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愛する君を逃さない、絶対に - 1 ♥
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「いやあああああっ! ふあっ、んや! やだあっ、もうしゃぶるのやめてえっ!! あっ、あああっ、ああぁっ! やんっ、んふうッ!」
「はぁっ、好きだルクス。俺の口でもっと気持ちよくなろうな」
浴室の椅子に座らされたルクレーシャは、足を大きく開かされた状態で股間を舐めしゃぶられていた。ぶるぶると振動する銀の輪に雁首を柔らかく締め付けられながら、敏感すぎる亀頭をぺろぺろと舐められる。強烈な快感にルクレーシャはダリルの頭を押し退けようとしたが、力の入らない手は彼の黒髪を撫で梳くだけに終わった。
じゅるぅっ、じゅぽ、じゅこっと粘っこい音をわざと立てながら、ダリルは女の肉棒を徹底的に可愛がった。鈴口をほじくり、裏筋に舌を当てたまま前後に口を動かす。ルクレーシャが泣き叫んでも、ダリルは目を瞑りながら熱心に女の蜜の味を愉しむだけだ。自分の竿を深く咥え込むライバルを見下ろしながら、ルクレーシャは切ない声を上げて感じ入った。
「あっ、ぁっ、んんっ、んんーっ……! まっ、だめ、ほんとにだめえっ……。おちんちんとけるっ、きもひよすぎてとけひゃうからっ……!」
「大丈夫、溶けはしないさ。感謝するんだな、貴族の口をこんな風に使えるのは君くらいだぞ? 君がイくまでしゃぶってやるからな。ほら、もっと気持ちよくなれるように囁いてやる。好きっ、好きだ……!」
「あくっ、そんなのぉ、頼んでない! 好きなのにっ、おんなのこのおちんちんいっぱいいじめるなんてしんじらんないっ、ばかばか……あぅっ、あ!? ああっ! んにいいいいいいいぃっっ!?!?」
たっぷりした唾液の中で揺蕩っていた陰核が、突如二、三回強く吸引される。甘い快感に慣れつつあった中で対処不能な刺激を与えられ、ルクレーシャは呆気なく絶頂した。
「ひぃっ! ひいい! ひやああああああああんんんんっっ!!」
ルクレーシャの悲鳴と共に、大量の愛液が肉棒の先端から吹き出す。ダリルの口でも受け止めきれなかった飛沫は、彼の顔や肩までもびっしょりと濡らした。
「あっ……あ、あぁ……。ん、ぁぁ……」
ダリルの頭を抱えながら仰け反る。触れられていない乳首がぷっくりと腫れ上がり、更なる刺激を求めて男の生温かい口にかくかくと腰を突き入れてしまう。女の淫らな動きと顔射に満足したダリルは、口元を拭った後爽やかな笑みを浮かべた。
「くくっ、美味しかった」
「な、なっ、なんでこんなことぉ……」
男を突き飛ばし、ルクレーシャは涙目で自分の股間を押さえた。
「ダリルのへんたい!! 朝っぱらから何してんのよ!!」
「いや、洗っている最中に朝勃ちしていたんでな。俺に抜いてほしいのかと思って」
「んな訳ないでしょお……。もう、ほんっと馬鹿じゃないの!」
怒るルクレーシャを楽しそうに見つめながら、ダリルは彼女の体にたっぷりと泡を乗せた。
「そう膨れるんじゃない、俺がしっかり洗ってやるから。喜べルクス、君の下着も用意してあるんだ。魔蚕の糸で縫ったガーターベルト付きの下着だぞ」
「はあ!? 今度はランジェリーまで作ったの!? スケスケバスローブといい、錬金術でそんなもん作るのはあなたくらいよ! もう、放して! 体くらいひとりで洗えるわ!」
ダリルの手を振り払おうとするが、彼に柔らかく押し止められる。ダリルは股間に取り付けられた銀の輪を指差し、「それを外せるのは俺だけだぞ」と囁いた。
彼が輪の上に人差し指を置くと、輪は呆気なくするりと肉棒から抜けていく。ルクレーシャの秘部を優しく洗った後、ダリルはまた彼女の雁首に輪を嵌めた。
「や、やっぱりつけるの?」
「当たり前だろ。これがないと君は俺の言う事を聞かないのだから」
(別にそんなことないのに。ダリルが呼んでくれるなら、こんな輪がなくてもいつだって……)
切なさが込み上げる。もどかしい感情にルクレーシャが俯くと、ダリルは彼女の顔を上げさせて唇を奪った。
彼の黒い瞳が、寂しそうに揺れている。
「ルクス。俺はまたしばらくパーティーに出なければいけないんだ。君と自由に会えなくなる。……不安だ。俺がいない間に、君がどこかに行ってしまわないか……」
「なーによ、私はどこにもいかないわよ。いつだって寮にいるし、いつまでもあなたのライバルでいてあげるわ!」
「……ふん。ライバルか」
ルクレーシャの力強い返答を受けてもダリルの表情は変わらない。彼は女の白い首筋に唇をくっつけ、勢いよく肌を吸い上げた。
「いたっ! もう、蚊じゃないんだからやめて! 痕が残ったらどうするの? 頭冷やしなさい!」
嫌がる女に恨めしそうな目が向けられる。ルクレーシャは自分とダリルの体を湯で流した後、早く浴室を出ようと促した。
*
「執事に朝食の用意を頼んである。授業に行く前に、俺の部屋で飯を食べていけ」
早朝の光が差し込む窓際で、ダリルは魔導服のボタンを留めながらそう告げた。準備が済んで早々、彼は転移石を使ってあっという間に姿を消してしまった。部屋に横たわる静けさが、ルクレーシャの寂しさを際立たせる。
(こんな朝から出掛けるなんて、あいつってばよっぽど忙しいのね)
一人残されたルクレーシャは、風通しのいい下着の感触に落ち着かない気持ちを抱きながら、銀食器に載せられたオムレツを口に運んだ。
(……馬鹿なことしたな。好きなんて言うつもりなかったのに。まさか、あんな形で私の気持ちを打ち明けちゃうなんて!)
