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おまけ 2人のその後
「結婚エンド」後
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彼が帰って来た時、常ならば玄関まで迎えに行くのだが、今日は緊張してソファから立ち上がることも出来なかった。
「結婚エンド」突入しませんように。
突入してもデッドエンド回避できますように。
私は膝の上で握っている拳にきゅっと力を籠めた。
彼の足音が聞こえる。
静かで、耳を澄まさなければ聞こえない程度の大きさなのだけれど、今日はやけに大きく私の耳に届いた。
何となく怖くて、俯いて目を瞑る。
彼がリビングを過ぎて、手を洗っている水の音がする。
そのうちに水道の音も止まり、また、足音が鳴り始める。
彼の足音は、私のすぐ隣で止まった。
ぽふんと私の隣側のソファが沈み、彼が隣に座ったことが分かる。
「ただいま」と声がして、ふわりと頭を撫でられた。
その声も、撫でる手つきもいつもと変わらず優しいことが幾らか私の心を落ち着かせて、そうっと顔を上げた。
「お、おかえりなさい」
彼は、いつも通りの無表情で、答えるようにこくりと頷いた。
よかった、思ってたより普通だ……。
と、安心したのも束の間、私は、彼の腕にぎゅっと抱きしめられる。
私の身体が強張ったのは、彼に伝わってしまっただろう。
スキンシップも、最近では普通になってきているといえば普通なのだが、「結婚エンド」を意識して、過剰に反応してしまっている。
彼も、妙だと思ったのだろう。
しかし、「どうした」と聞こえる声は、私を気遣っているのが簡単に分かるくらいに優しくて、おまけに、あやすように背中をぽんぽんとゆっくりさすってくれる。
そんな彼の調子に促されて、私は意を決して口を開いた。
「ゆ……ゆ、ゆびわ」
って、用意してたりしますか?
と、言うつもりではあったが、言い出してみると、何だか急に、私が酷く自意識過剰のような気がしてきて、「ゆびわ」まで言って、それからの言葉は私の喉で行き場を失って彷徨い、しまいには飲み込まれた。
彼の、私の背中をさすっていた手は、指輪、という単語を聞いてぴたりと動きが止まった、が、すぐにまた再開される。
それから、すぐ耳元で、「欲しいか」と吐息交じりに囁かれて、私はまたビクリと肩を強張らせた。
今のは、きっと、「結婚エンド」を恐れてとか、それだけじゃない。
何だろう、なんか、単純にドキドキします……!
指輪は、欲しいと言えば欲しいのかもしれないけれど、デッドエンドになるくらいだったら、いらない。
ええと、つまり。
私は、指輪が欲しいのではなくて、彼と、これからも、生きて、ずっと一緒にいたいのだ。
物質よりも、精神が、彼の心が、共に過ごす時間が、欲しい。
「指輪、あってもなくても、いいです。それより、私とずっと一緒にいてください……残りの人生全部、私に、下さい」
私も、彼にされたお返しのように、彼の耳元に口を近づけて、小さな声で言った。
言っているうちに何だか恥ずかしくなってきて、本当に小さな、蚊の鳴くような声であったけれど、これだけ近いのだから、きっと聞こえていたと思う。
というより、この言葉ってなんだか、私が彼にプロポーズしているみたいだ。
私は、熱くなった顔を、隠すように彼の胸に埋めた。
彼も、ぎゅっと抱きしめる腕に力を籠めてくれた。
「全てが君の所有だ。もう随分前から。……君の人生も存在も丸ごと、もらう」
それから、頭のてっぺんに柔らかい感触がして、それが数回繰り返されるうちに、キスをされているらしい、ということが分かった。
なんかすごい熱烈なこと言われた気がする……!
