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スマホから流れる規則的な電子音に、「うぅ」と唸りながら意識を浮上させる。
半分以上開いていない目でなんとかロックを解除し、アラームを止めた。
時刻は午前七時。いつもと変わらない平日の朝だ。ふと目に入ったカーテンの隙間から覗く日光に、思わず顔を顰めてしまう。
のんびりもしていられないことは分かっているので、重い身体をのそりと動かして洗面所に向かった。
「あ」
思わず出た声と共に、歯磨き粉がぼたりと口から零れ落ちる。
見慣れた自分の顔が映る鏡には、よれよれとだらしなく緩んでいるTシャツの首元も当然映っており、そこには控えめながらも主張をしている鬱血痕が残されていた。
へぇ、と少し驚く。これを付けたのは間違いなく要だろうけど、まさかそんなことをするようなタイプには見えなかったからだ。
クールというか、あまり執着をするようには思えない雰囲気だったんだけどなぁ……。なんだかこれはこれで求められているような気がして、満更でもない。
次はいつ会おうか、なんて考えてしまった自分の欲望への忠実さに笑いが溢れた。
◇
「浅見、悪いが今日は俺の担当地区を回ってくれるか」
「えっ」
朝から本日のノルマだの、誰が目標達成出来ただのといった報告にげんなりしながら朝礼を終えた直後の俺に、上司がそう言って声を掛けてきた。
……いやいやいや! 俺だって今日は訪問場所のアポイントがー……入ってなかったわ。タイミングの悪さ(上司にとっては良いタイミングだけど)に口角がひくりと引き攣る。
「頼んだからな」
「あ、はい……分かりました」
俺の返事を聞くや否や「じゃあこれ」と手渡された書類と地図に目を通す。そんでびっくりした。訪問先の氏名が、『楠木要』だったからだ。その文字を見た瞬間、俺のテンションが一気に上がる。
「じゃ、行ってきます!」
「おう」
スキップでもしそうな勢いで意気揚々と階段を降りていく俺を、通りすがりの女性社員が怪訝な表情で見てきた。そんな彼女に笑顔を向けて、内心舌を出す。あー! 今がさいっこうに楽しい!
:
:
地図アプリを確認して、目の前にあるマンションを見つめる。二日ぶりに会うんだよなぁ……なんて思いながら、お目当ての部屋に向けて歩き出した。
エレベーターで、五階。手前から三つめの部屋が、要の住む部屋らしい。
深呼吸を一つして、チャイムを押す。
「はい」
ドアホン越しに聞こえる声に、何故だか安堵をしてしまう自分が居た。
「こんにちは、唐竹の代わりに来ましたー」
「……浅見さん?」
要の困惑したような声と共に、ドアが開かれる。姿を現した要に向かって、俺はひらりと手を振った。
「来ちゃった」
茶目っ気たっぷりにそう言えば、目の前の男は俺好みの顔を両手で覆ったのだった。
半分以上開いていない目でなんとかロックを解除し、アラームを止めた。
時刻は午前七時。いつもと変わらない平日の朝だ。ふと目に入ったカーテンの隙間から覗く日光に、思わず顔を顰めてしまう。
のんびりもしていられないことは分かっているので、重い身体をのそりと動かして洗面所に向かった。
「あ」
思わず出た声と共に、歯磨き粉がぼたりと口から零れ落ちる。
見慣れた自分の顔が映る鏡には、よれよれとだらしなく緩んでいるTシャツの首元も当然映っており、そこには控えめながらも主張をしている鬱血痕が残されていた。
へぇ、と少し驚く。これを付けたのは間違いなく要だろうけど、まさかそんなことをするようなタイプには見えなかったからだ。
クールというか、あまり執着をするようには思えない雰囲気だったんだけどなぁ……。なんだかこれはこれで求められているような気がして、満更でもない。
次はいつ会おうか、なんて考えてしまった自分の欲望への忠実さに笑いが溢れた。
◇
「浅見、悪いが今日は俺の担当地区を回ってくれるか」
「えっ」
朝から本日のノルマだの、誰が目標達成出来ただのといった報告にげんなりしながら朝礼を終えた直後の俺に、上司がそう言って声を掛けてきた。
……いやいやいや! 俺だって今日は訪問場所のアポイントがー……入ってなかったわ。タイミングの悪さ(上司にとっては良いタイミングだけど)に口角がひくりと引き攣る。
「頼んだからな」
「あ、はい……分かりました」
俺の返事を聞くや否や「じゃあこれ」と手渡された書類と地図に目を通す。そんでびっくりした。訪問先の氏名が、『楠木要』だったからだ。その文字を見た瞬間、俺のテンションが一気に上がる。
「じゃ、行ってきます!」
「おう」
スキップでもしそうな勢いで意気揚々と階段を降りていく俺を、通りすがりの女性社員が怪訝な表情で見てきた。そんな彼女に笑顔を向けて、内心舌を出す。あー! 今がさいっこうに楽しい!
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地図アプリを確認して、目の前にあるマンションを見つめる。二日ぶりに会うんだよなぁ……なんて思いながら、お目当ての部屋に向けて歩き出した。
エレベーターで、五階。手前から三つめの部屋が、要の住む部屋らしい。
深呼吸を一つして、チャイムを押す。
「はい」
ドアホン越しに聞こえる声に、何故だか安堵をしてしまう自分が居た。
「こんにちは、唐竹の代わりに来ましたー」
「……浅見さん?」
要の困惑したような声と共に、ドアが開かれる。姿を現した要に向かって、俺はひらりと手を振った。
「来ちゃった」
茶目っ気たっぷりにそう言えば、目の前の男は俺好みの顔を両手で覆ったのだった。
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