――き、君が俺を好き? 本当に……?
眉を顰め、信じられないといった顔でこちらを見てくるライバルの男。あの時のダリルの様子を思い出す度、胸に鋭い痛みが走る。
自分なんて、ダリルにとってはただの生意気なライバルでしかない――そう思い知らされた気がした。あんなに頼み込んでも、ダリルは決して自分を抱こうとはしない。幾度懇願しても拒絶された記憶が、胸の奥でじくじくと痛みを放っている。気が付けば頬を伝う涙が、スカートに小さな染みを作っていた。
(駄目ね。私も頭を冷やそう)
執事へ礼を伝え、ルクレーシャは静かにダリルの館を抜け出した。
朝露に濡れた石畳を歩きながら、何度も袖で目元を拭う。朝の冷たい空気が、熱を帯びた頬を優しく撫でていった。
*
「あいたた。もうあいつったら、こんなに痕を残して! 女の子の体を何だと思ってるのよ!」
授業を終え、寮に戻ったルクレーシャは、姿見の前で鬱血痕に傷薬を塗り込んでいた。うなじ、首、自分の手が届かない背中にまで痕がついている。ルクレーシャはダリルのしつこさにうんざりしながらも、自分が作った傷薬がすぐに痕を消してしまうのを寂しく感じた。
「……効きすぎる薬も困るわね」
人に見えないところにある痕まで消す必要はないか。そう考えたルクレーシャは、背中の中心にある鬱血痕だけ残しておくことにした。
部屋には、錬金釜から聞こえるこぽこぽと液体が泡立つ音、机の上でパペットが材料を刻むとんとんという音だけが響いている。心地よいリズムに耳を傾けながら、ルクレーシャはパペットの頭を優しく撫でた。
「色々あったけど、無事に帰ってこれてよかったね。ダリルくん」
小さなナイフでトカゲの尾を刻んでいたパペットは、主の笑みにこくこくと頷きを返した。彼は熱されているフラスコを指し示し、「調合中の薬は自分が見ておくから任せてくれ」と言わんばかりに胸を張った。
「本当? 助かるよ。ダリルくんが見守りしてくれるなら、きっと大成功するね! それじゃ、お言葉に甘えて私はゆっくりしようかな」
ルクレーシャは椅子に腰掛け、パペットが淹れてくれたハーブティーに口をつけた。
今日の授業は午前中までで、午後はまるまる自由時間だ。ルクレーシャはオスの実を採りに行く時に備え、パペットと共に大量の傷薬を調合していた。
傷薬は素晴らしい。採取に出掛ける時の必需品だし、需要が高いゆえに道具屋に卸せばいい金になる。自分のような貧乏学生は、外に自作の薬を売ることで研究費を稼ぐしかないのだ。
(ちまちま傷薬を売って稼ぐんじゃなくて、どかーんと一発大ヒット商品を生み出してぼろ儲けしたいわね。ダリルにこんなこと言ったら、商売はそんなに甘くないぞって言われるんでしょうけど)
今頃ダリルは、パーティーで他の貴族たちと話しているのだろうか。もしかしたら、結婚相手に迎える令嬢を探しているのかもしれない。
もやもやした嫉妬を押さえつけながら、ルクレーシャは図書館で借りた本を開いた。
フローリアンからおすすめしてもらったその本は、巷で人気の貴族とメイドの恋物語だ。ルクレーシャはそういった物語に殆ど触れたことがなかったが、後輩の勧めということで読んでみることにしたのだった。
そして、二時間後。
「うっ……うぅっ……。きょ、共感できる……!」
身分差に悩むメイドに感情移入したルクレーシャは、涙をぼろぼろ流しながら何度も鼻をかんだ。
お互い愛し合っていながらも、家の都合や血筋の違いから周囲の理解を得られなかった二人。彼らは結局駆け落ちという手段を選び、自分たちのことを誰も知らない異国の田舎で暮らす。ルクレーシャはヒーローである貴族にダリルを、ヒロインのメイドに自分を重ね合わせ、切なさと彼らが結ばれた安堵に号泣した。
「うっ、せ、せつない……。うぐぅっ」
今まで恋物語に触れてもまったく感動しなかったのに、自分の経験を思い浮かべながら読むと、登場人物に心から共感してしまう。この現実も、創作のように甘いものであったら良かったのに。物語とは違って現実は非情だ。自分がどんなにダリルのことが好きでも、彼と結ばれることは決してあり得ない……。ルクレーシャはその事実に胸を痛めた。
ぐすぐすと鼻を啜る主を、パペットが心配そうに覗き込む。ルクレーシャがパペットに濡れた頬を擦り付けると、パペットはじたばたと彼女の手の中でもがいた。
涙を流すルクレーシャの頬が柔らかく摩られる。パペットは傷薬が出来上がったことを伝えると共に、机の方を指し示した。
