キミの箱庭を求めて

詩晴海 こてこ

文字の大きさ
上 下
26 / 33
第二章

旅の始り 5

しおりを挟む
ステラに続いてクリスタの後を追った
やっと追い付いたころにはバージェストは既に倒されていて、灰色狼の前でクリスタは肩で息をしていた

「クリスタ!しっかりして!」

近くへ行くと彼女は膝から崩れ落ち意識も朦朧としている
体中に引っ掻かれた傷や噛まれた跡があり満身創痍だった、それでもうわ言のように繰り返し言う

「お婆様の…デーミゴ…お婆様…の」

ツヴァイは結んでいた髪をほどいてクリスタに治癒魔法をかける
肩にかかる栗毛がふわりと上がる、緑色の淡い光に包まれたクリスタの傷は塞がり頬に血色が戻った
髪が再度肩に触れると同時にクリスタが意識を取り戻す

「は、灰色狼は!狼はどこに!」

「クリスタ落ち着いて大丈夫だよ」

彼女をなだめながら狼の方を向くとその側に立っていたタークとステラが頷いた

「立てる?」

「はい…ありがとうございます」

立ち上がると直ぐに狼へ駆け寄る、自分も続けて側へ行くと狼に睨まれた

「…人間…立ち去れ…」

「で、っでも!こんな怪我じゃ…」

「狼さん、怪我だけ治させて?」

「いらん…」

頑固な狼も泣き崩れるクリスタもよそに、ツヴァイはもう一度地に片膝をつけて狼に治癒魔法をかける
クリスタの時に大分魔力を使っていたようで狼の一番大きい傷は完治できなかった

「ごめんね、俺の魔力が尽きたみたい」

「ふん」

狼は立ち上がりどこかへ行ってしまった
泣いてるクリスタの頭を撫でて落ち着かせるが泣き止んでくれない

「今の狼知ってるの?」

「お婆様のっ、デーミゴがっ、灰色狼だと聞いてたのでっ」

訊くとしゃっくり交じりに答えてくれる
クリスタの乗っていた馬が見当たらない、恐らく戦闘中に逃げたのだろう

「…そろそろ行こうか」

立ち上がり彼女に手を差し伸べると先ほど狼が消えた方からクリスタの馬が駆けてくる
続けてあの灰色狼も出てきた

「礼だ」

それだけ言うとまた背を向けて陰に消えていく

***ーーー***

「話せる動物もいるんだね」

歩き始めてからタークはまたライアーを奏で、ステラは相変わらず無言
クリスタもペンデュラムを懐にしまって馬に揺られるだけになっていた
何か話さなきゃと思い彼女に話題をふる

「稀ですが、いますよ」

「そうなんだ」

またもや沈黙がおとずれる
暫くしてから今度はクリスタが口を開いた

「お婆様は自分のデーミゴを手放したんです」

意味が分からず彼女を見上げて話の続きを待つ

「村では…普通はデーミゴに出会えたら一生を共にするんです。でもお婆様は自分のデーミゴに”自由に生きろ”と言ったんです…人の言葉が話せる灰色狼だったそうです…それでお婆様は村の人に変人扱いされてたんです」

「なるほどね、そうだったんだ。さっき助けた灰色狼がそのデーミゴか?」

「わからないです…”半身”なので…もうお婆様と…」

「そっか」

話しているとタークが振り返って近付いてきて2人にだけ聞こえる声で言う

「ね~ね~、さっきからつけられてるの知ってるよね~?」

「えっ!」

「うん、さっきの狼さんだよね」

「ツヴァイせ~か~い」

「そんな…私気付かなかったです…」

気付けなかった事に彼女はショックを受けていた

「大丈夫だよクリスタ」

「でも…」

「それよりさ~、どーすんの~?」

タークに訊かれて考える、そろそろ暗くなる時間だ。ここでテント張って夜に備えたほうがいいだろう

「とりあえずここで休んで様子を見よう」









しおりを挟む

処理中です...