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80. Another STORY -1
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「ねぇ~たっつんラノベとか読む人だったの⁉︎」
「それは従姉妹のを預かってるんだ」
「何それ!これベタベタの異世界ものじゃん!暇潰しに借りていい?」
「駄目だ!」
「なによ~ケチ!」
彼女が本棚の隅から見つけて来たラノベ。一度も読まれて無く透明のフィルムが巻かれたままだ。
彼女に返してもらい改めて表紙を見る。
この本は5年前に失踪した従姉妹の春香の本だ。春香の部屋の整理に行った時に見つけた。昔から読書が趣味でよく読んでいたのは知っていた。春香の部屋には100冊近い本が綺麗に整理されていた。流石にウチで保管できる訳もなく古本屋に買い取ってもらい、その時にこのラノベが妙に気になり売らずに持ち帰りそれ以来俺の本棚にある。
何が気を引いたかというと表紙の主人公の女性が春香に似ていた。美人では無いが整った顔立ちをして艶やかな黒髪のストレートロングだ。表紙には他に攻略対象だろうか3人の美男子が女性を囲んでいる。裏表紙の小説の触りが書いてあり、異世界に移転した女性が聖女として扱われ、美丈夫から求婚を受ける。主人公は帰り方を探し見つけ元の世界に帰るか、異世界に残り求婚を受けるか悩むラブストーリー。
「確か従姉妹って失踪してる子?」
「あぁ…」
春香は1歳年上の従姉妹で小学生の頃は家も近くよく遊んだ。中学に上がる時に親父の転勤で地方に引越し、それからは正月に会うくらいだった。
俺が高2の時に春香の両親が事故で亡くなった時にウチで引き取る話が出たが、春香は就職も決まっていて一人暮らしをし自立の道を選んだ。
お袋は心配していたが春香は元々しっかりしていたし、問題なくシングルライフを楽しんでいたよう。兄貴と俺は都内に行く時は宿泊代を浮かす為に春香の部屋に泊めてもらったりもした。奥手で人見知りをする春香に男の影は無く、両親は見合いを計画していた様だ。
それが…
5年前に春香の職場から緊急連絡先のウチに電話が入る。無断欠勤をしていて家に行ってもいる気配が無いとの事。状況を聞かれて寝耳に水のお袋は直ぐに都内一人暮らしの春香の部屋に行く。春香から預かっていた鍵で室内に入ると荒らされた形跡は無く、ベッドの上にスマホが電池切れの状態であり、財布や判子、預金通帳はあり事件性は感じられなかったそうだ。お袋は春香のスマホから友人に連絡したが、誰も春香の行方を知らなかった。
数日都内に滞在して行方を捜したが見つからず捜索願いをだす。直ぐに警察が調べてくるが失踪前の週末帰宅後にマンション入口とマンション正面にある交番の防犯カメラで確認がとれた。しかし帰宅後に部屋から出た映像は残っていなかった。マンションの入口は1箇所しか無く手掛かりが無い。
結局数日後に春香の職場の人と相談し退職する事になった。職場の上司は帰って来たら戻れる様に配慮すると言っとくれたようで、春香が真面目に仕事をしていたのが伺える。
こうして月一お袋が春香の部屋を確認しに行き、手ががりを探す日々が始まった。
1年経とうとした時に春香の部屋のオーナーから立退を言われる。家賃はきちんと支払いしていたが、このマンションは交番前のオートロックな上に、駅近で独身女性に人気があり入居待ちをしていた。いくら家賃の支払いはされていても空き部屋にするより他に貸したいそうだ。
お袋は交渉したが退去はせざる負えず、連休に家族全員で春香の部屋を片付ける事になった。