机の前に貼られた七曜表。
今日の日付には、赤い丸印が記されている。
「……あっ、そうだ! 今日はセールの日だったよね」
月に一度、最寄りの市場では安売りセールが開催される。その日は錬金材料がいつもの三割引きで買えるため、ルクレーシャは必ず市場に行くことにしていた。
材料棚の中は空っぽに近い。あれを買わなければ、これも買わなければと独り言を呟きながら、ルクレーシャは手帳に走り書きをした。
「…………ダリル」
ずき、ずきと胸が痛む。
恋物語で得た感動とやるせなさが自分の中にわだかまっていて、ルクレーシャはまた涙が出てくるのを感じた。
無理やり涙を拭う。できたばかりの傷薬を瓶に詰め、パペットを胸元に忍ばせる。ものがたっぷり入る大きなかごを持って、彼女は町に飛び出した。
*
ルクレーシャが通う王立錬金術学校は、この国の首都にある。人々から「王都」と呼ばれているその首都は、外周を天高くそびえ立つ白壁にぐるりと囲まれていて、まるで都そのものが一つの大きな城のように見えた。人々を危険な魔獣から守る白亜の壁は陽光を反射し、時として見る者の目を眩ませる。城壁よりも高く掲揚された赤の国旗が、華やかなる首都の威厳を誇っていた。
都の中心には王城があり、その周りには整然と区画された町が広がっている。商人たちで賑わう市場区、学者たちが集う学術区、職人たちが腕を振るう工房区……それぞれが明確な境界線で分けられ、まるで精密な歯車のように、この王都の中で独自の役割を担っているのだった。
ルクレーシャは心地よい喧騒を楽しみながら、なだらかな道をゆっくりと歩いた。
通りには色鮮やかな建物が立ち並び、それぞれが個性的な佇まいを見せている。蔦と花に飾られたハーフティンバーの壁、煉瓦の煙突、アーチ型の窓が、午後の麗らかな陽射しを浴びて柔らかく輝いていた。
王都は、文明と錬金術のにおいに溢れている。黄金を作る目的から始まった学問は、その道の途中にいくつもの有用な物体を生み出し、人々の生活を凄まじい勢いで発展させていった。
車椅子に乗った老婆を介護する大きなパペット。通りの落ち葉を集める生きたほうき。
綺麗な水を湧かせる井戸も、汚れたら勝手に洗われる石畳も、大通りを駆け抜ける車も、都市間の瞬間移動を可能にする転移石も、全て錬金術によって作られたものだ。
家の屋根には、風雨による損傷を自ら修復する魔法の煉瓦が使われている。夜になれば街灯の中の輝結晶が琥珀色の明かりを灯し、人々の帰路を照らす。市場には溶けない氷で作られた冷蔵庫があり、生魚や熟れた果実を新鮮な状態に保ち続けることを可能にしていた。
錬金術とは、もはや黄金のみを求める術ではない。それは人々の暮らしの中に溶け込み、この王都を支える土台となっているのだ。
自分も先人たちのような立派な錬金術士になれるだろうかと、ルクレーシャは町の景色を眺めながら考えた。
(お貴族様に従って金や宝石を作るのはお金になるけど、楽しくはなさそうよね。できることなら私はもっと、町の人のためになることをやりたいな)
市場の片隅で自作の薬を売っていたダリルを思い出す。町の人々に笑顔で商品を手渡していた彼はとても楽しそうで、充実感を抱いているように見えた。
傷薬、目薬、湿布、喉に良いハーブティー。ダリルが作成した品はどれも庶民の手が届く価格で、それでいて確かな効果を持つ品ばかりだ。客から寄せられる感謝の言葉に、ダリルは照れくさそうに頭を掻いていた。貴族の息子なのに、庶民相手の商売を楽しんでいる様子が印象的だった。
彼の姿を遠目で見かけた時に思ったのだ。
自分もあんな風になれたら、と。
(そうだなあ。例えば町の片隅に工房を構えて、ダリルみたいに商売するのもいいかもね)
ぼんやりと空想を膨らませる。
明るい陽射しが差し込む錬金工房。壁には色とりどりの薬瓶が並び、辺りは穏やかなハーブの香りに包まれている。拠点を構えた自分は、パペットたちと協力しながら日々調合に勤しんだり、まだ見ぬ材料を求めて世界中を旅したりするのだ。
人々の頼みを聞いて、彼らのために一生懸命自分の術を役立てる。なんて素敵な生活だろう。でも、それは叶わない夢だ。自分は両親のために貴族に仕え、いつかは稼いだ金を持って村に帰るのだから。
……でも。
――レーシャ、錬金術士になりなさい。錬金術のちからで、人々を幸せにしなさい。
自分に錬金術を教えてくれた人の言葉を思い出す。貴族に仕えて宝石や黄金を作ることが、果たして自己実現に繋がるのだろうか?