頭から湯気が出そうな程にのぼせた。
キャパオーバーで現実逃避を始めた脳は彼の続ける言葉を上手く処理することができない。「結婚」の二字だけを拾い、思考は横へ逸れていく。
結婚。
彼と、結婚したら、どうなるんだろう。
結婚式、挙げたりするのかなあ。
でも彼は、結婚式と言えども私を大多数の他人の目の前に晒すことを嫌がるような気がする。
その前に、私は呼ぶほど人がいないのだけれど。
私は別に、式を挙げなくてもいいかな。
入籍届だけ出して、終わり。知らせたい人にはその旨を伝えておく。それで構わない。
子どもは……うーん、まだ考えられない。
ペットなら、きっと彼が好きだからネコを飼うだろう。
子ども云々と言うよりかは、そもそも、彼とはキスだってしたことがないし。
そうだ、キスだって……あれ、したことないな。
彼から、肩にキス(噛まれたとも言うだろう)されたことはあるけど、そして今、現在進行形で頭にキスされてるけど。
マウストゥーマウスのキスをしたことがない、という事実に、私はたったいま気付いた。
ほっぺにすらない。
付き合って二年、同棲して半年ほど経っているのにも関わらず、である。
がーん、そんな衝撃だ。
いや、でも、キスとかそういうことって、付き合ってこのくらい時間が経ったからやる、とかいうものでもないし。うん。
……でも、ほっぺ、くらい。
私は、彼の胸から顔を離すと、背中を伸ばして、えい、と彼の頬に口付けた。
すぐに、彼の胸に顔を戻す。
それから少し待って、ちらりと彼の顔色を窺うように覗くと、口元を片手で隠すように覆っていた。
耳が赤い。
それから、私と目が合うと、穏やかに目元を細めて、お返しのように頬にキスをした。
「可愛いな、君は。本当に」
頬に触れる柔らかい感触が、嬉しくて、幸せで、ふわふわした気持ちになる。
ほっぺたでこれだけ幸せな気持ちになれるのだから、マウストゥーマウスはまだ、いいのかもしれない。
それに、私からは恥ずかしいのでできない気がする。
これから先、あまりにも彼が唇には触れてくれないようであったら、彼を誘惑出来るように、頑張らないといけないのかもしれない。
そんなことを考えて、誘惑ってなんだ!と自分で恥ずかしくなって、私は取り繕うように、彼に話しかけた。
「お土産あります、マカロン。あと、香水もそろそろ無くなると思ったので、買ってきました」
「誘惑してくれてかまわない。待っている」
彼は頷いて、私をひょいと抱き上げるとそんなことを言った。
私、考えたことそのまま口に出てる……!?
羞恥に頬を染めて彼の胸に顔を埋めた。
しかもしかもなんだろう、抱っこ移動は普段、寝室から一階に下りる時が多いのだけれど、こんな短い距離でされている……!
そしてあんまり違和感を感じずに、私も彼の首の後ろに腕を回してしまった。
習慣って怖い。
彼は、私を椅子に座らせると、すり、と首元に頭を摺り寄せてから離れた。
彼の髪からシャンプーの匂いがして、ドキッとする。
離れたくないとか、そんな感じの意図が感じられて、私の方が恥ずかしくなる。
それから、彼は紅茶を淹れてくれて、二人でマカロンを食べた。
コーヒー味とイチゴ味だ。
二人で食べた、と言っても、彼はそんなに甘いものを食べる方ではないので、彼は味見程度、ほとんど私が食べたと言っていい。
……マカロン二つって、量少ないから問題ない。ですよね。
まずは、イチゴ味のマカロンから。
可愛らしいピンク色は、視覚的にも楽しい。
口に含むと、生地がさっくりとして口当たりが軽い。
一口齧るころには、クリームを吸って柔らかい部分を一瞬感じて、とろりと甘酸っぱいベリー系の味が口に広がる。
想像通りの味だ。
ベリー系に失敗はない。
彼は少しだけ口に含んで、紅茶を飲んでいた。
次に、コーヒー味のマカロン。
朽葉色、くらいの落ち着いた色合いだ。大人っぽい。
もしコーヒーの味まんまだったらすぐに残りは彼にあげよう。
しかし、食べて驚き。
口に入れ、歯を立てた瞬間から、ぶわりと広がるコーヒーのいい香り。
甘さは控えめだが、ブラックコーヒーを飲むほどのきつさはなく、ほんのりと苦みを感じる程度。
美味しい、買ってよかった。
彼に食べさせると、イチゴ味よりも好みであったらしく、うん、と頷いていた。
