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第一章
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「この子は……」
産湯に付けてもらい体を清めてもらってから、目元の優しい青年に抱きかかえられる。
「神官長殿も感じたか……」
その隣、いかにも貴族ですって感じの格好いい人、たぶん僕の父親が僕の顔をのぞき込んでくる。
目が開いてないけど、魔力で周囲を感知できるから視るのは造作もないです。えっへん。
神様がいうには、僕の意識はこの後しばらくしずむ。前世で十七歳だった僕が、新たに家族をつくるのにその自我が妨げにならないようにって話だった。成長するにつれて自分を徐々に、違和感なく思い出すのが異世界仕様なんだってさー。
面白いね、異世界。
「この魔力のもれ具合、間違いありませんね……」
おや? さっそく僕の才能に気付いちゃいました? あちゃー、いきなりチート人生が始まっちゃいますかねー。
そんな期待のこもった目で見られると、照れますねー。
……、待って。
なんでお父さんはそこまで悲し気な顔なの?
神官長様も、どうして泣きそうなの?
お母さんは、すでに泣いてる!?
ど、どゆこと!?
「この子は、恐らく放出する魔法が得意なのだろうな……」
はい、そうです!
だからそんなに絶望したようなお顔をする必要なんて、ないのです!
「つまり、騎士にはなれないかもしれないのか……」
え、ええー!?
魔法使い、魔法使いではダメってことなんですかー!?
ここ、もしかして騎士家系!?
そうなんですか!?
そうなんですかーー!?
「ああ、我が愛しい子よ。この世界に産まれ、このような過酷を背負わされるとは、神はなんと残酷なのか」
うっわー。それ、全部僕のせいです。神様のせいじゃありません。
というか、魔法使いの評価が低くないですか!?
やれます、やれますって、魔法使い!
剣と魔法の世界なんでしょ! よゆーよゆー。
だよね?
「ま、まだ成人の儀を終わるまでは分かりませんよ!?」
神官長様が必死になって僕をかばってくれている、ような気がする。見た目通りいい人みたいで少しうれしい。
「そう、だな。それまでは我が家の三男として相応の処遇としよう。もしダメであれば……」
なんだろう、殺処分されてしまうのだろうか。出荷、されてしまいます?
「元より領地を与えるつもりだったのだ。それが少々、早くなるな……」
「騎士でないとなれば、与えらえる領地も端の辺境になりますからね。心中お察しいたします」
う、ううー。愛情を感じるよ。ものすごく感じるよ。
でも同時に、もんのすごいプレッシャーを感じるよ!
どうしてこう、肉体関連もポイント振らなかったのか!
お父さんの瞳から、キラリ、と雫がひとつ落ちる。
……、うん。
こうなりゃヤケだね。
出来る限りのことをしますよ!
前評価なんて、くつがえしてやりますともさ!
努力をしますと言っても、しょせんは赤ん坊でした。
意識もウバウバな中で、僕は度々魔力を放出してみんなを困らせていた。
とはいっても、誰かのケガを治したとか、こけそうな所を魔力でクッション作ったとか、そう言う程度。
神様に才能を極限までもらったわりに、貢献できたことはジミすぎだった。
しかも無意識の行動だったけど気付かれて、ありがとうと言われた。
でもそう言ったみんなの表情は、いつもくもっていたんだ。
僕はそれを察してたけど、赤ちゃんだったから魔法を使うのをやめられなかった。
自意識がなかったのだから止めようもなかったんだよね。
ただ遠い誰かの記憶としてみていて、ああ、みんな悲しんでるなってちょっとだけ落ち込んでいた。
次第に人が近くに寄りつかなくなっていた。
お母さんとは、産まれた日以来、会っていない。
――それから月日はながれ、僕は十二歳になった。
僕はこの世界を甘く見ていた。
どうして騎士の方が評価されているのか。
理由はとっても簡単だった。
魔力というリソース。それを体外に放出してしまう魔法使いは、燃費が悪く、威力も低いと評判がいま一つ。
対する騎士は魔力にくわえて生命力という二重のリソースを体内におしとどめ、循環させて力を継続させる。燃費がよく、威力もたかく、持続性もある。
どっちが使いやすいかって言えば、そりゃ騎士だよね。
それと、魔法っていうと、前世の銃みたいなのだと思ってた。でも相手と同じように自分のリソースを削るのだから、火薬式の銃とはわけが違ってた。グーパンするのと自分の指引きちぎって投げるのとどっちが強いかって話。
我ながらたとえがグロかった。おぇぇ。
「どうかしましたの?」
僕が自分のたとえ話でおえぇしてたら、隣から心配する声が聞こえた。
オーレリア、十二歳。さらさらの金髪に、整った顔、ぱっちりおめめ、かわいらしさの権化と言っても過言ではない僕のいいなずけ。
こんな子が恋人だったらを体現している天使。実際に恋人なんだからたまらない。
「うん、大丈夫だよオーレリア」
「そうですの? カインズ様はすぐご無理をなさるから、このオーレ、心配ですわ」
そう言ってきゅっと抱き着いてくるオーレリア。かわいい。そしてあざとい。
ちょっとあざといかな?