(私、本当にお貴族様の専属錬金術士になっていいのかな……?)
自分の夢に引っかかりを感じながら、ルクレーシャは市場を目指して歩き続けた。
*
薬草の香りと焼き菓子の甘い匂いが入り混じり、店主の威勢のいい掛け声が響く。市場は錬金術学校の生徒や地元住民でごった返している。人が多すぎて目当ての店に近づくことすらできない。考えることは皆同じかと呟き、ルクレーシャはパペットの背に銀貨を括り付けた。
「ダリルくん、小回りが利くあなたに手伝いをお願いするわ。店主さんにこのメモを見せて、あのお店から睡蓮の種を買ってきてちょうだい」
小さなパペットはルクレーシャの掌の上で可愛らしく頷き、人混みの間を密かに縫い進みながら店へと近づいた。
数分の後、袋を背負ったパペットが戻って来る。ルクレーシャは小さな人形をそっと持ち上げ、彼に頼んで本当に良かったと満足げに微笑んだ。
それからも、ルクレーシャはパペットを使って買い物をこなした。彼女が持つかごには、青々とした魔力消し草やスライムの核、大トカゲの尾がぎっしりと詰め込まれていく。目当てのものをすべて購入したルクレーシャは、最後に道具屋に傷薬を卸して当分の生活資金を得た。
何もかも順調で喜ばしい。そろそろ帰路につこうかと考えていた時、突然、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「あっ! ルクレーシャせんぱあーーい!」
人混みの向こうから響く声に、ルクレーシャは思わず足を止めた。
その声には聞き覚えがある。振り向くと、鮮やかな黄緑色のシャツが目に飛び込んできた。金髪の少年が手を大きく振りながら、人々の間を縫うようにして駆けてくる。
フローリアンだ。彼は荒い息を吐きながら、ルクレーシャを嬉しそうに見つめた。
「ハァッ、はぁっ、ぜぇ、ふぅ……。る、ルクレーシャ先輩っ、市場でも会えるだなんて。なんというハッピーラッキーデイ! フヒィッ……」
「ねえ、息切れしてるけど大丈夫?」
「は、はい。見苦しくてすみません。運動不足なもので」
ずり落ちた眼鏡をかけ直しながら、フローリアンは鼻の頭の汗を拭った。
「先輩もセール品狙いですか?」
「うん、いっぱい買いに来たの! こんな時に買わなくちゃ、お財布がすっからかんになるからね」
「そうですよね! 今日みたいな日は僕達にとって大事な日です。僕も欲しいものをいっぱい買いましたよ!」
ルクレーシャはフローリアンのかごに目を向け、首を傾げた。
彼のかごには食材ばかりが詰め込まれている。小麦粉、たまご、バター、蜂蜜。その他数種類の果物とスパイスの塊。どれも菓子作りに使われる上質な材料ばかりだ。
(お菓子作りが趣味なのかな? それにしても随分と買い込んだわね)
かごの中のりんごに視線を注ぐと、フローリアンは照れくさそうに笑った。
「ルクレーシャ先輩、今日は彼と一緒じゃないんですか?」
「……うん。最近のあいつはパーティーばかり行ってて、顔を合わせる時間も少なくなったわ」
ルクレーシャが小さく溜息を吐くと、フローリアンはきらりと眼鏡を光らせた。
「そっ、それじゃ! 僕とお話しましょ! 今ちょっと大変で……。ゆっくりできるところに行きたいんです」
「大変?」
フローリアンは不安そうに辺りを見回し、ルクレーシャの背後を指差した。群衆の向こうから、光る棒を振り回す女子生徒の大群が押し寄せてくる。
「フローリアーーーン!! 待ってえええええ!!」
「お菓子作りの腕前を見せてぇええええ!」
「私のためだけに特別なケーキを作ってよおおおお!」
熱狂的な声援が響き渡る。まるで暴走した魔力の奔流のように、彼女たちは周囲の人々を巻き込みながらこちらに迫ってきた。
「あ、あわわっ……。なにあれ、フローリアンくんのファンの子たち!?」
「ええ、そうなんです。僕の評判を聞きつけた子たちが、いつまでもしつこく追いかけ回してきて」
フローリアンは申し訳なさそうに眼鏡を押し上げた。
「先輩、これ以上ここにいると危険です。さ、行きましょう! 美味しいお菓子をご馳走しますから!」
ルクレーシャの手がフローリアンに握られる。金髪の少年は素早く胸元から香水瓶を取り出し、栓を一気に引き抜いた。瓶の口から白い煙がもくもくと噴き出す。辺りに充満した煙は、二人の姿をすっかり覆い隠した。
「あああああっ! フローリアンが消えちゃった!!」
取り残された女子生徒たちの悲鳴が遠くなっていく。
煙が薄らぎ、段々と周囲の様子が鮮明になる。
気がつくと、ルクレーシャは部屋の中にいた。
「ようこそ先輩、僕の寮室へ!」
砂糖と花の甘い匂いが漂う中、フローリアンは可愛らしく笑った。
「はぁっ、好きだルクス。俺の口でもっと気持ちよくなろうな」
浴室の椅子に座らされたルクレーシャは、足を大きく開かされた状態で股間を舐めしゃぶられていた。ぶるぶると振動する銀の輪に雁首を柔らかく締め付けられながら、敏感すぎる亀頭をぺろぺろと舐められる。強烈な快感にルクレーシャはダリルの頭を押し退けようとしたが、力の入らない手は彼の黒髪を撫で梳くだけに終わった。
