黎明のレクイエム

ハヤブサ

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プロローグ

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「いいかい、僕たちの仕事は、歴史を後世に伝えていくことなんだ。過ちを繰り返さないために」
やわらかな陽射しが窓から差し込んでいる。
少し開いた窓から吹く風が、カーテンを優しく揺らして光も揺れる。
男は揺り椅子の傍らに立って、瞳を細めて微笑んだ。
揺り椅子に腰掛けた長く波打つ白金髪の女性は、首をもたげてその漆黒の瞳で彼を見つめ返す。
「だから君にも、話しておくよ。僕が知っている、僕が生きた歴史のことをね。1日では話し終えられない、壮大な話さ」
そう云って彼は薄い下唇に親指をあてて、思案する。その手の薬指には、真新しい、女性と揃いの指環がきらめいていた。

「そうだね、じゃあ、戦争が起こる、すこし前から話そう。この国が、まだとても荒れていた頃の話」



大陸の国、レディアス国は、大きく北、南の自治郡、実質の国政下の東の農村地帯、主都市のある西の商業地帯に分かれていた。
北の自治郡は三都市が共同して自治をしている区域で、『自衛兵団』と呼ばれる軍を持っている。自治郡に生まれた男児は15歳の誕生日から2年間軍で訓練を受けることになっており、その後そのまま軍にとどまる者、他の職に就く者とがいる。
南の自治郡はティヘナ族と呼ばれる褐色肌民族が治める、国の一部とされながらも未開の、隔絶された地域である。
東の農村地帯は近年になり自治化を計る動きがあり、国の食物供給には重要な地域であることから国の監視もいっそう厳しくなっていた。
西の商業地帯は裕福な商人が多く住む、交易の盛んな主要都市が多くあり、王が居を構える城と城下街もこの地帯に存在した。


前国王、ノルド・テイナーが治めるレディアス国はとても荒れていた。役人や国軍兵が権力を行使して街を荒らすことなど日常茶飯事になっていた。
あるとき、国のいち兵士だった男が王政に反乱を起こした。国による全土の統治を求めて。
半年後、彼は王を倒すことなく、ともに戦った腹心を裏切り、妻を道連れに自害した。そうして戻った王政は、息子アギレス・テイナーが継いだが、数年後、『悪の覇王』と呼ばれた男が戦乱を起こす前と同じ状況になることになる。
王政復古から17年の時が経った。

4つの区域はお互いに利権を巡ってせめぎ合い、特に西の商業地帯に位置する国軍においてはその力を行使し、街を襲い、荒らし続け、国はかろうじて立ち続ける一本足の案山子のようになっていた。
そんな世間では、悪の覇王が建てた不吉の砦に、若い傭兵団が居を構えたらしいという噂が流れていた。
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