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99.回想《ローランドside》

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「殿下、今日はどちらに行かれますか?」
「広場の朝市を回りその後に図書館に行く」
「畏まりました」

平民の装いに着替えウィッグを着け彼女乙女を捜しに向かう。
今日はアレクは陛下の命を受け辺境地に向いいない。こうやってお忍びで彼女捜し始めてどの位経っただろう。期待を胸に城下を歩き落胆し帰るのを繰り返している。本当に”迷い人”は来るのだろうか…

そう私は女神レイラの加護を受け生まれた。加護はこのレイシャルの王族に数百年に一度与えられる。レイラの加護を受けると女性を愛せず触れる事も出来ない。よって妃を迎え世継ぎを儲ける事が出来ないのだ。
しかし女神レイラの加護を受けた者が生まれると、対の様に異世界から乙女が現れる。乙女は女神レイラの理から外れているので、加護を受けた者が唯一情を交わせる。異世界の乙女とはどんな女性なのだろう。絶世の美女か官能的な肢体の女性かはたまた才女か⁈
過去の迷い人に関する文献を読むと、小柄な幼い面立ちの女性で、茶色い髪に黒い瞳だったそうだ。
その情報を元に茶色の髪の女性を中心に捜すが、レイシャルはゴラスから来る女性が多く、茶色の髪の女性は少ない。目に付きやすいが明るい茶色の女性ばかりだ。濃い茶色で黒い瞳の女性は見つからない。

「はぁ…」

溜息を吐き広場を諦め平民図書館に向かう。図書館はあまり捜しに来ないが、もしかしたら迷い人は帰り方を探しに来るかもしれないと思ったからだ。前に現れた迷い人は元の世界の帰り方を探した経緯が記されていた。
平民図書館は貴族図書館に比べて通路が狭く、気を付けないと女性に触れてしまう。手は手袋で保護ガードしているが、顔はそうはいかない。女性の髪が触れるだけでも痛みが走り赤く爛れる。
図書館を一回りしたが該当する女性は居なかった。肩を落とし出口に向かおうとしたら…

『なんて綺麗な黒髪なんだ…』

入口から背の低い少女が入って来た。付き添う者がいる事や服装から見て貴族だ。
少女は愛らしい顔立ちをしていて未成年に見える。帰ろうと思っていたが、少女から目が離せなくて近くに移動する。
すると少女がいる棚に司書が凄い量の本を運んでいる。少し当たるだけでも崩してしまいそうだ。嫌な予感がし少女の近くに移動した。すると付き添いの女性と他の通路へ移動する様で安心していると、少年が司書の方へ走っていった。避けるだろうと見ていたら気付いていない付き添いの女性が徐に棚の前に屈んだ。その瞬間少年は司書にぶつかり、司書は本を落としてしまう。

『危ない!』

棚前に屈んだ女性を引っ張ろうと手を出したら、あの少女が付き添いの女性を庇い女性に覆い被さった。回避できず2人を庇うために身を差しだした。

『痛っ!』

硬い本が頭や背に降り落ち痛みが走る。
下を見ると2人は無事で安堵する。すると少女が頭を上げた瞬間に全身に衝撃が走った。

少女の黒く輝く瞳は黒曜石の様で目を引いた。そして桜色の小さな唇は少し空いていて口付けたい衝動に駆られる。少女が驚いた顔をし私は我にかえり2人に手を差し伸べる。
立ち上がった少女は小さく私の肩にも届かない。少女は礼儀正しく礼を述べると驚いた表情をし、ポケットからハンカチを取り出して私の右顳顬に当てた。
私の左の頬に柔らかく温かい彼女の手が添えられ慌てる。

『油断した。爛れてしまう!』

痛みを覚悟した!

『ん⁉︎痛くない…』

驚愕し間近にある少女の顔を見つめる。背の低い彼女は爪先立ちをし私の顳顬の傷を止血してくれている。その真剣な表情に体の内側が熱を持ち出す。

それに左頬には痛みどころか真綿の様な軟らかい感覚と温かさ感じない。
すると彼女は爪先立つが辛くなった様で、眉尻を下げ申し訳無さそうに屈んで欲しいと伝えて来た。

屈むと更に距離が縮まり彼女の息遣いとほのかな花の香りを感じ更に興奮する。間違いなく彼女は”迷い人”だ。興奮しどうしていいか頭が回らない。

彼女はハンカチを外し止血を確認すると離れて頭を下げてお礼を述べる。再度確認したくて手袋を外し彼女の手を取った。痛みはなく軟らかい手の感覚と温もりが伝わる。気がつくと彼女の手の甲に口付けていた。彼女の肌を唇に感じ泣きそうになる。

「レディのお名前はを知る権利をいただけませんか?」

と彼女の素性を知ろうと聞いたら、程よく断られ足早に彼女は付き添いの騎士と立ち去ってしまった。

「殿下!」
「彼女を追跡し必ず身元を調べ登城させろ」
「御意」

駆け寄る騎士に彼女の素性を調べ登城させる様に命じ、そこから城までどうやって帰ったか覚えていない。彼女の温もりと香りに酔いしれ天に登る気持ちだった。

“ばん!”