じゅるぅっ、じゅぽ、じゅこっと粘っこい音をわざと立てながら、ダリルは女の肉棒を徹底的に可愛がった。鈴口をほじくり、裏筋に舌を当てたまま前後に口を動かす。ルクレーシャが泣き叫んでも、ダリルは目を瞑りながら熱心に女の蜜の味を愉しむだけだ。自分の竿を深く咥え込むライバルを見下ろしながら、ルクレーシャは切ない声を上げて感じ入った。
「あっ、ぁっ、んんっ、んんーっ……! まっ、だめ、ほんとにだめえっ……。おちんちんとけるっ、きもひよすぎてとけひゃうからっ……!」
「大丈夫、溶けはしないさ。感謝するんだな、貴族の口をこんな風に使えるのは君くらいだぞ? 君がイくまでしゃぶってやるからな。ほら、もっと気持ちよくなれるように囁いてやる。好きっ、好きだ……!」
「あくっ、そんなのぉ、頼んでない! 好きなのにっ、おんなのこのおちんちんいっぱいいじめるなんてしんじらんないっ、ばかばか……あぅっ、あ!? ああっ! んにいいいいいいいぃっっ!?!?」
たっぷりした唾液の中で揺蕩っていた陰核が、突如二、三回強く吸引される。甘い快感に慣れつつあった中で対処不能な刺激を与えられ、ルクレーシャは呆気なく絶頂した。
「ひぃっ! ひいい! ひやああああああああんんんんっっ!!」
ルクレーシャの悲鳴と共に、大量の愛液が肉棒の先端から吹き出す。ダリルの口でも受け止めきれなかった飛沫は、彼の顔や肩までもびっしょりと濡らした。
「あっ……あ、あぁ……。ん、ぁぁ……」
ダリルの頭を抱えながら仰け反る。触れられていない乳首がぷっくりと腫れ上がり、更なる刺激を求めて男の生温かい口にかくかくと腰を突き入れてしまう。女の淫らな動きと顔射に満足したダリルは、口元を拭った後爽やかな笑みを浮かべた。
「くくっ、美味しかった」
「な、なっ、なんでこんなことぉ……」
男を突き飛ばし、ルクレーシャは涙目で自分の股間を押さえた。
「ダリルのへんたい!! 朝っぱらから何してんのよ!!」
「いや、洗っている最中に朝勃ちしていたんでな。俺に抜いてほしいのかと思って」
「んな訳ないでしょお……。もう、ほんっと馬鹿じゃないの!」
怒るルクレーシャを楽しそうに見つめながら、ダリルは彼女の体にたっぷりと泡を乗せた。
「そう膨れるんじゃない、俺がしっかり洗ってやるから。喜べルクス、君の下着も用意してあるんだ。魔蚕の糸で縫ったガーターベルト付きの下着だぞ」
「はあ!? 今度はランジェリーまで作ったの!? スケスケバスローブといい、錬金術でそんなもん作るのはあなたくらいよ! もう、放して! 体くらいひとりで洗えるわ!」
ダリルの手を振り払おうとするが、彼に柔らかく押し止められる。ダリルは股間に取り付けられた銀の輪を指差し、「それを外せるのは俺だけだぞ」と囁いた。
彼が輪の上に人差し指を置くと、輪は呆気なくするりと肉棒から抜けていく。ルクレーシャの秘部を優しく洗った後、ダリルはまた彼女の雁首に輪を嵌めた。
「や、やっぱりつけるの?」
「当たり前だろ。これがないと君は俺の言う事を聞かないのだから」
(別にそんなことないのに。ダリルが呼んでくれるなら、こんな輪がなくてもいつだって……)
切なさが込み上げる。もどかしい感情にルクレーシャが俯くと、ダリルは彼女の顔を上げさせて唇を奪った。
彼の黒い瞳が、寂しそうに揺れている。
「ルクス。俺はまたしばらくパーティーに出なければいけないんだ。君と自由に会えなくなる。……不安だ。俺がいない間に、君がどこかに行ってしまわないか……」
「なーによ、私はどこにもいかないわよ。いつだって寮にいるし、いつまでもあなたのライバルでいてあげるわ!」
「……ふん。ライバルか」
ルクレーシャの力強い返答を受けてもダリルの表情は変わらない。彼は女の白い首筋に唇をくっつけ、勢いよく肌を吸い上げた。
「いたっ! もう、蚊じゃないんだからやめて! 痕が残ったらどうするの? 頭冷やしなさい!」
嫌がる女に恨めしそうな目が向けられる。ルクレーシャは自分とダリルの体を湯で流した後、早く浴室を出ようと促した。
*
「執事に朝食の用意を頼んである。授業に行く前に、俺の部屋で飯を食べていけ」
早朝の光が差し込む窓際で、ダリルは魔導服のボタンを留めながらそう告げた。準備が済んで早々、彼は転移石を使ってあっという間に姿を消してしまった。部屋に横たわる静けさが、ルクレーシャの寂しさを際立たせる。
(こんな朝から出掛けるなんて、あいつってばよっぽど忙しいのね)
一人残されたルクレーシャは、風通しのいい下着の感触に落ち着かない気持ちを抱きながら、銀食器に載せられたオムレツを口に運んだ。
(……馬鹿なことしたな。好きなんて言うつもりなかったのに。まさか、あんな形で私の気持ちを打ち明けちゃうなんて!)