その後、二人で歯を磨き、彼はお風呂に行き、私はすぐにベッドに入った。
お風呂から上がった彼はぬくぬくとした身体で私を抱き込んで「誘惑しないのか」などと言うので私は心臓をバクバクさせながら寝たふりを決め込んだ。
ぎゅうと目をつぶっていると唇の端に柔らかな感触が落ちて、驚いて瞼を開けるとすぐそばに、彼の目は宝物を眺めるみたいに優しく私を見ている。
目が合えば慈しみに満ちた目がすうと細まって、サラリと落ちた黒髪と切長の両の目に見惚れているうち、気付けば左手を取られ、薬指に銀色に光る輪が嵌められていた。
「ずっと大切にする」
優しい優しい、どこまでも真摯な声に、私はこくりと小さく頷いたのだった。
『彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します』
おまけ 2人のその後
END
「結婚エンド」突入しませんように。
突入してもデッドエンド回避できますように。
私は膝の上で握っている拳にきゅっと力を籠めた。
彼の足音が聞こえる。
静かで、耳を澄まさなければ聞こえない程度の大きさなのだけれど、今日はやけに大きく私の耳に届いた。
何となく怖くて、俯いて目を瞑る。
彼がリビングを過ぎて、手を洗っている水の音がする。
そのうちに水道の音も止まり、また、足音が鳴り始める。
彼の足音は、私のすぐ隣で止まった。
ぽふんと私の隣側のソファが沈み、彼が隣に座ったことが分かる。
「ただいま」と声がして、ふわりと頭を撫でられた。
その声も、撫でる手つきもいつもと変わらず優しいことが幾らか私の心を落ち着かせて、そうっと顔を上げた。
「お、おかえりなさい」
彼は、いつも通りの無表情で、答えるようにこくりと頷いた。
よかった、思ってたより普通だ……。
と、安心したのも束の間、私は、彼の腕にぎゅっと抱きしめられる。
私の身体が強張ったのは、彼に伝わってしまっただろう。
スキンシップも、最近では普通になってきているといえば普通なのだが、「結婚エンド」を意識して、過剰に反応してしまっている。
彼も、妙だと思ったのだろう。
しかし、「どうした」と聞こえる声は、私を気遣っているのが簡単に分かるくらいに優しくて、おまけに、あやすように背中をぽんぽんとゆっくりさすってくれる。
そんな彼の調子に促されて、私は意を決して口を開いた。
「ゆ……ゆ、ゆびわ」
って、用意してたりしますか?
と、言うつもりではあったが、言い出してみると、何だか急に、私が酷く自意識過剰のような気がしてきて、「ゆびわ」まで言って、それからの言葉は私の喉で行き場を失って彷徨い、しまいには飲み込まれた。
彼の、私の背中をさすっていた手は、指輪、という単語を聞いてぴたりと動きが止まった、が、すぐにまた再開される。
それから、すぐ耳元で、「欲しいか」と吐息交じりに囁かれて、私はまたビクリと肩を強張らせた。
今のは、きっと、「結婚エンド」を恐れてとか、それだけじゃない。
何だろう、なんか、単純にドキドキします……!
指輪は、欲しいと言えば欲しいのかもしれないけれど、デッドエンドになるくらいだったら、いらない。
ええと、つまり。
私は、指輪が欲しいのではなくて、彼と、これからも、生きて、ずっと一緒にいたいのだ。
物質よりも、精神が、彼の心が、共に過ごす時間が、欲しい。
「指輪、あってもなくても、いいです。それより、私とずっと一緒にいてください……残りの人生全部、私に、下さい」
私も、彼にされたお返しのように、彼の耳元に口を近づけて、小さな声で言った。
言っているうちに何だか恥ずかしくなってきて、本当に小さな、蚊の鳴くような声であったけれど、これだけ近いのだから、きっと聞こえていたと思う。
というより、この言葉ってなんだか、私が彼にプロポーズしているみたいだ。
私は、熱くなった顔を、隠すように彼の胸に埋めた。
彼も、ぎゅっと抱きしめる腕に力を籠めてくれた。
「全てが君の所有だ。もう随分前から。……君の人生も存在も丸ごと、もらう」
それから、頭のてっぺんに柔らかい感触がして、それが数回繰り返されるうちに、キスをされているらしい、ということが分かった。
なんかすごい熱烈なこと言われた気がする……!
