時空の迷い子〜異世界恋愛はラノベだけで十分です〜

いろは

文字の大きさ
134 / 137

134.もう暫く

しおりを挟む
目を覚ますとローランドの腕の中。どうやら仕事を終えたローランドが私が眠った後にベッドに入ってきた様だ。自分で額に手をやり熱を確認。体の怠さも無くなり熱も引いた様だ。安心したら喉が渇き起き上がろうとしたがローランドの腕が緩まない。

「ローランド!起きて」
「…」

何度呼んでも起きてくれず仕方なく触れるだけのキスをすると!

そのまま頭をホールドされ噛みつ様な口付けをされる。必死に抗い何とか解放してもらう。
朝から激甘なムードのローランドだけど病み上がりの私にお相手する体力は無い。距離を取ると苦笑いをし抱きしめてくる。
やっとベッドから降りて部屋の方へ行くと侍女さんがお茶の準備をしてくれていた。そして侍女さんから後半刻程でシュナイダー港に着くと聞かされ、この後下船準備を急いだ。

準備が整いローランドのエスコートで甲板に出ると遠くに港が見えて来た。

「ん?」

目を凝らすと沢山の馬車と人だかりが見える。目が点になっていると

「春香は人気者だな」

私の肩を抱いたローランドは誇らしげにそう呟き微笑む。

『いやいや!そんな訳…もしかしてサクラ?』

そんな事を考えているうちに港に着いた。船員達が慌ただしく着岸の準備をし、私達はタラップの接続部へ移動。少しするとタラップが接続され、先に騎士さんが降り私達が続く。

「ハル!」

この声はミハイルだ。燃える様な赤髪が視界に入りミハイルに手を伸ばすが、ローランドに腰をガッツリホールドされ身動き出来ない。
恐る恐る見上げるとやきもち全開のローランド。再度ミハイルを見ると一瞬嫌な顔をした後に、姿勢を正しローランドに丁寧に挨拶をする。

「お疲れでしょう。シュナイダー邸でお休み下さい」

こうして公爵家の馬車でシュナイダー邸に向かうが…

「あれ?ローランドは乗らないの?」
「本当は一時も春香と離れたくないが、暫く王城で過ごすのだ。に着くまではミハイルに譲るよ」

ローランドの言葉に驚いていると、触れるだけの口付けをしローランドは別の馬車に乗ってしまった。唖然とする私をミハイルが抱きかかえ馬車に乗り込んだ。そしてお約束の…

ぐったりした私を抱きかかえるミハイル。夫達のご機嫌をとるのは命懸けだ。するとやっと落ち着いたミハイルが

「ハルは先ほどのローランドの発言が意外だと思ったんだろう⁈」
「うん。正直びっくりした」

そう答えるとミハイルは特別決まりをつくった訳ではないが、夫達はお互いの気持ちが分かり譲り合いの精神がめばえたそうだ。

「叶うのならハルを賭け命懸けの勝負をしたい。しかしハルはそれを望まないし嫌がるだろう。俺達は自分の欲でハルを失うのが一番怖い。だからハルの表情が陰ることのない様に、少しの我慢はいくらでもするさ」
「ミハイル…ありがとう。大好きだよ」

恥ずかしいけど気持ちを伝える事が出来た。破顔したミハイルは甘く腰に響く声で

「あぁ。分かっている」

そう言い抱きしめてくれる。船室で”夫が3人も居て大変だ”と思っていたけど、大変な分幸せは3倍だ。夫達に感謝しミハイルの腕の中で微睡む。

こうしてシュナイダー邸で遅めの昼食をいただき、ミハイルとはここでお別れし王城を目指す。
王城に着くと両陛下に迎えられ、ローランドがやきもちを妬くくらい甘やかされ、穏やかな日々を過ごす。

そして私が王城に入り数日後にプライス男爵一家が王都に収監され、予定通り男爵は爵位剥奪の上、水石の採掘場で1年の労働の上国外追放となり、妻子は実家があるゴラスへ帰って行った。
そして手続きで王都に滞在していた元イーダン子爵(ジル)様はお別れの挨拶に登城されご挨拶いただいた。晴々とした顔をされたジル様の余生が心穏やかに過ごされる事を祈りながらお見送りした。



そして…あと数日でローランドの所に来て3週間なる。アレックスから数日おきに手紙は届くが、愛の言葉と私の身を案ずるばかりで、領地の事やいつ会えるのかは書かれていない。少し不安が芽を出した頃

「春香。アレクから手紙だ」
「ありがとう…」
「心配かぃ?」
「うん。信じてるけど…」

そういい俯くと笑い出したローランドが

「浮気の心配かなぁ⁈あのアレクがある訳ないだろう。春香以上の女性はこの世界には居ないんだ。いや、アレクが領地で浮気をし離縁してくれると私との時間が増えるな」

楽しそうに笑うローランドを見て思わず涙が出てしまった。慌てたローランドが跪き涙を拭いながら謝る。

「すまない!少しでも明るい気持ちになって欲しくて…いや…違う悪趣味だった」

ローランドは謝るがそんな事で不安な気持ちは消えず涙も止まらない。罰が悪そうなローランドは手紙を読むように促し、震える手で開封すると…

「へ?明日?」
「そう。明日アレクは登城するよ」

アレックスの手紙には明日登城すると書かれていた。手紙を手に固まる私にローランドが

「明日、正式に旧プライス男爵領がアレクのオリタ伯爵領に統合される。そして明日陛下から領地を賜る為に登城するのさ」
「初耳だよ!」

どうやら夫達はサプライズがしたかったようだ。やられた!私の涙を返せ!

やっとアレックスに会えると思うと嬉しくて心が震えるのが分かる。やっと泣き止んだ私を見てローランドは安心したようだ。そしてこの日はいつもより早く就寝準備をしてベッドに入るが、ローランドがやきもちを妬き、ずっと話しかけて来てなかなか眠れない。仕方なく自分から口付けローランドのお喋りを強制終了させ、ローランドがまたやきもちを妬かないように抱きしめて眠りついた。


そして翌日昼過ぎにアレックスが登城した。馬車から降りてくるのが待てず、はしたないが馬車に駆け寄ると…

「春香!」
「アレク!」

馬車から降りたアレックスは抱きしめてくれ、沢山口付けをくれる。

「アレク。気持ちは分かるが…控えろ!」
「ローランド。をありがとう」
「いや。私の妃を守るのは当たり前の事だ」

また張り合う二人の夫に挟まれ幸せを感じていた。
そして咳払いをした宰相のモーリス様に促され城内へ。この後すぐに謁見の間にて、陛下から領地を賜ったアレックス。少し痩せたけど体も一回り大きくなり、領主としての威厳も出てカッコよくなりドキドキしてしまう。
そして陛下が祝いの宴を催してくれ、私が王都に向かった後の事を話してくれた。

「大変だったね…やっぱり側に居て何かしたかったよ」
「気持ちは嬉しいが春香がいたら俺は甘えてしまい、こんなに早く治める事はできなかったよ」

そう言い微笑むアレックスは自信に満ちている。そんな夫を誇らしく思い

「じゃぁ!明日領地に戻るの?」
「ああ…だが…すまん」
「?」
「もう暫く王都で待っててくれ」
「えぇ!なんで」

アレックスと過ごせると思ったのに!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...