まれた事なんて無いから恐怖すら覚えるよ… 泣きそうだ。ミハイルさんのフォローは殿下が帰ったらしよう。
「お庭までは殿下にお願いし帰りはミハイルさんにお願いしますね」
これで平等!なんか幼稚園の先生みたいだ。
寂しそうなミハイルさんに心で謝りながら殿下の手を取った。殿下はすぐに腰に手を回してくる。あまりくっつかないで欲しい。逃げ腰に私を後目にぐいぐいエスコートする殿下。私の後ろにミハイルさん、アレックスさんとジョシュさんがついてくる。
庭に出ると風が心地よくて少し気がまぎれる。殿下は終始私を見ている。陛下の手紙に書いてあったけど殿下は生まれた時から母親にも素手で触れられた事が無く、スキンシップに飢えている。だから私に触れれるのが嬉しくて仕方ないようだ。ホンと相手が私でごめんなさい。
ふと目線を遠くにやると黒い塊が近づいてくる。あの黒い塊は… 暴走ワンダが真っ直ぐにこっちに向かっている。
アレックスさんが咄嗟に殿下と私に前に飛び出し剣に手を掛けた。ワンダが危ない! 思わず剣に手をかけたアレックスさんの右腕に飛びつき
「ワンダ!スト~ップ!」
大声で叫んだ。ワンダは私たちの数メートル前で止まり尻尾を振り嬉しそうだ。
良かった。ワンダ切られちゃうところだったよ。
「お前いつまで俺の腕にぶら下がっているんだ!」
不機嫌そうにアレックスさんが私を見る。
初めてまともにアレックスさんの顔を見た。改めて間近で見ると端整なお顔をされている。一重の切れ長の茶色の瞳と目が合う。なんだろう態度は威圧的なのに瞳は温かく感じる。
「うわぁ!」背後からミハイルさん抱えられた。
「春香いつまでアレックス殿にくっついているんだ!」
「あ…ワンダが切られちゃうと思って思わず」
殿下は私の手を取りミハイルさんに目線をやり
「ミハイル。これだけ大きな犬が春香に飛びついたら怪我をする。管理はどうなっているんだ!あの状況ではアレックスに切られても仕方ない」
「え…切っちゃダメ…」
「春香?」
「ワンダは公爵家の領地で狼に襲われた時に私に気付き身を呈して助けてくれた命の恩人なんです」
殿下を見据えて
「殿下がいらっしゃるのにきちんと繋いでいなかったのは公爵家に落ち度があります。それはお詫びいたします。しかしワンダは私の友人でもあります。頑張って躾しますからお許しを…」
深々と頭を下げて陳謝する。ミハイルさんもジョシュさんも同じく頭を下げて謝罪をする。
ワンダだけがご機嫌に尻尾を振っていた。
殿下は溜息を吐き私の手を取り
「春香。顔を上げて。この犬が春香にとって大切なのはわかった。しかし管理不十分だ。公爵にはこの犬の再訓練を言っておく。これで春香も納得か?」
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