――き、君が俺を好き? 本当に……?
眉を顰め、信じられないといった顔でこちらを見てくるライバルの男。あの時のダリルの様子を思い出す度、胸に鋭い痛みが走る。
自分なんて、ダリルにとってはただの生意気なライバルでしかない――そう思い知らされた気がした。あんなに頼み込んでも、ダリルは決して自分を抱こうとはしない。幾度懇願しても拒絶された記憶が、胸の奥でじくじくと痛みを放っている。気が付けば頬を伝う涙が、スカートに小さな染みを作っていた。
(駄目ね。私も頭を冷やそう)
執事へ礼を伝え、ルクレーシャは静かにダリルの館を抜け出した。
朝露に濡れた石畳を歩きながら、何度も袖で目元を拭う。朝の冷たい空気が、熱を帯びた頬を優しく撫でていった。
*
「あいたた。もうあいつったら、こんなに痕を残して! 女の子の体を何だと思ってるのよ!」
授業を終え、寮に戻ったルクレーシャは、姿見の前で鬱血痕に傷薬を塗り込んでいた。うなじ、首、自分の手が届かない背中にまで痕がついている。ルクレーシャはダリルのしつこさにうんざりしながらも、自分が作った傷薬がすぐに痕を消してしまうのを寂しく感じた。
「……効きすぎる薬も困るわね」
人に見えないところにある痕まで消す必要はないか。そう考えたルクレーシャは、背中の中心にある鬱血痕だけ残しておくことにした。
部屋には、錬金釜から聞こえるこぽこぽと液体が泡立つ音、机の上でパペットが材料を刻むとんとんという音だけが響いている。心地よいリズムに耳を傾けながら、ルクレーシャはパペットの頭を優しく撫でた。
「色々あったけど、無事に帰ってこれてよかったね。ダリルくん」
小さなナイフでトカゲの尾を刻んでいたパペットは、主の笑みにこくこくと頷きを返した。彼は熱されているフラスコを指し示し、「調合中の薬は自分が見ておくから任せてくれ」と言わんばかりに胸を張った。
「本当? 助かるよ。ダリルくんが見守りしてくれるなら、きっと大成功するね! それじゃ、お言葉に甘えて私はゆっくりしようかな」
ルクレーシャは椅子に腰掛け、パペットが淹れてくれたハーブティーに口をつけた。
今日の授業は午前中までで、午後はまるまる自由時間だ。ルクレーシャはオスの実を採りに行く時に備え、パペットと共に大量の傷薬を調合していた。
傷薬は素晴らしい。採取に出掛ける時の必需品だし、需要が高いゆえに道具屋に卸せばいい金になる。自分のような貧乏学生は、外に自作の薬を売ることで研究費を稼ぐしかないのだ。
(ちまちま傷薬を売って稼ぐんじゃなくて、どかーんと一発大ヒット商品を生み出してぼろ儲けしたいわね。ダリルにこんなこと言ったら、商売はそんなに甘くないぞって言われるんでしょうけど)
今頃ダリルは、パーティーで他の貴族たちと話しているのだろうか。もしかしたら、結婚相手に迎える令嬢を探しているのかもしれない。
もやもやした嫉妬を押さえつけながら、ルクレーシャは図書館で借りた本を開いた。
フローリアンからおすすめしてもらったその本は、巷で人気の貴族とメイドの恋物語だ。ルクレーシャはそういった物語に殆ど触れたことがなかったが、後輩の勧めということで読んでみることにしたのだった。
そして、二時間後。
「うっ……うぅっ……。きょ、共感できる……!」
身分差に悩むメイドに感情移入したルクレーシャは、涙をぼろぼろ流しながら何度も鼻をかんだ。
お互い愛し合っていながらも、家の都合や血筋の違いから周囲の理解を得られなかった二人。彼らは結局駆け落ちという手段を選び、自分たちのことを誰も知らない異国の田舎で暮らす。ルクレーシャはヒーローである貴族にダリルを、ヒロインのメイドに自分を重ね合わせ、切なさと彼らが結ばれた安堵に号泣した。
「うっ、せ、せつない……。うぐぅっ」
今まで恋物語に触れてもまったく感動しなかったのに、自分の経験を思い浮かべながら読むと、登場人物に心から共感してしまう。この現実も、創作のように甘いものであったら良かったのに。物語とは違って現実は非情だ。自分がどんなにダリルのことが好きでも、彼と結ばれることは決してあり得ない……。ルクレーシャはその事実に胸を痛めた。
ぐすぐすと鼻を啜る主を、パペットが心配そうに覗き込む。ルクレーシャがパペットに濡れた頬を擦り付けると、パペットはじたばたと彼女の手の中でもがいた。
涙を流すルクレーシャの頬が柔らかく摩られる。パペットは傷薬が出来上がったことを伝えると共に、机の方を指し示した。
