月薊の魔物

八朔梅子

文字の大きさ
2 / 3

2

しおりを挟む
 スマホから流れる規則的な電子音に、「うぅ」と唸りながら意識を浮上させる。
半分以上開いていない目でなんとかロックを解除し、アラームを止めた。
 時刻は午前七時。いつもと変わらない平日の朝だ。ふと目に入ったカーテンの隙間から覗く日光に、思わず顔を顰めてしまう。
 のんびりもしていられないことは分かっているので、重い身体をのそりと動かして洗面所に向かった。


「あ」
 思わず出た声と共に、歯磨き粉がぼたりと口から零れ落ちる。
見慣れた自分の顔が映る鏡には、よれよれとだらしなく緩んでいるTシャツの首元も当然映っており、そこには控えめながらも主張をしている鬱血痕が残されていた。
 へぇ、と少し驚く。これを付けたのは間違いなく要だろうけど、まさかそんなことをするようなタイプには見えなかったからだ。
 クールというか、あまり執着をするようには思えない雰囲気だったんだけどなぁ……。なんだかこれはこれで求められているような気がして、満更でもない。
 次はいつ会おうか、なんて考えてしまった自分の欲望への忠実さに笑いが溢れた。


 ◇


「浅見、悪いが今日は俺の担当地区を回ってくれるか」
「えっ」
 朝から本日のノルマだの、誰が目標達成出来ただのといった報告にげんなりしながら朝礼を終えた直後の俺に、上司がそう言って声を掛けてきた。
 ……いやいやいや! 俺だって今日は訪問場所のアポイントがー……入ってなかったわ。タイミングの悪さ(上司にとっては良いタイミングだけど)に口角がひくりと引き攣る。
「頼んだからな」
「あ、はい……分かりました」
 俺の返事を聞くや否や「じゃあこれ」と手渡された書類と地図に目を通す。そんでびっくりした。訪問先の氏名が、『楠木要』だったからだ。その文字を見た瞬間、俺のテンションが一気に上がる。
「じゃ、行ってきます!」
「おう」
 スキップでもしそうな勢いで意気揚々と階段を降りていく俺を、通りすがりの女性社員が怪訝な表情で見てきた。そんな彼女に笑顔を向けて、内心舌を出す。あー! 今がさいっこうに楽しい!


:
:


 地図アプリを確認して、目の前にあるマンションを見つめる。二日ぶりに会うんだよなぁ……なんて思いながら、お目当ての部屋に向けて歩き出した。
 エレベーターで、五階。手前から三つめの部屋が、要の住む部屋らしい。
深呼吸を一つして、チャイムを押す。
「はい」
 ドアホン越しに聞こえる声に、何故だか安堵をしてしまう自分が居た。
「こんにちは、唐竹の代わりに来ましたー」
「……浅見さん?」
 要の困惑したような声と共に、ドアが開かれる。姿を現した要に向かって、俺はひらりと手を振った。
「来ちゃった」
 茶目っ気たっぷりにそう言えば、目の前の男は俺好みの顔を両手で覆ったのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件

ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。 せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。 クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom × (自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。 『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。 (全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます) https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390 サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。 同人誌版と同じ表紙に差し替えました。 表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!

処理中です...