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第2章「静かな部屋」
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「杏子、一緒にお弁当食べよ!」
真帆が声をかけた。
「ごめん、今日はちょっと…」
杏子は立ち上がった。
「少し一人で歩きたくて」
「また変わったことしてる」
真帆は笑った。
「いいよ、でも次の英語の授業に遅れないでね。ミシェル先生、遅刻にうるさいから」
杏子はうなずいて、教室を出た。昼休み、他の生徒たちが賑やかに過ごす中、杏子は一人で校舎内を歩くのが好きだった。
廊下の窓からは、校庭のイチョウ並木が見える。黄金色に染まった葉が、秋の陽射しを受けて輝いていた。廊下を歩いていると、急に音が遠くなった。杏子の周りだけ、空気が変わった気がする。
「あれ?」
立ち止まって周りを見回すと、古い音楽室の扉が少し開いていた。
「ここ、使われてないはずなのに…」
杏子は扉に近づいた。半年前から耐震工事の予定で誰も使っていない部屋だった。
「なんだか変な感じ…」
扉に触れると、指先から冷たさが広がった。秋の冷え込みとは違う、不思議な冷たさ。
「風鈴みたいな冷たさ…」
杏子は小声でつぶやいた。
恐る恐る中をのぞくと、誰もいない。でも、空気が重く感じられた。
「誰かいるの?」
杏子は部屋に入りながら声をかけた。
返事はなかったけれど、机の上にはノートが開いたまま。椅子は少しだけ引かれている。黒板には半分消された音符が残っていた。
「まるで、さっきまで誰かがいたみたい…」
床がきしんだ音が、部屋の中で不思議に響いた。
「この音、半分しか聞こえない…」
杏子は立ち止まって聞き入った。
「もう半分は…紫色?」
部屋の中央には譜面台がぽつんと立っていた。窓の外では、赤く色づいたカエデの葉が舞い落ちている。
「なんだろう、この感じ…」
杏子は譜面台に近づいた。
「周りの空気が震えてる…」
杏子はゆっくりと壁に手を添えた。後れ毛が頬にかかり、それを無意識にかき上げる。
「冷たい…でも、どこか温かいものが混ざってる」
時計の音が消えて、静寂だけが残った。その瞬間——
「あ…」
杏子は耳をすませた。
「これは…」
明確な音はなかったのに、何かが聞こえた気がした。
「……助けて」
「誰?」
杏子は周りを見回した。
「誰かいるの?」
それは声じゃなかった。壁を伝わる振動のようなものだった。
「紫色の…雲?」
杏子には「助けて」という言葉が色として見えた。
「部屋の隅から、譜面台を通って、窓へ…」
杏子は目を閉じた。
「どうして私に?誰なの?」
心臓がドクンドクンと速くなる。指先がぴりぴりした。
「杏子!そこにいたの?」
廊下から真帆の声がした。杏子は急いで振り返った。
「何してるの?」真帆は不思議そうに聞いた。
「あの…ちょっと気になる場所があって」
杏子は戸惑いながら答えた。
「もう、探したよ」
真帆は腕を組んだ。
「昼休み終わるよ!急がないと。合唱コンクールの練習もあるし」
「うん、ごめん」
杏子は急いで部屋を出たが、何度も振り返った。
「ねえ」
真帆が杏子の腕を引っ張りながら言った。
「さっきから変だよ。何かあったの?」
「別に…」
「全然聞いてないじゃん」
真帆は不満そうに言った。
「放課後、一緒に帰ろうって言ったのに」
「え?ごめん、聞いてなかった」
杏子は申し訳なさそうに言った。
「でも今日は…用事があるんだ」
「またぁ?」
真帆はため息をついた。
「いつもそうだよね。でも仕方ないか。文化祭の後片付け、私一人でやっておくよ」
教室に戻っても、杏子の頭はあの音楽室のことでいっぱいだった。窓の外では落ち葉が舞い、秋の日差しが教室を温かく照らしていたけれど、杏子の心は別の場所にあった。