机の前に貼られた七曜表。
今日の日付には、赤い丸印が記されている。
「……あっ、そうだ! 今日はセールの日だったよね」
月に一度、最寄りの市場では安売りセールが開催される。その日は錬金材料がいつもの三割引きで買えるため、ルクレーシャは必ず市場に行くことにしていた。
材料棚の中は空っぽに近い。あれを買わなければ、これも買わなければと独り言を呟きながら、ルクレーシャは手帳に走り書きをした。
「…………ダリル」
ずき、ずきと胸が痛む。
恋物語で得た感動とやるせなさが自分の中にわだかまっていて、ルクレーシャはまた涙が出てくるのを感じた。
無理やり涙を拭う。できたばかりの傷薬を瓶に詰め、パペットを胸元に忍ばせる。ものがたっぷり入る大きなかごを持って、彼女は町に飛び出した。
*
ルクレーシャが通う王立錬金術学校は、この国の首都にある。人々から「王都」と呼ばれているその首都は、外周を天高くそびえ立つ白壁にぐるりと囲まれていて、まるで都そのものが一つの大きな城のように見えた。人々を危険な魔獣から守る白亜の壁は陽光を反射し、時として見る者の目を眩ませる。城壁よりも高く掲揚された赤の国旗が、華やかなる首都の威厳を誇っていた。
都の中心には王城があり、その周りには整然と区画された町が広がっている。商人たちで賑わう市場区、学者たちが集う学術区、職人たちが腕を振るう工房区……それぞれが明確な境界線で分けられ、まるで精密な歯車のように、この王都の中で独自の役割を担っているのだった。
ルクレーシャは心地よい喧騒を楽しみながら、なだらかな道をゆっくりと歩いた。
通りには色鮮やかな建物が立ち並び、それぞれが個性的な佇まいを見せている。蔦と花に飾られたハーフティンバーの壁、煉瓦の煙突、アーチ型の窓が、午後の麗らかな陽射しを浴びて柔らかく輝いていた。
王都は、文明と錬金術のにおいに溢れている。黄金を作る目的から始まった学問は、その道の途中にいくつもの有用な物体を生み出し、人々の生活を凄まじい勢いで発展させていった。
車椅子に乗った老婆を介護する大きなパペット。通りの落ち葉を集める生きたほうき。
綺麗な水を湧かせる井戸も、汚れたら勝手に洗われる石畳も、大通りを駆け抜ける車も、都市間の瞬間移動を可能にする転移石も、全て錬金術によって作られたものだ。
家の屋根には、風雨による損傷を自ら修復する魔法の煉瓦が使われている。夜になれば街灯の中の輝結晶が琥珀色の明かりを灯し、人々の帰路を照らす。市場には溶けない氷で作られた冷蔵庫があり、生魚や熟れた果実を新鮮な状態に保ち続けることを可能にしていた。
錬金術とは、もはや黄金のみを求める術ではない。それは人々の暮らしの中に溶け込み、この王都を支える土台となっているのだ。
自分も先人たちのような立派な錬金術士になれるだろうかと、ルクレーシャは町の景色を眺めながら考えた。
(お貴族様に従って金や宝石を作るのはお金になるけど、楽しくはなさそうよね。できることなら私はもっと、町の人のためになることをやりたいな)
市場の片隅で自作の薬を売っていたダリルを思い出す。町の人々に笑顔で商品を手渡していた彼はとても楽しそうで、充実感を抱いているように見えた。
傷薬、目薬、湿布、喉に良いハーブティー。ダリルが作成した品はどれも庶民の手が届く価格で、それでいて確かな効果を持つ品ばかりだ。客から寄せられる感謝の言葉に、ダリルは照れくさそうに頭を掻いていた。貴族の息子なのに、庶民相手の商売を楽しんでいる様子が印象的だった。
彼の姿を遠目で見かけた時に思ったのだ。
自分もあんな風になれたら、と。
(そうだなあ。例えば町の片隅に工房を構えて、ダリルみたいに商売するのもいいかもね)
ぼんやりと空想を膨らませる。
明るい陽射しが差し込む錬金工房。壁には色とりどりの薬瓶が並び、辺りは穏やかなハーブの香りに包まれている。拠点を構えた自分は、パペットたちと協力しながら日々調合に勤しんだり、まだ見ぬ材料を求めて世界中を旅したりするのだ。
人々の頼みを聞いて、彼らのために一生懸命自分の術を役立てる。なんて素敵な生活だろう。でも、それは叶わない夢だ。自分は両親のために貴族に仕え、いつかは稼いだ金を持って村に帰るのだから。
……でも。
――レーシャ、錬金術士になりなさい。錬金術のちからで、人々を幸せにしなさい。
自分に錬金術を教えてくれた人の言葉を思い出す。貴族に仕えて宝石や黄金を作ることが、果たして自己実現に繋がるのだろうか?
