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第一章
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しおりを挟む――姉妹を抱いた翌朝。
「今日からお前たちは俺のしもべだ」
「はい、ご主人様!」
「はい、旦那様!」
……うーん。
前向きなのは利用しやすくていいんだが、どうなってるんだ?
まず見た目。
姉ことキャスティ、キャスは黒髪青目の美人だ。痩せてても美貌の主だったのだが……
「ところで、キャス、お前、太った?」
「そう、ですね。保護して下さった時から比べるとふっくらしております。幸せ太りでしょうか、うふふ」
頬に手を当てて嬉しそうに言うが
それ
昨日の話だよなぁ!?
「おい、シス、これは天狐族特有の、その、何かなのか?」
妹ことシスティ、シスに声をかける。こちらは銀髪赤目の美人だ。双子らしいが、顔の作りが違うのか微妙に似ていない。こちらはどちらかと言うと可愛い系だ。
「それはないよ、いや、ないです!」
「でもお前も太ってるよな?」
「太ってない! これでも普通より痩せてるよ!」
昨日のガリガリを知っているからそう見えただけで、確かにシスのいうとおりだ。
だが、それにしたっておかしい。一日でここまで目に見えて体格が変わるものなのか?
「たぶんですけど、その、あの、アレしてる時に旦那様がしてくれてた回復魔法のお陰だと思う、んです」
「回復魔法?」
そう言えば折れそうだし、痛そうだったから抱いているときは常に回復魔法をかけ続けていたな。
それで体調が戻り、体格がよくなったのか?
「体格は変わってないけど、元気出たからね。体の中からポカポカしてとっても気持ちよかったし」
「そうね、気持ちよかったわね。この辺りもポカポカで、今でも入ってるみたい。うふふ」
……そう言う赤裸々な告白はいらん。
しかしこれは嬉しい誤算かもしれない。
どういう巡り合わせか従順な美人姉妹を得られたのだ。こうなれば徹底的に利用してやろう。
姉妹にお世話させながらシャワーを浴び、朝食の手伝いをさせ、食す。
「ご主人様に聞いていただきたいことがあります」
そして一服だとのんびりコーヒーを飲んでいたのだが、何だ? その真剣な表情は?
俺はそんなもの求めていないぞ?
「私たちは、魔法使いです」
「……」
コーヒーを吹きだしそうになったぞ、こんちくしょう。
「でも、精いっぱいご主人様にお仕えさせていただきます。この命にかえましても!」
「そんな覚悟はいらん」
重い、重すぎるわ!
誰もそこまでしろとは言っていないし、何よりも急すぎるわ!
「シス、お前からも何か言ってやれ」
「はい、私も旦那様のためなら命もおしくないよ! です!」
「あー、とりあえずお前は敬語を無理に使うな」
「はい! 命がけでご奉仕するよ!」
あー、頭痛い。
「戦士ばかりの天狐族の中で私たちは魔法使いだからと捨てられました」
「お姉さまが四六、わたしがもっとひどい三七なの」
四六、前衛素質が四に、魔法使い素質が六。妹の方が素質的には魔法使いに寄っている、か。
「で?」
「今のをお聞きいただいたのは、私たちはご主人様に秘密を持ちたくないと考えたからです」
「今でもちょっと遅かったと思うけど、でも言わなきゃいけないって思ったんだ!」
確かに自分の素質を、特に魔法使いであることを告白するのは勇気が必要だ。なんせ虐げられている側だからな。
悪い情報なら早めに伝えた方が心証はいいとはいえ、二人は相当な覚悟のうえでの告白だったのだろう。
だが、俺には関係がない。
「で? それがなんだ?」
「もしかすると、今後私たちの素質でご主人様にご迷惑をおかけするかもしれません」
「その時は、わたしたちを切り捨てて欲しいの! 迷惑になんてなりたくない!」
……そうか。いさぎよい覚悟だ。
しかし、どうしてそこまで俺を買っているのかさっぱり分からん。
分からんが、これは一言釘を刺しておかねばならんな。余計なことをされて、余計な手間が増えるのだけは回避しときたい。
「何を言い出すかと思えば、下らん」
実に下らん。下らなすぎる。
「俺の素質は過去類を見ないほどだ。そのような事情、くだらなさすぎるわ! そんなもの全部飲み干してくれるわ! なめるな!」
「ひあい、申し訳ございません!」
「うひぃ! ほら、お姉さま! 旦那様は気にしないよって言ったじゃない!」
「でもだって、ここまで幸せにしてくださった方に、初めて私たちを助けて下さった方に内緒になんて出来ないわ!」
どんだけ今まで不遇だったんだ。
俺もたいがいだが、この姉妹も負けてはいないのか。
この国の周辺は、俺の故国も含めて亜人に優しくない。よほど辺境で人手不足でもなければ、厳しく、生きづらいだろう。
この姉妹の母ならば、その者も亜人だ。亜人を抱く趣味のものは少ない。俺は例外だが、ともかくそんな女を抱く相手は、真っ当な相手ではない。そんな男たちばかりを見てきたから、なのだろうか。
いや、俺も真っ当ではないんだが。キャスなど脅したようなものだし。
でもきっと、そうか。
こいつらが俺と同じしいたげられた道を歩んできたのであれば、裏切る可能性は最小限かもしれんな。
なら、いっそそういう方向で利用してやるか。
「そもそもお前らは勘違いをしている。俺は、騎士ではない」
「……騎士?」
おっと、騎士は貴族本人かそれに仕える者たちだからこの場では不適切だったな。
「戦士でもない」
自然な形で、なんとなく念を押してるような雰囲気をかもし出しごまかす。
ごまかされろ!
「剣士でもない」
ここまで来ると、ならなんだよってのが、一般人の反応だ。
中にはモンクやグラップラーなんてのもいるから、そっちかと聞いてきたりもするだろう。
だが、この姉妹にはこの流れから、そう言う想像はしない。
頭がいいのだ。直ぐに察するだろう。
いや、姉の方はもうすでに察している。だが、万が一間違っていたらとんでもないことだと口を閉ざしている。
妹の方は、首を傾げている。これはどういう悩みなのか分からんが、常識人のこいつは
「もしかして、商人?」
って、そんなわけあるか!
それ、前衛や魔法使い関係ないからな!?
「いや、待て。もしかして天狐族の商人は、そう言う分類なのか?」
「はい? そうだね。険しい山々や茂った森を移動するから、みんな強かったよ」
そうなのか。
意味が分からんな、天狐族。一体どこの、何者たちなのだ。
「ま、まぁいい。俺は魔法使いだ。それも飛び切りのな」
どうせすぐにばれるし、こいつらにも魔法を仕込む予定だったのだ。今この場で伝えるのがもっとも効率的だろう。
はー、朝から疲れる。
なんで俺、こいつらに気ぃ使ってんだろ。
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