キミの箱庭を求めて

詩晴海 こてこ

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第二章

旅の始り 9

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その小屋はとても古く、寂れていたが疲れ切った身体を一晩休ませるのにはちょうど良かった
窓はなく風が吹き抜ける。そこにステラが魔法で薄い膜を張り防いでくれる
中に台所も、火を熾せる場所もなかったから調理は外ですことにした

「狼さん、狼さん…」

涙交じりににクリスタが声を掛ける、いくら呼んでも灰色狼は浅い息を繰り返すだけで意識は戻らない

「ほんと、皆ごめん…」

「気にすんなよ~ツヴァイ。ほらほら~それより早く寝て~魔力回復させな~?」

ステラとタークは食料調達、クリスタは狼に付き添い見張りをする
ツヴァイは唯一治癒魔法が使えるからということで、1人だけ休んで魔力回復に専念するようにと言われていた
他を置いて1人小屋の中で休むことを躊躇っていると、ステラが近付きレーズンパンを一切れ差し出した
クリスさんの家を発つときに渡されたもの。日保ちするから、いっぱい持って行ってと

「ありがとうステラ」

レーズンパンを受け取りお礼と共にステラの頭に手を乗せて撫でてやると、懐かしい気持ちになり涙が流れる
それを知ってか知らずか、ステラは頭に乗せた手を素っ気なく払い除けて森へ行ってしまう
動けずにその手を見つめる。まだあの柔らかい髪の感触が残っている、ぎゅっと握り締めて涙を拭ってから小屋に入る

「ステラ…」

無意識その名を呼ぶ、記憶を失う前の2人の関係は…どんなだったのだろう…
あまり気しないようにしていたのに、今になって胸がざわつく
気を逸らしたくて頭を振った。さっき貰ったパンに噛り付いて寝る支度をする

どれだけ時がったのだろうか、仮眠のつもりだったのにぐっすり眠っていたみたいだ
香ばしいシチューの匂いとクリスタの呼びかけで目が覚める

「ツヴァイさんよく眠れましたか?」

「あ、あぁ。思ったよりぐっすりと」

「良かったです」

「ありがとう」

ツヴァイがよく眠れたことを聞いてクリスタは胸をなでおろしにっこりと笑った
彼に気付かれないように、背中側にあった杖をそっと袖口に戻す
睡眠の質を上げるために彼女はツヴァイの周りにラベンダーを魔法で一時的に咲かせていた

「タークさんが猪を捕まえて来ましたので、ステラさんと一緒にシチューを作りました」

「猪…美味しそう、だね」

猪の味を想像して身震いする、狼さんの事を考えて狩って来たのかな
にこにこのクリスタを悲しませないために楽しみだと言う

「ご飯の前に狼さんの手当をしようかな」

「はい!彼なら焚火の側にいます、熱がひどくて…」

「わかった」

小屋から出るとシチューの香りに誘われてお腹がぐううと鳴る
朝はたらふく魚を食べたから皆お昼を食べていないんだ、ツヴァイだけではなくクリスタもつられるようにお腹をぐうぐううと鳴らした









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