(私、本当にお貴族様の専属錬金術士になっていいのかな……?)
自分の夢に引っかかりを感じながら、ルクレーシャは市場を目指して歩き続けた。
*
薬草の香りと焼き菓子の甘い匂いが入り混じり、店主の威勢のいい掛け声が響く。市場は錬金術学校の生徒や地元住民でごった返している。人が多すぎて目当ての店に近づくことすらできない。考えることは皆同じかと呟き、ルクレーシャはパペットの背に銀貨を括り付けた。
「ダリルくん、小回りが利くあなたに手伝いをお願いするわ。店主さんにこのメモを見せて、あのお店から睡蓮の種を買ってきてちょうだい」
小さなパペットはルクレーシャの掌の上で可愛らしく頷き、人混みの間を密かに縫い進みながら店へと近づいた。
数分の後、袋を背負ったパペットが戻って来る。ルクレーシャは小さな人形をそっと持ち上げ、彼に頼んで本当に良かったと満足げに微笑んだ。
それからも、ルクレーシャはパペットを使って買い物をこなした。彼女が持つかごには、青々とした魔力消し草やスライムの核、大トカゲの尾がぎっしりと詰め込まれていく。目当てのものをすべて購入したルクレーシャは、最後に道具屋に傷薬を卸して当分の生活資金を得た。
何もかも順調で喜ばしい。そろそろ帰路につこうかと考えていた時、突然、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「あっ! ルクレーシャせんぱあーーい!」
人混みの向こうから響く声に、ルクレーシャは思わず足を止めた。
その声には聞き覚えがある。振り向くと、鮮やかな黄緑色のシャツが目に飛び込んできた。金髪の少年が手を大きく振りながら、人々の間を縫うようにして駆けてくる。
フローリアンだ。彼は荒い息を吐きながら、ルクレーシャを嬉しそうに見つめた。
「ハァッ、はぁっ、ぜぇ、ふぅ……。る、ルクレーシャ先輩っ、市場でも会えるだなんて。なんというハッピーラッキーデイ! フヒィッ……」
「ねえ、息切れしてるけど大丈夫?」
「は、はい。見苦しくてすみません。運動不足なもので」
ずり落ちた眼鏡をかけ直しながら、フローリアンは鼻の頭の汗を拭った。
「先輩もセール品狙いですか?」
「うん、いっぱい買いに来たの! こんな時に買わなくちゃ、お財布がすっからかんになるからね」
「そうですよね! 今日みたいな日は僕達にとって大事な日です。僕も欲しいものをいっぱい買いましたよ!」
ルクレーシャはフローリアンのかごに目を向け、首を傾げた。
彼のかごには食材ばかりが詰め込まれている。小麦粉、たまご、バター、蜂蜜。その他数種類の果物とスパイスの塊。どれも菓子作りに使われる上質な材料ばかりだ。
(お菓子作りが趣味なのかな? それにしても随分と買い込んだわね)
かごの中のりんごに視線を注ぐと、フローリアンは照れくさそうに笑った。
「ルクレーシャ先輩、今日は彼と一緒じゃないんですか?」
「……うん。最近のあいつはパーティーばかり行ってて、顔を合わせる時間も少なくなったわ」
ルクレーシャが小さく溜息を吐くと、フローリアンはきらりと眼鏡を光らせた。
「そっ、それじゃ! 僕とお話しましょ! 今ちょっと大変で……。ゆっくりできるところに行きたいんです」
「大変?」
フローリアンは不安そうに辺りを見回し、ルクレーシャの背後を指差した。群衆の向こうから、光る棒を振り回す女子生徒の大群が押し寄せてくる。
「フローリアーーーン!! 待ってえええええ!!」
「お菓子作りの腕前を見せてぇええええ!」
「私のためだけに特別なケーキを作ってよおおおお!」
熱狂的な声援が響き渡る。まるで暴走した魔力の奔流のように、彼女たちは周囲の人々を巻き込みながらこちらに迫ってきた。
「あ、あわわっ……。なにあれ、フローリアンくんのファンの子たち!?」
「ええ、そうなんです。僕の評判を聞きつけた子たちが、いつまでもしつこく追いかけ回してきて」
フローリアンは申し訳なさそうに眼鏡を押し上げた。
「先輩、これ以上ここにいると危険です。さ、行きましょう! 美味しいお菓子をご馳走しますから!」
ルクレーシャの手がフローリアンに握られる。金髪の少年は素早く胸元から香水瓶を取り出し、栓を一気に引き抜いた。瓶の口から白い煙がもくもくと噴き出す。辺りに充満した煙は、二人の姿をすっかり覆い隠した。
「あああああっ! フローリアンが消えちゃった!!」
取り残された女子生徒たちの悲鳴が遠くなっていく。
煙が薄らぎ、段々と周囲の様子が鮮明になる。
気がつくと、ルクレーシャは部屋の中にいた。
「ようこそ先輩、僕の寮室へ!」
砂糖と花の甘い匂いが漂う中、フローリアンは可愛らしく笑った。
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