騎士不適合の魔法譚

gagaga

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第一章

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 オーレリアがスッと離れ、僕にスペースを与えてくれる。以心伝心、というよりも慣れだね。
 妹の襲撃に慣れるなんて、僕も中々にエキセントリックな人生を歩んでいると思うよ。

「ナトリ。危ないからやめようね?」

 そう一言だけ苦言をていしてから、僕は腰の剣を鞘ごと抜いてナトリからの上段斬りを受け止め、彼女がケガしないようにそっと地面へとうけ流す。
 受け止められたナトリはうれしそうな顔で芝生の上をゴロゴロと転がるけど、なんでドレスにスカートなんだよ。もう絶対にそれ、勉強から逃げてきたんだよね? まじめに勉強しなきゃダメだよ、もう。

 この世界、ゴムがないから貴族のパンツは紐パンだ。すぐぬげて用をたせるようにって配慮。女子がスカートなのもその為。だから訓練時以外は基本みんな女の子はスカート。そして紐パンだ。
 妹の紐パンがチラチラ見える。僕が描いてあげたパンダの柄までバッチリ見える。ゴロゴロが止まったあとは、なんとおっぴろげだった。

 君、本当に貴族の家の淑女なんだよね?

 そんなことを言って妹の機嫌をそこねたくないけど、実の兄としては一言申したくなるよ。

「ナトリー、見えてるよー」

 はい、申したくても言えません。最低限の指摘をするだけです。
 僕はいま、微妙な立場にいるからね。家族相手でもあんまり強気にでれないんだー。

「お兄さまが油断なさるのであればこの程度やすいものです!」

 おっぴろげ状態から足で反動をつけて一気に起き上がるエキセントリックな妹に、僕は思わず叫んでしまった。

「自分を安売りしちゃいけないよ!?」

 さすがにこれは指摘するよ!?
 この子、なに言ってるの!?

「うっふっふー、連続攻撃です! のうさつ、です!」

 今度は両手でスカートのスソを掴んだと思うと、おもむろに、がばり、とスカートをまくり上げる。うちの妹は、露出狂のケでもあるのだろうか?
 人の趣味だしとやかく言いたくないけど、その道はよくないと思うんだ、僕。


 しかし、うーん、悩殺、ねぇ。
 妹はたしかに客観的にみるととってもかわいい。かわいいけど、血がつながっている妹だしね。一応この国では血を濃く残すために兄弟婚の制度があるけど、まだ十歳の女の子、それも僕にそっくりな顔をした妹のパンツにはムラムラしてこないよ。柔らかくてスベスベしていそうなお腹は触ってみたいけど、それでもエロ目的にはならないね。兄妹のスキンシップ止まりだと思う。

 それはともかく、妹にこれ以上はしたない格好をしてもらっていては色々困るかな。僕の婚約者だっているし、いつ使用人以外の人間が来るとも分からないのだからね。

 両手をふさいでスカートをめくりドヤ顔しているかわいい妹に接近して、真後ろからチョップをかるく見舞う。

「ていっ! ナトリ。そんなことをしてはいけません。あと、両手ふさがったら攻撃できないよね?」
「う、ううー、お兄さまのいけず!」

 いけずも何も、ああ、もう走り去っていった。
 あの機動力はすごいね。足の速さだけなら彼女は僕を優に上回っているよ。さすが肉体全振り一族の集大成とまで言われた妹だ。

「あの子もこまったものですわね」
「んー、そうだね。妹とあそぶのは楽しいけど、前もって教えて欲しいよね」
「あなたもちょっとこまったものですわね。兄妹ですし、似た者同士なのですわね」

 ニコニコとしつつもちょっと顔に力が入っているオーレリアがこわい。

「この方は私のえものですのに……むだな努力を……ギリィ」
「なにか言ったかい?」

 小声だったのと、僕がちょっとビビっちゃったからオーレリアの声を聞き逃した。だから聞き直してみたけど、なんでもないですわとはぐらかされてしまった。彼女がそう言うのであれば、ただの独り言だったのかもしれないねー。


「明日は、成人の儀ですわね」
「そうだねー。いやー、たのしみだねー」

 うそです。だいぶビビってます。
 僕は前世の自我を取り戻してから人前で魔法を使わなくなった。ときどき、こっそり使いはするけど大っぴらにはしていない。だからオーレリアは僕が魔法を使えるのを知らないし、それで今までは大丈夫だったのもある。
 さっき、肉体全振りの妹の強襲を受け止めれた。だからそんな僕が魔法使いだなんて彼女はまったく思ってないだろう。


 僕のチートのひとつ、レべル上限突破。
 正確に言うと、これの効能として、初期ステータスが全部底上げされるって部分。そのために成長期でまだまだ体が完成していない彼女らと互角の肉体性能をほこっているのだ。

 とは言え、僕の肉体は今後もそれほど成長しない。成長係数と呼ぶべき最初の才能の素質振りでぜんぜん振ってないから。つまりこの時点で僕の剣術の腕は頭打ち。平民よりは強いけど、大人の騎士には敵わないし、これから僕が成長しても追いつけないだろう。

「かなしそうなお顔。大丈夫です、私がついています。なにがあっても、ずっと、ずーーっとおそばに居りますわ!」
「……うん、ありがとう」

 事情を知らないオーレリアは、僕に根掘り葉掘り聞いてこない。それが貴族の淑女、公爵家の家にとつぐ妻の立ち位置だと理解しているのだ。十二歳なのに、なんてできた女性なのだろうか。今も上目遣いでみあげてきて、子供らしさが欠片も感じられなくてちょっとビビっちゃったけど、すごい子なのだ。

 そんな子がここまで言ってくれている。僕を信じてくれている。
 大丈夫、大丈夫。
 そんな言葉が僕に勇気をくれる。

 今は手を握るのが精いっぱいだけど、もし成人の儀が終わったら彼女のかわいらしい唇にキスをしよう。

 しかし僕のそんな淡い恋心は、木っ端みじんに打ち砕かれた。




「この裏切り者! あなたとはもう二度と会いたくないわ!」

 婚約者オーレリアに絶縁状を叩きつけられた。
 それはその日、僕と彼女の成人の儀のことだった。
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