「あの部屋に、また行かなきゃ」
杏子は心の中でつぶやいた。
「誰かが私を呼んでる…」
真帆が声をかけた。
「ごめん、今日はちょっと…」
杏子は立ち上がった。
「少し一人で歩きたくて」
「また変わったことしてる」
真帆は笑った。
「いいよ、でも次の英語の授業に遅れないでね。ミシェル先生、遅刻にうるさいから」
杏子はうなずいて、教室を出た。昼休み、他の生徒たちが賑やかに過ごす中、杏子は一人で校舎内を歩くのが好きだった。
廊下の窓からは、校庭のイチョウ並木が見える。黄金色に染まった葉が、秋の陽射しを受けて輝いていた。廊下を歩いていると、急に音が遠くなった。杏子の周りだけ、空気が変わった気がする。
「あれ?」
立ち止まって周りを見回すと、古い音楽室の扉が少し開いていた。
「ここ、使われてないはずなのに…」
杏子は扉に近づいた。半年前から耐震工事の予定で誰も使っていない部屋だった。
「なんだか変な感じ…」
扉に触れると、指先から冷たさが広がった。秋の冷え込みとは違う、不思議な冷たさ。
「風鈴みたいな冷たさ…」
杏子は小声でつぶやいた。
恐る恐る中をのぞくと、誰もいない。でも、空気が重く感じられた。
「誰かいるの?」
杏子は部屋に入りながら声をかけた。
返事はなかったけれど、机の上にはノートが開いたまま。椅子は少しだけ引かれている。黒板には半分消された音符が残っていた。
「まるで、さっきまで誰かがいたみたい…」
床がきしんだ音が、部屋の中で不思議に響いた。
「この音、半分しか聞こえない…」
杏子は立ち止まって聞き入った。
「もう半分は…紫色?」
部屋の中央には譜面台がぽつんと立っていた。窓の外では、赤く色づいたカエデの葉が舞い落ちている。
「なんだろう、この感じ…」
杏子は譜面台に近づいた。
「周りの空気が震えてる…」
杏子はゆっくりと壁に手を添えた。後れ毛が頬にかかり、それを無意識にかき上げる。
「冷たい…でも、どこか温かいものが混ざってる」
時計の音が消えて、静寂だけが残った。その瞬間——
「あ…」
杏子は耳をすませた。
「これは…」
明確な音はなかったのに、何かが聞こえた気がした。
「……助けて」
「誰?」
杏子は周りを見回した。
「誰かいるの?」
それは声じゃなかった。壁を伝わる振動のようなものだった。
「紫色の…雲?」
杏子には「助けて」という言葉が色として見えた。
「部屋の隅から、譜面台を通って、窓へ…」
杏子は目を閉じた。
「どうして私に?誰なの?」
心臓がドクンドクンと速くなる。指先がぴりぴりした。
「杏子!そこにいたの?」
廊下から真帆の声がした。杏子は急いで振り返った。
「何してるの?」真帆は不思議そうに聞いた。
「あの…ちょっと気になる場所があって」
杏子は戸惑いながら答えた。
「もう、探したよ」
真帆は腕を組んだ。
「昼休み終わるよ!急がないと。合唱コンクールの練習もあるし」
「うん、ごめん」
杏子は急いで部屋を出たが、何度も振り返った。
「ねえ」
真帆が杏子の腕を引っ張りながら言った。
「さっきから変だよ。何かあったの?」
「別に…」
「全然聞いてないじゃん」
真帆は不満そうに言った。
「放課後、一緒に帰ろうって言ったのに」
「え?ごめん、聞いてなかった」
杏子は申し訳なさそうに言った。
「でも今日は…用事があるんだ」
「またぁ?」
真帆はため息をついた。
「いつもそうだよね。でも仕方ないか。文化祭の後片付け、私一人でやっておくよ」
教室に戻っても、杏子の頭はあの音楽室のことでいっぱいだった。窓の外では落ち葉が舞い、秋の日差しが教室を温かく照らしていたけれど、杏子の心は別の場所にあった。
「あの部屋に、また行かなきゃ」
杏子は心の中でつぶやいた。
「誰かが私を呼んでる…」
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