頭から湯気が出そうな程にのぼせた。
キャパオーバーで現実逃避を始めた脳は彼の続ける言葉を上手く処理することができない。「結婚」の二字だけを拾い、思考は横へ逸れていく。
結婚。
彼と、結婚したら、どうなるんだろう。
結婚式、挙げたりするのかなあ。
でも彼は、結婚式と言えども私を大多数の他人の目の前に晒すことを嫌がるような気がする。
その前に、私は呼ぶほど人がいないのだけれど。
私は別に、式を挙げなくてもいいかな。
入籍届だけ出して、終わり。知らせたい人にはその旨を伝えておく。それで構わない。
子どもは……うーん、まだ考えられない。
ペットなら、きっと彼が好きだからネコを飼うだろう。
子ども云々と言うよりかは、そもそも、彼とはキスだってしたことがないし。
そうだ、キスだって……あれ、したことないな。
彼から、肩にキス(噛まれたとも言うだろう)されたことはあるけど、そして今、現在進行形で頭にキスされてるけど。
マウストゥーマウスのキスをしたことがない、という事実に、私はたったいま気付いた。
ほっぺにすらない。
付き合って二年、同棲して半年ほど経っているのにも関わらず、である。
がーん、そんな衝撃だ。
いや、でも、キスとかそういうことって、付き合ってこのくらい時間が経ったからやる、とかいうものでもないし。うん。
……でも、ほっぺ、くらい。
私は、彼の胸から顔を離すと、背中を伸ばして、えい、と彼の頬に口付けた。
すぐに、彼の胸に顔を戻す。
それから少し待って、ちらりと彼の顔色を窺うように覗くと、口元を片手で隠すように覆っていた。
耳が赤い。
それから、私と目が合うと、穏やかに目元を細めて、お返しのように頬にキスをした。
「可愛いな、君は。本当に」
頬に触れる柔らかい感触が、嬉しくて、幸せで、ふわふわした気持ちになる。
ほっぺたでこれだけ幸せな気持ちになれるのだから、マウストゥーマウスはまだ、いいのかもしれない。
それに、私からは恥ずかしいのでできない気がする。
これから先、あまりにも彼が唇には触れてくれないようであったら、彼を誘惑出来るように、頑張らないといけないのかもしれない。
そんなことを考えて、誘惑ってなんだ!と自分で恥ずかしくなって、私は取り繕うように、彼に話しかけた。
「お土産あります、マカロン。あと、香水もそろそろ無くなると思ったので、買ってきました」
「誘惑してくれてかまわない。待っている」
彼は頷いて、私をひょいと抱き上げるとそんなことを言った。
私、考えたことそのまま口に出てる……!?
羞恥に頬を染めて彼の胸に顔を埋めた。
しかもしかもなんだろう、抱っこ移動は普段、寝室から一階に下りる時が多いのだけれど、こんな短い距離でされている……!
そしてあんまり違和感を感じずに、私も彼の首の後ろに腕を回してしまった。
習慣って怖い。
彼は、私を椅子に座らせると、すり、と首元に頭を摺り寄せてから離れた。
彼の髪からシャンプーの匂いがして、ドキッとする。
離れたくないとか、そんな感じの意図が感じられて、私の方が恥ずかしくなる。
それから、彼は紅茶を淹れてくれて、二人でマカロンを食べた。
コーヒー味とイチゴ味だ。
二人で食べた、と言っても、彼はそんなに甘いものを食べる方ではないので、彼は味見程度、ほとんど私が食べたと言っていい。
……マカロン二つって、量少ないから問題ない。ですよね。
まずは、イチゴ味のマカロンから。
可愛らしいピンク色は、視覚的にも楽しい。
口に含むと、生地がさっくりとして口当たりが軽い。
一口齧るころには、クリームを吸って柔らかい部分を一瞬感じて、とろりと甘酸っぱいベリー系の味が口に広がる。
想像通りの味だ。
ベリー系に失敗はない。
彼は少しだけ口に含んで、紅茶を飲んでいた。
次に、コーヒー味のマカロン。
朽葉色、くらいの落ち着いた色合いだ。大人っぽい。
もしコーヒーの味まんまだったらすぐに残りは彼にあげよう。
しかし、食べて驚き。
口に入れ、歯を立てた瞬間から、ぶわりと広がるコーヒーのいい香り。
甘さは控えめだが、ブラックコーヒーを飲むほどのきつさはなく、ほんのりと苦みを感じる程度。
美味しい、買ってよかった。
彼に食べさせると、イチゴ味よりも好みであったらしく、うん、と頷いていた。
その後、二人で歯を磨き、彼はお風呂に行き、私はすぐにベッドに入った。
お風呂から上がった彼はぬくぬくとした身体で私を抱き込んで「誘惑しないのか」などと言うので私は心臓をバクバクさせながら寝たふりを決め込んだ。
ぎゅうと目をつぶっていると唇の端に柔らかな感触が落ちて、驚いて瞼を開けるとすぐそばに、彼の目は宝物を眺めるみたいに優しく私を見ている。
目が合えば慈しみに満ちた目がすうと細まって、サラリと落ちた黒髪と切長の両の目に見惚れているうち、気付けば左手を取られ、薬指に銀色に光る輪が嵌められていた。
「ずっと大切にする」
優しい優しい、どこまでも真摯な声に、私はこくりと小さく頷いたのだった。
『彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します』
おまけ 2人のその後
END
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