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ハッと意識が浮上する。真っ先に視界に入ってきたのは知らない天井。それから、何も着ていない自分の身体。
じんじんと痛む頭と腰に、げんなりしつつも起き上がれば、隣では知らない男がぐっすりと寝ている。
「……は?」
──つまり、これは『そういうこと』なのだろうか?
ベッドに下に無造作に散らかっている衣服を見つけ、確信を持つ。
これが夢じゃないのだとしたら、現実なのだとしたら!
「めちゃくちゃ勿体ないことした……っ!」
思わず出てしまった本音と共に頭を抱える。
まだまじまじとは見ていないが、少し横目で見ただけでも隣に居る男は間違いなく俺好みの顔をしている筈だ。それを覚えていないだなんて、損でしかない!
「待てよ? 覚えてないならもう一度すればいいんじゃないか?」
我ながら天才的な発想に拍手を送りたい。
そうと決まれば──未だ死んだように眠り続ける男の肩を揺さぶって、俺は満面の笑みを浮かべて言った。
「おはよう」
:
:
「俺の名前は浅見紫貴。歳は二十七で、しがない営業マン。お前の名前は?」
起こすために声を掛けたあの後、チェックアウトの時間が迫っていることに気がついた俺たちは、とりあえず身支度を整えてからホテルを出た。
幸い今日は休みだし、家に帰るのはのんびりでいいかと思い、「朝飯食う?」と近くのコンビニに立ち寄り──現在に至る。
おにぎり(具は昆布だ)を頬張る男は、やっぱり俺好みの顔をしていた。
お世辞にも良いとは言えない目つきに見られるとニヤケが止まらなくなるし、少しカサついている薄い唇にはキスをしたくなる。
食べ終えるまでじーっと顔を観察していたからだろうか、男は眉を顰めながら「見過ぎでしょ」と言った。
「あぁ、ごめんごめん。で、名前は?」
「楠木要。……ていうか、昨日のこと覚えてないんですか?」
「むしろ覚えてるように見える?」
「全然」
ばっさりと、そう言われた。
溜め息をついた要くんは「じゃあもう一度言いますけど」とわざわざ前置きをしてから自己紹介をする。
「二十五歳なんで、アンタより年下です。『たまや』って居酒屋で隣同士になったのも覚えてないんですか?」
「あー、ちょっと待って。なんか……その辺りは覚えてるかも、ぼんやりとだけど……」
そうだ、確か仕事帰りに立ち寄った居酒屋がそんな感じの名前だった気がする。そのうえ、上司にノルマがどうのこうのってぐちぐちと言われたから、いつもより酒量も多かったような──。
「思い出した! 『ホーステール』!」
俺がそう言うと、要くんは黙ったまま頷いた。
ホーステールというタイトルのホラー映画がある。正直言って怖くはない、というかB級のホラー映画なんだけれど、これが中々に馬鹿らしくて面白い。
その映画を語り合って意気投合したのが……。
「要くんだったんだ」
「まあ、はい。あとその君付けやめてもらっていいですか? なんか呼び慣れてないんで」
「別にいいけど……あ! てか連絡先交換しよ!」
そう言って俺はスマホを取り出す。
要くん──じゃなくて、要も素直にスマホを持ってくれたので、難なく連絡先をゲットすることが出来た。
やっぱり、記憶に残るセックスをもう一度したい。今度はちゃんと何もかもを覚えたままで。
「また会おうよ。俺、要のこと気になるから」
「……いいですけど」
少し目を逸らしながらも了承してくれた要に、笑いかける。
暫くは楽しめそうだなぁ、なんて思いながら。
──はやく、要に抱かれたくて仕方ない。
じんじんと痛む頭と腰に、げんなりしつつも起き上がれば、隣では知らない男がぐっすりと寝ている。
「……は?」
──つまり、これは『そういうこと』なのだろうか?
ベッドに下に無造作に散らかっている衣服を見つけ、確信を持つ。
これが夢じゃないのだとしたら、現実なのだとしたら!
「めちゃくちゃ勿体ないことした……っ!」
思わず出てしまった本音と共に頭を抱える。
まだまじまじとは見ていないが、少し横目で見ただけでも隣に居る男は間違いなく俺好みの顔をしている筈だ。それを覚えていないだなんて、損でしかない!
「待てよ? 覚えてないならもう一度すればいいんじゃないか?」
我ながら天才的な発想に拍手を送りたい。
そうと決まれば──未だ死んだように眠り続ける男の肩を揺さぶって、俺は満面の笑みを浮かべて言った。
「おはよう」
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「俺の名前は浅見紫貴。歳は二十七で、しがない営業マン。お前の名前は?」
起こすために声を掛けたあの後、チェックアウトの時間が迫っていることに気がついた俺たちは、とりあえず身支度を整えてからホテルを出た。
幸い今日は休みだし、家に帰るのはのんびりでいいかと思い、「朝飯食う?」と近くのコンビニに立ち寄り──現在に至る。
おにぎり(具は昆布だ)を頬張る男は、やっぱり俺好みの顔をしていた。
お世辞にも良いとは言えない目つきに見られるとニヤケが止まらなくなるし、少しカサついている薄い唇にはキスをしたくなる。
食べ終えるまでじーっと顔を観察していたからだろうか、男は眉を顰めながら「見過ぎでしょ」と言った。
「あぁ、ごめんごめん。で、名前は?」
「楠木要。……ていうか、昨日のこと覚えてないんですか?」
「むしろ覚えてるように見える?」
「全然」
ばっさりと、そう言われた。
溜め息をついた要くんは「じゃあもう一度言いますけど」とわざわざ前置きをしてから自己紹介をする。
「二十五歳なんで、アンタより年下です。『たまや』って居酒屋で隣同士になったのも覚えてないんですか?」
「あー、ちょっと待って。なんか……その辺りは覚えてるかも、ぼんやりとだけど……」
そうだ、確か仕事帰りに立ち寄った居酒屋がそんな感じの名前だった気がする。そのうえ、上司にノルマがどうのこうのってぐちぐちと言われたから、いつもより酒量も多かったような──。
「思い出した! 『ホーステール』!」
俺がそう言うと、要くんは黙ったまま頷いた。
ホーステールというタイトルのホラー映画がある。正直言って怖くはない、というかB級のホラー映画なんだけれど、これが中々に馬鹿らしくて面白い。
その映画を語り合って意気投合したのが……。
「要くんだったんだ」
「まあ、はい。あとその君付けやめてもらっていいですか? なんか呼び慣れてないんで」
「別にいいけど……あ! てか連絡先交換しよ!」
そう言って俺はスマホを取り出す。
要くん──じゃなくて、要も素直にスマホを持ってくれたので、難なく連絡先をゲットすることが出来た。
やっぱり、記憶に残るセックスをもう一度したい。今度はちゃんと何もかもを覚えたままで。
「また会おうよ。俺、要のこと気になるから」
「……いいですけど」
少し目を逸らしながらも了承してくれた要に、笑いかける。
暫くは楽しめそうだなぁ、なんて思いながら。
──はやく、要に抱かれたくて仕方ない。
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