だいぶあざといよね、これ。
絶対ねらってるよね。
かわいいし機転もきく。彼女もまたうちとは違う公爵家の息女で、騎士候補。とっても強い。でもやっぱり根っこは貴族のお嬢様だからか、男を喜ばせる行動みたいなのも一緒に学んでいるようだった。うちにも妹がいるけど、あの子もそう言う教育を受けているから分かるのかも。
「おにいさまー」
噂をすれば影。
上空から声が聞こえ、僕の頭上に影が落ちる。
産湯に付けてもらい体を清めてもらってから、目元の優しい青年に抱きかかえられる。
「神官長殿も感じたか……」
その隣、いかにも貴族ですって感じの格好いい人、たぶん僕の父親が僕の顔をのぞき込んでくる。
目が開いてないけど、魔力で周囲を感知できるから視るのは造作もないです。えっへん。
神様がいうには、僕の意識はこの後しばらくしずむ。前世で十七歳だった僕が、新たに家族をつくるのにその自我が妨げにならないようにって話だった。成長するにつれて自分を徐々に、違和感なく思い出すのが異世界仕様なんだってさー。
面白いね、異世界。
「この魔力のもれ具合、間違いありませんね……」
おや? さっそく僕の才能に気付いちゃいました? あちゃー、いきなりチート人生が始まっちゃいますかねー。
そんな期待のこもった目で見られると、照れますねー。
……、待って。
なんでお父さんはそこまで悲し気な顔なの?
神官長様も、どうして泣きそうなの?
お母さんは、すでに泣いてる!?
ど、どゆこと!?
「この子は、恐らく放出する魔法が得意なのだろうな……」
はい、そうです!
だからそんなに絶望したようなお顔をする必要なんて、ないのです!
「つまり、騎士にはなれないかもしれないのか……」
え、ええー!?
魔法使い、魔法使いではダメってことなんですかー!?
ここ、もしかして騎士家系!?
そうなんですか!?
そうなんですかーー!?
「ああ、我が愛しい子よ。この世界に産まれ、このような過酷を背負わされるとは、神はなんと残酷なのか」
うっわー。それ、全部僕のせいです。神様のせいじゃありません。
というか、魔法使いの評価が低くないですか!?
やれます、やれますって、魔法使い!
剣と魔法の世界なんでしょ! よゆーよゆー。
だよね?
「ま、まだ成人の儀を終わるまでは分かりませんよ!?」
神官長様が必死になって僕をかばってくれている、ような気がする。見た目通りいい人みたいで少しうれしい。
「そう、だな。それまでは我が家の三男として相応の処遇としよう。もしダメであれば……」
なんだろう、殺処分されてしまうのだろうか。出荷、されてしまいます?
「元より領地を与えるつもりだったのだ。それが少々、早くなるな……」
「騎士でないとなれば、与えらえる領地も端の辺境になりますからね。心中お察しいたします」
う、ううー。愛情を感じるよ。ものすごく感じるよ。
でも同時に、もんのすごいプレッシャーを感じるよ!
どうしてこう、肉体関連もポイント振らなかったのか!
お父さんの瞳から、キラリ、と雫がひとつ落ちる。
……、うん。
こうなりゃヤケだね。
出来る限りのことをしますよ!
前評価なんて、くつがえしてやりますともさ!
努力をしますと言っても、しょせんは赤ん坊でした。
意識もウバウバな中で、僕は度々魔力を放出してみんなを困らせていた。
とはいっても、誰かのケガを治したとか、こけそうな所を魔力でクッション作ったとか、そう言う程度。
神様に才能を極限までもらったわりに、貢献できたことはジミすぎだった。
しかも無意識の行動だったけど気付かれて、ありがとうと言われた。
でもそう言ったみんなの表情は、いつもくもっていたんだ。
僕はそれを察してたけど、赤ちゃんだったから魔法を使うのをやめられなかった。
自意識がなかったのだから止めようもなかったんだよね。
ただ遠い誰かの記憶としてみていて、ああ、みんな悲しんでるなってちょっとだけ落ち込んでいた。
次第に人が近くに寄りつかなくなっていた。
お母さんとは、産まれた日以来、会っていない。
――それから月日はながれ、僕は十二歳になった。
僕はこの世界を甘く見ていた。
どうして騎士の方が評価されているのか。
理由はとっても簡単だった。
魔力というリソース。それを体外に放出してしまう魔法使いは、燃費が悪く、威力も低いと評判がいま一つ。
対する騎士は魔力にくわえて生命力という二重のリソースを体内におしとどめ、循環させて力を継続させる。燃費がよく、威力もたかく、持続性もある。
どっちが使いやすいかって言えば、そりゃ騎士だよね。
それと、魔法っていうと、前世の銃みたいなのだと思ってた。でも相手と同じように自分のリソースを削るのだから、火薬式の銃とはわけが違ってた。グーパンするのと自分の指引きちぎって投げるのとどっちが強いかって話。
我ながらたとえがグロかった。おぇぇ。
「どうかしましたの?」
僕が自分のたとえ話でおえぇしてたら、隣から心配する声が聞こえた。
オーレリア、十二歳。さらさらの金髪に、整った顔、ぱっちりおめめ、かわいらしさの権化と言っても過言ではない僕のいいなずけ。
こんな子が恋人だったらを体現している天使。実際に恋人なんだからたまらない。
「うん、大丈夫だよオーレリア」
「そうですの? カインズ様はすぐご無理をなさるから、このオーレ、心配ですわ」
そう言ってきゅっと抱き着いてくるオーレリア。かわいい。そしてあざとい。
ちょっとあざといかな?
だいぶあざといよね、これ。
絶対ねらってるよね。
かわいいし機転もきく。彼女もまたうちとは違う公爵家の息女で、騎士候補。とっても強い。でもやっぱり根っこは貴族のお嬢様だからか、男を喜ばせる行動みたいなのも一緒に学んでいるようだった。うちにも妹がいるけど、あの子もそう言う教育を受けているから分かるのかも。
「おにいさまー」
噂をすれば影。
上空から声が聞こえ、僕の頭上に影が落ちる。
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