最低限の衣類と貴重品以外はリサイクルショップに売る事に。
その時にこの本はを見つけた訳だ。こっそり持ち帰ったのでバレていない。
先日実家に帰った時にお袋はもう直ぐ6年経つと溜息を吐く。どうやら失踪宣言手続きをするか悩んでいるようだ。兄貴はお袋の体を気遣い失踪宣告に前向きで、親父は基本お袋が納得いく形でと言っている。お袋を気遣っている様に見える兄貴は実は計算高く、春香が相続した都内のマンションが目的だ。
マンションは春香の両親が所有していた都内一等地の人気エリア。都内中心部まで電車1本で30分以内に行け閑静な住宅街にあり駅まで徒歩5分だ。兄貴は都内で就職しそのまま結婚し住んでいる。丁度春香が貸していた居住者が退去し兄貴夫婦が今住んでいる。それも破格の家賃で。
義理の姉がマンションを気に入り兄貴はいずれ自分たちが相続したいと考えているようだ。春香が失踪宣告を受ければ唯一の身内の母が相続し、兄貴はいずれ俺に相当のお金を払い自分の名義にするつもりだ。
その考えは分からなくないがお袋の気持も考えて欲しい。お袋は急死した伯母夫婦の代わりに春香を見守ると誓いずっと気にかけてきている。伯母に罪悪感を抱き今も春香を捜している。
でも実際は還暦近くなり老いて来たお袋を見ると潮時を考えないといけないのも分かる。
本を見つめ思う
『春香…お前は今幸せなのか?』
俺がこの本を開封しないのはこの本の内容が今の春香の様な気がして読むのが怖い。主人公が不遇な目に合っていたら落ち込むのは必至だ。いや反対に沢山の人に愛され幸せなのかもしれない。
そんな事を考えながらまた今日もこのラノベを読む事無く本棚に戻した。
来月初めに都内の兄貴の所に集まり今後を話し合う事になった。
『春香…戻ってくるなら手続きする前に帰って来い。俺が助けてやるから!なんの心配もない』
本の表を見つめ封印した初恋が顔を出しかけている事に苦笑し、本を棚に戻し目の前にいる友人と食事に出かける事にした。
「それは従姉妹のを預かってるんだ」
「何それ!これベタベタの異世界ものじゃん!暇潰しに借りていい?」
「駄目だ!」
「なによ~ケチ!」
彼女が本棚の隅から見つけて来たラノベ。一度も読まれて無く透明のフィルムが巻かれたままだ。
彼女に返してもらい改めて表紙を見る。
この本は5年前に失踪した従姉妹の春香の本だ。春香の部屋の整理に行った時に見つけた。昔から読書が趣味でよく読んでいたのは知っていた。春香の部屋には100冊近い本が綺麗に整理されていた。流石にウチで保管できる訳もなく古本屋に買い取ってもらい、その時にこのラノベが妙に気になり売らずに持ち帰りそれ以来俺の本棚にある。
何が気を引いたかというと表紙の主人公の女性が春香に似ていた。美人では無いが整った顔立ちをして艶やかな黒髪のストレートロングだ。表紙には他に攻略対象だろうか3人の美男子が女性を囲んでいる。裏表紙の小説の触りが書いてあり、異世界に移転した女性が聖女として扱われ、美丈夫から求婚を受ける。主人公は帰り方を探し見つけ元の世界に帰るか、異世界に残り求婚を受けるか悩むラブストーリー。
「確か従姉妹って失踪してる子?」
「あぁ…」
春香は1歳年上の従姉妹で小学生の頃は家も近くよく遊んだ。中学に上がる時に親父の転勤で地方に引越し、それからは正月に会うくらいだった。
俺が高2の時に春香の両親が事故で亡くなった時にウチで引き取る話が出たが、春香は就職も決まっていて一人暮らしをし自立の道を選んだ。
お袋は心配していたが春香は元々しっかりしていたし、問題なくシングルライフを楽しんでいたよう。兄貴と俺は都内に行く時は宿泊代を浮かす為に春香の部屋に泊めてもらったりもした。奥手で人見知りをする春香に男の影は無く、両親は見合いを計画していた様だ。