「殿下!迷い人を見つけたのは本当ですか!」

息を切らし部屋に駆け込んできたのは家臣のアレックス。幼い頃から共に育ち兄弟の様な間柄だ。ずっと迷い人捜しを手伝ってくれていた。

「あぁ…本当にいたよ…私の乙女…いや女神が」
「どこの者ですか⁉︎」
「どうやらシュナイダー公爵家が保護していた様だ」
「それって…ミハイル殿の」
「今、シュナイダー公爵家に使者を送り、女神を迎えに行かせている。もう直ぐ女神に会える」

アレクは微妙な顔をして

「ミハイル殿も”迷い人”が必要なはず。簡単に引き渡すでしょうか⁈」
「ミハイルは媚薬でも使えば世継ぎは儲けれる。私は違う。迷い人でなければならないのだ。王子である私に譲るだろうし、女神も王子の方がいいだろう」

何故か眉を顰めるアレク。だかそんな事どうでもいい。ずっと恋焦がれていた乙女が手に入るのだ。手袋越しではなく乙女の柔肌に触れ感じたい。男としてごく当たり前の欲求を満たしたい。
アレクに乙女に出会った時の経緯を話す。アレクは静かに聞いてくれる。何時間でも乙女の話しが出来そうだ。すると誰かが部屋に来た。やっと乙女が来た様だ。だが入室して来たのは筆頭宮廷医で…

「殿下。恐れながら彼の女性は急性咽頭炎を患れており、発熱により登城は不可能で早くても3日は静養が必要でございます」

宮廷医はそう言い深々と頭を下げた。意味が分からず思わず声を荒げ

「何故だ!数時間前は元気だったぞ!シュナイダー公爵家が仮病とし偽装したのだろ!」
「いえ、私が直診し確認いたしております。お可哀想に喉を腫らされ高熱で意識が朦朧とされておりました。今は静養が必要でございます」

ありえない…何をしたんだ!憤っているとアレクが冷静に

「迷い人は存在し居場所が分かったんだ。焦る必要はない。待っている間は受け入れる準備をすればいいではないか」
「そうだなぁ…登城時に身に纏うドレスを贈る。針子の責任者を呼んでくれ」

そしてこの日から乙女を迎える準備を始める。衣服に装飾品、そして妃の部屋の内装と毎日楽しくて仕方ない。登城するためのドレスを急ピッチで仕立てさせシュナイダー公爵家に贈る。
色は勿論若草色で私の瞳の色だ。真珠色の美しい肌と綺麗な黒髪に映えるだろう!想像するだけで顔が綻ぶ。

2日後に公爵家から連絡が入り、明日乙女は登城する。乙女の名は”春香”…なんとも愛らしい名だ。早く春香に私の名を呼んでもらいたい…

やっとこの日が来た!今日は春香が登城する。いつもより早く起きて部屋の準備や茶菓子にお茶を確認して、湯浴みをしいつも以上に身支度に時間をかける。
また今日はアレクは任務でいない。乙女に会いたかったと眉間の皺を深め不貞腐れながら出立していった。やっと約束の時間になり先触が来て鼓動が煩い。しかし…遅い!苛立ち部屋を出て迎えに行くと、前から騎士が走ってくる。

「殿下!報告致します。何者かが春香様に水を浴びせ、春香様は着替えの為に別室にご案内致しました」
「何!誰だ私の春香に危害を加えた奴は!」
「付き添いの侍女の証言では女性の笑い声と走り去る足音を聞いたと申しております。本日は王妃様のお茶会に令嬢が数名登城しております。おそらく…」

『あの化粧臭い女どもか!私の春香になんて事を!』

騎士に直ぐに犯人を捕まえる様に命じ、春香が待機する使用人の衣裳室へ

「殿下!お待ち下さい!」
「煩い後から来い!」

足の遅い騎士を置き去りにしやっと衣裳室が見えて来た。近くに来ると扉が開き芳しい香りを纏った春香が出てきた。
水を被り質素なワンピースに着替え化粧気が無く自然な姿が愛らしい!

やっと会えたのに春香はドレスを濡らし挨拶出来ないから帰ると言い、私の横をすり抜けて行く。
咄嗟に手を取り帰らないで欲しいと懇願すると、少し不機嫌だが残ってくれた。春香が逃げない様に彼女の手を取りお茶の用意をした部屋に案内する。
春香の手は小さく温かい。この温もりを自分だけのものしたいと、自分の中に生まれた【独占欲】を感じながら部屋に急いだ。
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