それが…
5年前に春香の職場から緊急連絡先のウチに電話が入る。無断欠勤をしていて家に行ってもいる気配が無いとの事。状況を聞かれて寝耳に水のお袋は直ぐに都内一人暮らしの春香の部屋に行く。春香から預かっていた鍵で室内に入ると荒らされた形跡は無く、ベッドの上にスマホが電池切れの状態であり、財布や判子、預金通帳はあり事件性は感じられなかったそうだ。お袋は春香のスマホから友人に連絡したが、誰も春香の行方を知らなかった。
数日都内に滞在して行方を捜したが見つからず捜索願いをだす。直ぐに警察が調べてくるが失踪前の週末帰宅後にマンション入口とマンション正面にある交番の防犯カメラで確認がとれた。しかし帰宅後に部屋から出た映像は残っていなかった。マンションの入口は1箇所しか無く手掛かりが無い。
結局数日後に春香の職場の人と相談し退職する事になった。職場の上司は帰って来たら戻れる様に配慮すると言っとくれたようで、春香が真面目に仕事をしていたのが伺える。
こうして月一お袋が春香の部屋を確認しに行き、手ががりを探す日々が始まった。
1年経とうとした時に春香の部屋のオーナーから立退を言われる。家賃はきちんと支払いしていたが、このマンションは交番前のオートロックな上に、駅近で独身女性に人気があり入居待ちをしていた。いくら家賃の支払いはされていても空き部屋にするより他に貸したいそうだ。
お袋は交渉したが退去はせざる負えず、連休に家族全員で春香の部屋を片付ける事になった。
最低限の衣類と貴重品以外はリサイクルショップに売る事に。
その時にこの本はを見つけた訳だ。こっそり持ち帰ったのでバレていない。
先日実家に帰った時にお袋はもう直ぐ6年経つと溜息を吐く。どうやら失踪宣言手続きをするか悩んでいるようだ。兄貴はお袋の体を気遣い失踪宣告に前向きで、親父は基本お袋が納得いく形でと言っている。お袋を気遣っている様に見える兄貴は実は計算高く、春香が相続した都内のマンションが目的だ。
マンションは春香の両親が所有していた都内一等地の人気エリア。都内中心部まで電車1本で30分以内に行け閑静な住宅街にあり駅まで徒歩5分だ。兄貴は都内で就職しそのまま結婚し住んでいる。丁度春香が貸していた居住者が退去し兄貴夫婦が今住んでいる。それも破格の家賃で。
義理の姉がマンションを気に入り兄貴はいずれ自分たちが相続したいと考えているようだ。春香が失踪宣告を受ければ唯一の身内の母が相続し、兄貴はいずれ俺に相当のお金を払い自分の名義にするつもりだ。
その考えは分からなくないがお袋の気持も考えて欲しい。お袋は急死した伯母夫婦の代わりに春香を見守ると誓いずっと気にかけてきている。伯母に罪悪感を抱き今も春香を捜している。
でも実際は還暦近くなり老いて来たお袋を見ると潮時を考えないといけないのも分かる。
本を見つめ思う
『春香…お前は今幸せなのか?』
俺がこの本を開封しないのはこの本の内容が今の春香の様な気がして読むのが怖い。主人公が不遇な目に合っていたら落ち込むのは必至だ。いや反対に沢山の人に愛され幸せなのかもしれない。
そんな事を考えながらまた今日もこのラノベを読む事無く本棚に戻した。
来月初めに都内の兄貴の所に集まり今後を話し合う事になった。
『春香…戻ってくるなら手続きする前に帰って来い。俺が助けてやるから!なんの心配もない』
本の表を見つめ封印した初恋が顔を出しかけている事に苦笑し、本を棚に戻し目の前にいる友人と食事に出かける事にした。
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